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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第85話 帰還

 首里から届いた凶報は兄王子 久米具志川王子朝通の急逝を告げるものであった。

西表島の古見より急ぎ石垣島の川平の港へと戻った真三郎一行



「叔母上!首里からはなんと!」

 下船用のサバニが白砂の浜に勢いよく頭から乗り上げて接岸するやいなや迎えに来ていた叔母に声をあげる真三郎。

「あわわわ、落ち着いて朝公ちゃん。石垣に早船が着いたのはおとといの事よ。で直ぐに古見に使いを出したのだけど、余り詳しくは」

 肩を掴んで激しく揺さぶる真三郎に困惑する真釜(まかま)

「そうですぞ、殿下。まずは落ち着かれなされ。これは王府からの正式な文と、殿下の臣よりの文にございます。仔細はこちらに」

 宮良親雲上が懐から取り出した二通の文をそっと真三郎に手渡す。


「真三郎様……」


「兄上は、兄上は昨年の、12月の末には薬石効なく既に亡くなられていたと。兄の遺命で正月の間は久米島で秘されておったようだ。実に兄上らしい」

 冊封の儀礼を無事に終え、尚永王が対外的にも正式な琉球国王として即位した初めての正月。王宮や各地の御嶽にて神事の続くめでたい幕の内に水を差すことを避けたようだ。

(最後まで常に庶兄、日陰の身として苦労した兄上らしい気配りだなぁ)

「では、冊封使の護衛で久米島に立ち寄った際には既に?」

樽金らが押し黙る中、つい真牛がこぼしてしまう

「いや、あの時はまだ。床について居られたようだが。しかし無理してでも上陸しておれば………急ぎ久米島にいや、首里に戻るぞ。樽金、真牛!出立の準備を!」

久米島を目前にしておきながら冊封使の護衛として魚釣(ユクン)島(尖閣諸島)まで随行していたのだ、つい無念さがこみあげてくる。

「ムムムッ!しかし、どうなされます?八重山でのお役目は終えましたが、未だ王命の巡察が途中のはずでは?」

川平親雲上が飛び出さんばかりの主従を押しとどめる。

「うーん、そうか………!誰か航路図をもて!」

 真三郎の剣幕に慌てた川満船頭が告天二号から持ち出した宮古、八重山が稚拙な筆で描かれた怪しげな航路図を広げる。

「みろ。大風が吹いても大型のジャンク船が安全に風を避けられて、倭寇の残党が人目を避けてひっそりと潜める船隠しになりそうな入り江………西表島周辺には多いが、宮古ではここ、伊良部島と下地島の間の水路ぐらいだ。」

 西表の西部にあるリアス式な入り江と伊良部島を広げられた地図の中から指さし説明する。



 上空からは一つの島に見える伊良部島と下地島は全長約3キロ、幅が最大でも五十メートルの川と見間違えるような細長い水路で隔てられており、平坦で川もない下地島は牛馬が休めるような木陰を作る木々すらもなく、ただ鬱蒼と草が茂るだけの無人島であった。


「それにもう二月。そろそろ南風も吹くのではないか?」


「なるほど、宮古の巡視は島をぐるりと巡る必要もない……か ウッ!」

真三郎の案に腕組み考え込む宮良親雲上

「ちょっとあなた!まだ早いわよ!」


「ムムムッ!確かに、これからの時期は一度晴れると二、三日は暖かい南風が続いて汗ばむ程。二月風廻り《ニングヮチカジマーイ》にさえ注意して。それに漕ぎ手を多数揃えれば多良間島を経由して宮古に、水路で三日も風待ちをすれば併せて十日もかからず一気に那覇の港に!」

 川平の港を預かる川平親雲上が浜の白砂に島々を描いて航路計画を説明する。

「川平親雲上、二月風廻り《ニングヮチカジマーイ》とは?」

 聞きなれない言葉に首をかしげる真三郎

「この時期に寒波を伴い急に強い北風が急に吹くことがあるんです!」

 なぜか拳を握りしめあらぬ方角を向いて力説する川平親雲上

「そうよ、朝公ちゃん。何年か前に首里に送った貢納船がひっくり返ったこともあったし、慣れた漁師だって流されたりするのよ。危ないんだから。うりずんの頃(四月)まで石垣にいない?」

 心から心配している真釜が手巾をぎゅっと握りしめながら上目遣いに聞いてくる。

 後ろでは叔父の宮良親雲上もウンウンうなずいている。夫婦の力関係がかいま見えるようだ。


「いや、叔父上、叔母上。宮古に渡れると分かった以上はのんびりすることはないな。兄のことだけでなくもう三ヵ月も留守中の領地のことも心配だし、準備が整い次第出立すしたい。いいな?」


