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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第81話 魚釣

冬の夜開け前、東の空が徐々に明るみ明けの明星が最後の煌めきを灯す頃、久米唐営の埠頭に不気味な歌声が響く。


ザッ!ザッ!ザッ!ピシャ


縛られてはないものの、腰を数珠繋ぎにされた五人の若者が屈強な首里親軍(しゅりおやいくさ)の一団に引っ立てられていく。


「ドナドナドナードナー、売られていくよー!:|」


「はぁ、真三郎様!その陰鬱な歌(音痴な歌)はいい加減もぅ止めて下さいよぉ!」

既に出発の用意を整えた真三郎は熱い湯茶を啜りながら酷薄な笑みを浮かべ港を眺めつつ口ずさむ。耳を塞ぐ留守居役の三良は慌ただしく積荷を数えて搬入の指示を飛ばす。

前日の大島巡視に同行した三良は留守番、護衛役の真牛は当然として今回は樽金がお目付け役として同行の予定である。


「ひぃーいやだぁーー」

「助けてくれぇ」

お母ちゃん(あんまー)

「……………………」

「くっ殺っ!」


繋がれ叫ぶ男達はどうやら倭冦の残党………でもなく、首里や久米の蔵を荒らすごろつき…………のようにも見えない。そろいもそろって二十代、線の細さや日に焼けていない色白な顔付き、一見、貧しい庶民には見えぬ衣服から、少なくとも町衆か大屋子クラス以上の子弟に見える。


「おらっ!おらっ!早く乗り込め!出航まで四半刻もないぞ!」

「鬼!ひとでなし!」

「はぁー」

金武王子朝公の御座船である告天二号に最後の積み荷となる繋がれた男達と、対岸の樋川(ヒージャー)落平(ウティンダ)から運ばれた石灰質を大量に含み長期間の航海でも腐らないと評判な名湧水が幾つもの桶ごと積まれていく。


「あら?殿下?琉球には人身売買や奴隷制度がないと聞いたのだけど?」

 琉球では見ることも出来ない黒光りする黒貂の襟巻きを首に巻き着けた麗人が真三郎の耳元にふぅーっと息を吹き掛ける。

「ぶっーー!し、し、謝杰(しゃけつ)様!」

 背後からふいに現れた謝杰におもわず飲みかけの湯茶を盛大に口から吐き出す真三郎

「汚いわねぇ、何よ!失礼しちゃうわ。」


「あ、いや、出航の準備でつい、というか急に背後に現れないでくださいよ、冠舟の支度は?」

さーっつと一歩後ろに下がる真牛になぜ知らせないと視線を送るが目を反らす真牛、確信犯である。


「ついって、まぁいいわ。それよりアレは何?私達は琉球使録(レポート)を聖上に提出する必要があるのよ、琉球にまさかの奴隷制度?それとも」

謝杰の指し示す扇の先には真三郎の船に乗せられる男達の姿。


「ち、違いますよ。あれは犯罪者の、島流しの刑罰ですよ。

 あの先頭の奴は、確か、大屋子(庄屋)の息子ですが、いい年して毎日毎日寝てばかり、で、部屋に閉じ籠り、腹が減れば壁をドンして父母に飯を要求、養う為に、田畑の耕作権まで失ってとうとう平等所(裁判所)に父母が涙涙の非情な訴え、出た判決は島流しの刑」


「へ、へー」

 穀潰し(オマイラ)に対する厳しすぎる処分に若干引き気味の謝杰、珍しい姿である。


「えーと、それから確か、一番後の奴は、久米の大店の次男ですが店番を任せても上手くもない三線を弾いてばかり、周辺の店から下手くそ、五月蝿い、営業妨害と苦情があるので仕方なく三線没収してもそんなの関係ねぇーと今度は裸で踊り出す始末、これには父母が困り果ててしまい平等所に提訴。こちらの三線ぐるいも島流しの刑に処せられた奴になります」


「う、うーん、死罪に到る重犯罪者は殆どいない平和な国って聞いてたけど怠け者(オマイラ)には厳しい国なのね」


「ま、まぁ真冬は寒いですが、基本南国は気候も良くて、木陰でゆくって海でも眺めてたら、どうしても、なんくるないさぁとゆいまーるで廻りの人が優しく助けちゃうんで、つい怠け者に育ちがちなんですよ。女性は働き者なんすけどね」


ポン!

