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独立宣言

 開闢歴二五九四年七月七日 コンコード


 我々は信じる。全ての人間は生まれながらにして平等であり、生命、自由、幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられていると。こうした権利を守るため、人々の間に政府が樹立され、政府は統治される者の合意に基づいて正当な権力を得る。

 そしていかなる形態の政府であれ、政府がこの目的に反するようになったときには、人々は政府を改造または廃止できる。そして、新たな政府を樹立し、人々の安全と幸福をもたらす可能性が最も高いと思われる形の権力を組織する権利を有すると。

 勿論、長年にわたり樹立されている政府を、軽々しい一時の理由で改造すべきではなく、耐えられる限りの弊害は慣れ親しんだ諸制度に耐えようとする傾向が人類にはある。

 しかし、権力の乱用と権利の侵害が続き、人々を絶対専制の下に置こうとする意図が明らかである時は、その政府を捨て去り、自らの将来と安全を保障する新たな組織を作ることが人民の権利であり義務である。

 これまでニューアルビオンが耐え忍んできた苦難は、まさにそうした事態であり、その必要性によって我々は行動を起こす。

 現在のアルビオン帝国の歴史は、度重なる不正と権利侵害の歴史であり、ニューアルビオンに対する絶対専制の確立を直接の目的として行われている。

 我々はこの事を例証するために、以下の事実を世界の人々に公正に判断してもらうべく提示する。


 帝国は公共の利益にとって最も有益かつ必要である法律の承認を拒否してきた。


 帝国は、おびただしい数の官職を新たに設け、我々住民を困らせ、その財産を消耗させるために多数の役人を派遣してきた。


帝国は我々の同意を得ることなく、平時においても常備軍を駐留させている。


 帝国は我々が世界各地と貿易することを遮断した。


 帝国は我々の同意無しに重税を課した。


 帝国は多くの裁判において、陪審による裁判の恩恵を奪ってきた。


 帝国は我々の海で略奪行為を行い、沿岸地域を蹂躙し、町を焼き払い、人々の命を奪った。


 帝国は我々の植民地へ付与した特許を無視し、我々の貴重な法律を廃止し、代表を侮辱した。


 帝国は我々の嘆願を聞くことなく、人々を弾圧するために軍隊を出動させ、多くの人々の命を奪った。


 帝国は我々を殺戮するために諸外国から傭兵を雇い入れて、我々の土地に放ち、略奪と虐殺行為を行った。


 帝国は我々を帝国による保護の対象外であると宣言し、我々に対して戦争を仕掛けることによって統治権を放棄した。


 こうした弾圧があっても我々は謙虚な言葉で帝国に対して是正を嘆願してきた。しかし我々の度重なる嘆願に対して、帝国は度重なる権利侵害で応えてきた。このような専制君主の定義となり得る行為を特徴とする帝国政府は、自由な人々の統治者として不適任である。

 また帝国議会も不当な権限を押し広げようと企ててきたが、彼等は正義の声と血縁の訴えに耳を貸そうとしていない。

 従って我々は独立を宣言する必要がある。帝国に対しては、他の全ての人々と同様、戦時においては敵、平和時においては友とみなさざるを得ない。

 従って植民地から諸州となったリバリタニア構成州は連合会議に参集し、我々の意図が公正である事を世界の審判者に対して訴え、宣言する。

 すなわち、これらの連合した州は自由な独立した国家であり、当然の権利を持つ。

 これらの諸州はアルビオン帝国に対する義務から完全に解放され、全ての関係は解消され、また解消されるべきである。

 そして自由で独立した国家として、戦争を始め、講和を締結し、同盟を結び、通商を確立し、その他独立国家が当然の権利として実施できる権限を有すると。

 以上を以て我々はリバリタニアの建国を宣言する。

 そして我々はこの宣言を支持するために、我々の生命、財産、及び神聖な名誉をかけて相互に誓う。




「馬鹿馬鹿しい」


 近衛騎兵第一連隊のダヴィントン中隊長は、コンコードの議会議事堂で宣言文を読み上げた後、吐き捨て、宣言文を放り投げた。

 今、議場はリバリタニアの旗に代わって、アルビオン帝国の旗を掲げる作業が行われている。

 三日前の七月四日にサミュエル・リビアによって独立宣言がこの議場で読み上げられ、全会一致で採択された。

 当日、議場にはリバリタニアの国旗が掲げられ、これを全員が拍手で歓迎。続いて、外に待機していた独立派民兵改めリバリタニア軍二万にも採択されたばかりの独立宣言を読み上げて周知させた。独立宣言は兵士達の歓声を以て迎えられた。

