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適切な方法

 昨日メリーウェザー海佐が言ったように、洋上には複数の船舶が水平線上に現れている。そしてどの船もポーツマスに向かって航行していた。


「連中を臨検する必要がある。さあ、気持ちを切り替えて臨検に向かうよ」


 メリーウェザー海佐が命じるとアストリアは進路を変えて接近してくる船に向かって行く。

 そのうち二隻はポーツマスの住人向けの小麦や米を積んでおり、もう一隻はリバリタニア軍向けの武器弾薬を積んでいた。当然、これらの船は捕獲され、チャールズタウンへ向かって回航された。


「今日はよく働いたね。明日もこの調子で行けると良いな」


 その後数日間で多数の船舶を臨検し、一部は回航させた。今日も一隻を捕獲出来たことでメリーウェザー海佐は満足していた。


「また逃がしたくせに」


 しかしレナは不満だった。この数日で五隻を臨検したが、そのうち二隻メリーウェザー海佐が解放してしまい、サムナーのようにポーツマスへ逃げられた。


「仕方ないよ。どの船も禁制品は積んでいなかった。積んでいればそのまま捕獲して回航できるけど、確認できなきゃ解放するしかない。その後逃げられたら手の出しようがない」


「そうね。でも積み荷がワインやチーズとか家具ってどういう事なのよ」


 全ての船へ臨検に赴いたレナが首を傾げる。

 メリーウェザー海佐が解放してポーツマスへ逃げ込んだいずれの船も積み荷は高級品だ。特にエウロパ諸国で作られた製品が多い。食料は最小限。あっても高級品ばかりだ。


「どういう事かしら」


「ポーツマスより多数の船舶が出てきました!」


 マストの見張員が大声で報告する。

 確かに見えるだけでも五隻のスクーナーがポーツマスから出てくる。

 中には先日逃げ込んだスクーナーも含まれている。


「拿捕するぞ。全艦配置に付け! 艦首砲用意! 針路南南西!」


 メリーウェザー海佐が命令すると直ぐさま乗員が配置に付く。

 風は相変わらずの西風。アストリアはメリーウェザー艦長の命令でポーツマスより北側の海域を哨戒している。

 アストリアは針路を南南西に取ってスクーナーに向かってゆく。そして手近な一隻の船尾に接近したところで命令する。


「ハード・ポート!」


 アストリアは左に針路を変えて接近する。

 順風ならば横帆船のアストリアは縦帆船のスクーナーより速い。しかも荷物を積み込んでいるのかスクーナーの動きは鈍かった。


「当てるなよ。艦首砲撃て!」


 予め艦首に用意してあった大砲を放ちスクーナーの前に落とす。小型砲だが、大きめの水柱が立ち、スクーナーは停船した。


「よし、もう一隻近くにいるな。あいつへも砲撃しろ」


 止まった一隻に目もくれず、メリーウェザー海佐は砲撃を続ける。そしてもう一隻のスクーナーも停船した。


「よし、回航要員を用意。ミスタ・クロフォード、ミス・タウンゼント、君らにはあの船を回航して貰う。臨検拿捕しチャールズタウンへ。急げよ。我々は他の船を捕まえなくてはならない」


「アイアイ・サー! お世話になりました」


「いや、会えて良かったよ。また会いたいね。では何時か何処かで」


 それだけ言うと、メリーウェザー海佐は二人を回航要員の下士官兵一〇名ほどと共にボートに乗せて海に放つ。カイル達を送り出した後はアストリアを率いてポーツマスから出てきた他のスクーナーを追いかけていった。


「さて、回航用意だ。二つの船を掌握して向かうとしよう」


 カイルは二隻の状況を確認して、どちらがどの船を回航するか決めていった。


「へへへ、これはどうも御二方」


 カイルとレナを迎え入れたのはサムナーだった。先日メリーウェザー海佐の判断で解放して直後にポーツマスに入った者である。サムナーの顔を見て、レナは怒りで顔を真っ赤に染め上げる