「あーそれな!」

手を打つ謝杰

「まぁ、福州への航路の目印になる魚釣島(ユクン島)に烽火台を作っておりますので、そちらに二年の島流しです。食糧は最低限、島の整備と進貢の船が海を渡る夏至と冬至の前後十日程の間、烽火を掲げる役目を負うことになります。」

 小琉球(台湾)と琉球の間にある尖閣諸島。その最大の島が魚釣島、(ユクン島)である。なぜかテレビでは付近にある小さな南小島と北小島をアップして映し、人が住めない無人島感を必死にアピールするが、魚釣島では明治の最盛期は250を数える人口があり、鰹漁等で生計を営んでいたのだ。現在、東日本大震災で避難している福島県を除く人口の最も少ない東京の青ヶ島村が180人、同じ沖縄県の離島村、渡名喜村が420人程の規模なのを考える必要がある。


 閑話休題


 台湾の東と琉球の西を大河のように北に向かって流れる黒潮、明から琉球に渡るにはその流れの中心に位置する魚釣島周辺から、久米島に到るまでの間に流れの真っただ中を横断する必要がある。冊封使の冠舟もつい流れに乗って通り過ぎ北部の伊平屋島伊是名島、または大島の辺りから那覇まで引き返すこともあるのだ。

「そう、それは助かるわ、使録にも行程の目印は書く必要があるのよ!ちゃんと管理するのは重畳だわって、そう、そう、聖上への貢物の羽毛布団。あれの御礼に来たのよ!あれは本当に素晴らしい品だわ!私達が頂いた物は厚さが半尺、半分にも満たない二級品と言ってたけど軽くて暖かくて!」

昨夜の宴に万暦の帝と両使への私的な貢として布団を三組贈呈したのである。

「あれは海鳥の雛の産毛が極少量手に入りまして。これを羽毛が片寄り、また漏れ出さぬよう目の細かい上質な明渡りの(うすぎぬ)で小さな箱状に詰めました。これを三十程繋げて豪華な刺繍が入った蜀錦で覆った逸品です。あの三枚しかありません。」

南大東島(うふあがり)で採集したアホウドリの雛の羽毛は試行錯誤の末、三組の羽毛掛け布団に仕上がっていたのだ。

 江戸時代までは例え薄々の煎餅布団でも火事が起きればまず持ち出す高級品、最高級の羽毛だけを用いた羽毛布団は値のつけられない価値があるのだ。

「ただ、惜しむらくは京師(ペキン)に戻れるのは早くても来年の初夏になるのよねぇ。帰りも各地で接宴を受けながらの旅だしぃ」

 真夏に羽毛布団をもらって誰が喜ぶかとがっくりくる真三郎


パプゥー!グワァーン!グワァーン!


「さぁ、乗船が始まるわね!久米島で風待ち滞在があったらまた一献交わしましょう、一路平安(いーろぴいあん)!」

裾を華麗に翻し片目をつぶる謝杰

「えっ!」


「よい旅をって意味よ。馬鹿ねっ、うふっ、琉球の国境までの護衛船よろしくね」


「ああ、一路平安」



 三重城(みえぐすく)(鐘楼)と屋良森城(やらむいぐすく)(鼓楼)の白い琉球石灰岩の城壁には一路平安とにーへーでーびるの垂れ幕。甲板に並ぶ路次楽隊が別れの音曲を奏で、五色の紙吹雪が舞う中、ゆっくりと先導船、二隻の冠舟、告天二号を含む三隻の護衛船が琉球中からかき集められたサバニに曳かれて進み行く。


