第5章 29「人の命」
テニーは一言『ごめんね』と謝った後、この部屋をあとにした。
追いかけることも出来ず、俺はゆっくりと立ち上がり部屋の外へ出ようとした。
「あれ、何してんの?」
ドアの横にはユニアが立っていた。
「いえ、別に何も……」
少しテンションが低いように伺えるユニアはそう言って俯いた。
「いや、でもなんか……」
放っておくことが出来ず何があったのか聞こうとするも、ユニアは何も答えてくれなかった。
どうも最近、ユニアの様子がおかしい気がする。
……気のせいだといいのだが。
その後、俺はまた戦場へと駆け出した。
その日はそう、油断していたんだ。
ニーナから『勇者』のことを聞いたから……
テニーが俺と弟を重ねていることを聞いたから……
女の子の泣き顔を見てしまったから……
自分が何千もの命を奪った大悪人と気付かされたから……
ユニアの機嫌がよくなかったから……
好きな女の子の元気がなかったから……
一週間も戦い続けて疲れていたし、精神的にも少々病んでいた部分があった……
そんな、今日とてもコンディションの悪い俺は一段と動きが鈍かった。
死亡スレスレの攻撃もいつもに増して多かった。
そう、撤退すべきだったんだ。
この戦いにおいて、人命優先の戦いをしている俺たちは逃げることを罪にはしない。
これは俺が今回の戦いにおいて法書に書いて追加した新たなる法だ。
『戦いにおいて命を懸けることを許さない』
これを見て渋る者たちもいたが、そこはこれに全面賛成のミッダがどうにか説得してくれた。
だから逃げた方が良かったのだ。
逃げても責められない。
『逃げるが勝ち』という言葉があるくらい時には逃げることが勝利に繋がることがあるのだ。
危なっかしい俺の動きを見て、周りの人にも迷惑をかけてしまった。
『後悔先に立たず』その意味を噛み締めた。
戦闘中に色々なことへ思考を巡らせていた俺は不意に上の空になってしまった。
そのことに俺自身は気づいていなかったが、『勇者』はその隙を見逃さなかった。
迫る勇者の剣を受け流そうと炎の大剣を加速させようとするが、他のことに持っていかれた思考はそう簡単に帰ってこず、剣は反応しなかった。
『死』を覚悟し、目を閉じた。
だから気づかなかったのだ。俺を助けようと走る存在に……
「マサちゃん‼︎」
そう言って飛び出したテニーは俺を押し退け、剣の間合いから強制退避させた。
だが、俺を助けたことで先ほど俺がいた場所にいるのはテニーだった。
「ッ‼︎‼︎」
すぐ立ち上がり向かおうとしたその時、俺の顔の半分を鮮血が覆った。
目の前のテニーは左肩から右脇腹までを切られ地面に伏していた。




