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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第86話 鯨髯

m(__)m 間違えてプロットというかメモをあげておりました。

メッセージありがとうございます!


 万暦四年 天正四年 1576年 3月


 琉球の季節は春夏夏秋、南国の冬は実りのとき、十二月に入って朝晩がようやく肌寒くなることで糖度が上がる砂糖黍の収穫、それに続く黒砂糖への製糖作業は三月まで続き、二月に播種した苗の一期作の田植えも三月の始め。またハブを避けて安全に山仕事が出来るのもこの時期だけであり、ようやく訪れた春は農繁期を終えた農家がやっと一息つける時期である。



金武間切 鴉那(あな)御殿


万座毛の断崖を眺める半島に作られた金武間切の政庁であり金武王子朝公こと真三郎の屋敷である鴉那御殿。

白亜の琉球石灰石を切り出して積み上げ建てられた主殿の一角、半屋外となっている吹き抜けの広間にドーナツ状の並べられた(テーブル)には間切の家臣達が勢揃いしていた。


三月(みつき)に渡る留守中、皆には苦労をかけたな。早速ではあるが、報告を順に頼む。まずはそうだな、安李から」


「では!まずは船方ですな。既に港横の舟屋でご覧になったと思われますが、新造船がほぼ形を成しております。夏までには艤装も終え進水出来るかと。来月の大潮には港の停泊地の浚渫拡幅を行います。これは間切を挙げての大仕事になりまする。」

安李の配布した資料には港内の図面に大潮の日時に各村からの動員数、浚渫作業中に必要となる日当に食事の手配計画が書かれている。

「うんうん、これでようやく三隻体制になるな。西海岸と東海岸に一隻ずつ、順次の補修も余裕をもって出来るな」

 真三郎の御座船であり、恩納の港を母港として北の運天、那覇の港と西海岸を往復する馬艦マーラン船の告天二号と、東海岸の金武湾から米や薪を積んでから南周りで与那原、那覇に出る告天初号


「告天初号はうふあがり島への漂着後に一応修繕はしましたが、わずかばかりですが漏水がありまして水垢取りで苦労しておるようです」


「次にこちらを」

卓の上に拡げられた二畳程の地図

「「「おおっ!」」」


「これはすごいな!」


「はい、金武間切の西北端にあたる伊武部いんぶの岬に基準となる印部しるべ石を置き、そこから丁寧に測量いたしました。」


重要文化財に指定された琉球国之図 1737年から13年もの年月をかけて測量、完成したのは1796年。フランスや明の進んだ測量技術が既に伝わっていた琉球では伊能忠敬の日本地図に先駆けること25年も前には現在の地図と比較出来る程の詳細な地図を作ることができたのだ。

 そもそも、大和が邪馬台国の頃である三国時代、魏の時代には既に十分な測量の技術があり、久米唐営の祖である三十六姓の閩人(福建省あたり)が琉球に渡った宋代の科学書でもある夢渓筆談にも測量道具の記載がある。また、島影の見えない遠洋航海も行い遠くマラッカやジャワ島まで南海交易を行っていた琉球では南蛮人の進んだ羅針儀海図を入手するなど航海に必要な天体測量技術もまた発達していたのだ。


「いんぶのしるべいし………なぁ安李、印部の漢字はいんだよな。うーん、なんか響きが卑猥だなぁ 三角形を描きながら測量するんだし、三角基準石でいいだろう。

これの写しを作って、そうだなぁちゃんと綺麗に色も塗ってから次の評定に御主に献上し、琉球中の測量を進言してみよう」

(うーん……誰だよ、四則計算が出来れば異世界も過去もチートだといった奴は!二次関数どころか計算できる学者や航海士って実はすごいじゃないか)

 


「では次は農方だな。まずは昨年の作柄ですが、金武間切全体での米は八百五十三石、うち王府への貢納分が七十八石。こちらは搬送済みです。また、五百二十七石が会所への移送に備えて金武鍾乳洞で貯蔵しております」

