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勝利の前祝い

 開闢歴二五九四年七月二四日 ホームズ近郊


「諸君、今日まで良く戦ってくれた。ここに感謝の宴を設けたい」


 レナの父親でありホームズ方面軍総司令官でもあるタウンゼント将軍が自ら開催した宴の席で参加者に感謝の意を伝える。

 独立派の有力者の屋敷を接収して設けられた司令部の庭が会場で、急遽開かれたためテーブルなどが有り合わせの感が拭えない。

 だが、それでも連戦連勝の高揚感のため宴の雰囲気は明るかった。


「全くです。リバリタニアを名乗る逆賊共は、口だけですな」


 タウンゼント将軍の言葉にダヴィントンが追従する。


「逆徒共にはしかるべき罰を与えなければ」


「しかし、やり過ぎでは? 先日の戦いは酷いのでは? 降伏した敵に向かって横隊突撃を加えるなんて。それに民衆の家から略奪行為を働くのは人々に不安を与えます」


 出席していたカイルが懸念を示した。

 海軍の連絡将校として従軍しており、補給の調整などを行っている。

 迅速に軍が進撃できるのは、沿岸部を進撃することで、海軍からの物資補給があるからだ。進軍に合わせて何時補給船を何処の港に送るかを知らせるのがカイルの仕事だが、進軍のスピードと予測を元に補給船を手配するのは難しい。それを遅滞なく行えるのはカイルの能力が高いからだ。

 同時に陸軍がどのような作戦行動を行っているのか解ってしまう。

 後退する敵を追撃するのはまだ良い。だが各地の独立派住民の家屋や財産を刑罰と称して、没収、略奪を行うのは良くない。降伏したり負傷して捕まえた民兵を殺害することもあり、酷い行動を続けている。

 この事はリバリタニア政府がアルビオンの蛮行として派手に宣伝している。


「逆徒共に与える慈悲はない。それに彼等は犯罪者だ。直ちに処罰しなければならない」


 しかしダヴィントンは悪びれることなくカイルに答える。


「私は何ら法律に違反していない。問題は無い」


 ダヴィントンの言葉にカイルは反論できなかった。

 むやみやたらに殺してはならない、捕虜の扱いは丁寧に、と国際法では定められている。

 しかし、内戦および国内の刑罰に関しては国家主権の範疇であり、外国から干渉を受けるような事ではない。

 そのため、国内法の範囲でなら没収も略奪も、生命を処分することさえも許される。

 戒厳令状態にあるニューアルビオン、特にホームズ周辺ではこうした行為が許されていた。


「それに私は必要な処置も行っている。部隊から物資を供出して配給するなど民心の安定も行っている」


「それは認めます」


 カイルが表立ってダヴィントンを非難することが出来ない理由は、民心安定工作を行っているためである。主に皇帝派の困っている人にへの食糧配給、街道の復旧などを行っている。これらの行為によって皇帝派へなびく住人が増えているのも事実だ。

 因みにこの活動は、アルビオン陸軍が大いに宣伝している。

 そのためダヴィントンへの後世の評価は真っ二つに分かれることになる。


「それより重大なのは植民地兵の連中では? 特にベンネビス連隊がニューアルビオンで雇った植民地兵が勝手な行動を取っていると聞くが」


「……彼等には注意しています」


 ベンネビス連隊連隊長でもあるカイルが小さな声で答えた。

 グレシャム男爵の部隊は地元民のため情報通であり、誰がどのような言動をしていたかを知っている。

 顔が広いため、チャールズタウンを離れた土地にも知人がいて、誰が皇帝派で、誰が独立派か判る。

 そして独立派に対しては家屋に直接押し入って捜索を行っている。特に共和主義者は目の敵にしており、財産を押収したり、焼き討ちするなどの行為を取っている。

 その行為は中立派の住民をも震え上がらせており、カイルも憂慮ししていた。


「野蛮な行動は慎むように伝えており、これを抑えています」


 カイルはダヴィントンに言いつつ、先日の事件を思い出していた。

 先日も男爵はリバリタニアに協力した住民を自身の判断で勝手に捕らえて裁判を行い、殺そうとしているところをカイルは目撃した。

 勿論カイルも、見ているだけではない。身を挺して魔王と化したグレシャム男爵の前に立ち、彼を押しとどめた。


「過度な捜索を行う必要はありません」


「共和派と手を組むのは悪魔と手を組んだ背教者と同じだ! 死を持って償うべきだ!」


「男爵! 共和派の悪魔と同じ事をしてはいけません。共和派と貴方は違います。せめて共和主義者のみに限定して下さい。関係の無い人々まで不幸にしては奥様も喜ばないでしょう。共和派と同じ行蛮行をして、同じ悪魔に堕ちることはありません」


