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内戦終結

 開闢歴二五九四年一〇月二五日 ホームズの町


 ホームズ開城

 リバリタニア政府、アルビオン帝国に降伏


 リビア達が脱出した翌日、ホームズは開城し、リバリタニア政府も降伏した。

 予想通り、首脳部が逃げ出したことに周囲は呆れ、心が折れてしまい、継戦の意志を放棄した。

 何より度重なる戦闘でホームズの住民は疲弊し、戦闘からの解放を求めていた。徹底抗戦を訴える一部の強硬派を住民が拘束して黙らせた上で、アルビオン帝国軍に降伏した。

 現地の最高指揮官であるタウンゼント将軍とサクリング提督は共にこれを受諾した。

 皮肉にも、降伏してようやくリバリタニアはアルビオンに正式な交渉相手として認められ、その短い生涯を終えたのだ。

 こうしてリバリタニアの乱と後世にて呼ばれる反乱は終結した。

 ニューアルビオン北部を中心に、反抗する植民地がまだ残っている。だが司令塔となる政府が無くなり烏合の衆と化しており、近日中に制圧出来る見込みだ。

 残存勢力鎮圧と部隊の海上輸送の為にカイル達も暫くはニューアルビオン沿岸を走る事になる。


「我々の戦いは終わってはいない!」


 ただ、グレシャム男爵だけは終わったとは思っていない。

 開城されたホームズに入城した直後の演説で宣言していた。


「ニューアルビオンが悪魔の淫夢から目覚めたことは喜ばしい。だが、誘惑する悪魔共が逃げ出しただけの事であると心得よ。共和主義を名乗る悪魔共を決してこの世に生かしておいてはならない! 我々の戦いは奴らを根絶するまで続く! 連中を逃がしたガリアを私は決して許さない。悪魔を受け容れるような国は呪われよ! 不幸が訪れよ! 滅びよ!」


 妻の仇、辱めた相手を抹殺できない怒りで猛り狂っている。

 復讐を止めると誓ったカイルとグレシャムとは既に温度差が出来ている。だから演説から離れたいと思っていたが、海軍側の代表者の一人として離れる訳にもいかず、男爵の狂気に満ちた扇動を聞き続ける羽目になった。


「リビアの悪魔め! 鼠のようにコソコソと逃げおって! 見つけたら八つ裂きにしてくれる! 奴が逃げる前に見つけ出して殺してやりたかった!」


 怒り狂う男爵に「私のボートに乗っていましたよ」とは言えないカイルは黙ったままだ。

 事実を知ったら自らの無能を呪い、悲観のあまり男爵は自殺してしまうだろう。


「私も含めて味方は無能だ! あんな悪魔を取り逃がすとは! もしも逃亡を手助けした奴がいたらそいつを畑に埋めて肥やしにしてくれる」


(神様、あるいはこの世界に導いてくれたフェイトさん、リビアの逃亡を僕が手助けしたことがグレシャム男爵にバレませんように)


