表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/54

反撃作戦

「何が干潮を過ぎないと敵は来ないだ! 干潮前にやって来たぞエロガキ!」


 敵来襲を知らせる大砲の空砲が響く中、カイルの寝ているテントにレナが駆け込んで来た。


「敵がここまでバカだとは思わなかったよ。防備を固められる前に奪回したかったんだろう」


 レナに締め上げられつつも、カイルは冷静に状況を分析して答える。


「どういう事?」


「兎に角、迎撃しよう。仕掛けは出来ているよね」


 カイルはレナの手を解いて尋ねる。


「ええ、言われたとおりにやってあるわ」


 警告の空砲が鳴り止み、辺りは一瞬静寂となる。

 ソールズベリー半島に面した浜にはボートが残されており、リバリタニア軍はボートで上陸した後、島へ散っていったようだ。


「散開されると厄介よ」


「そのための仕掛けだ」


 カイルは小銃を掴んで耳を澄ませていると、カランカランと音が響いてきた。


「向こうにいるぞ!」


 音がした方向へカイルは駆け寄る。走っている間にも前方の方から銃撃を受ける。カイルは銃弾から身を躱して、さらに前に進む。

 そしてベンネビス歩兵連隊の将兵と共に、発砲したリバリタニア軍民兵を見つけ出して、地面に押し倒し制圧する。


「よし、まずは一人」


 その時、他でも音が鳴り響いた。


「あっちだな」


「本当に役に立つわね。こんな簡単な仕掛けで敵を釣ることも出来るんだから。得物は魚だけじゃないのね」


「装備が整っていて良かったよ」


 帝国軍兵士の背嚢には予備のブーツの他、銃の整備道具、食器、そして釣りの道具が入っている。食料を現地調達できるようにというアイディアかどうか不明だが釣り道具が入っていた。

