働く神様
眩い光が止んだところで、視界が徐々に回復してきた。目を開けてみると、そこは綺麗な砂浜が望めるオフィスのような場所であった。近くに森があり、ここは海と森の丁度境目あたりであろうか。
なぜかは知らないが、俺はスーツ姿で、そこに立っていた。目の前には、ゲンドウポーズの随分偉そうな男と、その横に秘書だろうか、糸目だがスタイル抜群な、色気のあるお姉さんがファイルの様な物を持って立っていた。
「良く来てくれたね。ここは、GF社だよ。君のいた世界とは少し勝手が違うから、慣れるまでは少し大変だよ。」
「?」
「プレジデントバール。ミスター百鬼がお困りの様ですよ」
「ああ、すまなかった。今日から君は、ここで働いてもらうよ。君には才能があるようだ。人の身であるのに、100社もの集団から「祈り」を捧げられるとは、なかなかあるものでは無い。」
「馬鹿にしているなら、後にしてくれ。俺は混乱しているんだ」
「無理もありませんね。ミスター百鬼」
「おいおい、落ち着きたまえ。そんなんじゃ、高いキャリアは望めないぞ」
「ここで落ち着けるほど、俺は人が出来てはいない!いや、頭がぶっ壊れてはいない」
「先走ってしまい申し訳ございません。ミスター百鬼。説明させていただきます。貴方には、その力を使って、我々の影響力を大陸に知らしめる仕事をしてほしいのです」
「変な宗教の勧誘なら他を当たってくれないか?」
「まあ。いきなり神だなんて誰も信じないか――」
「そこが分かる良識はあるのかよ」
「しかし、貴方は雇用契約していますので、ここでおやめになるのは、契約違反になります。そして、契約違反は重い厳罰があります。ミスター百鬼」
「えっ!?いつした?」
「君が画面をクリックしたときさっ☆」
「おま、おま――ええええええええええっ!」
「ふふふ、貴方は我々の掌の上で踊っていたのですよ。ここ、分かります?ワンクリックしたら、きっちり契約するような仕組みになっています。ミスター百鬼」
「くっ!お、お前らぁぁぁ」
「まあ、どうせ君は向こうの世界では、良くて一生フリーターかニートだろう。私に感謝があって然り、そんな態度は無いんじゃないか?」
「この度は、わが社に入社おめでとうございます。さっそく業務命令です。ここより、西南にあるアクシス地方を制圧してください。わが社は、現場主義ですので、特に研修等はございません。ミスター百鬼」
「ブラックじゃねーかっ!」
「ホワイトだよ。結果さえ出せば」
「くっ!」
「貴方をサポートする担当者は、すでに現地に到着しております。名前は、魔器狂いのナーシェ。永久機関の保食の2名です。彼女らは、OJTIとしては、なかなかハードかつバイオレンスですが、貴方の死亡率は非常に下がるでしょう。それに、癖の強い魔石ですが、転移した最初の教会に、貴方をうけいれる「ボソボソ……は…ず」のマナダイトがございます。ミスター百鬼」
「何さ、死亡率って――」
「えー言ったじゃん。うち。生命保険加入対象外って☆」
「く、くそぅ――」
「臆病な君にピッタリな能力が発現しているから、安心したまえ。君自身は、戦わなくても君の人形たちが戦ってくれる」
「どうゆう事だ」
「頭の中でイメージしてください。なりたい貴方に。『エル・ドラードシステム』が起動するはずです。ミスター百鬼」
「『エル・ドラードシステム』は、君からの供物に対してポイントが溜まる、溜まったポイントは、君の『カリスマ』をもとにしたスキル獲得及び起動に使用できる」
「ちなみに、今の貴方の供物は『貴方の支配領域に、知的生命体をとどめる事』です。ミスター百鬼」
「スキル獲得については、理解できた。要するに、ゲームと同じ様に考えればいいけど、支配領域ってのが分からないんだけど」
「支配領域は、非常に曖昧だが、マナキューブの効果が及ぶ範囲内では、その所有者の主権が尊重される。これが「支配」となる。今から派遣する地方は、これから君の箱庭となる。武力でも、同盟でも、建国でも構わない。我らの旗印立ててもらおう」
「俺の――じゃなくて、我らなのかよ……」
「それでは、転移の準備をいたします。能力については、実戦で覚えてください。まあ、貴方の場合は実戦だけの力ではありませんが、ミスター百鬼」
「それでは、その扉を開けてみたまえ。良い征服を――」
まったくもって、無責任で、神が言うセリフでは無い。取りあえず生きていく上では、言葉に従っておこう。それに、取り柄の無い俺に、『カリスマ』があると聞けば少しは確かめてみたくなるものだ。