 カイルは心の中で露見しないように祈った。

 露見しようものならグレシャム閻魔王様直々にカイルは生き地獄を味わうことになるからだ。

 因みに作戦に参加したメンバーはこの日のグレシャムの怒りを見て、関与したのが露見するのを恐れて生涯リビア脱出を手引きしたことを口にはしなかった。


「ひゅう」


 地獄のような演説が終わって、カイルは会場を後にしてひと息吐いた。


「クロフォード海尉!」


「ああ、ロートシールド大隊長」


 ランツクネヒト第二連隊のロートシールド大隊長が話しかけて来た。


「大変お世話になりました」


「こちらこそ、装備品の補償金の件、口添えありがとうございます」


 二度にわたって装備を放棄して撤退したランツクネヒト第二連隊は破産の危機にあった。だがカイルの口添えもあって、アルビオン政府から補償金が出る事になった。


「お陰で予想より儲かりました。これで国に帰れます」


「やはり傭兵契約は見直されますか」


「はい、アルビオン政府の決定です」


 外人傭兵であるランツクネヒトの駐留がニューアルビオンの住民感情を逆なでしたことを政府は重く見た。

 ランツクネヒトは本国、若しくはニューアルビオンの部隊と交代してニューアルビオンを去る。

 本国に配置する財政的余裕はないため、そのまま契約は打ち切りとなり、母国に帰ることになるだろう。


「残念ですね」


「まあ、命がけの出稼ぎに出てきただけですからね。仕事を終えれば戻るだけです」


「確かに」


 ランツクネヒトは傭兵であり、契約が終われば契約金を貰って帰るだけである。


「そこで一つ相談があるんですけど」


「何でしょう」


「商売の話なんですが」


 ロートシールドの話を聞いて、カイルは直ぐさまエドモントを呼び出した。さらに計画の詳細を詰めて、成約に持ち込んだ。


「何を企んでいるの」


 カイルの姿が見えなくなったため探していたレナがカイルの耳を引っ張って尋ねた。


「放してよ。一寸した儲け話だよ」


「碌な事じゃないでしょうね」


「違うよ。真っ当だよ」


「何をする気?」


「多分これから僕たちはニューアルビオン沿岸を航行する事になる。陸軍が部隊の配置転換で忙しくなるからね」


「それが?」


「その時、ユニティの空きスペースに商品を載せて儲けるのさ。北部の商品を南部に運び、南部の綿花を北部に運ぶことにする」


「そんな事して良いの?」


「士官個人のスペースは自由にして良いんだよ。艦長も艦の空きスペースに自分の荷物や商品を積み込むことを許されているよ」


 カイルの言ったことは海軍条例でも認められている正当な権利であり、これで艦長や士官は一寸した小遣い稼ぎをすることが出来た。


「で、それがロートシールド大隊長とどういう関係があるわけ?」


「簡単に言うと、彼等の契約金を商売の原資にさせて貰うんだよ」


「え?」


「帝国政府からランツクネヒトに渡される契約金で商品を買って商売をするんだよ」


「大丈夫なの?」


「だからエドモントと話していたんだよ。何処でどんな商売をするかってね」


「捕獲賞金があるでしょう」


「艦の運営に費用が掛かるんだよ。砲撃演習用の火薬が足りない」


 火薬は海軍から支給される量では足りない。そのためカイルは自腹で火薬を購入して訓練させていた。そのためユニティ乗員の砲撃の腕前は非常に良い。

 さらに他の艦よりも福利厚生を良くしていた。当然、金が掛かる。


「だから稼がないとダメなんだよ。捕獲賞金だけでは足りない」


 何より今後も海軍で艦を指揮するには金を稼がないと良い指揮は出来ない。


「南北を行き来するのは頻繁にないと思うわ。各連隊はそのまま駐留することになるだろうし」


 レナは父親から聞いた話をカイルに伝えた。


「私たちも直ぐに本国に戻ることになりそうよ」


「最大の儲けのチャンスはその時です」


 ロートシールド大隊長の目が妖しく光り、レナに説明した。


「帰国の時、このニューアルビオン北部で綿糸を大量購入します。そして、アルビオン本国に運び込んで売ります。アルビオン本土は紡績が盛んですからね。しかも今回の反乱により綿糸の輸入が止まり、不足しているはずですから高値で売れますよ」


「それで利益を得るの?」


「まさか」


 とんでもないとばかりにロートシールド大隊長は否定した。


「売上金を使いアルビオン本国で古着を購入します。ゲルマニアへの帰国の時、それを持ち帰ります」


「何故古着を?」


「ゲルマニアは物不足で、特に衣類が不足していています。アルビオンは織物が大量生産されているので古着は凄く安い。しかし品質は他国の新品以上に良く、ゲルマニアでも売れます。それはもう新品同様の値段で売れますよ」


 日本で使われていた中古品が海外で好まれるのと同じ構図だ。


「少なくとも倍以上の金が手に入ります」


「本当に商売人ね」


「我が領邦は貧しいので稼げるときに稼ぎませんと」


 ランツクネヒトがアルビオンと傭兵契約を結ぶ動機の一つが、古着などを扱って商売が出来るからだった。


「レナもどう?」


「やめておくわ」


 カイルの提案をレナは明確に断った。


「新しいサーベルが買えるよ」


「……一口噛ませて」


 レナを陥落させたことでカイル達の計画は順調に推移した。

 物不足で困っているニューアルビオン各地にカイル達は物資を売りさばいた。

 やがて年末になり、カイル達に帰国命令が下ると、予定通り北部に寄って綿糸を大量購入して本土に帰国。本土に着くとエドモントの口利きで綿糸を売りさばいた。

 ここまででカイル達の稼ぎは元金の三倍になった。

 カイル達はここで分配金を受け取って、ロートシールド大隊長たちランツクネヒト第二連隊の将兵と別れた。

 ロートシールド大隊長は得た資金を元に古着を買って母国に帰国。仕入れ額の倍の売上金を獲得し、売却益を将兵達に分配した。

 こうしてリバリタニアの乱は終わり、カイル達も懐を暖めて帰国し、本土で少しは穏やかに過ごせる時間が出来た。

 しかし、彼等にはまた新たな命令が下る。

 それはまた後の話だ。

 ひとまず完結させて頂きます。

 今回は作者の力量不足もあり、乱筆となり、読者の方々には多大なご迷惑をお掛けしました。

 それでも最後までお付き合いして下さった事に感謝申し上げます。


 次は新作と以前お伝えしましたが、予想以上に長引いたのと、新作の執筆に遅れが生じたために、鉄道英雄伝説の第五部を投稿いたします。

 御愛読頂ければ幸いです。

 投稿予定は後日活動報告でお伝えさせて頂きます。


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