確信
【第149回フリーワンライ】参加作品
本日のお題
フランス人形
あの日あの時をもう一度
唐紅に燃ゆる
あみだくじ
要はそういうことだ
全てを用いて描いた掌編です。
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
項垂れ涙を零す未央の疲れ切った顔を見ながら僕は、感じた真実を心で言葉にして、静かに確信する。
あの日あの時をもう一度やり直せたとしても僕にあの唐紅に燃ゆるような激情は二度と戻らない。
たとえ未央が、もう一度あの時魅せたフランス人形のセルロイドのような淡く青白い肌に戻ろうとも、劣情を吸い込まれた青水晶にも似た瞳で見つめられても同じ結末しか思い描くことは出来ない。
要はそういうことだ。人生は一度切りのあみだくじを引かされる。あの日あの時に引いたくじは、今日という日、今という時にハズレと分かるくじだったのだ。
「ごめんな未央、君とは結婚出来ない」
僕は気難しい映画監督に何度もカメラテストをされた後の本番のように、同じ台詞を同じ調子で繰り返した。
未央は顔を上げた。泣き崩れても、綺麗な顔をしていた。血筋が冷たい印象を与えた初めての出会いの場面を思い出しながら僕は言った。
「君はハズレのくじを引いていた、今それが分かっただけのことだから」
僕は泣きそうな心を握りしめ、監督が描きたかった最後のカットの撮影のように冷たく心を沈ませ、軽薄な笑みを浮かべ背を向けた。
要はそういうことだ。
僕は軽薄な笑みを噛み締め、自分の人生に起こった悲劇が奇蹟を起こすことを祈った。
水溜りを叩く音がして、抱き締められた。
未央は知っている。確信した時、声がした。
「二人で生きて行こう」
愛している。
だから、未央には彼女に似た子供を産んで欲しい。そう思っているのに、僕は未央を抱き締める明日しか思い描くことが出来ずにいる。