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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第76話 偽物

久米唐営 若狭町

久米は那覇の港の沖合いに浮かぶいくつかの浮島を埋め立て、周囲を中国風に土塁で囲んで100年は昔の名宰相懐機(かいき)長虹堤(ちょうこうてい)と呼ばれる石橋で陸に繋げた国際貿易都市


しかし明や大和の大型船が停泊出来る唐船グムイや船揚場のある東町、西町の両町から航海の神を祭る波之上宮近辺までは天使館と天后宮を中心として異国情緒溢れる国際交易都市として栄えていたが、琉球内国船の停泊する北東部の泊側は陸地側の天久こそ琉球各地からの租税の集積地、また米会所や寺社の門前としてそれなりに栄えていたが、外海に面し北風をまともに受ける浮島側はだだ荒れ果て防風林がわりにと植えられた琉球松がまばらに生えるだけの空き地であった。



先々年来より金武王子朝公こと真三郎と組んだ若狭の国の組屋がここに巨大な船宿街、通称若狭町を築き更に(あひる)屋なる興行主が一風変わった娯楽街へとその姿を変貌させていた。

広さ約四町歩(東京ドーム一個分)の敷地外周は簡易な竹の柵で囲われていたが潮風の入る北側には三重城(みえぐすく)と同じく具志頭(ぐしちゃん)産の琉球石灰岩からなる三層、約1500人が収容できる半円形の半屋外劇場が一段と高く威容を誇る。

当初は青銅製の屋根を全体に葺く予定が予算と材料不足で泣く泣く断念した曰く付きである。

そのメインの劇場を中心に500人の収容が可能な闘牛、戦山羊(ひーじゃーおーらせー)場、古畳で囲われた僅か三畳程の戦軍鶏(シャモ)場に鳴き声の美しさを競い会う琉球の地鶏(チャーン)の勝負場所と多くの施設が建ち並ぶ。

また、広場には様々な芸を披露する者に童を乗せた篭が吊られ手動でクルクルと回る印度式観覧車や回転木馬が琉球には珍しい順番待ちの長蛇の列を作る。

さらに椰子等の花樹が木陰を彩る通路には様々な屋台が軒を連ね高価な香辛料や砂糖の甘い香りを撒き散らしていた。



「さぁ!さぁ!よってらっしゃい!みてらっしゃい!冊封使様も絶賛の踊りだよ!これを見れるのは首里天加那志が大明の帝か?はたまた大和の帝か?更に今宵は新作の情報も!」

「こちらは豚の中身(ホルモン)の汁だよ!豚も三枚肉(スペアリブ)だけが全部じゃないよ!美味しい中身が三割五分!!」

「こっちは味噌で甘辛く焼いた奴だよ!冊封使様にお出した琉球一の豚だよ!」

「押さないで!観覧車は15歳以下の子供だけだよ!どーみても三十は過ぎてるだろ!」

「み、見た目は大人でも中身は子供だ!1回、1回でいいから!」

「黒砂糖たっぷりな砂糖菓子(さーたあんだぎー)これは新作、空場限定の南瓜(かぼちゃ)生地だよ!デージマーサンド!」

「そ、そこの姉ちゃん(ネーネー)その格好は?」

「ああこれかい?最近急に明からの布絹が入らないだろ?」

「ああ、特に絹が高騰してるな、これじゃあ大和に持っていっても捌けねーなぁ」

「琉球の上布も古着まで値が鰻登りさぁ。そこで、あの金武の性公、おっと、火ヌ神、聖公こと朝公殿下が考案しという服さぁ。」

「上等な紅型だけど袖が、しかも帯は?」

「ふっ、大和とちがって蒸し暑い琉球じゃ余り帯はしないさぁ、でーじ涼しいさぁ」

「へー面白いことを考えるもんだ。」

「だろ?半分の布で作れるから(かりー)(めでたい)って評判だよ!」

「そう、半分、まさしく()りゆしさぁ!!どうだ?大和土産に一着!何れ琉球の民族衣装になるかもさぁ」


腰の辺りにゆったりとした裾を挟み込み、場合によっては片手で腰に押さえつつ頭に荷物を乗せるのが琉球の女商売人のスタイルであった。


しかし、空場の店子達は古着の紅型を半袖に丈も短く、螺鈿細工用に切り取った残りの夜光貝から作った釦で止めた所謂アロハシャツ。

高価な帯の値との差を考えると格安である。


元々はハワイに移民した日本人が和服をハワイの気候に合わせて作ったもので、和服の生地から出来たヴィンテージ物が市場に出るとびっくりするほどの高額で取引されるとか




「真三郎様!例の服はかなりの評判です。久米中の店からうちも店子に着せたいと注文が!とても捌ききれません。」

三重城、屋良森城の改修に仲秋の宴の手配と目の回る忙しさから解放された樽金が金武間切の台帳片手に真三郎を睨む。

金武だけでなく琉球各地に機織り機を普及させたことで生産量も増え、もはや継ぎ接ぎだらけで布とも言えぬ襤褸を纏った農民も減ってはいたが、市場価格の上昇は止まっていなかった。


