第5章 35「飲まず食わずの引きこもり」
マサキが前線を離れてから五日が経った。
マサキはまだ部屋から出てこない。
完全に引きこもり状態だ。
朝昼晩と食事を部屋の前まで運ぶが、手をつけた痕跡はなくそれを片付けるということがほぼ日常となっていた。
「マサキ様……」
あれ以来マサキの部屋にも入っていない。
マサキに入るなと言われたのだ。
五日間も食事を摂らなければ流石にそろそろ限界を迎える気がする。
意を決してマサキの部屋のドアを開けた。
部屋に入るとどこからかブツブツと声が聞こえる。
声の主はわかっているが、とても不気味で、まるで何かを呪っているようだ。
カーテンも閉められ、ドアから入る灯のみの部屋で探り探りマサキのベッドを探す。
徐々に声は大きくなり、薄暗い部屋の中でマサキを見つけた。
マサキは酷くゲッソリとしてベッドの上で三角座りで座っていた。
「俺のせい……俺のせいでテニーは死んだ……俺のせい俺のせい俺のせい……」
壊れたようにそう繰り返している。
「マサキ様……」
「俺のせい俺のせい俺のせいでテニーは……」
私の存在にも気づいていないのか声をかけても同じような言葉を繰り返し続ける。
マサキはこの五日間、どれだけこの事で悩み続けたのだろう。
どれだけ苦しんだのだろう。
マサキにとってテニーは初めて『失った』友人なのだろう。
彼はやはりもう剣など持てやしない。
戦う意思など持っていない。
戦う意味などもうない。
一人……たかが一人だ。でも彼にとってはされど一人なのだ。
この優しさこそ、私が恋い焦がれた魔王というマサキの人間性だ。
だが、これから戦っていくにはされど一人もたかが一人にしなければならない。
この先、ミルドや飛鬼、クランや私が死んだとしても……彼が立ち上がれるように。
「マサキ様……立ってください。そんなとこにいても何も解決しません」
「かい……けつ?」
私が言った言葉の意味が理解できないかのようにもう一度繰り返す。
「はい。あなたがどんなに嘆いてもテニーが死んだ事実は変わりません」
「……」
マサキは唖然とこちらを向いている。
「あなたはこの戦争を終わらせなければならない。一人の戦士として……この国の魔王として……」
「おわら……す……せんそう……」
ゆっくりとそう口にする。
「せんそう……をおわらす……」
もう一度繰り返す。
「せんそうをおわらす……」
意味がわからない言葉の羅列からそれは文に変わっていく。
「戦争を終わらす」
とうとうハッキリとした口調でマサキはそう言った。
「そうだ。俺は戦争を終わらせられる。ははっ!なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろ!」
そう言うマサキは笑っていた。
でもその笑みは純粋な喜びには見えなかった。