三良が帳面をめくりながら二期の収穫、決算を報告していく

「んー、で、収量はどれほど増えたのか?」

樽金はともかく数字を並べられてもいまいちピンときていない真三郎が尋ねる。

「米は三十石ほど、単収は増えましたし、開墾も進んでいますが、田に適さない一部の土地はサトウキビや、他の作物に変更しましたので」


「そうか、まぁ明よりの交易船で浙江の米を大量に運んでもらう手筈は進めているから大丈夫だろう」


「それから、肥料の研究に成果が出ております。うふあがり島でバラストがわりに大量の砂や土を告天号に積んだのを覚えておりますか?」


「ああ、確か捨てたところの畑が異常に成長していて調べさせた件だな?」


「はい、やはりあの土や砂が大変優れた肥料になるようです。農方で研究を続けておりますが、サトウキビの成長には欠かせぬ金肥、いや金武肥(きんひ)として売り出しましょう。」


うふあがり、大東島の砂。何万年もの年月をかけて堆積した海鳥の糞や死骸が化石化した白い土、グアノは水溶性の窒素分の多くは雨に流されているものの、植物の成長に欠かせない三大栄養素の一つ燐を大量に含む貴重な天然肥料であった。


「金武肥か、うん、いい名だな。食える青魚を肥料に使うのはもったいないし、うふあがり島からの搬出が軌道に乗ればだな。して、島の開拓は順調か?」


「冬場は海も荒れまして島に近づけませんが、あひる屋の円形劇場で三線や太鼓を叩いていた若衆のうち、芽が出ずに開拓に従事したいと帰農を申し出た城間(ぐすくま)長堂(ながどう)、松田、山城、国頭(くにがみ)村出身の者たちを島の開拓に、子牛に、仔馬、山羊等の家畜に十分な農具、食糧に苗等を持たせております。

対価には指定したフラー(あほう)鳥の幼鳥の羽毛、矢の材料となる尾羽に風切り羽等、それに金武肥を納めるように。また3年は無税としております。梅雨が明けたら大風の来る前に今年の荷として雑穀や家畜、それに苗木等を島に送り、羽毛や金武肥を持ち帰る予定です。」


「城間に長堂、松田、山城、国頭」

三良の上げた名前を指折り数えてハッとする真三郎

(それはまた、なんつー人選……気付いたら島に村どころか反射炉ぐらい作りそうだな)


「まぁ、開拓は城間村の者を長として密かに進めておるところです。それから今年の黒砂糖の生産物は十万斤(60トン)を超える見込みです」


「おおっ、大和の商人達に捌ける量は十二分に確保できるな」


「はい、卯屋を通して久米唐営に持ち込む度に飛ぶように売れておるようです、大和の商人からは真南風(まはえ)に乗って大和に戻る前に久米唐営にて来季の商談をしたいと、大番頭の程君之殿からも矢のような催促が」

王府とのやり取りや他の士族との交流の為に首里屋敷での仕事が多かった安李の代わりにかんジィと二人で金武間切の雑務を引き受けていた三良が急に大人びた報告を上げる。


パチパチパチパチパチ

ぐふっ、ぐふっ、ぐふふふっ


 そんな三良の報告だけでなく、卯屋から届けられた伝票山を目にも止まらぬ速さでめくり算盤を弾いては、時々不気味に嗤う樽金の方を決して見ないようにしている真三郎、いや皆が見ていないふりを続ける。

「わ、わかった。落着きしだい久米に行こう。も、もちろん樽金もな」

久米の言葉にピクリとだけ反応した恵比寿顔の樽金に商談の同行を命じる。


「つ、次はそうだな、鍛冶方、といっても陶方との共同研究での硝子の試作だな。どうだ?硝子は、板硝子はできたか?」


「残念ながら、陶器を焼く以上の高熱を出してどうにか溶けたのようですが、障子代わりとなるよう板状に加工するなどとてもとても。

図南殿の提案で陶器の釉薬用に精製した海藻灰や、鉛白を加えてみると少しは溶けやすくなることはわかりましたが、パンパン!」

末席に控える研究工房(ラボ)の責任者の一人である鍛冶頭が報告しながら背後に合図を送る。


ブッーーー!