何枚も布を重ね、帯をまく和服や琉装の改善として夏服(かりゆしウェア)を提案した真三郎、取り合えずは新しもの好きな久米での評判は上々である。


「天使館から払い下げて貰った豚の内臓も適切に処理して味噌や生姜、にんにく、黒砂糖等で炒めたり汁にしたりでかなりの評判ですな!少しでも金になったと兄も喜んでました」

留守居役続きの安李も久しぶりの久米を満喫している。


琉球中の豚を食いつくすと言われる冊封使一行の豚肉好き。

その鳴き声以外は全て食べ尽くすようになる琉球の食文化、正月にも豚を一頭潰して塩漬けにし二、三ヶ月かけてすこしずつじっくり食べる為に痛みやすい内臓(中身)を正月の雑煮(餅なし)にする程強い影響を及ぼすことになる。


「そうか、それはよかった。安棟叔父から毎日毎日豚を十頭、十日に一度は牛も納めておるのに三枚肉やソーキ(スペアリブ)以外は捨てられておると聞いてな。」


「ホント、もったいねーさぁ!こんなに旨めー(まーさん)のに!」

真三郎達の後ろにいつの間にか片手にホルモン串を四本づつ、いや口の動きから既に二串分は口に入っている飛漣(フェーレン)がひょいと現れる。

「おい!こら飛漣。仕事はどうした?」

真牛が拳骨にはぁーっと息を吹き掛け脅し訊ねる。

「ち、ちゃんとやってるさぁ。客人方は今正門にそろそろ、あっ来ましたぜ!」

南海の夢の国、娯楽の殿堂(あひる)屋の開店以来何度目かの接待。本日は大和からの商人達。冊封使の持ち込んだ明の絹や磁器、工芸品に書籍等を買い付け南風の吹く秋口までに大和に向かう商人達である。

連れだって訪れたのは博多の神屋、豊後の仲屋といった九州の商人に塩屋、紅屋、油屋の堺の大商人、一世一代の冊封と聞き選りすぐりの手代を派遣していたのだ。

警護役の真牛を除いた三人も別室、いや、飛漣はとっくに屋台街に消えている。

「これはこれは!ようこそ!お初にお目にかかる方もいらっしゃいますね。こちらの運営にすこしばかり携わっております兎屋の跡取り真三郎にございます。」

藍染で様々な魚模様で染めた紅型をかりゆしウェアに仕立た格好の真三郎に対しても笑顔を少しも崩さぬ熟練の交渉人(ネゴシエーター)達、カドは立たない。

「真三郎殿、お久しゅう。おかげさんで大蘇鉄は無事に根付き堺でもそれはもう大評判に」

先年に金武の山中で見つけた大蘇鉄を苦労して手配、大商いとなった油屋の若旦那油屋常悦(あぶらやじょうえつ)である。

「それはよかった。折角の琉球滞在、そろそろ南風も終わり出立の頃合い、たーんと仕入れて下さいよ。手形も買いますよって!」


「ははっ!王府も商売上手になったようで官窯の五彩の大皿に銀三貫も、ついつい熱が」


「わても青花の花瓶に銀子二貫」


「何、大和にいけば更に倍には成りましょう」


「ふむ、何せ王府が万暦の帝からの下賜品と記した証紙に箱書き付きじゃからな、われらの目利きもあれば三倍にはなりましょう!」


「高価な唐物だけでなく、是非兎屋の黒砂糖に薬酒、薬酒種、石鹸などもよろしゅう。」


「これはこれは手形を切らぬと銀子が足らんわ!」


「「「がーはっはっはっ」」」

一行を顔パスで案内する真三郎は敷地内をズンズン奥に進む。

「こちらは?」


「この建物は闘技場になります。戦うのは人ではありまぬぞ。古の南蛮の大秦(ローマ)なる国では奴隷同士を死ぬまで戦わせたと聞きますが、牛や山羊の喧嘩ですな。農閑期の民の娯楽ですが山羊のはなかなかどうして気性が荒い。」


