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新編大隊

 開闢歴二五九四年六月一五日 チャールズタウン


「しかし、カイルが自分の連隊とはいえ陸軍部隊の指揮なんてね」


 チャールズタウンの演習場に向かう途中でエドモントは呟いた。


「艦も無いし、自分の連隊が有るのだから仕方ないわ」


 エドモントに無理矢理同行したレナが相槌を打つ。


「でもこのところ部隊の動きが激しくないか?」


「民兵の武器弾薬を接収するために小部隊を各地の弾薬庫へ送っているそうよ。民兵に気付かれないよう小部隊で迅速にだって。対岸の内陸部にあるコンコードへ混成連隊七〇〇名へ派遣するそうよ。昨夜も夜半の満ち潮を利用して対岸の港町バンカーへ送り出したわ」


「直ぐに知れ渡るなんて機密保持は大丈夫なのかよ。独立はこの町にもいるんだろう? 俺たち海軍にまで情報が漏れているんじゃ機密保持なんて無理だぜ。それに七〇〇名もの人員で迅速に動けるものなのか?」


「私なら出来る。でも隊列を組んでいると難しいわね」


「そうか。で、一つ聞かせてくれないか?」


「何?」


「何を苛立っているんだ?」


 エドモントに尋ねられたレナは少し黙ってから答えた。


「……陸軍のチャールズタウン方面軍総司令官と会ってきただけ」


 今朝、レナは海軍司令部の連絡将校として陸軍の司令部に赴いていた。任務から帰って司令部で報告を終えた直後、カイルの元に向かうエドモントを見つけて無理矢理同行していた。


