第79話 珪砂
月末は通信制限にかかってウイキやYahoo!で検索が進まないし、保存に失敗するぅ 涙
広東の海岸を荒らしルソン島を占領しようとした大倭冦の頭目、林鳳の残党探しを目的とした大島巡回の役目を何事もなく終え、堺へ帰路中の納屋の商船より思わぬ成り行きで最新式の種子島を一丁、量産型を九丁手に入れた真三郎。
大島、徳之島より貢納品となる大量の精製硫黄に種子島の代金でかなり減った黒砂糖やウコン、反鼻(ハブの干物)を告天二号に積込み恩納の港に無事に戻ってきた。
「うねりのない日を見計らって出港したが、かなり大変だったな。」
ようやく見えてきた鴉那御殿の白い姿に思わず溢す真三郎
「潮も風も北に向かっておりますからなぁ」
操船の指示をしながら川満船頭が答える。
「右に左に向かい風に逆らうのがこれ程大変とは……」
ジグザグに帆の向きを変えながら斜めに流されるように船は進み索を操る水夫も忙しそうだ
「なに、各島で休めますし曳き船の漕ぎ手が慶良間の水夫ですから、交易の荷をたっぷりと積んだ船はやはり風と潮に合わせてでしか進めません。」
「川満船頭、印のついた荷は鴉那御殿に、残りはそのままで悪いが泊の港に………徳之島から連れてきた闘牛は、そうだなぁ島の牛飼いに久米まで連れて歩くか、船で行くか聞いてくれ。
それから荷を降ろしたら漫湖の唐船グムイ(船溜まり)で船体の点検整備を、終えたら来月の出港、いや準備もあるから月末までは船の当番を残してしばしの休みとする。
樽金には俺から言うんで手当を弾んでくれ」
「「「よーよーさー!流石殿下!!」」」
◆
「御無事のお戻り、なによりにございます!」
「かんジィ、樽金、安李は……首里か?倭冦なんぞいなかったし、楽な役目だったぞ、色々と収穫もあったし!」
刀は交易品として大量に持ち込むも使用するのに高価な火薬が必要で、火薬に大敵な平均湿度80%、戦のない平和な琉球には伝えられても種子島はほとんど普及していなかった。
「こっちは鋼だから琉球での加工は難しいだろうが、青銅の大砲の参考や、火薬の試し撃ちには使えるだろう、図南!鍛治頭と共に頼むぞ、俺はもーこりごりだか……」
火花で火傷を負った頬をなでながら苦笑する真三郎
「はい!朝公様!」
「ぷっ!あがっ!」
ためし撃ちでの醜態を思いだし吹き出す三良に真牛の鉄拳制裁が下される。
「ひょひょひょ、それは重畳、重畳!」
「ところで猿波屋からの文はどうだ?」
箝口令をしいたにも関わらず漏れそうな三良を尻目に樽金に尋ねる。
「はい、風向きもありましょうが大島からは翌朝には、慶良間は朝に放てば夕刻には巣箱に、しかし一体、何処でそのような知識を?」
「さ、三國志だったかな?随唐演義だったかな?明の方で利用していたとかだが、あちらは陸続きで廃れたと、島で海に囲まれた琉球なら荒れて船が出せん時や雨で烽火が見えん時に役立つだろ?」
「まぁ確かに、慶良間の烽火台だけでは詳しく情報を管理できませんし、此度はありませんでしたが倭冦や南蛮の賊、島津が侵攻しないとも限りません。」
「だろっ?費用も大してかからないし、試験を続けてくれ」
真三郎の拠点である金武、慶良間、首里の屋敷に大島、何れは八重山も加えた伝書鳩による情報網、啄意多鴉の整備の為に大量の鳩を捕獲、鴉那御殿では鳩の飼育も進んでいた。
鳩を飼い始めてから真三郎が何故か下手な音階をつけてラッパを吹くようになったが、未だ空から女の子は落ちてはこないようである。
「はっ!しかし飛漣を飼育係にして大丈夫でしょうか?たまーに育てた鳩を旨そうと涎を垂らして撫でいただけでなく、餌の雑穀まで漁りそうで、今の所、慶良間からは予定の数を放っているのですが……」
「ま、まぁ大丈夫だろう、一応それなりの給金は出してるし、渡嘉敷親雲上達にもメシだけは多目にと依頼してる。えーと、それから、三良!アレを」
「はい、はいっと」
三良の運び込んだ黒光りする須恵器は今は余り使われなくなった徳之島産の焼き物カムィ焼きの甕である。
「かんジィも樽金もこれをみてくれ、これは笠利の、七島の硫黄を選別した残査に含まれていた小石だ」
「これは?水晶、ではありませんな、石というより固く透明な砂、確かにまっ白な琉球の浜砂とは違いますね」
甕に八割程入った砂を手に取った樽金が早速確認する。
「うむ、これは多分だか、瑠璃の材料になる砂かも、研究工房か安富祖の窯元で溶かして細工とか出来ないか試してみる予定だ」
「七島の、徳之島の硫黄鉱山からは?」
七島、吐か喇列島は実体は兎も角、薩摩の島津の支配下にあるが、その地理的特性を生かして琉球と大和を結ぶ交易船の水先案内と称した警固料を徴収する海賊組織でもあった。
そして大島、つまり琉球に火山から取れる硫黄を輸出し対価として島では栽培が難しい米や麦を求めていた。
