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ホームズの戦い 後編

 隠れていたリバリタニア軍砲兵によってアルビオン軍中央主力は壊滅。リバリタニア軍の民兵が前進してきている。

 リバリタニア軍左右両翼も反撃を開始してアルビオン軍を包囲しようとしていた。

 突然の逆転にタウンゼント将軍は呆然となった。


「将軍」


 カイルに呼びかけられて、タウンゼント将軍は我に返り、命令を下した。


「退却せよ!」


 砲兵隊が壊滅状態となったのでは最早勝機は無い。

 全軍直ちに反転、退却するようタウンゼント将軍は命令した。

 多くの連隊は後退を開始するが、敵前で撤退するのは危険だ。

 退却時は敵に後ろを見せるため碌に抵抗も出来ず、一方的に攻撃されるため、被害が大きい。実際、損害の大半は会戦中盤の撃ち合いではなく追撃戦の最中に起きるものだ。

 このままでは全軍が危険だとタウンゼントは考えた。


「ベンネビス歩兵連隊とランツクネヒト第二連隊は前進し、味方の退却を援護せよ」


 タウンゼント将軍は命令した。事実上の捨て駒である。

 しかし、二つの連隊は今まで戦闘に参加していないため、疲れておらず弾薬も豊富。この条件なら指揮系統を維持し持ちこたえることは可能だ。

 命令を受けて両連隊は前進してリバリタニア軍の追撃を抑え、タウンゼント将軍自らは後退を始める。

 民兵達は組織的な戦闘、追撃戦を経験したことがないため、両連隊が作る方陣が突き出す銃剣を前に攻めあぐねていた。

 しかし、そこへリバリタニア軍の砲撃が襲いかかる。

 リバリタニア軍自らの砲兵陣地のみならず、今回の戦いでアルビオン軍砲兵隊から奪った大砲も使って撃ってきている。

 大砲の構造は単純で操作も簡単。戦闘中に鹵獲し向きを変えて、そのまま敵軍を攻撃するのは良くあることだ。

 大砲は威力を発揮してアルビオン軍の方陣を崩そうとする。


「悪魔共! 舐めるな!」


 そう叫んで奮戦したのはベンネビス歩兵連隊第二大隊のグレシャム男爵だ。

 彼は自ら先頭に立ち、元民兵である配下の兵士を前進散開させ、リバリタニア軍へ狙撃を行わせた。

 男爵は従者五人を率いて前進すると地面に仰向けになって倒れ、足を伸ばし、右足のつま先に左足を載せると左足のつま先にライフル銃のスリングを掛けて固定する。

 そして砲手に狙いを定めると引き金を引く。

 発射された銃弾は寸分違わず砲手を撃ち殺した。


「次!」


 既に撃ったライフルを従者に渡し、装填済みのライフルを受け取ると再びスリングを左足に掛けて同じ構えをして狙撃する。

 その間に従者達はライフルに弾を装填して、準備の終わったライフル銃を男爵に渡した。

 日頃から銃の腕を磨いている男爵の狙撃の腕はチャールズタウン周辺でも一位二位を争う腕であり、数百メートル先の獲物を捕らえることが出来る。

 ライフル故に装填には時間が掛かるが、従者に装填させることで弱点を補う。

 リバリタニア軍は遮蔽物のない平原に出てきたところで、男爵の素早い狙撃と第二大隊の散兵により次々と撃ち殺されていった。

 アルビオン軍から突然受けた狙撃にリバリタニア軍は驚き、進軍を停止してしまった。

 その間にベンネビス歩兵連隊とランツクネヒト第二連隊は後退し、無事に戦場を脱出する事が出来た。


「大隊長! 退却しろ!」


「悪魔に背を向けられるか!」


 副連隊長であるキースの命令を大隊長のグレシャム男爵が難色を示す。


「ここで一〇匹の悪魔を殺して死ぬより、後で一〇〇匹の悪魔を殺せるほうが良いだろう」


「……ふん。撤退だ!」


 キースの言葉はかなり過激な言葉だったが、その言葉に男爵は従い、部下に撤退を命じる。

 第二大隊は広範囲に散開していたため連絡に時間は掛かったが、その分、リバリタニア軍の追撃も遅らせる事が出来た。

 そしてリバリタニア軍が追撃しようと部隊を纏めたところへ、ベンネビス歩兵連隊第一大隊、本来の主力が戦列を構築して待ち構えていた。


「撃て!」


 追撃の為、少数で突出してきたリバリタニア軍の鼻先に横隊の一斉射撃が放たれた。

 出鼻を挫かれたリバリタニア軍は、追撃の足を緩めその間にキースは連隊を撤退させた。


「やっぱりキース兄ちゃんは凄いな」


 カイルはその様子を見て感心していた。自身が連隊長ではあるが、自分ではあんな指揮は出来ないと思っている。


「あの人結構やるのね」


 レナもキースの指揮には感心していた。父親のスティーブンに叩きのめされるキースの姿を見た時は頼りない男と思っていた。だが、馬に跨がり兵士を鼓舞する姿は、英雄そのものであり、レナはキースを見直した。