 カイルはそれを利用して警報装置を作り上げた。

 絶えず移動して、潜伏し、狙撃するのがリバリタニア軍の戦法だ。

 ならば島のあちこちに釣り糸と針、マグカップで作った鳴子の警報装置を設置して、移動中のリバリタニア軍を捕捉できるようにしておいた。

 移動を封じられ、居場所を露見したリバリタニア軍は次々と捕まっていった。


「連中、逃げ出すようね」


 音の鳴り具合から、リバリタニア軍が上陸した浜へ逃げているのが判った。


「無理だろうけどね」


 カイルはしみじみと言いつつ、浜に向かう。

 浜ではリバリタニア軍が撤退するべく、ボートを必死に海に押し出そうとしていた。だが海が遠くて遅々と進んでいない。


「何をやっているの」


「引き潮だからね。潮が満ちている間に上陸したんでボートが完全へ浜に乗り上げたんだよ」


 何隻かは海に浮かぶことが出来たが直ぐに止まってしまう。


「満潮で通れた場所も、潮が引いて暗礁が出てくるから通れなくなるよ」


 それでも二隻のボートが、漕ぎ出したが必死に漕いでもソールズベリー半島から離れてゆく。


「何より引き潮だと海流は外海に流れるようになっている。これだと戦況が不利になって撤退したくても、自分たちの出撃した浜に戻る事は出来ない」


 襲撃があるとしたら満ち潮の時間だとカイルが判断した理由はこれだった。

 潮の流れは侵攻方向とは逆だが、撤退するときは簡単に離脱できる。何より満ち潮であるため暗礁の上を通過できるし浜の奥までボートで乗り付けることが出来る。


「海で作戦を遂行するにも知識が必要だよ。知らなかったら失敗を犯すことになる」


 カイル達は上陸してきたリバリタニア軍に投降を勧告した。

 退路が無くなったリバリタニア軍は降伏。海に逃れたボートには軍艦が接近して艦砲をを向けると投降した。

 こうしてリバリタニア軍の奪回作戦は失敗に終わった。


「よし、負傷者を回収して治療所へ送るんだ。それと捕虜も送って健康診断を受けさせろ」


「治療所って……ヒラリーの元に送るの!」


 ヒラリーという人命を聞いて彼女の治療を思い出した兵士達は震え上がった。負傷して座っていた兵士が慌てて立ち上がり、自分は無事だとアピールする。


「……医者としての腕は確かだよ。傷を放って置くと腐って死んでしまう」


 カイルが言うと、負傷者達は慌てて自分たちの傷口を水やワインで洗う。そして傷口に火薬を振りかけ火を付けて焼いて消毒する。


「傷が大丈夫か確認させる。全員連れて行け」


 カイルが断言すると、兵士達は絶望的な表情を浮かべた。


「捕虜にも健康診断を受けさせろ。疫病が流行ったら目も当てられない」


「そりゃそうだけど」


「なら実行するんだ」


 仕方ないだろうという態度でカイルは命令し、レナは哀れみの表情を浮かべて捕虜達を見た。

 治療所に送られた捕虜達は一人残らずヒラリーの検診を受けることとなる。

 なお、彼女の診察は的確であり、負傷者全員が一命を取り留めたことは彼女の腕が確であることの証明だ。


「新しい患者ね!」


 ただ彼女のお眼鏡に適った一部の捕虜が生け贄、いや患者となり治療を受けて断末摩の悲鳴を上げた。

 通常、リバリタニア軍の捕虜はふてぶてしく反抗的だが、ヒラリーの治療を見て、借りてきた猫のように大人しくなり、従順に指示に従った。

 なおリバリタニア軍の間にヒラリーの名が悪名として加わったことは当然の成り行きだった。


「カイル! 今チャールズタウンから補給艦が到着したわ」


 その時、クリスがやって来た。


「入っていた郵便に、ベンネビス連隊のグレシャム男爵宛で本国から通達があったわ」


「何があったんです?」


 カイルが尋ねるとクリスは文面を読み上げた。


「この度、男爵の戦功を鑑み、グレシャム男爵に帝国陸軍ニューアルビオン歩兵第一連隊の創設を許可する。これでグレシャム男爵は独立した部隊の指揮官になれるわ」


「ようやくか」


 自分の隊の下にあるグレシャム男爵が勝手な行動をしないかと、カイルは常に気が気ではなかった。

 しかし、ゲリラ戦術を繰り広げるリバリタニア軍相手には、グレシャム男爵率いる第二大隊が行う散兵戦術は有効で何度も助けられた。

 彼等がいなくなると厳しいと思うカイルだ。


「連隊長、こちらも」


 カイルに一枚の紙を差し出したのは副連隊長のキースだ。


「なんだい?」


「第二大隊に掛かった費用です。ご確認を」


 数字に目を落とすとカイルは気が遠くなった。事実上、二つの連隊を持ったような状況であるが、維持費用は倍どころではない。ライフルは購入費用が高いので三倍以上の経費だ。

 これまでカイルが得た捕獲賞金が吹っ飛んでもまだ足りない。


「……今からでもポーツマスの戦隊に異動できないかな。あそこは商船を捕獲するからかなりの賞金が」


「落ち着いてカイル!」


 クリスは大声で叫んでカイルを現実に引き戻した。

 連隊の経費についてはグレシャム男爵が第二大隊を買い取る形式にして、これまで掛かった費用を支払う事でカイルは借金を免れた。




 開闢歴二五九四年九月一日 ガリア王国王宮


「国王陛下、今こそアルビオンに一撃を加える好機ですぞ」


 ガリアの王宮でリードはガリア国王との謁見に望んでいた。

 ガリアを訪れて以来、リバリタニアへの支援を求めて交渉を続けている。

 しかしコンコードの戦いで大敗北を喫して諸外国への印象が悪くなった。そのためリードの交渉は難航を極めた。

 だが、ホームズの戦いでの勝利はリードにとって強力な追い風となった。リバリタニアに勝機ありと堂々と主張できるようになり、リードの弁舌にも力が入り、積極的に交渉を行っていた。

 なお、ホームズ近くのアウトレット島とミンク島が帝国軍に占領されたことがガリアに伝わるのはこの会見から一月後だ。


「確かに、君たちリバニタニアはホームズにおいて勝利を収めた。まぐれではないのかね?」


「例え巡ってきた幸運でも、実力無くして掴めるものではありません。実力無き者は好機が通り過ぎたことすら気が付きますまい」


「口が上手いな。しかし、今後も好機が来るとは限るまい」


「それをもたらすのはガリア王国です。陛下」


「つまり君らの生殺与奪権は我らが握っているという訳だ」


「確かに。しかし、袖にされることは無いでしょう」


「どうしてだ?」


「ガリアの支援が無ければリバリタニアが勝利することは陛下のご慧眼通りあり得ません。あとはアルビオンに降伏あるのみ。今後永遠にリバリタニアが出てくる事も、アルビオン帝国の膝元で内戦が起きる機会も失われるでしょう」


「ふむ、確かに言うとおりだ。よろしい。支援を行おう。諸国に対して武装中立同盟の成立を求めよう」


「ありがとうございます」


 大げさにリードは喜びを表した。

 既にガリアが中心となって武装中立同盟を作り上げようとしている事は情報として入っていた。

 既に既定事実である事であっても、さも折れたかのように見せつけて、恩を売る外交手段だ。

 それは判ってはいるが、スポンサーの機嫌を損ねないようにリードは頭を下げた。


「それとガリア艦隊を中心とする義勇艦隊を出すことにしよう。最低でも戦列艦一〇隻以上。王国が帝国に宣戦布告するには時期が悪い。リバリタニアの理念に賛同する有志によって編成された艦隊が出て行く事を認める事にする」


 これにはリードは心の底から驚いた。

 ガリアがアルビオンへ宣戦布告をするのは不可能だと思っており、ガリア軍がの援軍は期待出来ない。精々、訓練教官となる軍事顧問のみとリードは予測していた。

 それが、大規模な艦隊による増援など思いも寄らないことだ。

 アルビオンとの関係を考えて義勇艦隊と名乗らせるが、大艦隊に間違いは無い。


「ありがとうございます!」


 リードは心の底から感謝の言葉を述べた。


「君も水先案内人として艦隊に同行し給え」


「はい」


 リードは恭しく頭を下げて退出した。


「宜しいのですか? 艦隊を派遣して」


 傍らに控えていた侍従武官が陛下に尋ねる。


「アルビオンに打撃を与える機会だ。そうそう得られるものではない」


「しかし、艦隊を送り出すのはやり過ぎでは?」


「多少兵力を出しておいた方が、戦後にガリアの植民地を取り戻せる。交渉によっては奪回も可能だ」


「ですがアルビオンと戦争をしておりませんが」


「いずれ開戦するだろう。だが開戦してから行動していては遅過ぎる。かといって正規軍を出すには制約が大き過ぎる。早めに手を打つために義勇艦隊を出しておく。何よりアルビオンは武装中立同盟の対応のために艦艇を出す事が出来ん。だからといって陸軍が少ないアルビオンは大陸軍を有する我が国へ攻め込む事も出来まい。何より武装中立同盟の艦隊に対抗するため、アルビオン本国から艦隊を出すことはできまい」


「陛下のご慧眼に臣は感服するばかりです」


 侍従武官は頭を下げると、艦隊に命令を下すべく部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