 朝早くから半年は続いた国を挙げた祭りの最後の舞台を見物、いや見送りに来た久米唐営の人々が三重城の堤上に列をなし、鐘楼、鼓楼の音にあわせては三線を弾き扇子やクバの扇をふり、踊って尚永王一世一代の大事業(セレモニー)の終演を締めくくる。

 突堤の先端ではプレゼントされた赤い明風の絹服を纏った山原水鶏(クィーナ)が、恋人(簫崇業)との別れを惜しみ石になりそうなほど領巾を大きく振るっている。




 那覇の港を出た冊封使一行は曳舟(サバニ)に曳かれ真三郎の領する慶良間は座間味島の安護(あご)湾にて一泊、翌日北風を右手に受けて北西の久米島。

 程よい風に恵まれ沖泊りのみで翌朝には黒潮を横断する黒水帯と呼ばれる台湾海峡に次ぐ福州ー琉球間の難所を二日かけて制覇しつつあった。


グワァーン!グワァーン!

「よーそろー!左手に島影!」

「烽火に鳥柱!ユクン島です!」

「朝公様!魚釣島のようです!」

「あ、あぁ聞こえてる。気持ち悪ぃ、夜間航路は流石にきついなぁ」

 潮の流れに逆らいながら風の力で進む航海に船は大きく軋んで揺れる。船に慣れて来ていた真三郎も撃沈寸前である。

「ははっ、冠船の方は少なくても後三日は船上だ、さぁ、離脱の合図を!」


 告天二号に旗と、石火矢による白煙の合図が上がり船団を組む冠舟よりも応答が上がり、さらに大きく西に進路を変えるのを確認し、真三郎達は進路を南に舵をきる。琉球国境までの警固任務の完了である。




「おらおらおら!きりっとせんか!オマイラはこれから二年、国防の要、この魚釣島で選ばれた戦士爾尉人(にいと)として働くんだ!」

「ううぅ」

「しくしく」

「……………あっ鳥さん!」

「働きたくない………」

 選ばれた戦士達 (爾尉人) かつて北九州を守備したという防人(さきもり)因んだ国境警備隊だが一部現実逃避している奴もいるようである。


「あーあー、働かずに島流しの憂き目にあった諸君、ぷぷっ」

 

「真三郎様!」


「あっ、すまん、すまん、爾尉人(にいと)とはなんじ、警衛の人なりとの意を込めておぷぷ、二年の刑期を終えたらちゃーんと迎えにくるんで監督官の指揮下で肉体労働をするように!いいな!」

「…………」

「返事は!」


「「「へーい」」」

「まぁいい、役目は先遣隊が山頂に設けた烽火台の整備に、燃料となる流木、煙用の海藻を頂上までの運搬と、まあ、頂上までの高さ二町半はあるかな?それから烽火台までの通路の整備に夏場には八重山と宮古から鰹漁の漁師を送るんで泊まれる小屋の準備と、後はと」

 後ろを向いて先遣隊と引継ぎの書類を確認していた樽金に確認する。

「アホウドリの羽毛集めですね」


「えーと、殿下からのせめてもの差し入れの山羊だ、使い方は、その、必要になったら監督官にでも……」

 何故か顔を赤らめる真牛、真三郎も男だらけのウホッな無人島、大航海時代にヨーロッパの船が山羊を乗せ、万が一に遭難に備えて見つけた無人島に放していったのは粗食に耐える山羊を食糧として見ていた以外の使い方は知らないし、見たくない。


 道標となる魚釣島、維持は大赤字だが半分は人件費タダの罪人 爾尉人 アホウドリの羽毛と黒潮の真っただ中にあり、島にぶつかる海洋深層水が大量のプランクトンを発生、鰹や当時は下魚であった鮪等の青魚の好漁場である魚釣島はその名の通り漁業の基地として将来有望なのであり、謝杰らの記した琉球使録に明確に琉球王国の管理する島と記載されるのであった。



ニートは重罪でし

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