第1章 15「足は植物」
「まっおうさまー!」
そう言って担架に乗せられた俺を追いかけるのは黒髪の女の子ことテニーと金髪の女の子ユニア。
片足がなくなったこともあるが大量出血なため歩くことができないので試合が終わって気がつくと担架に乗せられていた。
「やあ二人とも」
あまり心配をかけないようできるだけいつも通りに振る舞う。
「足が…」
ユニアはなくなった右足を見てそう呟いた。
この世界の医療技術がどれほど進歩しているかなど知らないが神経や血管を一つずつ繋げるなどということはおそらく出来ないだろう。
「次の試合は午後三時からだそうです。あと三時間。それまでに足をどうにかしないとですね…」
ユニアは不安そうにそう呟いた。
「大丈夫だよ片足ないくらい。死んだわけじゃあるまいしさ」
次の試合が出来るかどうかも危うい。今までギリギリを持つことのできた黒い大剣を片足だけでは多分持ち上げることは出来てもバランスを崩すだろう。
「まぁそうですね…ではとりあえず足を元に戻しましょう」
「足を元に戻す⁉︎」
驚きの言葉だ。なくなった足を元に戻すなど聞いたことがない。流石ファンタジー世界、なんでもありなのだろう。
「はい。まぁ何はともあれまずは医務室に行きましょう。時間がギリギリです」
そう言って担架を持つ人を急かし、急いで医務室に向かった。
元に戻すとか言っていたからやはり回復や時間の魔法で治療されるのかな?
そんな想像に胸膨らましていると医務室に着いたらしい。
医務室に着くとすぐにベッドに横たわらせられた。
ユニアは医務室の先生らしき人と何か話しているようだ。
「マサキ様、大丈夫?」
さっきまであまり言葉を発していなかったテニーが話しかけて来た。
「うん。なんとか…足の方はもう痛みもないよ」
「そうなんだ。なら良かった」
テニーは優しく微笑んでそう言った。
俺とテニーが話していると医務室の先生とユニアの会話が終わっていた。
「マサキ様、今は一刻を争うのであまり説明せずに進めます。少し痛いので歯を食いしばって下さい」
「え?」
ユニアの歯を食いしばって宣言に反応出来ずマヌケな声を上げるとユニアは腰のレイピアを引き抜き短く平らになった右足にレイピアを刺した。
「いって!」
思わず声を上げる。
ユニアはレイピアを鞘に納め、皮の袋から木のタネの様な物を取り出した。
「ねぇ?ユニアさん何するつもり?」
俺の発言を無視してユニアはレイピアでつけた傷跡にタネを入れた。
「いってぇ!」
鋭い痛みが足に響く。
「すみません。マサキ様ちょっとだけ耐えて下さい。これが今一番の方法なんです」
足の中のタネはジリジリと熱い。
三十分ほど経ったころだろうか、足のタネから肌色の目が出て来た。
このタネの成長を見守っている間にこの魔法について色々なことを聞いてみた。
ユニア曰くこのタネは回復魔法でも時間魔法でもない『林』魔法の『蘖』というものらしい。
元々蘖は切り株から出てくる芽のことなどを指す言葉だ。
つまり俺の足は切り株でそこから足という芽を出すらしい。
一時間半が経過すると葉のようなものができている。
足の形になっているのがわかる。指や爪までとてもしっかりと見える。
なんだかグロテスクだ。
二時間半で足は元の大きさまで成長していて、しっかりと動くようになっていた。
「おぉ‼︎すげぇ‼︎途中がなんとなくグロいけど」
魔法によって治った自分の身体に感動していると
「間に合って良かったです」
ユニアは安心した顔でこちらを見ている。
「あと二試合で今日も終わりなんだから頑張らないとね」
テニーは俺を励まそうとそう言った。
さっきの試合からもう昨日までの作戦は使えないことがわかった。
もう足を失うのはこりごりなので、この大会で一直線に突っ込んで切るだけの作戦は使わないようにしよう。
そう決意した。




