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第5章 17「一人の謝罪」

 その後、実家へ戻り親や近隣の住民にこの八年のことを話し、反対するみんなを宥めてから俺は人間の町へ歩んだ。

 時刻はもう九時を過ぎ、周りがまっくらとなった道を歩いた。すると、人影を一つ見つけた。

「誰だ?」

 男は寄りかかった木から立ち上がりこちらを向くと月明かりの中その顔が見えた。

 そこにいたのは昼間の男。

「何しにきた‼︎」

「やっぱり、鬼だったんですね」

 男の言っていることがよくわからず、強い口調を続ける。

「だったら?また豆を投げるのか?」

 八年前のことを思い出して強く下唇を噛みしめる。

 体勢を低くしいつでも腰の剣を抜けるように構える。

「そうですか……やっぱり……」

 何か納得したような男は黙って自身の膝を地面についた。

「本当にすみませんでした!」

「は?」

 俺は刀から手を離し、直立した。

「あの時のことは本当に悪いと思ってます」

 何を言っているんだ?

「俺の身体には……まだあの時の跡が残ってるんだ……」

 すると男は何も言わずに頭を地面につくほど下げた。

「『豆』ってのは人間には無害だが、鬼には熱した石みたく熱くて、刺されたみたく痛くって、鉛みたいに重いんだ」

 この男にこんなこと言っても伝わらないことはわかっている。これは鬼がもつ特殊体質だ。どんな表現を用いてもあの地獄のような痛みは伝わらない。

「非人道にも程がある。俺はあの時……本当に殺されると思ったんだぞ」

「今更許せとは言いません。ただ……」

「ただ?」

「息子の恩人たる貴方を見たとき、謝らずにはいられなかったんです」

 なんと言えばいいかわからず、相手が口を開くのを数秒待った。

「貴方が私の子を救ってくれたのに私は貴方を殺しかけた」

 人間というのは勝手な生き物だ。

「これじゃ感謝や謝罪なんてとても仕切れない」

 昔は殺しかけたくせに今になって平謝りだ。

「私は命を取られてもおかしくないくらいの愚行を犯しました」

 賭けられもしない命をかける。

「煮るなり焼くなりしてください」

 相手がそうしないとわかっているからこういった交渉を持ちかける。

 未だ跪く男に俺はしゃがんで肩をポンと叩いた。

 俺の中にはまだ怒りが残っている……

 復讐したい思いが残っている……

 悲しみが残っている……

 辛かった過去が残っている……

「顔上げな」

 すると男はくしゃくしゃになった顔をこちらに向けた。

「別にそれだけ謝れれば十分だ。怒ってはいるが気にしちゃいない。別に殺しやしない」

 男は安堵の笑顔を浮かべた。

 俺は立ち去ろうと男の横を通り過ぎて一度立ち止まった。

「最後に一つだけ言わせてもらう」

「はい」

「子供がいんだろ?自分の命を勝手に賭けんじゃねえよ」

 そう言って俺は夜の道をまた歩き出した。

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