第1章 17「仇討ちと恐怖と」
予選最終日
第三試合まで終わらせ、決勝戦へと駒を進めることができた。
その安心感から控え室のイスに深々と座り、眠りに落ちそうになっていた。
「マサキ様‼︎大変です‼︎」
そう言ってユニアは勢いよくドアを開けて入ってきた。
「ど、どうしたの?」
ドアの音に驚き、イスから落ちた状態でそう聞いた。
「飛鬼さんが…」
「え?」
そう言われ、ユニアについて行くと医務室に運ばれる飛鬼を見つけた。
「飛鬼さん!」
慌てて駆け寄ったが意識は無い。
この闘技会のルール上、死んではいないと思うが、とてもボロボロだ。
筋骨隆々な身体の至る所にあざや傷がある。
「ユニア…誰がやったの?」
決勝戦の相手がやった…そんなこと分かってはいる。それでも不安と怒りからそう聞かざるを得なかった。
「『樹』の神剣使い。マサキ様の決勝戦の相手です」
飛鬼をこんな状態にした相手と闘えるのか?
飛鬼の仇は俺が取る!
この二つの感情が渦巻いている。
「そうなんだ…」
できるだけ感情を押し殺した声でそう言った。
「とても一方的な試合でした。元々属性相性的に飛鬼の『嵐』はミルドの『樹』に対して不利でした。しかし飛鬼は気絶するまでずっと剣を握って闘っていました」
やはり決勝に上がって来たのは『神剣使い』だった。
飛鬼を一方的に?強すぎるだろ?
不安でメンタルが先にやられてしまいそうだ。
医務室に着くとよほど重傷なのか部屋の中には入れてくれなかった。
「ねぇユニア…ミルドっていうのはどんな人?」
本当はミルドの神剣について聞きたかった。
しかし自分の中でフェアではない。
そう思った瞬間、聞くことが出来なくなった。
「ミルドは前魔王と同種族の『魔族』です。彼は次代魔王確実とまで言われていて剣と魔法の天才です。しかし『炎』の神剣に選ばれず、魔王の座を逃しました。恐らく参加者内では群を抜いて強いと思います」
参加者内で群を抜いて強い。その参加者にはきっと俺のことも含まれているのだろう。
つまりは普通に闘っても勝ち目は薄そうだ。
剣を振り回し始めて一週間で剣と魔法の天才に勝てということだ。
笑えないほど難易度が高い注文だ。
ミルドとの間には恐らく明確な実力的差があるのだろう。
その差を埋めることが出来なければ決勝戦では確実に負ける。
「なるほど…ね!まぁ悩んでも仕方ないし今日は早く帰ってさっさと寝よ‼︎」
明日、万全の状態で挑むためには『早く寝る』が今できる最善だと思ったため、良い子も寝ない十八時にベッドに入り緊張感で眠りずらい中、無理矢理目を閉じて眠りについた。