 直後、リバリタニア軍はその足でコンコードの町を行進し、町の外に出ると、そのまま帝国軍との戦闘に入った。

 しかし、リバリタニア軍は待ち受けていた帝国軍本隊に迎撃された。

 平野での戦闘の訓練を受けていたアルビオン帝国陸軍は、密集した横隊を展開しており、正面から散開して接近してきたリバリタニア軍を銃撃。編成されたばかりのリバリタニア軍を圧倒した。

 陣形が崩れたところへ突撃して制圧し、帝国軍が勝利した。

 帝国軍はそのまま追撃戦に移り、コンコード町へ突入、これを占領した。

 出来たばかりのリバリタニア政府はコンコードを放棄し、近隣の村へ逃げ延びた。


「身の程知らずにも程がある」


「しかし、バンカーの戦いでは我々は苦戦しましたよ」


 ダヴィントンの憤慨ぶりを見ていたカイルがたしなめる。

 今は海軍の連絡将校として従軍している。海尉であるカイルより、階級はダヴィントンの方が上だ。それでも敵を見下す態度には苦言を呈さざるを得なかった。


「だが、先日の戦いでは勝ったぞ」


 港町バンカー近郊で行われた戦いに事実上敗北した後、独立派を叩きつぶすために帝国軍はニューアルビオン各地から部隊を集結させた。

 急遽、再編成中のランツクネヒト第二連隊も武器を渡し、戦闘部隊としての形を整えて参加させた。

 海軍も兵員と武器を動員して丘に多数の陣地を設け、リバリタニア軍の攻撃に備えた。

 対するリバリタニア合衆国軍は近隣の民兵を集合させて、数だけは二万人近くにまで膨れあがっていた。

 しかし、リバリタニアが各州の独立を尊重したため統一した指揮系統はなく、部隊は集団としての秩序も纏まりも欠いていた。これを何とか整列させ、リバニタニア軍は進軍を開始した。

 だが大規模戦闘に関してはエウロパ大陸各地で戦ったタウンゼント将軍の方が経験が豊富にあり、傘下の連隊も慣れていた。

 不揃いで前進してくるリバリタニア軍民兵に一斉射撃を浴びせると、先日まで民兵だった彼等の陣形はあっけなく崩れ去って潰走。後方にいた後詰めの正規軍を巻き込んで混乱させる始末だ。

 最後にダヴィントン率いる騎兵連隊が側面攻撃を行い、全体が崩壊。

 勝負は一時間ほどで決まり、リバリタニア軍は敗走。

 帝国軍はコンコードの町を占領した。

 合衆国の首脳は帝国軍が来る前にホームズへ向けて脱出した。

 そして、リバリタニア軍が整列していた議事堂前を帝国軍は三列縦隊で行進し、議事堂は帝国軍の司令部として接収されようとしていた。


「結局の所、彼等は烏合の衆だ。帝国軍に敵うとでも?」


「現状は確かにそうですが。集まった数が恐ろしいほどです」


「数はあっても軍隊とは言えない。階級さえ無いではないか。連中は階級は封建的だと言って階級を廃止している。そのせいで指揮系統が分断されてしまったではないか」


「それは認めます。彼等は選挙で隊長を決めただけでした。そして継承序列を決めなかったために、指揮官が倒れると誰の指揮に従うべきかも判らず混乱して敗走しました」


 革命的な思想の元に創設された軍隊は階級が差別だと主張し階級を廃止することがある。しかし、リバリタニア軍のように指揮官が戦死するなどして不在となった時、混乱して敗走することが多く、後に階級制度を復活する事となる。


