表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/54

義勇艦隊来航

 開闢歴二五九四年一〇月二日 ホームズ沖


「どうしてこんな所に義勇艦隊が現れるのよ」


 突然現れた大艦隊にレナも驚きの声を上げる。だがカイルは至って冷静で、静かに返した。


「義勇艦隊の司令長官モンテイル提督は慎重な方らしいね」


「どういう事?」


「答えはあとで。今はクリスに敵艦隊出現を報告しないと。タッキング! ツリム調整! 最大限の速度で根拠地に向かう」


 カイルは上手回しを行い、帆を最適位置に直して、ミンク島とアウトレット島の間にある根拠地に向かう。

 ユニティは小型で軽量なため快速を発揮出来る。鈍重な戦列艦を置き去りにして風のように走って行く。

 充分に離れたところでカイルはレナに状況を説明した。


「義勇艦隊がリバリタニアを支援するなら、三箇所ほど目的地を設定できる。一つはチャールズタウン、もう一つはポーツマス、そしてここホームズだ」


「どうして?」


「まず、チャールズタウンだけどアルビオン帝国海軍のニューアルビオンにおける根拠地だ。ここを攻略出来れば、アルビオンは敗北する。しかも海軍工廠などがあるから占領すれば自分たちの支援施設に出来る。ただしチャールズタウンもそれ相応の防備、陸上砲台や守備兵力を用意しているから義勇艦隊にも損害が出る。ハイリスク・ハイリターンな場所だ」


「ポーツマスは?」


「ポーツマスはリバリタニア支配下にある最大の都市で、造船所などもあるから支援施設としては申し分ない。けど、封鎖艦隊が遊弋しているからこれを突破する時には損害が出るだろう。それに封鎖を解除しても、暫くは物資不足に泣かされる。まあ中程度のリスクとリターンだね。けど今後を考えるとポーツマスに向かうだろう」


 義勇艦隊はポーツマスに向かうとカイルも思っていた。海軍上層部も同じ予想をした。故に一九隻もの戦列艦をポーツマスに派遣していた。


「それならどうしてホームズに来ているのよ」


「ホームズはリバリタニアの支配下だ。それに巨大な湾で大艦隊を収容できる。多数の川が流れこんでいるから周辺の町村から物資を集めやすい。流石にドックはないけど、軍艦なら数ヶ月程度はドック入りせずに行動できる。何より封鎖している部隊は少数で撃破しやすい。ローリスク・ローリターンな場所だ」


「入港してもそんなに状況は変わらないんじゃ? アルビオン艦隊は健在よ」


「その通り。ただ弱体化しているリバリタニアを強化することは出来る。戦列艦の他にも輸送船が同行しているはずだ。物資を満載してね」


 リバリタニアの本拠地となっているホームズへ兵員と物資を供給することにより、陸上での戦いを優位に進めることが出来る。

 ニューアルビオンでは調達が難しい武器弾薬、特に大砲を供給することで弱いリバリタニア軍を強化することが出来る。


「早く伝えないと」


「ああ」




 カイルがアウトレット島の根拠地に戻り、報告すると動揺が走った。

 自分たちの数十倍もの戦力を持つ大艦隊が襲来されては勝ち目はない。


「ポーツマスへ撤退します」


 戦隊司令であるクリスは断言した。


「このままここにいても撃破されるだけです。根拠地に立て籠もっても戦列艦の砲撃によって撃破されます。撤退してポーツマスの友軍と合流しましょう」


「撤退するのに時間が掛かりますよ」


 物品管理を行っているエドモントが口を挟んだ。この根拠地には支援の為に多くの物資を上陸させている。また防御陣地には大砲や陣地構築用の資材が置いてある。

 乗員が休養するためのテントや生活施設もある。


「人員のみ輸送船に乗船。即時脱出します。物資や設備は放棄。出来る限り破壊して下さい」


「はい」


 敵が迫ってきている以上、直ちに脱出しないと危険であり、クリスの命令は妥当だ。自分が持ち込んだ物品を破壊する事にエドモントは渋った。だが最後には納得して、脱出する事に同意する。