「何かあった?」


「喧嘩した」


「大丈夫なのかよ」


「いいのよ。結婚しろってうるさく言うから」


「そういえばレナの父親が総司令官だったけ?」


 レナが陸軍の将軍の娘である事、そして父親がチャールズタウン方面の総司令官に任命されたことをエドモントは思い出した。


「ええ、指揮をとっているわ。で、娘に連絡任務を行うよう命じてきた訳。公私混同も甚だしいわ」


「それで喧嘩に」


「そうよ。ちんちくりんな子供と結婚しろというのよ。任官して間もない中尉と」


「少尉よりマシだろう」


「金で買っただけのボンボンよ」


「けど、任官するには連隊長の推薦がないとダメなんだろう?」


「実家の連隊にいた候補生の中で操りやすそうな候補生を任官させただけよ。親の金で昇進よ。そんなのと妻になるなんてゴメンよ」


「怒っている訳はそれだけ?」


「……海軍の将校なんてただの飾りだろう、って言われたわ」


「ああ」


 それを聞いたエドモントも少し気分が悪くなった。

 海軍は多少なりとも実力主義であり、公開口頭試験に合格しなければ海尉になれない。

 二人とも合格して尉官になっており自信となっている。それを否定されたことに怒りを覚えていた。


「あのエロガキの下で任務をこなしてきたのよ。実力が無ければ務まらないわよ」


 語気を強めるレナを見て、エドモントはレナの心境を察した。

 入隊以来、何かと一緒にいて、試験前には付きっきりで指導してくれたカイルの事を貶されてレナは頭にきている。

 自分の実力と育ててくれた人を否定されたら、自分自身を否定されたと同じだ。

 その気持ちを認めたくない心情もレナにはあって、父親と父親が紹介した男性に向けているという訳だ。

 エドモントに無理矢理付いてきたのもカイルに会いたいがための方便だとエドモントは悟った。

 こうしてレナが一方的に捲し立てている間に、二人は演習場に到着してカイルと合流した。


「わざわざ来てくれたんだね」


「海軍司令部からの連絡事項を渡しに来ただけよ」


「使いの者を寄越せば良いのに」


「機密保持の為に士官による搬送を厳命されているの。それに独立派の襲撃に備えて二人以上で行動するように定められているわ」


 レナが視線を泳がせながら答えた。

 本来は士官二人が来る必要は無く、士官一人に腕の立つ水兵か海兵隊員の護衛を立てれば良い。

 それでもこうして二人が会いに来てくれたことにカイルは嬉しかった。


「来てくれてありがとう。昼食はまだだろう。ウチの連隊のメス――食堂で奢るよ」


「え?」


「いいのか」


 カイルの言葉にレナが驚き、エドモントは声を弾ませた。


「遠慮しないで食おうぜ」


「ああ、遠慮しないでくれよ。町で手に入った食材を使ってコックが腕を揮うから」


 エドモンドとカイルが勧めてもレナは躊躇した。


「けど、メスを一回でも利用すると一週間分の料金が掛かるでしょ」


 士官の経費は基本的に自己負担であり、海軍でも陸軍でも同じだ。連隊では食事は自由だが、士官達は自分たちで金を出し合い食堂――メスを作っていた。

 そして代金は食事の前に一週間分を前払いする方式だ。


「そうなのか?」


「ええ、だから代金は高額になるの。一回でも利用するときは一週間分の料金を支払わなければならないのよ。三人分出せるの」


 一応、連隊それぞれの規則に従って客をメスに招くのは許されていたが、招待者が一定の寄付をすることが慣例となっている。


「大丈夫だよ。この前の捕獲賞金も手に入っているし」


 二人を誘おうとしているカイルを見て、レナが両肩を掴んで問い詰める。


「何があったの? 答えなさい」


「……あの場から逃れたいんだよ」


 カイルはさめざめと落涙しながら答えた。




「だから隊列を組んで進軍しないと攻撃力が確保出来ません!」


「バラバラに散らばっている相手に隊列を編成しても追いつけん!」


 チャールズタウンの演習場では、グレシャム男爵の部隊が合流したベンネビス連隊が訓練を行っていた。

 だが、戦闘教義の違いから、早速、副連隊長のキースと第二大隊長となったグレシャム男爵が口論を始めていた。


「二人の喧嘩から逃げたかったんだよ」


 レナとエドモントを連れてカイルは連隊本部に戻ってきた。未だに訓練方針の対立による二人の口論が続いていた。


「戦列を維持しないと命令伝達が出来ず、対応できません」


「各員が独自に判断して行動する。密集すれば逆に狙撃されて危険だ」


 アルビオン帝国陸軍の戦闘教義は戦列歩兵。密集した横隊列で敵を至近距離から銃撃。し、崩れたところへ突撃する戦術が基本だ。

 密集することで銃の命中弾数が増えるし、命令伝達も容易という利点がある。


「兵が逃げます」


 表向きには連隊の兵隊は志願してきたとなっている。実態は強制徴募に近いため兵の脱走対策、一箇所に集めていた方が監視しやすく逃げにくい事もあり、この戦術が採用されていた。


「悪魔共を殺そうとやって来た者達だ。逃げ出すような軟弱者ではない」


 一方、ニューアルビオンの民兵や私兵達は原住民との戦闘で密集隊形が無意味である事、原住民が散兵戦術、散らばって攻めてくるため、こちらも散らばって攻撃しなければ無意味だという事に気が付いていた。

 そのため、自分たちも広範囲に散らばって散兵線を作り上げ、各個に敵を攻撃する戦術を生み出した。

 地元で生活しているため、卑怯な振る舞いをすれば、脱走などすれば自分の開拓地を捨てることになる。

 そのため、例え一兵卒でも散開して命令が届かなくても、独自に判断して攻撃している。

 ただ状況が不利になると直ぐに退却する事も多い。


「兎に角、正規軍の方法に合わせて下さい」


「無意味な訓練など不要だ」


「二人とも落ち着いて」


 ベンネビス連隊の連隊長にして、同時に海軍の連絡将校であるカイルは二人を止めた。


「グレシャム大隊長。今回はアルビオン陸軍の行動を学んで頂くためにキース、いや副連隊長に従って貰います。副連隊長も頭ごなしに否定せず新大陸の戦争を覚えて欲しい」


「……分かりました」


「連隊長が仰るなら」


 二人は不承不承ではあるがカイルの説得に従った。

 二人の口論を収めカイルが安堵した時、チャールズタウンの対岸にあるバンカー近くの丘から発砲音が聞こえてきた。

 銃声は断続的に途切れること無く響いてきている。



「出撃した部隊のようね。陸軍の司令部も慌ただしかったから何かあったのかな」


 レナが父親の元から逃れる事が出来たのも、部下に呼び出されたからだ。父親が出て行った隙を突いて、建物の外に逃れていたのだ。


「銃撃音が相変わらず酷いけど大丈夫かな」


「川から行けば良かったんじゃないの? わざわざバンカーを経由して歩いて行くなんて」


「川を遡上出来るボートが少なかったらしい。水深が浅くて下手をすれば座礁だ。それに大量の物資を載せて川を行くのは難しいしね」


「でも、それで待ち伏せ攻撃を受けたら元も子もないでしょう」


 カイルがレナと話していると、馬に乗った伝令が駆け込んできた。


「援軍要請です。ベンネビス連隊は直ちに出動準備を整え対岸に渡り味方部隊を救援せよ」


「待ち伏せをまともに食らったか」


 知らせを聞いたグレシャム男爵は吐き捨てた。独立派も多い土地で機密保持など不可能だと将軍に進言していた。拒絶されたことでそれ見たことかと思っている。


「命令とあれば行きます」


 青筋を立てたキースが伝令に答えた。

 一方のカイルは胸のポケットからクロノメーター、投資した時計製作会社が作った第一号の時計を出して時間を確認した。

 そして、少し考えてから命じた。


「よし、副連隊長は直ちに第一大隊を率いて救援に向かってくれ。私は第二大隊と共に第二陣として準備をする」


「部隊を二つに分けるのですか?」


「輸送力が低下しているからね。連隊全員を運ぶのは無理だと思うよ。何より、他の部隊にも移動が命令されていると思うし」


「了解しました」


 キースは敬礼して第一大隊、元の連隊主力を率いるべく集合を掛けた。


「私たちは?」


 レナはカイルに尋ねた。自分たちも何かすべきだと考えたからだ。


「エドモント、対岸の町へ上陸させるために輸送船の手配を。レナはボートを、平底船を集めてくれ」


「そんな舟でどうするのよ。小さ過ぎて歩兵しか乗せられないわ」


 連隊が動くとなれば大きめの船が必要だ。歩兵連隊とはいえ、小型の大砲や大量の物資を持ち歩く。

 小型のボートでは積みきれない。


「それに小さいと遠くまで運べないわよ」


「大丈夫だ。この状況なら小型の方が良いし、疲れもしないよ」


「わかった」


 そう言うとレナとエドモントは手配に行こうとした。


「おっと、忘れていた」


 だがカイルは二人を引き留めた。


「戦の前にメスで腹ごしらえをしよう。勿論、僕の奢りだ」


 爽やかな笑顔と共にカイルは二人を昼食に誘った。

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