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第5章 16「人の村へ」

 それから俺とミッダの生活は始まった。

「オラ!もっと脇閉めろ!」

「はい!」

 木刀を振り続け、三年が経った。

「もっと手元に意識を向けろ!」

「はい!」

 魔法の練習をし続けて二年が経った。

「ちゃんと握れ!刀がすっぽ抜けるだろ!」

「はい!」

 真剣を握って三年が経った。

 そんな八年の月日を経て、ミッダは俺を国の軍に勧誘した。自分の実力が認められたのだと思い喜んで二つ返事で了承した。

 そして俺は一度故郷へ帰ることにした。

 ミッダとともに住んでいた家から俺の実家までは数キロ、一度も帰ることなかった家……親には一切何も言わずに八年も家を空けてしまったのだ。

 とりあえず謝って、鬼の里を出て人間の町に住むことをしっかりと話そう。未だ鬼への差別は残っているも上手くやれると説得しようと意気揚々と歩いていた。

「うぇーん!」

 子供の泣き声が聞こえ、声の方へ走って行くと小さな一人の男の子がそこで泣いていた。

 助かるかどうか一瞬だけ悩んだ。

 しかし、これから人の町へ行くのだ。人を助けられなければ俺の覚悟など偽物だろうと自分に言い聞かせ子供に声をかけた。

「大丈夫かボウズ?」

「う、う、うぅ……お母さんとはぐれた……」

 そう泣きながら説明した男の子は紛うことなき迷子だったようだ。

「家の方向はわかるのか?」

 そう聞くと男の子は首を振ってまた泣いてしまった。頭をガリガリ搔いてから男の子を自身の背中に乗せた。

「仕方ねぇな。俺が探してやる」

 頭にミッダから正体がバレないようと渡されたハンチング帽を被り、生まれて初めて人里へ向かった。

 歩くうちに男の子は泣き疲れたのか俺の背中で寝息を立てていた。

 村に着くと一番最初に発見した村人にこの子の親のことを聞くと、どうやら有名な子らしくすぐに親の元へたどり着いた。

「すみませーん」

 何もやましいことなんて何もないのにどうして人の家に入ることがこんなに難しいんだろう。

 身体にあった火傷や痣の跡が少し痛んだような気がした。

「はーい」

 そして出てきたのは男だった。

「お前は……」

 これ以上開かないくらい目を見開いた。

 俺の目の前にいるこの子の親と思われるのはこの八年間忘れたこともない。

 俺に豆を当ててきた子供のリーダー格の男だった。

 心臓の鼓動が早くなったのを感じた。

 鬼だとバレるか?

 また豆を投げられるかもしれない……

 逃げたい……この場から逃げ出したい……

「どちら様ですか?」

 男にそう言われハッとした。

 そうだ。俺は今、鬼の特徴たるツノを隠している。バレるはずがない。落ち着け。

「あの、えっと、この子が……」

 そう言うと男はなんだかペコペコしながらその子供を大事そうに俺の背中から抱き上げた。

「すみません。ありがとうございます。何かお礼を……」

「そ、そんな大丈夫ですよ」

「そうですか。本当にありがとうございます」

 そうして俺が立ち去ろうとするとき男に抱きかかえられた子供が目を覚ました。

「あれ?鬼のお兄ちゃんは?」

 寝ぼけざまに目をこすりながら確かにそう言ったことに焦りを感じ、

「それでは!」

 と、急いで人の村から脱出した。


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