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身体検査

治療行為だからR18ではありませんよね?

  開闢歴二五九四年八月二一日 チャールズタウン海軍工廠沖 ユニティ最上甲板


「……はあっ?!」


 常識外れのヒラリーの指示に、レナは一瞬思考を停止した。だが直ぐに立ち直り猛然と抗議する。


「何を言い出すんですか!」


「健康診断の為に必要な処置よ」


「でもズボンを脱げだなんて」


「ああ、ズボンを脱いでもダメだったわね」


「そうです」


「下着も全て脱いで、下半身を晒しなさい」


「なっ」


 更に酷くなった指示に、レナは素っ頓狂な声を上げる。


「気は確かですか! そ、そんな、ふ、ふしだらな、事をさせる、なんて」


「なにが?」


「か、下半身を、ろ、露出させるなんて」


 レナは顔を真っ赤にして抗議するが、恥ずかしさのあまり言葉が出せない。


「兎に角止めさせなさい」


「何故」


「軍法により、風気を乱す行為、海軍の名誉を傷つけるような行為は禁止されております」


「健康診断を行うには患者の身体を直接触る方が良い。脱がせるのは当然だ」


 馬鹿なことを言うな、という態度でヒラリーはレナの抗議を撥ね除ける。


「で、ですが。そんな命令に乗員が従うことは」


 レナは止めさせようとするが、ヒラリー医師、いや美女の指示に従って、既に乗員達はズボンも下着も脱いで下半身を晒している。


「!!!!!!」


 その光景にレナは命令するのも忘れて顔を背けた。


「よし」


 邪魔者が黙り込んだことで、ヒラリーは自分の仕事に戻った。

 助手に持たせてあったアルコールを含んだ布で自分の両手を殺菌。

 乗員の両脚の間に生えている物を見たあと、それを手で掴み強く締め上げた。


「!」


 突然、美女が自分の物を握ってきたことに乗員は驚き、興奮する。


「ふむ」


 やがてヒラリーは満足したのか、手を放し再びアルコールを含んだ布で消毒すると次の水兵に移る。

 そして再び強く握る。すると、水兵の物の先から白い液体が出てきた。


「うふっ」


 排出された白い液体を指で掬って擦ったあと、ヒラリーは妖艶な笑みを浮かべて命じた。


「今すぐ医務室に行きなさい。処置はあとで」


 再びアルコールを含んだ布で両手を殺菌して次の水兵に移る。

 一部始終を見ていたレナが顔を更に紅くしてヒラリーに詰め寄る。


「な、な、何をしているんですか!」


「健康診断だ」


「何処がですか! それにどうして医務室に送ったんですか!」


「治療を行う為だ。それ以外にあるか」


「こんなの聞いたことありません」


「最新の診断方法だ。他に方法は無いし、確認している。あ、君も医務室に行くんだ」


 その間にもヒラリーは診断を進めて行き、医務室行きか否かを判断していく。命じられた者は喜々として医務室に向かう階段を駆け下り、残った者は残念そうな顔をする。


「副長として命じます。今すぐ中止しなさい」


 並んだ乗員達から露骨に不満の声が上がったが、レナは無視する。寧ろヒラリーの方が敢然と抗議してきた。


「私は本艦の医療に関して全権を持っている。更に艦長からも健康診断を行う許可を得ている。その命令を拒絶するのか?」


「うっ」


 副長とはいえ艦長命令に叛くことは出来ない。たとえエロガキでも艦長だ。

 同類の変人だから乗せたのではないかとレナは疑った。


「そういうわけで診断を続けさせて貰う。よし、君は大丈夫だ」


 ヒラリーが言うと、水兵もヒラリー自身も残念そうな顔をする。


「……あああああああもうっ!」


 レナの声がユニティーの甲板を駆け抜けた後、レナはカイルに戻ってくるよう伝令を出した。