「直ちに全艦脱出。ポーツマスへ逃げ込みなさい。通報艦は先行して状況を報告」


「司令、ご命令を」


 矢継ぎ早にクリスが命令を出す中、カイルは一歩前に出て行った。


「クロフォード艦長。命令は伝えたはずよ」


「ご命令を」


「ポーツマスに向け脱出しなさい」


「ご命令を」


 だがなおもカイルは命令を求めた。クリスはそれがどういう命令か見当が付いた。


「殿となって義勇艦隊を押さえるつもり?」


「はい」


「二四隻の戦列艦を中心に構成された大艦隊を相手に勝てると思っているの? 他にもフリゲートが多数いるのよ。大丈夫なの?」


「やりようはあります。それに時間稼ぎは必要でしょう。鈍足の輸送船で逃げ切れますか?」


「くっ……」


 カイルの指摘にクリスは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 鈍足な輸送船を逃がすには時間稼ぎが必要だ。そのためには殿を置いて足止めする必要がある。

 だが殿を命じられた者は死ぬ危険性が非常に高い。


「……わかったわ。ユニティは直ちに出撃。出来る限り敵艦隊の足止めを行いなさい」


「アイアイ・サー!」


 カイルは敬礼をして命令を受領した。


「それと、一つ頼みが」


「何? 何隻か割いて欲しいの?」


「はい、一番鈍足な船を頂けるようお願いします。それとやって貰いたいことが」


 カイルの計画を聞いたクリスは了承し、準備に入った。




「総帆開け!」


 ユニティに戻ってすぐにカイルは出撃を命令した。根拠地から出ていくと針路を南に変更して義勇艦隊に向かってく。


「戦隊が出港していきます」


 針路を変更したところでクリス率いる戦隊の本隊も輸送船を率いて出てきた。

 クリスは根拠地にあった船舶の中でも足が遅い船数隻を残し、それ以外の足の早い船に人員を載せて足早に出港。根拠地から出ていくと、ポーツマスのある北に向かって航行していった。

離れていく本隊を見てユニティの乗員は不安になる。


「諸君、貧乏くじを引かせて済まないな」


 カイルは謝罪をした。


「これより我々は義勇艦隊を名乗る連中に攻撃を仕掛ける。ただ、あまりにも艦艇の数が多過ぎる。故に捕獲している余裕はなく、賞金を手に入れる事は出来ない。あれだけの獲物がいるのに賞金を獲得させてやれず本当に済まない」


 カイルの言葉に乗員は唖然とした。

 通常なら生きて帰れないほどの戦力差にも関わらず、カイルは生きて帰るつもり、いや、生きて帰れると確信している。

 それどころか捕獲賞金が得られないことを謝罪している。


『はははははっ』 


 直ぐに甲板の何処からか笑い声が響いてきた。

 カイルが本気で言っていると確信してたため彼等は笑う余裕が出来た。


(上手く行ったか)


 サクリング提督を見習って演説をしてみたが成功したようだ。変に緊張させるよりリラックスしていた方が仕事の効率は良い。


「よし、諸君。戦闘を開始しよう。信号員、義勇艦隊に信号。<停船せよ。さもなくば攻撃する>」


 信号員はカイルの命令通り信号を出して、義勇艦隊に停船を指示する。

 しかし、予想通り義勇艦隊が止まる事は無かった。


「義勇艦隊停止せず。艦隊より多数の艦が分離! フリゲートです!」


 艦隊は戦列艦のみで構成されている訳ではない。偵察や連絡用にフリゲートや等級外の小艦艇を配備している。


「分離した艦の行動は?」


「足の早い二隻が沖合へ、戦隊本隊に向かっています! 残りは両翼に広がっています」


「定石通りか」


 船足の早い二隻で本隊を足止めして、残りの艦で包囲して捕獲しようとしている。


「広がった艦の内、二隻が本艦に接近してきます!」


 本隊に接近してくるユニティを阻止あるいは捕獲するためにやって来たのだろう。


「スタボー! 風上へ」


 風は西風。風上は新大陸で座礁する心配はない。


「勝負になるの?」


 隻数が多い義勇艦隊を見てレナが尋ねる。


「大丈夫だ。連中はこの辺の海域を知らない」


 義勇艦隊はホームズ沖に来るのは初めてだ。当然、この海域に明るくない。

 だが、カイル達はずっとホームズ沖で測量を続けた上、作戦をこなしてきており、海域に明るい。


「地の利はこちらにある。 まずは左の二隻を仕留める。両舷砲撃用意! ハード・ポート!」


「ハード・ポート! サー!」


 カイルの命令で、ユニティは左に舵を切り、クリスの本隊に向かっていた二隻に接近して行く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