祈り
――百鬼様
先日は面接にお越しいただきまして、誠にありがとうございました。
今回の求人募集は、予想以上に大きな反響があり弊社としても大変ありがたく思っております。面接及び応募書類を、十分検討させていただいたところ、百鬼様のご希望に沿うような環境をご用意する事ができませんでした。今回は、誠に残念ではございますが、採用を見送らせていただきたいと存じます。
末筆ながら、百鬼様の今後のご活躍とご健勝をお祈りいたしております。
「環境」ってなんだよ。回りくどすぎだろ、俺は段ボール机でだって仕事できる自信はあるぞ。そんな虚しい事を考えながら、通算100社目の「お祈りメール」を、つい先週面接に行った会社から、今日、送られてきた。
絶賛就職活動中の俺は、大学4年の冬になっても、現在「無内定」中であった。業界だって選んでいるわけでは無い。まあ、しいて言えば22chという大衆掲示板で、ブラックと騒がれている会社は避けている。しかし、それでも100連敗とは納得がいかない。大学は決してFランクではないのだが、そこまで良くはない。Cランクくらいだろう。
確かに、軽いコミュ障であるのは否定しない。面接の時、目が動いて、挙動不審に思われることが多い。それに、大学時代から特に親友もいないので、表面的な会話しかできない。
仲がいい友達がいなかったので、授業は毎日真面目に出て、サークルもやっていなかったので、帰宅後は在宅でできるPC系のバイトをして、家賃を溜めていた。
いつごろまでだろうか?人と真面にしゃべっていたのは。子供の頃は、もう少し明るかったと思う。PC画面から目を離して、すぐ近くにある布団に倒れ込む。いつもの天井だ。
そうだ、思い出した。高校の時までは明るかったんだ。そして、高校生活1年目の夏が始まる前、友達(その時は、そう思っていただけなのだが)に勧められ、気になっている娘に告白をした。当然、玉砕してしまったのだが、それをネタに陰口をたたかれるようになった。それでも、友達の後押しもあり、諦めず告白をし続けたら、その数週間後に、友達と思っていた奴と、その娘が付き合いだした事を聞いた。
なんでも、俺の告白が迷惑であり、その相談をしているうちに付き合いだしたそうだ。俺はピエロを演じていたのだ。それから、人を信じる事が出来なくなった。結局、数ヶ月でそいつらは、別れたが、スッキリとした気持にもならなかった。
悲しい事が起こると、人は自分を守る為、自然と傷つかない方向に思考を仕向ける。俺の脳が選んだ答えは、「極力、人と関わらない事」
100社にお祈りをされたショックを隠すために、親に教わり習慣にしている【瞑想】を行った。こうすると、頭が非常にスッキリするのだ。決して宗教的なものでは無く、自分を落ち着かせる[手段]として行っている。4歳くらいからずっと行っているので、慣れたものだ。全てに同化するイメージを持ちながらやるのが、コツなのだ。
暫くしてから、新たな会社がないか、就職サイトを巡回していると、ポロンとPCから音が鳴る。メールフォームに新たなメールが受信された。よくあるスパムメールだろう。そんなことを考えながら、その件名をみている。「100社からのお祈りをお受けになった事、誠におめでとうございます。そんな……」ここで件名が切れている。そして、俺はこのメールに切れている。なんだよこのメール。たちの悪いスパムメールだな。
そこで、急に冷静になる。どうして俺が100社からお祈りメールを貰っているのを知っているんだ?タイミングが良すぎる。ただのスパムメールでは無いのでは……。
普通は、リンクをクリックしない。してはいけないのだ。直ぐに削除するべきだと考えながら、カーソルはそのメールをクリックしてしまった。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^件名「100社からのお祈りをお受けになった事、誠におめでとうございます。そんな貴方様に、良いお仕事のご紹介をさせていただきます」
百鬼 神威 様
・仕事内容は、神様になってください
・基本給+歩合給
・初心者歓迎(ちょっと戦ったりします。生命保険保険対象外)
・残業なし(ただし、仕事が終われば)
・週休2日(概ね)
・勤務時間 10:00~19:00(休憩1:00)
・長期休暇 10月
・その他 相談可能
(株)ゴッドファクトリー 人事部より
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職業[神]。完全に学生がなってはいけない仕事ナンバーワンじゃないか。ノートでも転がっているのか?ポテチ片手に、ペンを動かす技術でもつくのか?
この文面と伴にリンクが張られていた。神になる仕事。完全に馬鹿にしている。そして、微妙にブラック臭がプンプンする。給与の話とかも具体的にはでていない。
しかし、気持ちとは裏腹に、手が動いてしまった。リンクをクリックした瞬間、画面が物凄く光り、目を開けていられなくなった。