第84話 秘祭
万暦四年 天正四年 1576年 二月上旬
西表島西部 白浜、内離島、外離島周辺の浜に転がっていた大量の石炭を告天二号の重石として積みこんだ真三郎一行は島をぐるりと反時計回りに航行し複雑なリアス式海岸の入江を崎山、鹿川と順に警戒しながら探索した。
しかしながらルソン島を襲った林鳳ら倭冦の残党どころか、白装束に渦巻き紋様を身に纏った電波な不思議集団すら確認できずに西表島東部の中心、古見へとたどり着いていた。
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「こ、こ、こ、古見の首里大屋子、こ、古見章凱にござい……」
異形の老人、慶来慶田城用陀の横に並び立った生っ白い青年が震えながら口上を述べる。最も近くに立つ真三郎すら聞き取れなかったのだが………
「ゴホン!御無事の御帰還、祝着至極に御座います。あー隣は古見の首里大屋子、古見章凱。
後に控えるはそれぞれ竹富島、小浜島、黒島、新城島の村長達にございます。あいにく与那国島、波照間島の村長は不在でございますが、古見と祖納の二つの番所でそれぞれ管轄している八重山の島々の代表にございます」
挙動不審に震える青年の代わりと祖納の先々代首里大屋子の用陀が場を引き取る。
「あー、古見の首里大屋子の章凱は仕事は出来るのですが、いい歳してかなりの人見知り。緊張しては馴れるまで少々吃りがちでしてな」
真三郎にそっと近づいた用陀が小さい声で耳打ちする。
これでも西表島を東西に分け、周辺の島々を差配する二人の首里大屋子である。背後には数十人の村人が平伏したまま控えている。
「それより今宵は各島を代表しまして、古見主催の殿下御一行に歓迎と送別の宴を設けるとのことにございます。でよいかな?」
後半部分は横に向かって確認する用陀にコクンと頷く古見章凱、チラ見はするが決して真三郎に目を合わせようとはしない。かなりの重症である。
◆
「これは新城島の人魚の肉にございます!」
宴の席には島々の産物や真三郎いや王弟である金武王子に対する献上品が次々と並べられていく。
もっとも気候も荒く貧しい八重山の村からの心ばかりの貢品、只で受けとるわけにもいかず評価額の倍程の下賜品として鉄の農具や、作物、貢納品の代金として受け取る旨の証書を真三郎の指示で樽金が頭を抱えながらも次々と作成し手渡していた。
「ん?ザン?何の肉だって?クンクンクン」
蝸牛をまんま殻ごとぐっちゃぐっちゃと擂り潰し、そのどろどろ粘液を赤土の粘土の繋ぎにして野焼きで焼き上げた簡素な壺。
そのパナリ焼の壺の中に入った真っ白に表面に塩が噴き出るほどに漬けられた不思議肉を箸で摘まんで匂いを嗅いではかなり怪訝な表情をする真三郎
「人魚にございます!殿下!年に一頭。田畑のない新城島の貢納品として首里の王府に納めております。なんでも明の皇帝も珍重されているとか」
京師の紫禁城の奥深くにある後宮で羨ましくも腹上死を遂げた先代の大明皇帝隆慶帝は仙道や練丹術にはまり怪しげな薬とともに不老不死の妙薬として琉球からは人魚の肉をも大枚をはたいて大量に入手していたのだった。
まだ十代の万暦の帝の代に替わった昨年の冊封使の貢品にも人魚の肉が一樽含まれていた程である。
「に、人、ギョ!ギョ!ギョッ!そ、それってまさか不老不死になるって奴?」
「ふっ、まさかやー」
「はぁー」
呆れた目つきで真牛が突っ込み、樽金も筆を停めて苦笑する。
「とは言われておりますが、島の長老もやっと七十を越えたばかりにて……」
迷信とは知っていても貴重な島唯一の産物。新城島の村長も恐縮しきりとばかりに頭をかきながら挨拶をしていく
「なーんだ」
(って人魚。んージュゴンとかマナティとかそんなかな?緑豆の祟りとかはマジありそうだけどな)
「こ、これは!樽金!」
並べられた品を確認する中、布に包まれていた20斤ほどの重さの灰白色の塊、かすかに漂う臭いに混じる麝香のような芳香。
「うむー、これは間違いありません。龍涎香です!しかもこの色から見てかなりの上質かと」
金の簪の先を軽く灯火で炙った真三郎が龍涎香にそっと近づけるとバターのように軽く溶けてすっと刺さる。抜いた簪の先からはえも言われぬ香りが辺り周辺にふわぁっと漂いだす。
前年にルソン島のイスパニア商人に売りに出すも倭寇襲来による混乱で上手く捌けなかった龍涎香より小ぶりではあるが価値は高い。
「こ、これは!」
「はぁーん」
「よ、用陀殿、これは、これを受けとる訳には、軽くみても銀子、いや米換算で2、300石以上の価値が……」
ゴクリと生唾を呑み込む真三郎
「王府からの御禁制により今は唐船と直接交易が出来ませぬ。久米の唐営にも伝もございませぬし、殿下には貢納で便宜を図って頂き、また新たな作物をこの地に広めて頂いたお礼にございます」
「そうですだ、竹富島では北の屋久島、徳之島、久米島、そして沖縄本島から粟や麦、豆等の作物に漁の技術等を伝え島を開拓した開祖を六柱の神として祀っておりますだ、六山の神々も金や、殿が神名についてるだに。金武御殿の殿下はまさしく祀るにふさわしいお方だに。新たな御嶽を設けて唐芋、南瓜。うーん、砂糖の神、大金武玉殿としてお祀りしてもよいだか?」
竹富島の村長が平伏し上目遣いに聞いてくる
「お、俺?いや、しかしその名前はちょっと」
(だいきんたまって…………そんな厨二も真っ青な恥ずかしい名前だけは、そもそもどっから玉がくんだよ!)
