第6章 6「いるはずもない」
テニーと別れた後、一人でトボトボ城まで向かいながらもう日が沈んだ夜空を見上げた。
「胸を張らせてくれ……か」
あの夫婦は少なからず俺に期待を寄せているのだ。自分の娘が命をかけて守った存在として。
「俺にそんな……」
大層なことできるわけがない。
言葉にせずそう呟いた。
二人の期待に背筋が丸まるのを感じる。プレッシャーというのはどこの世界でも重たいものだ。
とりあえず目の前にある目標を一つ一つこなしていくしかない。『プライア』への侵入がいつになるかはまだ未定だが、それについては全力で挑もう。
そう決意を新たに道を歩く、そこで街灯の灯りで顔までは見えないが街では着ないような黒ローブ……まぁ俺もきているのだが、黒ローブの男が歩いてきていることに気がついた。
物珍しくその男を見ていると、彼?いや、彼とも彼女とも言い切れない体型の人物はすれ違いざまにボソッと呟いた。
「さぁ……第二ステージだ」
「え?」
声も両性的なため性別もわからない。
あれ?こんなやつ前にも……
「きゃあああ‼︎」
もう少しで正解に辿り着きそうなところで女性の悲鳴が思考を遮った。
「なんで?」
女性の方に目を向けると俺は信じられないものを見た。
「な、なんで……」
そこにいたのは黒エルフですら操ることしか出来ず、俺の手元にあるサドルカの剣でなければ生み出すことができない存在。
「なんでここに……」
だからこそありえない。俺の手元にサドルカの剣はある。黒エルフが新たな術を使ったにしろ、ドュラルート率いる黒エルフは今、このサファラ王都とは遠い地にいると聞いた。
「『影の獣』がいるんだ⁉︎」
数秒の困惑を経てから、まず襲われている女性を助けようと右手でローブを脱ぎ捨て、『炎』の神剣を握って一気に距離を詰める。
「手ェ離しやがれ‼︎」
後ろで加速した剣の勢いで思い切りシャグルーを蹴り飛ばす。
「早く逃げて」
襲われていた女性にそう伝え、また向き直る。
「っく……」
シャグルーは未だ健在、一定量以上のダメージを与えれば人に戻るはずなのだが……
もう一回!
と、思ったところで俺とシャグルーの間におじさんが割って入った。
「ちょ、おじさん。そいつ危ないからどっか……」
「んもぅ、しょうがないわね」
「へ?」
俺の目の前に出てきたのは紛うことなく男……だが、今の口調……
男は目にも止まらぬスピードでシャグルーの後ろに回ると
「おりゃああ‼︎」
今度は男丸出しな声でシャグルーにとても華麗なバックドロップを決めてみせた。
「っがあ!」
シャグルーはそのバックドロップを喰らうと徐々に人間へと戻っていった。