「いっそキース兄ちゃんと一緒に軍務をする?」


「それは辞退するわ。それより、腑抜けた将軍を連れて浜辺に向かうわよ」


「酷い言い様だね」


 そんなやりとりがレナとカイルの間で出来るくらいの余裕が生まれたアルビオン軍ホームズ方面軍は退却を開始したが、やがて足が止まっていく。

 民兵の襲撃が活発化したためだ。

 退却中の小部隊への狙撃が行われている。その場所の民兵を撃破しても、暫くすればまた出てくるし被害も大きくなる。

 しかも徐々に民兵の数は増えていく。


「畜生。連中は何処から集まってくるんだ」


「ミニットマンですからね」


 苛立つタウンゼント将軍をカイルは宥めた。

 植民地の民兵は原住民に突然襲われる事が多いため、合図があり次第、一分以内に装備を持って集合することになっている。ミニット――、一分で全員が装備を整えて集合、整列するため、ミニットマンと呼ばれる所以だ。

 元々制服はなく、普段から動きやすい服装をしている上に必要な装備は銃と弾薬嚢のみ。それを家から持ち出して集まるだけで済むので短時間で動員が可能だ。

 そのため集合だけは早く、戦局が劣勢となったアルビオン軍めがけて、それまで様子見していた連中が続々と集まってきている。


「このままではチャールズタウンへの撤退は不可能だ」


 民兵の増大にタウンゼント将軍は焦る。


「将軍! あそこに味方の船団がいます!」


 海を監視していたカイルが叫んだ。

 補給の為に要請していた後続の輸送船団だ。


「あれに収容して貰って退却しましょう」


「……そうだな。総員! 脱出する!」


 戦局が不利であり、多数の物資を奪われ、大砲を失った今では作戦の遂行は不可能だ。

 タウンゼント将軍はその現実を認めて素早く味方の脱出へ切り替えた。

 部下達に最小限の装備だけで乗船させると直ぐさま脱出し、チャールズタウンへ帰って行った。

 脱出中の部隊を襲撃しようとリバリタニア軍は襲いかかったが、キースとグレシャム男爵の部隊が阻止したために、脱出地点へ攻撃が出来なかった。また大砲を引っ張る能力が無かったために輸送船を砲撃することは出来なかった。


「とりあえず、脱出する事は出来たか」


 乗り込んだ船の上でタウンゼント将軍は憔悴した顔で呟く。だが、直ぐに立ち上がりカイルに顔を向けた。


「済まなかったクロフォード海尉。君の連隊には助けられた。是非指揮官にお礼を言いたい」


「え?」


 カイルは顔を引き攣らせた。


「判りました。グレシャム大隊長を連れてきます」


「いや、キース副連隊長にも伝えたい。彼のお陰でもある」


「しかし、キース副連隊長は今自室に」


 船に乗船した後、カイルは直ぐさま船長に会い、キース専用の部屋を作るように依頼した。そんなスペースは無いと断られても執拗に求め、何とか布で仕切ったスペースを作って貰い、キースをそこに投げ込んだ。


「負傷したのか」


「まあ、そんなところでしょうか。兎に角、お会いできない訳で」


「負傷したのなら尚更お見舞いに行かなければ」


「お、お待ちを」


 カイルが止める間もなく、タウンゼント将軍は布で仕切られたキースの部屋に入る。


「おええええええっっっっっ」


 そこでは桶を抱えたキースが今朝の朝食だったものと対面していた。全て出し終えていたが、それでも嘔吐は止まらず、なおも胃液を吐き出し続けていた。


「……どうしたのかね?」


「……キース兄ちゃん、いや、副連隊長は、その、船に弱くて」


 キースの弱点は船酔いだった。何故か船に乗ると船酔いを起こして動けなくなる。父親が海軍出身なのにどうしてこうなったかは不明。兎に角、海に出ると酔う。

 そのためカイルのボート遊びにも付き合っていなかった。


「海軍から放り出されたのも船酔いのせい?」


「そうだよ」


 レナの問いかけにカイルは悲しそうに答えた。

 父親であるスティーブンの意向もあり、キースは無理矢理入隊させられた。だが初日から船酔いを起こし、止むことなく吐き続けて艦上作業が出来ず、一月後には衰弱しきり船を下ろさざるを得なかった。

 その後は、カイルの父親であるケネスの勧めもあって、療養の後、連隊に士官候補生として入隊。以後、通常以上の昇進を果たして今に至る。

 身体が成長したせいか多少は耐性がついているが船酔いは未だに克服出来ていない。


「新大陸に来るまでの間は大変だったようだしね」


 船に揺られて新大陸に来るまでの一ヶ月はキースにとっても大変な事だっただろう。

 衰弱した身体を回復するために上陸して数日は療養する必要があった程だ。グレシャム男爵の元を訪れたときも完全には回復しておらず、顔が蒼いままだった。

 もう少し調子が戻っていればより強くカイルを諫めていただろう。

 だが、陸に上がって復調すれば有能で勇猛な陸軍士官となる。


「まあ、この後は暫く戦争は無いだろうし、再編成に掛かりきりになるだろうし、療養する時間はあるよ」


 船酔いで苦しむキースを手当てしながらカイルはしみじみと語る。 

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