「おねげーしますだに」
平伏した竹富の村長が額を擦る程頭を下げる。
「うーん………まぁ、祀るのはいいけど名前は変えてな」
「で、では小浜島もなにか!そうじゃな、あの岬、西表島がよく見える岬の先にガジュマルでも植えるだぁ。御嶽の御神木として祀るだで」
話を聞いていた 小浜島の村長が竹富島の村長を押しのけて真三郎の前にでてくる
「それって死亡フラグじゃね?」
「ふら?と、ともかくお許しを!」
「わかった、わかった。じゃあ このガジュマルを平和也の植樹として、枯らすなよ」
近くに生えていたガジュマルの喬木を指し示す。
「でーじやっさぁ。なら黒島では殿下の訪問を記念して牛祭でもするべ」
「やんべ!やんべ!」
「くわっちーさびら!」
「パーリナイ!」
収拾がつかなくなった宴席では真三郎達を余所に盛り上がりだす。
「で、殿下。群星☆!!」
「「「群星☆!!」」」
真牛にも気配を悟られぬ程存在感の薄い章凱がそーっと真三郎に近づくと振り絞るような勢いで右手の三指を右目に当てる摩訶不思議なポーズと共に奇声を上げる。
真三郎達も何故か条件反射的に同じポーズと合い言葉をオウム返しに返してしまう。
「えっ!」
「あれ?」
「なんで?」
顔を見合わせる三人
「ひょひょひょ。やはり既に川平の群星御嶽にて古八重山の神々の儀式を受けられておりましたなぁ?」
付けてるのか外しているのかよくわからない老人の仮面的な用陀が意味深に笑いながら真三郎達に近づいてくる。
周囲をよく見ると酒が回って何人か潰れて寝ていたはずの村長達も様々な仮面を付けて真三郎達を取り囲んでいる。
「真三郎様!」
真牛が真三郎の前に出で庇う。
「くっくっくっ、失礼、殿下。古見でも竹富島と同じく島に幸をもたらした来訪神として殿下をお祀りしたいと思いましてな。
くっくっくっ我らが秘祭を明かせる御方なのか失礼ながら確認させて頂きました。何卒お許しを」
仮面を付けたからか一転人が替わったように饒舌になる章凱、見事な所作で真三郎に跪拜してみせる。
「さぁ!顕現せよ!」
ドンドンドン!ホーホーホー!ドンドンドン!ヒューヒューヒュー!
用陀の杖が大きく振られた合図に篝火の届かぬ熱帯の森の奥から不思議な抑揚の掛け声と太鼓の音が響き渡る。
ホーホーホー!ホーホーホー!
全身を棕櫚の葉て覆われた異形の神の姿は明らかに南方の神々は精霊の姿を象った楕円の仮面を付けている。それぞれ微妙に異なる形で黒、赤、白に塗られた仮面だが目や、歯の部分が篝火に怪しく煌めくのは島に産する白蝶貝の螺鈿をはめ込んでるようである。
「くっくっくっ。この古見や、小浜島、新城島、石垣の宮良で密かに祀られておりますクロマタ神、アカマタ神。特に白い仮面神は古見のみで祀られておりますシロマタ神にございます。そして」
人が替わったように尊大になった章凱が尻尾の太いキジトラの猫をいつの間にか撫でながら呆気にとられる真三郎達に解説する。
「くっくっ、そして八重山に新たな作物、千歯こきや唐箕といった農具に鉄の製品、貢納の便宜を図って頂けた殿下はまさしく旱天にもたらされた慈雨。博識のお人。竹富島同様、この地でも新たな来訪神、アラマタ神として御祀りさせていただきたく!!」
「「「いでよ!顕現されたしアラマタ神!!」」」
三柱の神々が篝火のたかれたさ広場の中心で森の奥に向かって杖をもったまま跪拝すると(なみだ)とよばれる精霊の宿った男衆に先導された新たな神が森の奥よりその姿を顕現する。
全身に纏う棕櫚の葉は他の神々と同様であるが、南方のデフォルメされた幾何学的な仮面ではなく、弥勒菩薩の影響を受けたミルク神のように、より人間的で豊かな恵みを象徴する福福しい顔つきに、知恵を象徴するかのようにくっきり入った豊齢線。
博覧強記にして精霊の宿る男衆を召喚する魔導士的な姿は…………
「ってまんまヒロシじゃん。俺がモデル…………だよね?似てる?」
開いた口が塞がらない真三郎
「か、神として御姿ですのである程度の誇張は…………秘祭ですので、」
◆
翌朝、宮古への風待ちとしてふたたび石垣島の川平に向けて出航の準備を進めていた真三郎一行に石垣、いや、首里より早船届いた急使
それは兄、久米具志川王子朝通の急死を告げるものであった。
八重山の秘祭は本当にあるそうで、ウイキ情報以上は本当にありません!
よって想像でやりたい放題にしちゃって
m(。_。)m ごめんなさい。呪わないで!