「あなた目的地を偽って入港したわね」


「いや、とんでもない。風向きが悪くて入港せざるを得ませんでした。そこで連中に脅されて商品を奪われ、協力するように言われたのでございます」


「独立派への協力は最悪死罪よ。このままマストに吊されたいの?」


「落ち着いてレナ。積み荷の確認を確認させて貰うよ」


「へへ、どうぞ」


 揉み手でサムナーは船倉にカイル達を案内した。中にはポーツマス周辺で生産された大量の綿糸が積み込まれていた。


「北部の工場で生産された綿糸だね。リバリタニアの商品だ」


「リバリタニアに協力していたの?」


「とんでもない! 運び出さなければ殺すと脅されたのです。なので仕方なく船倉に受け容れたのでございます」


「本当に?」


「落ち着いてレナ」


 下手に出て誤魔化そうとするサムナーに、レナはサーベルを引き抜こうとした。それをカイルは慌てて止めに入る。


「サムナー船長、これらの積み荷はリバリタニアから持ち出されたリバリタニアの商品だ。反政府組織の違法な商品として没収する。この船はチャールズタウンへ回航し、君の身柄は海事裁判所に預ける。いいね」


「はい、お裁きに従います」


 カイルの命令にサムナーは恭しく従った。


「いいの? カイル」


「これ以上の事は出来ないよ」


 拿捕して回航して、海事裁判所へ送り込む以外にカイル達は何も出来ない。


「でも初めからポーツマスに入港する気満々だったじゃないの。メリーウェザー海佐は逃がしちゃったけど。本当に間抜けね」


「……メリーウェザー海佐は初めから分かっていてやったんだよ」


「どういう事?」


 声を小さくしたカイルはレナに説明を始めた。


「最初からポーツマス向けの荷物を積んでいることをメリーウェザー海佐は知っていたんだ」


「リバリタニア軍が使うために?」


「いや、ポーツマス周辺の住民、富裕層相手の品々、高級品だよ。庶民が買える訳ないよ。月収か年収に匹敵するんだから。リバリタニア軍でも高級将校くらいしか買わない。そして戦闘には役に立たない」


「じゃあ、何のために?」


「商売のためだよ。いまポーツマスは海上封鎖で品薄だ。特に海外の高級品や嗜好品は貴重で何倍もの値段に高騰している。そこに商品を持ち込めば暴利をむさぼれる。しかも値段の高い高級品だから余計に利幅が大きい。利益だけで船と商品の購入費を含めた総経費の四~五倍くらいじゃないかな」


「それでメリーウェザー海佐は通したの? あ、あのワインとブランデーは賄賂という事?」


「結果的に見ればね」


「結局、自分の懐を暖める為だけに入港を許したの」


「で、誰が損をしている?」


「海上封鎖を無意味にしているから我が帝国でしょう」


「いや、リバリタニアの方が苦しくなっている」


「どうして?」


「ポーツマス、いやリバリタニア支配下の富裕層の資産が高級品や消耗品に化けたんだ。その資産をリバリタニア軍の武器弾薬や食料に変えられていたら帝国軍は苦戦するよ。それを阻止したんだ。いくらリバリタニア軍支配下でも富裕層とはいえ住民の財産を没収することは出来ないよ。ニューアルビオンの住民のために独立を勝ち取る、住民を守るという大義名分に反するからね。だから自発的に資産を供出して貰うしかないんだけど、その資産が高級品に変わってしまった。家具やワインでは銃ほど人を殺せないからね」


「この事を分かっていて通したの」


「多分ね。それとリバリタニア、ニューアルビオン北部は工業、特に綿糸の輸出で外貨を稼いでいる。だけど決済のために綿糸を海外に送り届ける必要がある。海上封鎖されているから封鎖突破船で運び出すしかないけど、僕たちが捕らえたから没収される。サムナーを入港させたことでポーツマスに備蓄されていた綿糸が積み出されて、こうして僕たちが没収することが出来る訳だ」


「つまり、わざと入港させて、出てきたところを捕らえた方がリバリタニア軍は何倍も苦しむという事?」


「そういうこと」


 サムナーも裁判所に引き渡すが、脅迫されたと主張して恐らく罰金刑と船の没収程度で済むはずだ。それも稼いだ金額の四分の一程度。差し引いても、かなりの額の純利益が残るはず。それを元手に新たに船と商品を購入して再びリバリタニアへ向かうだろう。


