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バンカーの戦い

 開闢歴二五九四年六月一五日 チャールズタウン対岸の港町バンカー


「ベンネビス歩兵連隊。到着いたしました」


 夕方近くになってキース率いるベンネビス連隊はコンコード近くの港町バンカーに到着した。


「遅いぞ! どうしてこんなに遅れたのだ!」


 ベンネビス連隊全員が下船したところで、指揮を執っていたタウンゼント将軍が怒鳴る。


「申し訳ありません。準備に手間取った上に引き潮の時間に差し掛かり、船が遅れました」


「ふむ。まあ良い。とにかく援軍が来てくれたのだからな」


 娘のレナに似て、タウンゼント将軍はサッパリとした性格だった。彼は直ぐさま頭を切り替えて、は作戦を伝えるためキースを司令部にしている酒場に連れて行く。


「連中はコンコード手前の丘を拠点にしている。これを制圧するんだ。既に他の連隊は失敗しており、一部は敗走している。君は右翼に進出してパーシー歩兵連隊と共に丘に向かうように」


「了解しました!」


 キースは敬礼した後、自分の馬に乗って連隊を引き連れて右翼に向かおうとした。だが途中で後方へ搬送される負傷者を見て驚く。


(大半が士官じゃないか)


 嫌な予感がするが、それでもキースは兵を率いて配置に向かう。

 しかし、途中で出会ったのは敗走してくる味方の部隊、共に戦うはずだったパーシー連隊だった。


「待て! 何処に行くんだ!」


 キースは怒鳴っても、パーシー連隊、いや連隊だった集団の洪水に呑まれてベンネビス連隊は翻弄される始末だ。


「くそっ! お前達の連隊の士官は何処だ!」


 キースは周りを見渡しても士官らしき者は誰もいない。

 馬の上から怒鳴っていると、独立派が丘から下りてきて、自分たちの方へ掛け寄ってきている。


「ベンネビス歩兵連隊前へ! 三列横隊へ!」


 キースは迎撃すべく連隊を横一列に展開させる。


「構え!」


 全体が横隊になったのを確認して銃を構えさせる。


「狙え!」


 命じた瞬間、独立派民兵の一人が発砲、キースの頬を銃弾が掠めて行く。


(こちらの射程外なのに正確に撃っている。ライフルか)