 その間にもヒラリーの健康診断は続き、全乗員の診断を終え、指名した十数名を医務室に送った。




「思った通りね」


 医務室に入ったヒラリーは、改めて連れてきた乗員の両脚に生えた物を診断する。

 呼ばれた十数人の他にも、治療を一目見ようと乗員の大半が医務室前に列を成している。


「直ぐに治療を行います。手術台の上に」


「は、はい」


 強い口調でヒラリーの指示を受けた水兵は心臓を激しく動かしつつも、言われた通り手術台に上がり仰向けになる。


「両手両脚を縛っておいて」


 手術台の四隅にあるロープで水兵の手足を縛り付けるようヒラリーは助手に命じる。

 縛られる痛みと恐怖で水兵の顔は歪む。


「大丈夫よ。直ぐに終わって楽になるわ」


 水兵にヒラリーが笑顔を向けると、水兵は天使の笑顔が見られたと愉悦の表情を表して落ち着いた。いやあるいは女神の笑顔だったかもしれない。


「さあ、始めるわよ」




「何なのよ! あのアバズレは!」


 上陸から帰ってきたカイルに、レナは大声で怒鳴り込んだ。


「何があったんだよ」


「健康診断よ。というか、あの女、あ、あ、あ、あそこを……」


「あそこ?」


「乙女に変な事を言わすなエロガキ!」


 カイルの問いにレナは拳で返した。上官への反逆であり、今の行為だけでも十分に軍法会議ものだ。だがカイルは冷静に尋ね返して状況を把握しようとする。


「兎に角、落ち着くんだ」


「落ち着いていられるか! 全乗員にあんな事をした上に、更に何人か医務室に連れ込んだのよ」


「治療行為じゃないのか?」


「絶対に違う! 健康診断や治療行為と偽って淫猥なことをしているに違いないわ!」


「衛生や治療に必要な行為は大目に見てくれよ」


「限度があるわ! 」


 上陸、休暇が少ない海軍では陸上から商売女が乗員の妻と偽って上陸してくることを黙認するのが慣例になっている。

 そのため、艦内はカオス状態になる。そのことを知らないレナではないが、あからさまに行われるのは気分の良いことではない。


「ようやく判ったわ。彼女が帝都やニューアルビオンから追い出された理由が! 淫乱なためよ! 兎に角! 止めさせなさい! そしてこの艦から叩き出しなさい!」


「でも、歴とした内科医だよ」


「だからっと言って淫乱女を乗せておく理由になるか! 今も医務室でふしだらな行為を続けているに違い……」


「ぎゃあああああああああああああああっっっっっっっっっっっっ」


 レナが言い終える前に下の方から悲鳴が、いや断末摩の叫び声が響いてきた。


「なに?」


 獣が死にそうな声にレナは疑問を口にする。同時に目の前の階段からは医務室前にいた乗員が次々と駆け上がってきて甲板に逃げてくる。

 その光景もカイルとレナの困惑を増幅するだけだった。


「兎に角、確認しにいこう」


 カイルが駆け出すと、レナも後に続いて医務室に向かう。

 そしてそこにいたのは、四肢をロープで拘束された水兵の尿管に、ヒラリーが細い金属棒を尿管に挿入している光景だった。


「ふんふんふん」


 鼻歌交じりにヒラリーが金属棒を動かしているが、激痛が走るのか水兵は身体を痙攣させている。既に気絶して口から泡を出していたが、身体が反応しているらしく激しく動く。


「……な、なにを?」


「治療よ」


 レナの問いかけに対して、ヒラリーは喜々として答える。


「淋病だからこれで治療していたの。薬液を塗った金属棒を尿管に入れて患部を直接洗浄するの。凄く効くわよ」


「り、淋病?」


「ええ、勃起もしていないのに白い液体が、膿が出てきたんです。間違いありません。他にも何人かいますので治療します」


「は、はあ」


