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第6章 5「最後に守ったもの」

「あなたは……?」

 俺の疑問に老夫婦は落とした花束を拾い上げてから答えた。

「テニーの……」

「あ……」

 そこまで言われて気がついた。彼らはテニーの両親だ。

「どうも」

 立ち上がり、頭を下げた。

「娘に会いに来てくれたんですね」

 女性はどこか嬉しそうにそう言った。

「あ、はい」

 男性の方は何も言わずに立ち尽くしている。

「すみません、あの……なんと言ったらいいか……」

 何も言えない。俺はこの人たちに何を言ったらいいのかわからない。

「何も言わなくていい」

 そこでようやく男は口を開いた。

「君に当たっても娘は帰ってこない。娘は死んだ……現実は受け入れなければならない」

 何か心に違和感を感じる。これの正体はそうだ。ユニアの時と同じだ。俺が悪いのに叱責を受けないことに関する苛立ちだ。

「怒ってないんですか?」

 男性は何か少し悩んでから言った。

「言っただろう?君に当たっても娘は……」

「でも!」

 同じことを繰り返すと思えた男性に割り込んだ。

「聞いたんですよね?彼女の……テニーの最期を……それって……だって……」

 俺の頭が徐々に下がっていった。その頭に男性はチョップした。

 これが俺だからこの行動をしているのか、先代魔王もこんなフレンドリーだったのか。まぁそんなことはどうでもいい。

「君も悔いているんだね……でも、娘の職業は軍人だ。いつ死んでもおかしくない。私も家内もいつかこんな日が来るかもしれないと覚悟していた。だから……」

 そこで俺はひき結んでいた口を開いた。

「それでも、ダメなんです。俺は彼女の死を悔やまなければいけないんです」

「いいから人の話を聞きなさい。これからも娘の墓参りに来て欲しい。我々はそれで許すつもりだ。でも君の気がすまないのであれば……」

 そこで男性は一つ溜めを入れた。そして息をふぅっと吐いた。

「今ここで私が君を殴る」

 そう言われて俺はコクっと頷いた。

「ならばわかった」

 そう言って足を開きながら態勢に入った。

 俺は歯を食いしばった。

 殴られる。殴られる。これは一つの罪滅ぼし……なのか?自己満足ではないのか?

 だが、これくらいのことがなければ俺は……

 思考を巡らせていると頭に衝撃が走った。

 フラフラとよろめき、クラクラする頭をどうにかしようとどこか掴まろうとするが遠近を測り間違い、地面に倒れた。

「これで……満足かい?」

 その言葉の中に俺は不快感を感じ取った。

 それもそうか、許すと言っているのに殴らせられたのだ。不快であろう。

 それに気づき地面に転がり、曇り空を見上げながら謝罪の言葉を口にした。

「すみませんでした。俺の自己満足に付き合わせてしまって……」

「構わないさ、代わりに一つお願いを聞いてくれ」

 俺は落ち着いてきた頭を持ち上げ、地面に座った。

「君は娘が守った最後の命だ。正直なところ、私も家内もまだ君という魔王がどれほど偉大な人間かわからない。だから見せてくれ、君が素晴らしい人間であるということを……娘はこんなに素敵な人間を守ったのかと……胸が張れるように……」

 そう言ってニコッと笑った白髪混じりの男の言葉に俺はコクっと一度頷いた。

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