「ほぅーほんに素晴らしい施設ですわ!風待ちで二月は滞在しますからなぁ」


「一枚噛んだ組屋さんが羨ましいですわ」


「ままっ、劇場の開演まで時間がありますので、こちらでもいかが?この棒で木の球を転がして旗に当てる遊戯ですよ」

「ほう!それはおもろそうや!勝負に勝ったらウコンの取引でもーちょい勉強してもらいましょか?」


「おおっ、それはええ!」


「うちは砂糖で!」


「では手本にまずは兎屋さんから」



接待ゴルフならぬ接待グランドゴルフを終え併設された湯屋(サウナ)にて軽く汗を流した面々は商談もそこそこに劇場に拵えられた貴賓席に陣取る。


「おおっ!始まるな」


「なんじゃあのけったいな生き物は?」


「いや、人が中に入っておるような」


「あ、あれはまさか!くまフガッ」

油屋の若旦那の口を慌てて塞ぎ周囲を見渡す真三郎

「ちょ!ちょ!油屋さん!!危ないことを言わないでくださいよ!よーくっ見てくださいな、あのビロードの様な漆黒の毛並み、可愛さ満点の赤いホッペ、特徴的なまーるい短いお耳に短い手足、そしてぴょんとついた真ん丸尻尾。何処をどー見ても琉球の在来、子供をハブから守る為に巣穴を埋めちゃう面白珍獣、天然記念物アマミノクロウサギでしょうが?琉球に熊なんて生息していません!誰がなんといおーと卯屋のマスコット、黒兎の黒門(くろモン)ちゃんでーーす!ゼーゼー!」

一気呵成に天に向かって語りだす真三郎

「天然?マスコ?」


「兎?しかし兎にしては耳が……」


「いやいや琉球には耳の短い兎が居るとかいないとか、」


「兎のパチもんちゃんか?動きもめんこいのー」


「パチもんじゃなくて黒門ですってば!」


会場の外の露店に並べられた大小様々なフェルト製の人形が大和に広まり交易商人の娘への琉球土産として広まるのであった。


「それより次は新作。ちょっと扇情的な炎舞です!なんでも冊封使様方には少し危険でお下品かとお見せできなかった芸との話ですよ!」


「ほう!」「扇情的、そらぁ期待しますなぁ兎屋はん」


シャンシャンシャン!シャンシャンシャン!


ドンドコドンドン!ドンドコドンドン!

舞台横に焚かれた篝火、腰ミノ姿の野性味あふれる筋肉隆々の男が二人、両端にたっぷりと松脂を塗った松明を昆の様にクルクル回しながら棒術の演武を始める。

「うおっ!」

「松明を回しておるのか?」

「危ない!」

「「うおっ!!」」

「ひ、火を吹きよった!よ、妖術使いか?」

腰に着けた抱瓶(酒瓶)から蒸留を繰り返した高濃度の酒を口に含み火炎を放射する。

「ははっ!ちょっとした手妻(手品)ですよ、それより本番はこれからですよ!」

ドンドコドンドン!ドンドコドンドン!

太鼓がうちならされる中、豊満な胸を捻っただけの布で隠し、腰は先に舞台に上がった男と同じく腰ミノのみ、髪には篝火に映える大輪の赤花(アカバナー)

舞台上の昆に松脂が塗られ腰より低い位置で燃え盛る。一尺以上は離れないと火傷をしかねない。

「おい!あれをくぐるのか?」

「む、無理だろ?」

「あんな美女が火に爛れたりしたら」


ズンズン!ドンドコドンドン!ドンドコドンドン


大きく足を開いた美女が腰をどんどん落としその健康的な美しさと火照る身体の柔軟さを余すところなく見せつける。


ゴクリ!

会場に一斉に生唾を呑み込む音が響く。

「さぁ!いくわよ!」

ズンズン!ドンドコドンドン!ドンドコドンドン!

「み、みえ………」

「おっ!おっ!」

「さぁ、皆様!無事に潜りましたらご唱和ください!」


「「「うー燐棒(リンボー)ーー!!」」」


ズンドコ!ドンドコドンドン!

琉球の夜は更けていき、その夜、近くの妓楼は大繁盛だったという。




アマミノクロウサギ……………奄美市のゆるキャラ、コクトくんとは別物ですよ!



きっと、メイビー

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