「……その通りだな」


 虐殺や不法行為を行っては共和主義者と同類に成り下がるとカイルが説得したことで、グレシャム男爵はようやく大人しくなった。

 グレシャム男爵による共和主義者への弾圧は続いているが、リバリタニアへの協力者や中立派への攻撃は収まった。

 今こうして宴に出ている間にも、男爵が勝手な行動を行わないかカイルは内心心配だった。


「ふむ。まあ、良い傾向かな。不法に財産を没収するのでは独立派の犯罪者共とやっていることが同じだ」


 肩を竦めてダヴィントンが答える。

 もっとも独立派もリバリタニアへの敵対行為として皇帝派の人間を迫害していた。主に皇帝派を民兵から追放しと、財産を没収した。

 特に財産の没収は念入りで、皇帝派とみなされた人物の農場や造船所、そして工場を接収。リバリタニアの国有財産とした。

 さらに正規軍の将兵に対して脱走しては、リバイタニア軍に合流すれば戦後に二エーカーの農場を支給すると公約している。

 勿論、支給する農場は皇帝派から没収した土地である。

 このような蛮行が行われており、独立派の支持も高いとは言えなかった。


「それはともかく、このままホームズへの攻撃は危険だと考えますが」


 カイルは話を戻して議論を続ける。


「なに、ここで怖じ気づいたのか?」


 カイルの消極的な発言に、タウンゼント将軍は眉をしかめた。


「有能で勇猛果敢な海軍士官と聞いているが」


「他人の噂は知りません。しかし、現実に兵力が減少している状況で攻撃するのは無謀ではないかと」


 順調な進撃を続けてきたが、それは同時に制圧地の増加を意味する。

 治安維持と連絡線確保を目的に主力から分遣隊を編成して制圧地に派遣しており、兵力は少しずつ減っていた。

 勿論小規模な戦闘も何度かあり、その度に損害が積み重なっている事も響いている。

 今この周辺にいる主力はチャールズタウン出発時の半分程度だ。


「さらに包囲されているポーツマスへの援軍が派遣されましたが、我々への援軍がありません」


 独立派の多い地域にある港湾都市ポーツマスは帝国にとって重要な港だ。

 ここはリバリタニア独立宣言以降、多数の民兵が集結し、包囲されていた。

 ポーツマスを救うべく多数の部隊が海路で輸送されており、ホームズ方面軍への増援が減っていた。

 しかし、タウンゼント将軍は楽観的だった


「なに。敵は壊滅寸前だし、弱い。民兵は離脱し、リバリタニア正規軍を称する部隊からの脱走兵も増えている」


「正確には任期満了者です」


 リバリタニアは帝国から独立したため、自分たちの政府でありながら権力を制限するような反体制的な政策と法律を施行している。

 その一つが正規軍の任期だ。

 一ヶ月から三ヶ月ほどの短期間しか任用していない。軍が政府に代わって権力を持つことを警戒するためという理由だ。何より自由を尊ぶニューアルビオン人が長期間束縛される事を嫌っている。そのため、最初の志願者達が任期切れと共に次々と離脱している。再更新も出来るが大半が拒否している。


「自由の為に戦っているんだろう。自由に戦うさ。好きなときに入るよ」


 正規軍を離れて故郷に帰る元リバリタニア正規軍兵士を巡検部隊が見つけて事情聴取を行ったとき、彼等はこう答える。

 そのため、リバリタニア正規軍の兵力は減少していた。

 各部隊の指揮官を選挙で選んだことで、人気はあるものの、指揮能力、統率力共に不足した者が部隊を指揮するため、兵士の離脱が相次いでいる。

 しかも民兵隊をそのまま指揮下に入れている上に、自由に離脱して構わない事になっているため、民兵隊の兵力も減っている。

 そしてこれまでの負け戦の影響もあって士気は低下。

 現代日本の言葉で表現すればリバリタニアは<詰んだ>と言って差し障りのない状況だ。


「確かに敵は劣勢ですが、油断すべきではないかと」


「悲観的になる必要は無いと思うぞ。今週中にはホームズを占領して戦争は終わりだ」


「はあ」


 しかし、カイルは不安だった。

 転生前にイラク戦争があった。

 あの時は一ヶ月も経たないうちにイラク軍は壊滅した。しかし現地ではその後テロが頻発し、終戦の公式発表後十年以上経っても終わりが見えない。

 そんな泥沼の戦争に陥っているのではないかとカイルは心配していた。

 しかし、異世界の知識を伝えても理解されないだろう。


「上手く行くと良いけどな」


 カイルの心配を余所に宴は盛大に行われ、終了したのは夜半だった。

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