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第5章 28「私の弟」

 俺の悩みは何千という命を無自覚に奪っていたこと。

 どうしたらいいかわからない。

 元の世界の法律で俺を裁けば、世紀の大殺人犯として語り継がれることになるだろう。

「マサちゃんはさ……私の弟に似てるんだよね」

「……」

 俺を優しく抱きしめるテニーの話に黙って耳を傾ける。

「私の弟はね、弱いくせに正義感だけ強くってさ……自分も弱いくせに弱いものいじめなんて許せないっていじめっ子に立ち向かったりしてたの……」

「すごいね……」

「何が?」

 俺の一言にテニーは疑問を抱いたらしい。

「自分より強い相手に立ち向かうってとても怖いことだからさ……」

「それならマサちゃんもスゴイ子だよ?」

「え?」

「仲間の為に戦って、国の為に敵地に乗り込んで、人の心配なんて顧みずにただ自分が信じたように立ち向かう、スゴイ子だよ?」

 テニーははにかみながらそう言った。

「この戦いが終わったら会ってみたいな……テニーの弟に」

「それは無理だよ」

 どうして、と聞こうとするとテニーの涙が俺の額に落ちてきた。

「私の弟ね……死んじゃったの……」

 涙声でテニーはそう言った。

 驚いた俺はテニーの肩を持って向き合った。

 いつも明るいテニーの泣き顔というのは俺にとって少しショックだった。

「なんで?」

「へ?」

 聞かない方がいい。

 テニーを傷つけるだけになるかも知れない。

 そうわかっているのに俺はこの疑問にブレーキをかけることが出来なかった。

「なんでテニーの弟は……」

 そう言うとテニーは一度視線を彷徨わせた。

 あぁ、やはり聞かない方が良かった。

「私の弟ね……良い子だったからさ、倒れてる敵兵とかも見過ごせなかったんだよね……」

 テニーは俯いたまま続けた。

「民間人のくせに敵兵を助けようとして……その敵兵に殺されたの……」

「え?」

 テニーは手で溢れ出る涙を拭いながら話し続けた。

「酷い話でしょ?あの子はただ……助けようとしただけなのに」

「テニー……」

「ごめんね、こんな話」

 テニーの急な謝罪に俺は顔を上げた。

「私、そんな弟とマサちゃんを重ねちゃってるみたいなの……」

 未だ涙の止まらない目の前の少女は無理に作った笑顔を見せた。

「くせっ毛の頭とか女の子慣れしてないとことか……似てるんだよね」

 こういう時、何も気が利いたことの言えない自分に呆れる。

 俺は彼女の悲しみを分かち合うことは出来ない。

 何か適当な励ましの言葉を言うことも出来ない。

「だからさ……」

 俺が俯いて考え事をしている中テニーの言葉に顔を上げた。

「死なないで……」

 そう言うテニーの表情は今まで見た中で一番美しく、それでいて悲しい笑顔だった。

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