昨今の島津から琉球への圧力が強まり、島津からの朱印状のない船、豊後や日向からの船が途絶えると七島との関係も危うくなる。れっきとした琉球国内である徳之島の西、硫黄鳥島産の珪砂の有無を樽金が確認するのは安定供給を図る上でも当然であった。
「いやぁ、帰りに猿波屋が徳之島の平土野に設けた硫黄精製場を覗いたし、昔の選別場も確認したがあちらは全く無かったなぁ。
流石に島の鉱山にまでは行けないんで、七島の採掘場には硫黄以外にこの砂も二樽分程試しに欲しいといって発注している」
「瑠璃細工は南蛮の船の持ち込む高価で貴重な品、大和にも明にもない品ですので……」
樽金の手がエア算盤を弾き出す。
「早い、早いって、作れるかわからんぞ、それっぽいだけで」
捕らぬ狸のなんとやらで、先走りの多い樽金を慌てて宥める真三郎。
「ひょひょひょ、上手くいけば儲けもん。真三郎様の言は不思議と当たるからのぅ」
面々の笑いをかんジィが締める
「その分、苦労するのはこちらですが」
「まぁ、確かに、」
「違いねぇ」
「お、おまいら…………」
◆
「「「お帰りなさいませ!ご主人様ぁ!」」」
万座毛の岬の奥に日が沈み、真っ白な琉球石灰岩の鴉那御殿が萌える様な朱に染まる頃、港での始末を終えた真三郎一行が御殿に戻る。
久しぶりの主人の帰りとあって門の手前には篝火が炊かれ、御殿の内部のあちこちに金武の繁栄を物語るように以前は見られなかった高価な蝋燭を灯した提灯がみえる。
「おっ、出迎え御苦労って、御殿の冬のお仕着せが出来たのかぁ!うんうん、恩戸ちゃん、可愛いぞっ!」
楊桃で染めた薄桃色の半袖ワンピースに襞の着いた割烹着、幼児体形なのはいかんともし難いが高価な蘇木で染めた真っ赤なリボンが可愛いらしい。
(うーん、ロリ!カチューシャもいい感じだが、やっぱりレースのふりふりな感じが欲しいなぁ。久米の布市場でも見掛けなかったけど時代的にないのかなぁ)
夏場に紅型の生地を大幅に節約し、釦で着る嘉服を久米唐営の飲食店を中心に発表し、鴉那御殿でも城のお仕着せとして導入していた。
中には12月、いや年中かりゆしウェアで過ごす強者もいるらしいが、流石に冬は寒い。真三郎のチート?知識はここで実を結んでいた。
「ち、朝公様!ありがとうございます!」
誰に教えられたのかスカートの裾を軽く摘まんで、くるんと一周まわって見せる。
「おおっ嘉樽、似合ってるなぁ。丈もそれはそれでなかなか、」
長袖で夜の灯りでは黒に見える程濃く染められた藍染めの長袖、裾の丈も長めなクラシカルスタイルなメイド姿である。
「あ、ありがとうございます。」
若干恥ずかしそうに廻るのもポイントが高い。
「でーじ上等さぁ!オバァもこの割烹着気に入ったさぁ」
「う、うん。お、オバァも似合ってるさぁ」
流石は王子、誰に対しても紳士である。
「ひょひょひょ、オバァでーじ可愛いさぁ」
「いえっ、オジィ、恥じかさぁ」
頬を押さえて身をよじらせるかめオバァを見ないことにする一同。
(ま、まぁメイド長とかもよくあるし、エプロン姿なら)
「お疲れ様です。お風呂になさいます?それともわ、た、しっ?」
「「えっ!!ぶぶぶっ!!し、し、しゃ謝杰様!」」
真三郎が密かに手配した黒の半袖ワンピース、膝上一尺(30センチ)に白絹の長足袋、絶対領域を露にした冥土、いやメイド服姿の大明国、冊封副使様の姿がそこにあった。
「く、く、く、く、久米に戻られたのでででは?」
「あらっ、拜辞の宴は無事に終わったわよ!息抜きよ、息抜き、鴉那御殿気に入ったから、ねー!」
「「ねー!」」
幼女な恩戸はともかく、鴉那御殿の御獄を祀る神女でもある嘉樽まで首を傾けいっせに謝杰に同調する。
「ちょっ、嘉樽!留守中に謝杰様の世話係を任せたのは悪かったが、なんであんな格好まで………」
柱の影に嘉樽を手招きして耳打ちする真三郎
「あら?王子殿下の考案した冬用のお仕着せ(女官服)、折角ですもの!是非着てみたくて、どうかしらおほほほほ!」
男とはわかっていても妖しい美貌の謝杰、胸はなくとも確かに似合っては………いる。余りの不意打ちに耐性のない三良は魅了されている。
「お綺麗ですわ!謝杰様!」
「あら、恩戸ちゃんはホント見る目があるわぁ、明への土産にひとつ貰えないかしら?」
「し、試作品ですので、その流石に、いろいろと
………そう!別の土産を準備しておりますので、」
「そう?五日後には帰りの準備もあるし、医師団達も連れて天使館に戻るわ!」
「そ、それは。えと、残念」
「ちょっと、何よ!その嬉しそうな顔は!まったく失礼しちゃうわ!来月の望舟の宴には出席するんでしょ?」
「勿論です。首里天加那志より答礼の料理を一品任されておりますし、出発にあたり国境まで警固に付くことになっています」
(そのまま八重山まで行く羽目になってるんですけどね)
「答礼の?殿下のお、も、て、な、しには色々と驚かされたけど、望舟の宴の仕込みは進んでいるから楽しみにしてらっしゃいおほほほほ!」