「か、かめオバァ!」


「げっ、げっ、げっ!オバァよぉ、何て格好してるさぁ、オジィもびっくりして……惚れ直したさぁ」


「「「………えっ!」」」

鍛冶頭の合図に鴉那御殿の冬用お仕着せであるメイド服姿のかめオバァを先頭に誇らしげな恩戸(うみとぅ)恥ずかしそう(はじかさぁ)に頬を染めた嘉樽(かたる)

かめオバァが見事なバランス感覚で頭に乗せて運んできた壺を卓に置くと、鴉那御殿の庭で雑草のように繁殖しだしたミントに未熟なシークワーサーの果汁を搾り黒砂糖で甘味を付けた飲み物が盃に注がれていく。


「朝公様!まーさん(美味しい)?」


「実に甘くて、香りもいい。まーさんどぅ恩戸!」

グビッッと一息に盃を煽った真三郎の喉元が上下するのをじっと見詰めていた恩戸の頭をナデポする。

「朝公様!う、恩戸も手伝ったのっ!」

撫でられた恩戸が顔を赤くしてかめオバァらの後を追って下がる。

「ち、ち、違うからな!俺はロリじゃ」

周囲の冷ややかさの中に生暖かさの入り交じった視線に慌てる真三郎十六才。


「オホン!よろしいですかな?お配りしたのが硝子の盃にございます。吹いてみることは出来ましたが、伸ばすことは難しく……」

まだまだボテッと厚みがあり、不純物のせいか気泡が目立つものの確かに涼やかな硝子の盃。

一方板硝子、というよりスライム状の硝子は底に敷いた石板ごと固まっていた。


「うーん、厚いし重いなぁ。盃は技術を鍛えれば南蛮人の硝子細工に近づけるだろうが、板硝子は無理か、これではなぁ はっ!」

試作の経緯を報告すべく卓に乗せられた溶解した石英の塊をそっと気を取り直して撫でる真三郎、中には卵ぐらいの大きさの塊もある。


「と、図南! ちょっとこい!これを、これをだな、こんくらいの大きさと厚さで板状に削れるか?」

親指と人指し指で輪を作る真三郎

「王子様!それくらいなら水車の砥石で出来ます!」

末席に控える図南が駆け寄って答える。

「あまり薄くすると割れるから最初は厚めに、木工頭も、ちょっと!それを木枠とそうだな、加硫で固まったゴムを使って水漏れ防止っと。海の中で物がよく見える物を作るんだ。きっと真珠の養殖や、漁業の効率が上がるぞ」

さらっと真三郎が紙に描いたのはまさにゴーグル、ゴムバンドではなくただの紐で結ぶタイプだが、鯖好きの自由な少年にも似合いそうである。


「ひょ、ひょ、ひょ。確かに、確かに、半刻も海に潜って作業をすれば目が充血して暫くは仕事にならんからのぅ」


「うむ、失明の恐れもあるし、サンゴで手足を切ることも少なくなるでしょうな」

琉球の珊瑚は鋭く、ヘタに触れれば簡単に手足を切ることもある。血が海に流れるとやっかいなサメが匂いを嗅ぎ付けて浜に近寄ることもあるのだ。


19世紀末に沖縄は糸満の海人(うみんちゅ)が発明したモンパノキを材料に作ったゴーグル型の水中眼鏡、ミーカガンが四百年前に誕生することきなる。


「上手くいったら今度は、西表島で見つけてきたちょっと茶色いこの珪砂でも試してくれ、こちらは船上で使う用だ、波の煌めきから目を守る黒眼鏡と、そうそう船底に入れておいた石炭、石みたいな炭も色々調べてくれ、これは重要な機密な」


