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姉が、いた。

いまは、いない。

私に多大な影響を与えて、どこかへ行ってしまった。

行き先は、知らない。

殺しても、死ぬ人じゃなかったから、生きてはいるに違いない。

ただ、2度と会えないとしたら、死んでいることと同じことだよね。

べっつに、懐かしい訳ではない。


ただ、穴が………、

胸に、穴が………、

『1人生きているだけ。

1人だけで生きている。』


あなたの考え方、生き方、そのすべてが好きでした。


昔、

テレビを見て歌番組なんかを聞いて

よく思っていた。

どうしてテレビではこんなくっだらない

恋や愛の歌ばっかり流してるんだろう?

世界にはもっと大きな

考えなければならない物事、事柄が

あるんじゃないのか?

当時若造だった私でさえわかる位

世界はおかしかったのだから。

恋も愛もしたことがなかった、

のっぺらぼうで

シワひとつない心を抱えていた頃。


姉はなぜかその辺をわきまえていて、

テレビの歌番組で

好きなタレントを見つけては

キャーキャー声援を送っていた。

私は斜めからテレビを見ながら

どこがいいの、そんなくっだらないの!

とか姉に毒吐いていた。

ほんとに正しかったのは、

姉。

姉はその時おそらく既に好きな人がいたんだと思う。

生きていくのに、恋のない人生なんて。

恋のない人生なんて、

生きていないのと同じことだと

姉が冗談交じりに

高らかに歌いあげていたのを思い出す、

美しい姿を思い出す。

姉は頭の良い人ではあったが

勉強をそんなにがんばらないので

そこそこの大学で遊び、

そこそこの会社に入り、

そこそこの男の人と結婚した。

そこそこ幸せに暮らしてるんだろうなぁ、

と思っていたが。

その夜、家出してやって来て、

一緒に旅にでないかと誘われた時は驚いた。

私にも旦那がいたから。

けれど2人で酔っ払って

お互いの旦那の悪口言いまくって

ぐでんぐでんになるまで酔っ払って

ほとんど眠りかけの白む朝を迎えた頃、

姉はもう一度、こんどは消え入りそうな声で、


旅にでませんか?


と私を誘ったのだ。


充分計画を練らなくてはならない、

と応えた私をぶん殴るように笑い飛ばし、


いま行けないヤツは、

永遠にどこへも行けないんだよ、バッカだね〜。


そして、私の肩をバンバンと痛いくらい強く叩き


まぁ、あんたは、壊れそうなしあわせを

壊されないように生きて行きな、頑張ってね。

それも、容易いことじゃあ、ないから、ね?


ソファーに横たわってあっという間に、

寝息を立てて、眠ってしまった。



いつも、そうだ、

じぶんかってな、騒々しいあね……




私が二日酔いの頭を抱え、起き抜けに

姉を探し回っても、

姉はどこにもいなかった。

リビングのテーブルの上に一枚チラシが

昨夜飲んだ空のグラスで押さえられていた。

チラシの裏の空いたところに、

水滴で濡れて滲んだ文字で、



ゴメン。

またね?

こんどは、一緒に、映画でもみよう。

前に観たヤツだけど。

『愛の逆立ち』

また、すみれ子は、泣くんだ。

あたしは、それを、慰めるんだ、ね?



なーにをッ!


私は、

そのチラシをグッチャグッチャに丸めて、

ゴミ箱に叩き込んだ。

いっつもそう、じぶんかってで、

自己本位で、いい加減で、馬鹿馬鹿しくて、

付き合っていられない。


いっつもそうじゃないッ!

私は大きな声でほとんど泣きながら毒づき、

彼女が、逆立ちしても手に入れることができない

ささやかなしあわせな一日を、

これから永遠に過ごして行かなければならない、

平凡な人生を。

それは、ありがたいしあわせなのだが、

おそらくは、今朝早くに旅立った姉と、

もう二度と会えないだろうという

根拠はないが、ほとんど予言されている

未来を想い、

リビングに突っ立ったまま、

小学生の頃でさえやった事がなかったが、

まるで小学生のように、

エーン、エーン、と、声をあげて泣き真似していた。


声にならない叫びを胸の奥深くに隠し込んで。






最後までお読みくださりありがとうございます。

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