「ですが、人々、特に北部の住民の支持を得ているリバリタニア政府は脅威です」


「直ぐに追い散らしてやる。それより、逃げたリバリタニア軍という集団を追いかけてホームズに向かう。物資の補給に関しては頼むぞ」


「司令部に戻り、報告して手はずを整えます」


 カイルはそれだけ言うと議事堂を後にした。

 コンコードを制圧した後、タウンゼント将軍は直ぐさま追撃命令を出して、ホームズに逃げ込むリバリタニア軍の追撃に入った。

 海軍に求められている事は、沿岸部を制圧し、追撃部隊へ物資を補給することだ。

 カイルが来た用件はそのための打ち合わせだった。


「無事に済むと良いけど」


 嫌な予感がしたカイルは一人呟いた。




「本当に勝てるの?」


 フリゲート艦ヴェスタルの艦長室で、マリーは水夫に変装したリードに話しかけた。

 独立宣言の後、偽の書類を使って戦闘前にチャールズタウンへ商人として潜り込み、さらに酒場でガリア水兵に変装してヴェスタルに潜り込んでいた。

 勿論、ガリアの手引きがあったのは当然だ。


「我々は帝国軍と対等に戦いました」


「でも結局負けたわよね。二回も。バンカーで、そして先日は独立を宣言したコンコードで。しかもコンコードは独立宣言を行った町。事実上の首都でしょ。それを奪われるとはお粗末ね」


 マリーは容赦なくリードを問い詰める。孫娘のような歳の少女に言われた事に感じた怒りをリードは抑え、堂々と反論する。


「しかし独立を求めるのはニューアルビオン、リバニタニア合衆国の悲願です。その意志に賛同する人々が集まっています。現に二万もの人々が銃を取って戦いに参加しました」


「それで負けるのは無能では無くて?」


「確かに我々には大軍を指揮する能力も技術も金もありません。しかし、それらが揃えば必ずや勝てると信じています」


「だから私たちガリアに出せと?」


「はい。資金援助と軍事顧問団の派遣を求めます」


「攻め滅ぼされかねない弱小な独立勢力を支援して何の意味があるの? ドブに金を捨てるようなものよ」


「ガリアは本気でそう思っているのですか?」


「当たり前でしょ」


「違うでしょう」


「どうして?」


「アルビオンの植民地で内戦が起きればアルビオンは鎮圧に掛かり切りとなる。先の戦争で勝利したアルビオンは強大になり過ぎた。ここで力を削いでおきたいというのがガリアをはじめとするエウロパ諸国の悲願です。そのために我々に援助を惜しまないはず」


 痛いところを突かれてマリーは顔をしかめた。


「買いかぶりじゃないの?」


「では、指を咥えて見ていますか? アルビオンの力を削ぐための絶好の機会を失うのを」


 リードに指摘された通り、アルビオンは強大になり過ぎている。それを抑えようとエウロパ諸国と同盟を結んでいる。だが、足並みを揃えるにはまだ時間が必要だ。そのための時間稼ぎとアルビオンの弱体化、その象徴としてリバリタニアは使えるとガリアは判断していた。

 だからこそマリーが送られてきたのだ。


「……解ったわ。負けよ。貴方方に武器弾薬、資金の援助を行います。待機していた商船にホームズへ向かうように命令します。それとアルビオン海軍を襲撃するための艦を出すわ」


「ガリアの助力に感謝いたします」


「それと貴方は今度出港する通報艦に乗ってガリア本国に向かって貰います。ニューアルビオンいえ、リバニタニア合衆国と同盟を結ぶかどうかに関して私には権限がありません。御父様、いえ国王陛下に訴える事ね」


「ご厚意に感謝いたします」


 リードは深々とマリーに頭を下げた。


「ガリアの支援と助力があれば我々の士気も上がるでしょう」


「勘違いしないで。私たちは戦闘を起こさないわ。アルビオンと戦闘を行っても利益がないから、私の艦もガリア海軍も動かない」


「ではどうやって動くのですか」


「海には無法者がいますから。奴らに襲われたとしても不思議ではないでしょう」

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