第4章 39「固定観念という何か」
幼少期からの考えや固定観念とは恐ろしいもので脳では『そんなはずはない』と理解していたとしてもそれを曲げることができなくなってしまう。
誰かに言われたのか、それとも自分で勝手にそう思い始めたのかはもう定かではないが俺の中には一つの変わらない考えが存在していた。それが『誰かが俺を好きになるなんてありえない』というものだ。
ありえない。一生に一人くらいは俺のことを好いてくれる人がいる。
そう考えたりしないこともない。しかし、いつからか俺の心に滞在していたこの考えは何年もの月日を重ねることで俺の中での『真実』となっていた。
知らぬ誰かから言われたかもしれない言葉が……ただの勝手な想像かもしれないものが……真実になっていたのだ。
だから俺はそのことをあまり疑わなかった。
俺の人生なんてそんなもの……
そんな諦めのようなスローガンで生きてきたのだ。
この世界に来てからもその考えが変わることはなかった。自分に好意を寄せていそうな人間がいても、気のせいだ。相手は俺を友達としか考えていない。勘違いするな。
そう言い聞かせた。
でも……それでも……俺はある少女を好きになった。
俺の話を聞いてくれて……俺のことを優しいと言ってくれて……俺を慰めてくれて……俺を励ましてくれた……
自分でも薄々気づいていた。でも気づかないフリをしていた。
今まで通りの間でいられなくなるのが怖くて……振られてしまうのが怖くて……
相手に真実を確認するのが怖くて……
俺の気持ちにブレーキをかけるには十分すぎるほどの理由だった。
なぜなら俺の中には『誰かが俺のことを好きになるなんてありえない』という『真実』が存在していたから……
別に一生一人で生きていきたいなんて考えていたわけじゃない。
ただ単に怖かったのだ。自分に自信がなかったのだ。
失敗ばかりで恥をかいてばかりの俺だから、きっとこの気持ちも失敗に終わるという未来がなんとなく予想できてしまうのだ。
ある人は言った。
「誰かに好かれることはとても嬉しい」
と、きっとそうなのだろう。
俺も人に好かれていると言われたらきっと喜ぶと思う。
でも必ずしも『嬉しい』と言い切れるものなのだろうか?
この世には人を好きになって『キモい』などの罵声を浴びさせられる人間もいる。
好かれることは嬉しいかもしれない。でもそれは好きになった方の人間性やビジュアル、スペックに寄るのでは?と、考えずにいられない。
そうなれば俺はきっとこの気持ちを心に閉じ込めておくべきなのだろう。
誰も傷つけず、今まで通り平和な毎日を送るためにも……




