第5章 15「鬼な男」
俺は鬼だ。
人間から忌み嫌われる存在……
太古の昔、初代魔王との戦いに敗れた鬼の長は魔王に対する服従を誓い、種族全員が魔王の配下となった。
しかし、立場は時代とともに移り変わり今や同じ国のために人間とともに剣を握る。
皮肉なものだ。鬼退治だ何だと騒ぎ立てていた人間と一緒に戦っている。
だが……別に悪い気はしない。
俺はある男に救われた。
十年前
俺がまだ十歳のときのことだ。
「やーいやーい!鬼はー外!」
そう言いながら『豆』を投げつけられた。
「う、うぅぅ……」
この国では言わずと知れた鬼の弱点である『豆』を子供は喜んで投げた。
豆を当てられた身体の部分は火傷のように腫れ上がったり、痣のように青くなったり、様々な悪影響が出た。
「ゴラァァ‼︎何やってんだガキども!」
そんな鬼の俺を助けた一人の男がいた。
男は俺の前に立つと投げつけてくる豆を全て自身の身体で受け切った。
「誰だお前?邪魔すんなよ正義の鬼退治すんだよ!」
そう言う子供の集団を気にもせず俺の元へ駆け寄ってきてくれた。
「ひっ……」
男の腰についた刀を見て怖くなって全身痣だらけ火傷だらけの身体で立ち上がって逃げようとした。
ダメだ……このままじゃ殺される!
命の危険を感じ、ボロボロの身体で駆け出した。
「うあっ!」
すぐにつまずき、地面に無残に転がった。
立ち上がらなきゃ!
そう思っても身体は持ち上がらない。
「大丈夫か?すぐ手当てするから大人しくしてろよ」
されるがまま俺は男に担がれた。
「邪魔すんなって言ってんだろ!」
石を投げ、男を攻撃する子供だがその攻撃は一切当たらない。
そして男が言った一言は朦朧とした意識の中でもはっきり覚えている。
「いいかガキども、正義ってのは弱いものを倒すんじゃねえ……弱いものを生かすもんだ」
そこで一度、俺の意識は消えた。
次に目が覚めたのは知らぬ天井の下、知らぬ布団の上だった。
「ここは?」
「おっ!目が覚めたか」
近くには卓に並べたご飯を頬張る男がいた。
「まぁとりあえず、お前も食えよ」
俺は男に警戒することも忘れて、食欲という自分の欲求を満たした。
男の手料理と思われる魚は少し焦げて苦かった。味噌汁は味が濃く、ご飯は固かった。
でも、とても美味しかった。
「お前、名前はなんて言う?」
自然と目から流れ出た涙を拭いながら俺は自分の名を言った。
「っぐす……と、飛鬼」
すると男は黙って頷くと言った。
「そっか飛鬼か俺はミッダっていうんだ」
このミッダという男は俺の命の恩人。
そう考えて過言ではないと思う。
「ミッダさん!お願いです俺を弟子にしてください!」
恩人にこれ以上何か頼むのも気は引ける……でも、
「俺はもっと強くなりたいんです」
俺は頭を下げてミッダに頼み込んだ。
「何でだ?何で強くなりたい?」
俺が黙り込むとミッダは呆れるように溜息を吐いた。
「あのガキどもへの復讐ならやめとけ、そんなことのために強くなるならあいつらのことは忘れてどこか別の地で平和に暮らせ」
「別に復讐したいわけじゃありません!ただ俺は……」
俺はどうしたいのだろう?
どうなりたいのだろう?
「ただ俺は……」
ミッダは俺の回答を黙って待っている。
「俺はもう誰相手にも泣きたくなんかないんです!」
そう言うとミッダはポカンとしたあと盛大に笑い出した。
「おもしれえ!はっはっは!泣きたくないか‼︎確かにそうだよな!」
ひとしきり笑うとミッダは改めて俺を見た。
「いいだろう!面白いやつは嫌いじゃない。稽古つけてやる」