「「はっ!」」

樽金に真牛、川満船頭ら一行の者が早速帰り支度の手配を始める。

「そうか。せめて殿下の為に加勢の漕ぎを手配しよう」


「ムムムッ では川平からも」


「いいのか?」


「いいんです!」




川平の港に付いた翌日の早朝、夜半までかかった支度も無事に整い、好天を予感させる朝焼けが帆を赤く染める中、告天二号はゆっくりと錨を上げていた。


「朝公ちゃん、気をつけてね。ねーねーやにーにー達にもよろしくね!」


「はーい!叔母上もお元気でぇ!」


「折角、八重山の美人(ちゅらさん)達に側室でもいいなら朝公ちゃんに会ってみない?と声を掛けていたのにぃ。ほーんと残念ねぇ。」


「ピクッ! 樽金、真牛!出航はとり止め………………モグモグ…………ウー!ウー!」


「川満船頭!早く帆を!真牛はこの馬鹿を船室にでも押し込んでおけ」

 湾口にある小島で蓋をされたような姿の川平湾。引き潮に合わせて出港すると川のような激しい流れにのって一気に黒潮の北上する本流に乗ることが可能であった。



シクシクシクシクシク


「はあぁーでーじ、うっとおしい!しゃんとしてください!真三郎様!そろそろ伊良部島が見えて来たようですよ」

 多良間島を目印に経由して揺られること丸二日。兄の死に目に会えなかったことを悔やんだのか、八重山の美人(ちゅらさん)達との出会いの場が無くなった事が余程ショックだったのか、自分でも解らなくなって船室でふて寝をしていた真三郎を思いっきりジト目で見下げた樽金が情け容赦なく叩き起こす。

「フッー えーと、久米島の朝通殿下が浮かばれまさせぬぞ」

 真牛がそっと真三郎の背後に忍び寄り耳元に息を吹きかけてから囁く。

「ひゃっ!そ、そ、そうだな。オホン! よーし!さ、さぁ慎重に水路に入るぞ!」

 吹きかけられた吐息のぞわぞわ感に身もだえした真三郎が耳をかきながら跳ね起き、照れ隠しかのようにいきなり指示を飛ばし始める。




「殿下。やはり天候からみて明日の午後から二、三日は北風が強く吹くと。島の古老も同様の意見です」

 水路の中央、最も深みのある停泊地に告天二号の錨を降ろした川満船頭が、川平親雲上の予想通りとなった天候を確認してくる。

「そうか。で、伊良部島の与人(下級役人)は?」


「船宿の者を走らせました」

 かつては大島や、八重山の島々同様倭寇との密貿易で栄えた名残か、水路の奥には老朽化しているものの南島サザンアイランドの僻地には似つかわしくない規模の船宿(まほうのくに)が建っていた。




「んみゃーち!伊良部島の与人、伊良部紐七(いらぶひもひち)であるわけさぁ」

真っ先に駆け付けたのががっしりとした体格の偉丈夫。蹴球(サッカー)でもやっていそうなイケメンの大男

「えっ?イブラヒモ?」

(いやいやいや宮古んちゅらしく彫りは深いけど、日本人いやうちなーんちゅ離れした外人顔………にも見えるが、まさかやぁ)

「イブラじゃないさー、伊良部島のイラブさぁ、島の与人イラブヒモヒチさぁ」


「で、これが宮古の親雲上(ぺーちん)一同よりの文で、殿下にお悔やみ申し上げますとのことであるわけさぁ」

宮古本島の親雲上達の使いを横に控えさせた伊良部紐七が替わりに代読する。

「宮古の親雲上らの言葉はしかと首里天加那志にも伝えよう」


「はっ、この後の宮古島へのご寄港はいつ頃に?」


「うむ、此度の南方巡察は倭冦の残党が宮古八重山の人目に付かぬ場所に潜んでいないかと大明の帝より冊封使様を通じて伝えられたからだ。宮古には大型の唐船が潜んで風避けができる船隠しはないと聞いたが?」


「そうさなぁ、与那覇の湾は村里の真ん前、山陰もないし宮古に倭冦がこっそり潜めるような船隠はないさぁ」


「やはりそうか、急ぎ首里に戻る為に春の南風を待たずに石垣を出立してきた。今日明日はこの水路を検分しなければならん。悪いが風待ち後にはそのまま那覇に向かう。」

真三郎の合図に船から鉄製の農具がいくつも降される。

「これは上布の代金としての手形に大和や明の鉄の農具だ。先に文を送った通り貢納の米や麦に代わり上布と珊瑚や鼈甲を引き取る。農具は約束の証に村に配ればよい。平良の港に新たに出店した卯屋にて代納出来るように手配している」


