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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第5話 金武の現実

「知らない天井だ……」

 とりあえず、一度は使いたい台詞(セリフ)集の中からふさわしい言葉を呟く真三郎。


  転生前は、アパート暮らしでマイホームなんて夢だったような気もするが、たった七歳にして、母屋で10L2D2k、他に倉庫や車庫(馬小屋)付きのセレブな豪邸(役所を兼ねてるからプライベートスペースはいまいち)

  車庫には、愛車ならぬ、厩の愛馬も全部で五頭。愛馬には黒王か、黒影、もしくは松風とでも名付ける予定だったのだが、見た目が栗毛でポニーな見た目の琉球馬では名前負けするだけとしかたなく、「歩弐丸(ぽにまる)」と名付つける真三郎であった。


 (しっかし、折角の沖縄住まいなのに何故か住所は山ん中。

 いやねぇ、領地が太平洋側と東シナ海側の両方に村があるからって、間をとって山ん中に役所をもってくるはないっしょ!山ん中は!沖縄なのにオーシャンビューじゃないとか、海まで車ならね騎乗で一時間とか……あ、ありえない)


 ◆


「起きてください!真三郎様!朝食の準備が出来ております」

 夜も明けきらぬ内に真三郎の寝室に護衛を兼ねた真牛の声が響く。

 贅をこらした王宮、御内原(おうちばる)での暮らしとは異なり、自らの歳費で暮らす金武御殿では夜の灯り代すら節約、夜更かし等持っての他と実に健康で文化的な最低限の生活である。


「んーもうちょい寝かせ……」


「では、朝食の前に、一汗(ひとあせ)

「いや、お腹が空いてるし、疲れてるから」

「……では、夕刻に」

  (朝からハードな真牛コーチの(てぃー)の修練なんてできない。

 なんせ今日は領地の現地役人である金武間切14村の大屋子(うふやこ)(庄屋兼村役人)が挨拶にくる日!

  最初が肝心。見た目は七歳の子供でも、頭は大人!尚清王(おじぃ)の名にかけて舐められないようがんばるさぁ!)



  金武御殿(うどぅん)はもともと金武間切(まぎり)の番所(役場)だったところを増改装して建てられており、一番座、二番座、三番座と畳敷ではないが各八畳ほどの広さの部屋の襖を全て取り外し、雨端(あまはじ)(外廊下)までも使って、40名程の人間がアダンの(ござ)の上に座っていた。


 傅役(もりやく)三司官(さんしかん)池城安棟(あんとう)の弟、安李(あんり)叔父、大新城安基うふあらぐしきくあんきの実弟にして長年羽地(はねじ)御殿の家宰(かさい)として支え続けた「かんじぃ」こと新城安桓(あんかん)が真三郎の左右を守る様に上座につく。ちなみ三馬鹿は雨端、縁側の隅にと控えている。


「皆の衆ご苦労である。

  本日は、金武間切の按司地頭(あじじとう)になられた朝公様のご挨拶と、各村へ賦役(ふえき)を伝える」

 傅役である安李が場を仕切る。

「あー、各大屋子の皆様、本日は業務多忙の中ご足労いただき実にあり……」

「ごほん!ごほん!(朝公様!丁寧にすぎまする、臣下ですぞ!)」

 真三郎が緊張のあまり、変に堅苦しくなった所に安李から突っ込みがはいる。


「あー、なんだ、これから金武間切を治めるにあたりだな、民の幸せは、我が幸せ、少しでも暮らしが楽に成るよう大和や大明、あるいは南蛮の知恵であろうと、良いものは取り入れていく方針である。

 これまでの、旧来のやり方と違うことでも試行錯誤しながら進めていきたい。

 不安、不審に思うものもおるやもしれんが、久米や円覚寺で、あちらにいる近臣達とも様々な学問してきた。

 それぞれの村の現状、首里の屋敷や本等ではわからぬ事については、皆に教わることも多いだろう。ひとつ、長い目でみて協力してほしい!」


「「「「は、ははー!」」」」

 一気呵成に施政方針めいたことをスラスラと述べた真三郎が思わず頭をさげる。

 明や南蛮の進んだ知恵を試すと言えば旧習に縛られ勝ちな村人に現代チートの導入も誤魔化せそうである。

 まぁ中にはちょっと戸惑い気味の大屋子(村長さん)もいるが、概ね好評そうである。


「あー真三(まさ…)、朝公様の家宰となった新城安桓(あんかん)じゃ。うひょひょ。此度は各村の規模等から金武御殿に出仕する人員に租を割り当てた、文子(てぃごく)(役人)や、女中、警備兵の手配、真にご苦労であったな。


