第1章 14「死にかけ」
闘技会も三日目に入り、身体能力的に限界がある『人間』はだんだんと数を少なくしていった。
そんな『人間』の中でもやはり魔法使いは多く残っていた。
その日の第一試合で名前が呼ばれた。
対戦相手は『人間』ではない。一般的にリザードマンと呼ばれる様な存在だ。
元の世界のトカゲによく似ている。彼?は左手に剣、右手に盾を持っている。上半身は鎧も身につけている。鎧から見える腕や足、顔には硬そうな鱗がついている。
「…てめぇの快進撃もここで終わりだ。お前みたいな小僧が俺に勝てるとでも?お笑いだな全く」
流暢な日本語でリザードマンはそう言ってきた。この世界の人々はそうとう俺をなめてかかっている。
まぁ容姿は中学生みたいなものだ。どこの世界でも小さいというのは弱く見られてしまうらしい。
「人は見た目で判断しちゃいけないって君のお母さんは教えてくれなかった?」
煽るような感じで言い返した。
「バカにしてんのかてめぇ」
どうやら相手の逆鱗に触れたらしい。
「まぁまぁそんな性犯罪者みたいな格好して怒んないでくれ。下半身隠してないとかアウトだよ?」
火に油を注ぐような発言だ。
「がぁ?」
怒り過ぎて今にもこちらに殴りかかって来そうだ。
そんなリザードマンを見て審判は試合開始を少し遅らせ、なだめにかかった。
相手の怒りが少々収まり、剣を構えると審判は試合開始の合図をした。
「死ねぇ‼︎小僧‼︎‼︎」
今まで感じたことない殺気だ。膝が笑っている。
突っ込む!
そう考えると剣が加速した。
相手の身体に蹴りを入れようとするとその通り道に剣があった。
「え?」
相手の予想外の反応に対応仕切れずそのまま過ぎ去り、着地しようとした瞬間上手く立つことができず倒れてしまった。
「あれ?」
不思議に思い足を見てみると右足の膝から下がなくなっていた。
「な?」
気づいた瞬間、足が急激に痛くなった。
足が燃えるように熱い。
痛い以外の感情が脳内から姿を消した。
「ゔぁぁぁぁ…足が…」
痛過ぎて言葉にならない。
「ほらほらどうしたよ?」
リザードマンは余裕の表情でこちらに近づいてくる。
足からはドンドン血が抜けて行っている。
何かアクションを起こさなければ負ける何より死ぬ。
そう考えると背筋が凍る。
前の世界で一回死んだときの記憶が蘇る。
感覚が意識が遠くなる。
あぁ…また死ぬのかな…
また生き返れたりするかな…
いや…まだ嫌だ…
まだ…死にたくない…
死にたくない‼︎
そう思った瞬間、倒れたときに離してしまった剣が胸の上に飛んでくる。
剣はそこで少しの間静止し俺の胸向かって落ちてきた。
剣は首飾りの中に戻って行った。
すると、次に変化があったのは切られた足だった。
足が燃えている。
しかしなぜだろう温かく、安心する炎だ。
「おい、てめぇ?」
闘技会は『殺してはいけない』ため相手は盾で殴ろうとしている。
足の傷が癒えた。足が生えたわけではないが痛みはない。
首飾りからもう一度剣を出し、相手の攻撃範囲内から離脱する。
「はぁはぁ…」
息が切れ始めた。
こんなに長い闘いは初めてだったこともあるが自分の足がないことに対する動揺が大部分を占めている。
相手に『剣で加速し思い切り蹴る』という作戦は対策済みらしいならば…
壁に背中をつき相手のいない方向に剣を向ける。
「なんだ?お前?」
相手には行動の意味がわからないらしい。
突っ込む‼︎
そう考えると剣が加速する。
剣は壁に向かって突っ込んでいる。
そして壁に当たる直前、剣の側面から炎を出し方向転換をする。
両手両足の指の数では到底足りないほどこの方向転換を繰り返した。
相手が自分の動きについてこれなくなるまで
「なんだこいつ?…こんなの前の試合まではやってねぇじゃねぇか」
相手が自分の動きについてこれなくなり背中を向けた瞬間
「おりゃ‼︎」
まだ残っていた左足で相手の背中を狙って蹴る。
「な?」
推進力そのままに相手を壁に叩きつけた。
相手は壁から離れると床に顔をつけた。
…勝った。
剣を杖代わりに使い、片足でその場に立ち、片手を空高く挙げた。
「うぉぉぉぉ!」
観客たちが席で声を上げている。
「…う…」
安心した瞬間に一次元から二次元の動きをしたツケが回ってきた。
「オロロロロロロ…」
目が回り、朝食で食べたパンや卵が出てきた。
あぁ失うものが多い試合だったな…
そう思うと意識がだんだんと遠くなっていった。