 その間にも民兵は散発的ながらも銃撃を続けている。そのうち、小隊長の一人が被弾して倒れた。傷は浅いようだが戦闘指揮は無理だろう。

 しかし、このままでは劣勢となる。キースは決断した。


「撃て!」


 通常より遠くからの発砲。それでも二〇〇人の一斉射撃により先頭を走っていた数人に命中し、これを倒せた。

 仲間が倒れたのを見た他の民兵は狼狽えて発砲するが、震える腕では命中しない。


「よし第二列! 駆け足で五〇歩前進して発砲! 第三列はその後に続け。第一列は装填後付いてこい」


 キースは前進を命令して自ら馬を駆って前へ進む。

 銃撃がキースに集中するが気にせず前へ進む。

 傘下の兵士達も後に続いて駆けつける。

 そして五〇歩進んだところで止まり、銃を構えた。


「撃て!」


 更に接近して発砲し十数人が倒れる。


「第三列! 突撃せよ!」


 突出してきた民兵に向かってキースは部下と共に突撃した。

 民兵は突撃する兵士と同数の二〇〇だが既に発砲済み。装填しようにもライフルのため素早い装填が出来ない。

 一方ベンネビス連隊は既に装填済み、しかも訓練せいかが表れており、一五秒で次弾を装填可能。

 接近しての発砲と銃剣術により、民兵を圧倒した。


「第一列も突撃せよ!」


 更に装填を終えて追いついてきた第一列も参加し数の優位を確保。戦闘はベンネビス連隊の勝利に終わった。

 キースは更に前進しようと考えたが、周囲で倒れている士官を見て驚いた。

 自分の連隊の士官かと思ったが、よく見ると見知らぬ顔だった。パーシー連隊の士官のようだ。しかし、さらによく見ると周りの地面には倒れている士官が多い。


「損害を確認せよ」


 キースが命じた時、頭の近くを銃弾が掠めた。丘の上から独立派民兵達が撃ってきている。


「お、おうせ……」


 応戦命令を出そうとしたがキースは止めた。こちらの銃の射程外であり、民兵は地面の窪みに身を隠している。地面に伏せているか塹壕を掘っているのだろう。

 身を隠されては連隊が一斉に撃っても一人倒せるかどうかも怪しい。

 しかも民兵の射撃は正確無比な狙撃。それも士官を集中的に撃っている。

 パーシー連隊が後退した理由がキースにはようやく分かった。

 彼等は地面に伏せたあるいは塹壕に入った民兵に撃たれたのだ。ライフルは装填速度が遅いため装填時は無防備になるが身を隠すことで安全を確保している。

 しかも丘の上から撃つので狙いやすい。

 そして、士官を集中的に狙撃することで指揮系統を破壊して、パーシー連隊を無力化したのだ。

 敵に攻撃されて、指揮者がいなくなろ、恐慌状態に陥ったパーシー連隊の兵士は勝手に後退し始め、そして撤退、ついには敗走した。

 止める士官も下士官も狙撃でいなくなっており、兵を止める者はいなかった。

 中隊長の一人が負傷したのを見てキースは命じた。


「後退!」


 ベンネビス連隊がパーシー連隊の二の舞を避けるべくキースはライフルの射程外への後退を命じる。


「くそっ、大砲さえあれば」


 大型船で渡海できたにも関わらず、素早く移動するために兵員のみでやって来てしまった。

 大砲が到着するのは夕方から夜、戦闘に投入できるのは明朝だ。手詰まりとなったキースだったが、援軍はやって来た。

 後退を指示するラッパの音が鳴り響き、帝国軍の将兵達は直ちに退いていった。

 そして海から砲撃音が響いてきた。




「撃ち方はじめ!」


 サクリング提督の命令でフリゲート艦から大砲が放たれる。チャールズタウンに入港していた艦を急遽出港させたのだ。そして今、丘に向かって砲撃させていた。


「丘の上だけを狙え! 味方に当てるな!」


 連絡士官として送り込んだレナがタウンゼント将軍を説得して陸軍の部隊を退かせる。

 味方と敵が離れた事を確認した上で、サクリング提督率いる艦隊が砲撃を開始し丘を攻撃する。

 味方の頭越しの射撃となるが、流れ弾は思ったよりも少なかった。


「しかし、意味が無いな」


 サクリングは砲撃を命令したが、それが無意味な事を知っていた。

 砲弾は球形砲弾であり鉄の塊に過ぎない。爆発はせず、重い鉄球が転がっていくだけだ。

 爆発する榴弾なら効果があるだろうが、艦載砲では撃てない。


「頼りにしているぞカイル」




「やはり倒せていないか」


 砲撃が止んだあと、キースは再び連隊を横隊で前進させていたが、またしても民兵の狙撃を受けて後退していた。