 それより、パンパン!ささっ!朝公様より、下賜の品と宴に下されものの泡盛じゃ!今宵は飲むがいい!」

 かんジィが、パンパンと手を叩くと奥から酒肴の膳と泡盛らしき酒が配膳される。

「皆の衆、流石に朝公様はお酒を召し上がられぬ故、今日は乾杯の杯だけじゃ、泡盛は壺ごと村に持ち帰えってかまわん!」

 安李が実際も太っ腹なところを見せて早速酒席の絆(ノミニュケーション)とやらを図る。


「朝公様!某は名嘉眞(なかま)の大屋子の……」

「松田の地頭でござる。実は二歳になる娘が……」

「お初にお目にかかりまする、辺野古(へのこ)の大屋……」


 (辺野古?聞き覚えがあるよーな?なんだっけ?……まっいいか。それよりお茶とはいえ、十四人もの人間、しかもおっさん率酌されたらお腹がたぷたぷっす。


  てな訳で、安李叔父とかんじぃが大屋子とそのお付きの方をもてなして、第一印象up、先ずは部下のこころを掴む接待作戦は無事成功となり、各村の視察を行うことになった。



 ◆



「なぁ樽金(たるかね)、ひょっとして家、金武間切(まぎり)ってかなり貧しいのかな?」

 翌日、最初の視察地に選んだ一番村の規模が大きく、かつ近い金武村に向かう道中で樽金に尋る。

「そんなことありませんよ!真三郎様。金武は山が深く水豊かで、まぁ西側は平地が少なく水には恵まれてませんが、東部は……」


「そーそー、真三郎様!オレの実家漢那(かんな)村や、金武、宜野座(ぎのざ)辺りは湧水(ガー)からも豊富に水が沸き、田んぼがたくさんあるだよ!」

 途中から三良が会話に割って入って地元自慢で引き取る。


「これから行く金武村は全部で240戸程あって石高は約500石!」


「そうですね、金武が520石、宜野座が430石、三良の実家の漢那村310石で、金武間切1950石の大半を占めております」

 今度は樽金が正確な数字で話を奪い返す。


「税率は?見た感じ百姓の暮らしはかなり厳しそうだけど」

 ボロボロの着物とは呼べないような服にアダンの葉で編んだこれまた破れかけた笠をかぶって炎天下に草抜きをしていた老人が真三郎一行をボーッと眺めている。

  回りの木陰には痩せこけた全裸の子供が二人ほど隠れてる。


「真三郎様、首里(しゅり)の都は官吏、士族の町、久米唐営の港町は遥か外国(とつくに)とも交易する商人衆の町にございます」

 百姓の憐れな姿に驚く真三郎に真牛が、進言する。


「これが、地方格差かぁ」


「三良!あの老婆は何をしてるのだ?」


「あぁ、あれは【へら】で畑を耕しております。恐らく、今の時期ですから蕎麦か、粟でも植えるのでしょう」


「おっ!蕎麦(そば)か!沖縄だし、やっぱソーキそばはあるよなぁ」


「へっ、そきそば?蕎麦は、そのままか、麦や、稗と混ぜて百姓や、米がなくなる収穫前の時期にやむなく食べるものです、士族、ましてや王家の方が食べる様なものではありませぬ!」

 樽金や真牛が慌てて真三郎に注意する。


「そ、そうか?(ソーキそば食べたいなぁ、麺はないのかな?城ではソーメンでたけどなぁ 何れ料理チートでソーキそば作るぞぉ)」



 ー因みに沖縄そばに、蕎麦が使われて無いことを知らない真三郎の作ったソーキそば?は思ったものとは全く別料理になるのはずっと先のことである。ー


「そうだ【ヘラ】?あんな小さな、家庭菜園用の農具で耕しているのか?(くわ)とかないのか?あれでは耕せないのでは?」


 花壇とかで使うようなちいさな、柄のない小型の鍬でしゃがんで作業していては畑仕事になるのかと疑問に感じた真三郎が三良に尋ねる。


「鍬のような鉄を使った農具は高くて、大屋子か、その門中(むんちゅー)の家ぐらいですかねぇ、あるのは…………」


「久米では、大和や福州から取り寄せた農具も少しは取りあつかっておりますが、大半は木製鍬の歯先に少し鉄を被せただけのもので、泥の田ならともかく、固い赤土の畑では直ぐに傷んでしまいます」


  (て、鉄かぁ!確か、柔らかい鉄の回りに玉鋼でくるんで鍛えれば日本刀!うーつくりてぇー 転生ものならレアスキルに、日本刀はロマン武器だよなぁ!