「……なんか釈然としないわ」


「僕もだよ。でも、回航は命令だからね。もう一隻の方の指揮は頼むよ。僕の後に付いてくることぐらいは出来るだろう」


「甘く見ないで」




 数日後、カイル達はチャールズタウンへ船を回航させ、当局に引き渡した。

 手続きを終えた後、カイルはサクリング提督の元へ出頭した。


「只今戻りました」


「ご苦労。どうだった」


「非常に為になりました。ポーツマスはメリーウェザー海佐に任せれば大丈夫でしょう」


「そうか。だが、含むところがあるようだね」


「いや」


「正直に話せ」


 サクリング提督の断固とした口調に、カイルは仕方なく口を開き内心を開示した。


「……個人感情なのですが気に入りません。メリーウェザー海佐のやり方は確かにリバリタニアへ最大の打撃を与えられるでしょう。しかし、私は好きになれません」


 故意に密輸船を入港させておき、リバリタニアから出てきたところを捕らえる。

 幾度も繰り返せば、リバリタニアの経済は崩壊するだろう。同時に貧困者が増える事になる。


「私は海上で船を操り、敵艦と駆け引きをする方が好きです。メリーウェザー海佐の方法は現在最上の方法でしょう。自分の懐も温かくなりますが、積極的にやりたいと思いません。帝国の為ならメリーウェザー海佐の真似をするべきですが、私はしたいと思いません。病気なのでしょうかね」


「そうだ。病気だ」


 真っ直ぐなカイルの言葉をサクリングは肯定した。


「自己満足という名の病気だ。帝国の利益より自己の満足を求め、採算面で最善と思いながらも感性で否定する。病気と言って良い。私も君もな」


 サクリング提督の告白にカイルは目を丸くしたが、やがて合点した。

 今回は様々な方法がある事をカイルに教えるためにサクリング提督は派遣したのだ。


「メリーウェザーとは候補生時代からの付き合いだ。何事にも要領が良くてな。昇進も早い方だった。だがあいつは艦長職に留まっている。その方が稼げるからな。だが、真似などしたくない。だが同時にメリーウェザーの生き方も否定は出来ない。小汚いやり方だが、メリーウェザーは帝国へ不利益をもたらすような行為はしていない。私は気に入らないが、止めることは出来ない。価値観というのは多種多様だし、帝国に尽くすにしても方法は一つではない。人それぞれだ。メリーウェザーにはメリーウェザーのやり方があるし、私には渡しのやり方がある」


 一度言葉を切るとサクリング提督はカイルに尋ねた。


「で、どうする? もうすぐ艤装が終わるユニティの出撃先だが、稼ぎの良いポーツマスと敵の本拠地ホームズのどちらが希望だ? 因みにホームズの封鎖部隊はクリフォード海佐が指揮を執っている」


「ホームズで。そこで戦闘を行っていた方がマシです」


「君の病気も相当に重傷なようだな。宜しい、ではホームズへ行き給え。それと病気だが一生ものだ。一生付き合っていくことを覚悟しろ」


「アイアイ・サー」


「それと一つ悪い知らせが本国より入っている」


「何でしょうか?」


「ガリアがリバリタニアを正式に独立国として承認した。ホームズでの勝利とポーツマスの陥落でリバリタニアは国として認める価値があると判断したようだ」


 アルビオンのライバル国であるガリアがリバリタニアを承認したという事は、やがて反アルビオン陣営もリバリタニアを承認する方向へ足並みを揃えることは確実だ。


「……本国の対応は?」


「承認したガリアに対して即時開戦すべし、という声もあったが何とか抑え、遺憾であるとの表明に留まった」


 そのことを聞いてカイルはホッとする。今は内戦状態である。この上、ガリアと戦っている余裕など無い。


「他国はどうですか」


「今のところは静観の構えだ。だが、リバリタニアに対して好意的な中立を行うだろう」


 つまり、中立を維持するがリバリタニアの船に便宜を図ったり、金を貸したり、物資の援助、武器の提供などを行うだろうということだ。戦時禁制品を運び込むのは禁止されているが現行犯で逮捕しないと証明できない。これまで以上に海上封鎖に力を入れないとリバリタニアが優勢となる。


「しかし、ガリアが介入してくるでしょうね」


「ああ、本国からの情報では出兵の動きがある。散々ガリア国内の共和派を弾圧しておきながらリバリタニアに協力するとはご都合主義にも程がある」


 共和主義運動はエウロパ諸国において盛んだった。だが王政を維持しようとする各国は体制転覆を行いかねない共和派を弾圧していた。

 ガリアも例外ではなく、ガリア国内の共和主義者を弾圧している。

 しかし諸外国、特にアルビオンを弱体化させるためにガリア王国はアルビオン国内の共和派に援助を行っていた。


「ガリアの二枚舌の連中には十分注意を払ってくれ給え。以上だ。ホームズへ行き給え」


「アイアイ・サー」

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