 海軍の砲撃では丘の裏側に潜む独立派民兵を倒せない。


「手詰まりか」


 そう思っていたとき、右手の川を遡上するボートの群を発見した。


「増援か」


 疑問に思ったが彼等の旗が確認できない。いや、持っていない。何処の部隊か、どころか敵味方さえ判らない。

 だが、キースは見つけた。ネイビーブルーの上着を着た小さな海軍士官。


「カイル、いや、連隊長だ」


 自分の上官であり弟のような存在、カイル・クロフォードだ。

 距離は遠くても、十数年見続けている尖った耳を見間違えはしない。


「しかし素早い遡上だな。小舟とはいえどうやって進んでいるんだ」




「移動は順調に進んでいるな」


 ボートが無事に川を遡上している状況にカイルは満足していた。

 兵隊を満載したボートは重く動きが遅い。特に川を遡る時は、水流が抵抗になって足が遅くなる。

 しかし、カイル達のボートは勢いよく川を遡上していた。


「これも海尉のお陰でさあ。干潮の時刻を計算に入れて命じてくれたんですから」


 通常、満ち潮は一日に二回、午前と午後でほぼ一二時間毎に来る。

 夜半に満ち潮だったのならばその一二時間後、午後の遅い時間に満潮となる。

 その時を狙ってボートを漕がせた。

 満ち潮で海流が川を逆流。その勢いに乗ってカイルはボートを進め、川を遡上させた。

 そして、独立派民兵が立て籠もる丘の裏側の川辺にボートを接岸。ベンネビス連隊第二大隊を上陸させた。


「進撃せよ! ひたすら前に進め!」


 元々、民兵、自警団として発足し、実戦を経験しているグレシャム男爵率いる部隊は戦い慣れしていた。

 ライフル銃と弾薬嚢、水筒のみを装備して前進。独立派民兵の背後に回り込んだ。

 彼等は身軽さを生かして迅速に進撃、敵を見つけると素早く物陰に隠れて狙撃を行い、縦断を再装填する。




「凄いスピードで前進して行くな……」


 散開しながらも素早く前進して行く第二大隊の動きにキースは感心した。

 狙撃の発砲音が少なくなってきた。に丘の上にいた独立派民兵は後方に帝国軍が回り込んできたことに驚き、動揺している。


「この機を逃すな! 前進!」


 好機到来と判断したキースは前進を再開した。

 丘に接近しても、敵は動揺しているのか反撃は少ない。

 通常の突撃距離よりも間合いを縮めた上で命じる。


「突撃!」


 最後は突撃命令を出して一斉に敵陣に向かって突撃する。急坂を駆け上がるため足が遅くなるが、突撃距離を短めにしたのが幸いして敵陣まで一気に駆け抜けた。


「おらああああっ!」


 塹壕を飛び越えて丘の後ろへ。第二大隊に後方へ回り込まれて動揺していたところを奇襲できた。

 他の兵士も次々と登り切り、丘の頂上へ突っ込んでいく。

 あちこちで白兵戦となったが、数の多いベンネビス連隊が勝り、丘を制圧する事に成功した。


「何とか勝利出来たな」


 丘の上に連隊旗を掲げたあとキースは周りを見渡した。

 他の丘にも帝国軍の旗が立ちつつある。

 もっとも、攻撃で制圧したのではなく、別働隊が後方に回ったことに独立派が危機感を感じて撤退したからだ。

 まさしくグレシャム男爵率いる第二大隊のお陰だ。


「殊勲賞は第二大隊か」


 その第二大隊も後退を開始して、丘の方へ向かって来ている。


「発砲するな! 味方だぞ!」


 キースは第二大隊を収容し、彼等と共に上陸したカイルを迎えねぎらった。


「お疲れ様です連隊長」


「キースにい、いや副連隊長。彼等に食事を」


「了解しました。敵を追撃しますか?」


「いや、止しておこう」


 コンコードの町を見てカイルは言った。


「周辺の民兵や自警団が集まってきている」


 丘を制圧した後に気が付いたが、コンコードには独立派の民兵が多数集結している。掴みで二千。町の中には更にいるだろう。しかもコンコードへ向かう集団も多数確認できる。


「あちこちから湧いてきやがっているな」


「レキシントン、サラトガ、ホームズなど近隣の民兵が集まってきている。下手をすれば一万以上になるかもしれない。下手に攻撃を加えても敗北するだけだ。ひとまず、丘で待機だね」


 この日の戦いは終了した。

 しかし、今日の戦闘により皇帝派と独立派との全面戦争が始まることとなる。 

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