 確かに淋病治療は大事だ。感染力が強く、目に入れば失明の危険もあり、海軍を除隊する理由の一つとなる。


「それじゃあ、先ほど握っていたのは?」


「思いっきり握って膿が出るか否か確認していました。出てきたら淋病です」


「……」


 レナが質問の質問に答えながらもヒラリーは淡々と治療を続ける。

 絶句するレナに代わってカイルがヒラリーに尋ねた。今まで聞き忘れていたことを。


「あの、ヒラリー軍医のご専門は?」


「性病の予防と治療よ」


 平然を通り越して、喜々としてヒラリーは答えた。


「帝都で患者の治療を行っていたんだけど何故か嫌われて、性病が蔓延している新大陸に来たのだけれど、やっぱり嫌われて。そこで性病が蔓延している海軍に入れないかと応募してみたのよ」


 性病はこの時代でも恥ずかしい。誰でも罹る病で笑い飛ばすことも多いが、公言することは憚られる。

 だから、ヒラリーは周りから嫌われたのだろう。


「やっぱり海軍に来て良かったわ。淋病に梅毒。性病の宝庫ね。サンプル数が多くて研究が捗りそう。男女の間に現れる間男、寝取り男、泥棒猫のような病気よ。こいつは興味深いわよ。一生掛かっても調べる価値があるわ。よし、こいつの治療終わり。経過観察に回すわ」


 手術台にいた水兵の処置が終わって拘束が解かれる。気絶状態から覚醒せず、ぐったりしたままの水兵はヒラリーの助手が抱えて移し替えた。


「さあ、次の患者を連れてきて」


「は、はい」


 笑顔のヒラリーから指示を受け、助手は医務室を飛び出して患者を連れてくる。

 泣き叫ぶ水兵を手術台の上に載せると再び四肢をロープで固定する。普段の彼は戦闘でも嵐でも泣き言一つ言わず喜々として任務を遂行する屈強な水兵が、今は幼子のように泣き叫んでいる。

 あのような治療を受ける直前では仕方ない。例によって得物を発見した猛禽類を連想させる笑みをヒラリーは浮かべる。


「さあ、始めるわよ。大丈夫、直ぐに終わって治るから」


 ヒラリーが再び金属棒を尿管へ挿入し、水兵は絶叫を上げた。

 その光景を見ていたカイルもレナも内股になり、無言で医務室を出て行った。


「……凄い人が入ってきたわね」


「ああ、その意味では凄いよ」


 精神的衝撃から立て直すために一時間ほど経過した後、二人は甲板でしみじみと宣告見たことを語り合った。

 立ち直るのに時間が掛かったのは断末摩の悲鳴が絶えず甲板に響いたからだ。

 それがようやく静まって、いや恐怖という不安と重圧が甲板を押しつぶして沈黙を与えて思考する時間が出来たからだ。


「うふふふふ」


 対象者全員の治療を全て終えたヒラリーは、満面の笑顔を浮かべて甲板に上がり、背伸びをしている。


「やっぱり海軍は良いわ。この小さい艦だけでも沢山の患者がいる。軍医として乗艦するから経過観察も出来るし、研究が捗るわ。決めたわ。この艦に乗り込む全員を診断させて貰うわ」


 ヒラリーの宣言に全乗員が身震いをして股間を押さえた。

 カイルの視界には、これから乗艦してくるベンネビス歩兵連隊を乗せたボートが接近してくる光景が入っている。


「新しい患者達ね」


 上甲板でヒラリーが喜々とした声を上げる。彼女にとっては彼等も患者候補なのだろう。

 乗艦すれば彼等も彼女の健康診断を受けることとなる。

 逃げ場の無い艦内では再び悲鳴が轟き、医務室は地獄と化すだろう。

 性病は治るだろうが、ヒラリーの治療に何人が耐えられるだろうか。

 彼等の平穏無事を、カイルは祈った。

 治療を思いとどまるようヒラリーと話すのが嫌なので、彼等が自分の連隊である事は忘れたいカイルだった。

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