「すでがふうー(ありがとうございます)宮古は八重山と異なり山もなく、常に水不足で米は不作続き、でーじ助かるさぁ」

平伏する村役人達、租税を期限までに泊の蔵に運ぶ為に悪天候を押して出航した宮古の貢納船が薩摩まで流されたのが島津が琉球、大島に手を伸ばす契機となったのだが、難破した船や、未納扱いで更なる処罰を受けることもあり貢納の役目を押し付けられる村役人にとっても代納は望むところであったのだ。




伊良部島と宮古島の間は2015年に全長3500m、無料で渡れる橋として日本一の伊良部大橋で結ばれれた程の指呼の間、尤も声が届く様な距離ではないが風を恃まずともサバニで簡単に渡海が可能である。

宮古の親雲上らの誓願によって与那覇湾に立ち寄り首里への貢納品を積んで告天二号は石垣の川平を出航から十日ばかりで那覇の港にたどり着いた。







那覇港の南に開いた宮古口と呼ばれる岩礁(リーフ)の切れ目からゆっくりと帆を降ろし港に進む告天二号、帆柱には王家の紋章である左三巴紋に吹き流しが掲げられている。

城塞でもある久米唐営側にそびえる三重城の鐘が三つの鐘を次々に打ち鳴らし王弟である真三郎の帰還を盛大に告げる。


大和から北風に乗って琉球に渡った大和船が停泊地に並ぶ。琉球の産物や明や南方の交易品を琉球で積み込んで大和に向かうには時期尚早であるが、港内では帆の整備、艤装を整える水夫の姿も見える。


「樽金、真牛。ひとまず首里の屋敷に立ち寄ったら帰還の届に登城の伺いと兄上の、一家を成しておったから円覚寺ではなく天王寺だろうが神主(位牌)が祀られた寺にいくぞ。樽金は船の始末と卯屋、後は会所にも顔を出しておいてくれ」


「はっ!」


「おっ!いたいた、王子様ぁー!」

王子権限であいた桟橋にゆっくりと曳舟に引かれていくと、見物にきた群衆を掻き分け手を振りながら跳び跳ねる少年が近寄ってくる。

「おーっ!飛漣(フェーレン)か!流石に速いな!ちょうどよかった、今首里の屋敷に安李はいるかな?屋敷に金武に出せる鳩はいるか。後、悪いが急ぎで鴉那(あな)御殿に使いを頼む」


「まかちょんけー!安李様が屋敷にいるっすよ!で、鳩もふりっ!馬も借りて来てるさぁ」

懐から手品のように鳩を取りだし、ガジュマルの大木には既に鞍が載せられた馬が三頭繋がれている。

「でかした!樽金。留守居のかんジィと三良宛に仔細を伝える文を!真牛は護衛だ、屋敷までついてこい!」


「「はっ!」」





首里城 鎖の間に隣接する琉球庭園


「金武王子朝公、王命を果たし、只今戻りました。」

琉球国王の小姓頭である小赤頭(こあくべ)が真三郎を案内した場所は城の南西、王の政務室に隣接する庭園であった。

「うむ、戻ったか!朝公。朝通の事は。文は読んだか?」

帰還の挨拶もそこそこに庭を歩きだした王に数歩遅れて付き従う。

「はい。石垣の宮良親雲上を通しまして西表に早船が。風待ちの為に直ぐに登城出来ず、また八重山に下る前に久米島に立ち寄れず残念にございました」


「そうか、冊封使の護衛時は立ち寄なかったのか?」


「はい。順風で夜間の上陸は危うく、早朝の出航予定で沖泊に。父上の時の冊封使は往路も復路も十日ばかり久米島や慶良間で風待ちをしたとのことでしたが」


「そうか、余も冊封の儀礼にかまけて兄とはゆっくり語らう暇もなかった。病の為にと一足早く采地の久米島に戻ったのが、そうそう。朝公、そなたの仲秋の宴の直ぐ後であったなぁ。」