  パパさんから頂いた元服祝いの刀にもなんか名前でも付けて、いつか(まんじ)を解放したり、人化したりしないかなーなんて……

  よし!チート技能いけるかぁ)



「樽金、三良、真牛 うちの領地で鉄鉱せ、いや、砂鉄とかは取れないのか?」


「真三郎様、残念ながら、琉球では、(くがに)(しろがに)(あかがに、)(くろがに)とあらゆる金属となる鉱物は残念ながら産出いたしませぬ。鉱物といえば唯一、北方の島で硫黄を産し、此が明への大切な産物となっております」


(テレビでみたチート知識が役に立つかどころか、ビックリの、鉄資源なしからスタートかよ!)


「そ、そうか、残念だが仕方あるまい。金武は他に特産とか、他に何かないか?どうだ三良!」


「う~ん、漢那村では肥後の球磨(くま)茶の苗木を植えて茶を琉球でも作れないか試してるが、金武村は田畑が豊かなほうですし……」

 三良が頭をひねる。


「サトウキビは?砂糖はどうだ?」

(沖縄といえばサトウキビだよな?)

「サトウキビでこざいますか?

 冬になると甘い汁がでる(ウージ)のことでしょうか?」


「そう、たぶんそれ! 金武で作ってるか?」


「いや、あれは、確かに甘いのですが固くて汁を搾るのも一苦労ですよ。

  冬場に病にかかった時に薄く削いでかじる様な物で、庭の片隅に植える程度ですよ」



「あっ!そう、そう、金武村には確か大和から補陀落渡海(ふだらくとかい)てま渡ってこられた日秀(にっしゅう)上人様が開いたという観音堂がございます!

 折角ですから参拝はいかがでしょう?」

 砂糖黍の話題中も頭を捻っていた真牛が思い出したように寺院の名をいいだす。


「ぶたらく? 」


「【ふだらく】でございます真三郎様!小さな小舟に水や食料も積まず、観音菩薩の南方補陀落浄土に向かう捨身業(しゃしんぎょう)です!」

  馬の手綱を握る真牛に力が入る。

「日秀上人様は海中を漂うなか観音様より、琉球にて御仏の教えを広めるようとのお告げがあり、紀伊国の熊野よりこの金武の地に流れ着いたのです」


 いつもは三人の中で一番寡黙な真牛が上人の奇跡について饒舌に語りだす。


「真牛、やけに詳しいな?」


「はい、(てぃー)の修練と仏法の修行にも興味がありまして、」


「さよか……、まぁ折角だし、信仰は大事だしな」


「そうだ、観音堂には上人様が修行したという鍾乳洞もございますよ!」


(鍾乳洞?ひんやり涼しい鍾乳洞なら夏場のエアコンがわりにでも使えないかな?)




 金武観音堂は聖観音(しょうかんのん)、金武宮は熊野権現を祀る寺と神社からなる神宮寺で当時は本地垂迹(ほんちしゃくたい)といって神仏は同一視されていた。で、琉球八社の一つとされていたが、庶民の信仰は未だ御獄(うたき)でのユタによるシャーマン信仰であった。



「へぇーここが、日秀(にっしゅう)洞かぁ」


「真三郎様、足下が暗いのでお気をつけてください!」

 足下を真牛と三良が照らしながら案内する。

「わかってるって!ここはお堂しかないのか?」


「うーん、奥に続いてるけど、聞いたことないな、帰りに住職に聞きます?」


「そーだな。」

(はぁ、涼しい、生き返るわぁ。日秀ってお坊さんも暑くて洞窟に引きこもったのかなぁ。家からも近いし、避暑につかおうかな。)





  観音堂で住職の日英和尚に日秀上人の渡海や、妖怪退治等の話しを聞いた真三郎達一行は、途中夕立で民家で雨宿りするハプニングがあったものの、無事金武村での最初の視察を行い、残る13村も7日程で終えたのだった。









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