実は明では石油も石炭もその存在や効能の一部は古くから知られいたのだったのだか


「「は、はい」」


「山方は長の座波様(真牛)が不在でしたので、成果はこれに、」


「ほう、植樹も順調、順調。それに琉球櫨の収量が増えたな、農閑期の収入に蝋燭も役立ちそうだな」

ハブの冬眠をまって山の斜面に植えた琉球櫨から集めた実からは臭いの少ない上質な蝋燭が出来る。大和の寺社が喉から手が出る程に欲しがる逸品でもある。


「蔵方ですが、農繁期でしたので織物の納税は余りないのですが、久米唐営の茶屋などから既に嘉服かりゆしウェアの注文も、先島より仕入れた上布に明からの生糸や繭玉、絹が入り次第縫子達には夜なべ仕事をお願いしようかと」


城主が居なくても軌道に乗った改革は金武間切では着実に芽を伸ばしていた。





ホーホーー!ケッケッケッ!バサバサッ!

琉球コノハズクにヤールー(やもり)、夜中に響く羽音は蝙蝠だろうか。鴉那御殿の篝火の殆どが節約の為に消された夜半、不審な影が真三郎の私室がある御殿内で最も奥まった離れにそっと近寄る。


コンコン!


コンコン!


「山!」

室内より小さな声の誰何(すいか)がかかる。

「下!」


「てじ!」


「……なーにゃ!」

月明かりに伸びた影が室内の障子に黒鳥のようなシルエットを作る。

「……手の角度が微妙に違う。曲者か?」


「んな訳ないでしょう。早く開けてくださいよ!例の物を持ってきたんすよ!」

焦った声の主は三良だ。


「真三郎様の密命、この三良の働きの成果、この美しい結晶の数々を御覧ください!」


「おおっ♪」


「しっ!お静かに、どうです?御要望道理でしょう?」


「凄いぞ、三良!あれだけの図面でよくぞここまで!」


「何、真三郎様が慶良間の間切を采地としたお陰にて、嘉服(かりゆしウェア)で生じた端切れもまたぐへへへ♪」


「うんうんうん、慶良間の鯨は捨てるところがないとは真。鯨の髯様様だなぁぐふふふひっ♪」


「で、こちらが経費にございます、いやぁ苦労したなぁ」


「………いち、じゅう、ひゃく。おい三良、なんだこの請求書の束は?」


「当然の経費ですよ!この乳充帯の滑らかな曲線に立体的な構造、様々な大きさや形、無理のない締め付け具合に女心を擽る端切れの飾り布。それらを確かめるには久米唐営、辻遊廓の誇るジュリ達(遊女)達の強力なくては!いやぁ、揉みまくったせいで握力が、ワッハッハッ!」

思い出したのか鼻の下をこれでもかと伸ばす三良

「て、てめー何一人で!」

妄想力の余りにつうーっと鼻血が垂れた真三郎が三良の胸ぐらを掴む。

「はい!そこまで!!」


「「ま、真牛!た、樽金!安李まで!」」

室内の灯りがフッと消えたと思った瞬間、真三郎の私室は十重二十重の警備に囲まれていた。

「はい、両手を上げて、はい、うごかなーい。取り合えず、正座、しましょうか?」


「「は、はいっ」」


「んーんーんー!」


「はい、はいっ!飛漣(フェーレン)君も同罪ですからねっ!」

猿轡を噛まされ、見事な亀甲に縛られた飛漣も真三郎の私室に引っ立てられる。


「ば、万事休すか、かくなるうえは、「御免なさい!」」「んん、んんん!」


大和の戦乱により江戸の後にはからくり人形のゼンマイバネや文楽人形の操作糸としてプラスチック素材の代わりに珍重される鯨の髯も戦国の世では十全には活用されていなかった。

また、 遠くヨーロッパの地でも鯨油のニーズと共にコルセットや提灯のようなスカートの流行にあわせて鯨髯の需要が高まり、やがて太平洋に到る捕鯨船の補給の為に黒船が幕府に開国を求めるのもまだまだ先の話しである。


真三郎のチート技術により先島巡察中に三良と飛漣に密か託され、内密に進められていた乳充帯(ぶらじゃー)計画が白日の元に晒された瞬間であった。

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