実際は王の生母で国母となった梅南が庶子とはいえ、年長の兄が城に近寄るのを嫌ったせいではあったのだか

「朝公、天王寺には?」


「この後にでも参ろうかと、まずは主上に南方巡視の報告にと。詳細は後程報告致しますが、宮古八重山共に倭冦の残党が潜んでいるような恐れはありませなんだが……」


「どうした?」


「石垣も宮古も大島さえ、伝えきくような大砲を積んだジャンク船に乗った倭冦やより大きな大砲を何十と備えた南蛮人が現れると簡単に島ごと占拠されかねません」


「………そうか。なかなか見識を深めたようだな」


「明との交易を望む南蛮人が冊封を受けた我が国を簡単に襲うとは思えぬがマラッカ王国の事例もある。注意は必要だな。」


「はっ!」


「よい、報告は後日評定を設ける際に。それまで首里に滞在し評定には朝公も出席せよ」


「はっ!」


「あれは慶良間、お前の采地だな、流石に久米島は見えぬか……」

琉球石灰石でゆったりと曲線を描く首里城の城壁の縁から眩しい西日に目を細めながら西に浮かぶ慶良間諸島を眺める国王 尚永王 島陰に隠れて西北西の久米島はその姿を見ることは出来ない。


「………」


「……遠いな」



首里屋敷


「殿下、御無事でなりよりにございます」

首里屋敷には樽金の父で米取引場所である米会所を差配する程羽友に同族で卯屋の大番頭、程君之が姿を見せていた。

「羽友も忙しいだろうが、これは八重山と宮古の貢納の手形だ、後程樽金を会所に向かわせる」

差し出された束となった手形の控えをちらりとめくる羽友

「なに、これぐらいなら某で十分。あれには主上への報告書作りでもさせておけばよろしい」


「あはは、手厳しいなぁ」


「それより此度の兄王子の事。お悔やみ申し上げます」

二人して頭を下げる。

「うむ、天王寺で菩提をともらってきたが、久米島の御殿は兄の生母殿と二人の室が残られるそうだ」


「しかし、お子は?」


「ああ、王府より代官が派遣され采地の差配はそちらで。まずは中城王子(王太子)だか、その下にお子が生まれたら継がせるのであろう」

真三郎達の代は三人だったが九人兄弟であり八人の叔父達を各地に封た為に王府の直轄地は減り続けている。新たに御殿(宮家)を開くのは難しくなっている。

「朝公様もですぞ、慶良間間切もありますし。まぁ先に妃を見つけねば。」

首里屋敷と金武の領地を任されていた安李が話しに入ってくる。

「そうだな。石垣で叔母上がちゅらさん達を紹介する前に急ぎ首里に戻ることになったからな!そうそう、真釜叔母上から安李にもよろしくと、後程安棟叔父上と古波蔵の安昔屋敷に八重山土産をもっていかないとな」

よっぽど悔しかったのか樽金と真牛を白い目で見ながら愚痴る真三郎

「まったく、いつまで愚痴るのか」

「はぁー」


「叔母上殿といえば母上様はいかに?」

君之が助け船にならぬ話題を振ってしまう

「……う、うーん、八重山土産に手紙も持たせてみたのだかな……」


「直接天界寺に出向かれてみては?」


「あ、うん、いやぁ、ちょっとな」

かなりお寒い親子関係、流石に気まずい雰囲気が室内に漂う。

「そ、それより、安李、羽友、君之。大和の船は数多く停泊していたようだか、兄の喪中のせいなのか?久米唐営も首里の町もいまいち活気がないように見えだが」

見え見えのそらしかただが空気の読める大人達は乗ってくる。

「先年が冊封使の歓待でかなり賑わっておりましたから」


「朝公様の進言で下賜品の一部は今年に払い下げを分割することになりましたので昨年よりは減ったとはいえ大和からの船もみえております」


「うむ、大和の船の大半は黒砂糖や薬酒、薬種といった琉球の産物を目当て、この冬の製糖も順調で卯屋としては大商いでしたぞ」

太鼓まではいかないが膨らみ始めた腹を叩いて君之が笑う

「しかし、父上。唐営は兎も角、那覇の港の周囲には明らかに浮浪者のようなやからの姿も」


「あれは……」


「朝公様、王府では冊封使の歓待の為に大勢の石切や大工、荷役に給金を振る舞い集めました。」


「ああ、俺も三重城に屋良森城。亡き朝通兄は首里門、安棟叔父は天使館、それにお城に南苑、崇元寺等も改修しておりますし、滞在中は各地より首里親軍(しゅりおやいくさ)に召集されて……」

昨年までの公共事業の数々を指折り数える真三郎

「確かに王府は下賜品の売却で莫大財を得ました。が、普請に駆り出された親雲上らは持ち出した費用を補填すべく租税を上げておりまして。生活苦から逃散した民が那覇の港周辺に集まっております。」


「流石に首里や久米唐営には流れておりませんが不満が溜まってきておるようです」


「あーもしかしてオリンピック不況って奴か……」


「おりん?」


景気の波がゆっくりと琉球に押し寄せようとしていた。




やっと離島クルーズ終了っす。


内政チート出来るかな?

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