第75話 仲秋の宴②
本日、二話目になります!
よければ一話目からどうぞ!
「あー皆様!!今宵の舞は以上となりますが、明日より久米若狭町に新しく出来ました鶩屋の空場劇場に置きまして、至高に、跳躍団、次に行われる演劇の出し物の公演も行われます!!また、月に一度は久米世の舞いもございますので、御夫人、御友人お誘いあわせでお楽しみください!!!」
司会が大声で営業告知を行う。琉球国を挙げての宴での好演、評判を耳にした連中が空場劇場に押し寄せるのは必然、金のある大和や明の商人で直ぐに元は取れるだろうと真三郎から悪い笑みが溢れる。
「それから冊封使の使節の皆様には此方も!」
僅か10頁程の冊子が配られていく、表紙には守礼門と名を改めたばかりの首里門。
「留琉舞万暦三年版?」
「あー!こちらは久米唐営の地図だけでなく名店街、美味しい料理屋土産物店といったお得な情報に鶩屋さん等の催し物の予定表がついております!」
樽金監修の官話版である。
「持参すれば割り引きもありますし、是非御活用を!来月には琉球版に妓楼の情報満載の桃色版も出版されます!こちらは一部10文ですがお得ですよ!!」
冊子の持参者には印を押しての酒の一杯無料や大盛の文字が見える。全店回ると抽選で古酒の1斗甕が当たると書いている。
「も、桃色版!!」
「なんじゃそりゃあ!」
「割り引きはどれくらい?」
「1斗甕!!」
「わ、わしゃ官話も読めるぞ、ひ、一目見せてくれ!」
酒も程よく回りに阿鼻叫喚の様をみせつつある下座の面々。
チャラカチャラチャラ、チャチャン!!
舞台の準備中に冠船楽による格調高い調べ…………ではなく、戌の刻に全員が集合してしまう様な珍妙にて軽快な調べの中で舞台の配置が変化していく。
「き、金武王子殿!」
貴賓席の壇上、酒精の高い古酒をぐいっと一息に煽った蕭崇業がそっと手招きをする。
「はっ!」
「ち、ちこう」
「あ、あの水鶏と申すおなごはどうしたのぢゃ?し、酌でも」
王よりの贈り物である大和の扇で口許を隠して尋ねる。
「わ、判りました、一応興行主の鶩屋に、酌程度なら大丈夫だと思いますが、芸妓ではありませんので………」
(まぁ興行主は俺なんだが…………クィーナかぁ久米世なメンバーなら妓女なんで了解もらってたんだけど、まいったなぁ)
「か、構わん!は、話の種ぢゃ!!」
何を想像したのか、真っ赤な冊封正使にきっと煽った酒のせいだと真三郎は信じることにした。
グワァーン!グワァーン!!
湖面には波ひとつなく、本来ならば十六夜の月下で行われる仲秋の宴もぬば玉の様な闇の中、大量の篝火に照らされて進む。
「さぁ!準備が整いました。次なる鞠舞は鞠ではなく、踊る獅子、シーサーを主役にした新たな創作歌劇になります!不肖なれど某が場面の解説を」
司会の合図で半紙に刷られたあらすじが配られていく。
「題して山原大帝シーサー!!まずは生誕!獣の王国にシーサーの王子恵応が誕生します!」
もちろん尚永王の童名、阿応理屋恵から採った胡麻の薫り漂う名である。
ドンドコドンドン!ドンドコドンドン!
舞台の端に二間程の高さの崖道が運ばれ、正面には太陽を思わせる垂れ幕がゆっくりと昇る。
ニーーィへーデービル!ワッターヒージャァー!!
アイエナァーー!!アキサミヨーォーーォー!
ドンドコドンドン!ドンドコドンドン!!
重厚な神女が唄う神歌を思わせる不思議と心を揺さぶる抑揚の調べが太鼓の音に合わさる。
ガジュマルに住まう妖怪精霊、キジムナーの老婆が杖を翳しながら唄う。
ナーァーベラ、ハイサイ!!デージナトゥーン!!
カジマヤァーー、チッキショーーー!!
舞台をよく見ると次々に現れる様々な獣、跳ねる山羊や角を大きく動かす牛の中に恥ずかしそうに犬耳を着けた若衆(三良)、手がのりのり、猫耳姿の少女達(嘉樽に恩戸)、空を跳ぶ鳩や鳶の模型を着けた二本の竿を器用に振り回す黒子(飛漣)が混ざっている。
ダッッカラヨーォーー!チチチバリヨゥーー!
ヤーールルーーゥ!ガンジュウ、トービラァ!!!
ドンドコドンドン!ドンドコドンドン!!
百獣が忠誠を誓うなか、山原の聖地、茅打ちバンタを模した崖上でシーサーの国王夫妻に白いシーサー人形が子役として高々と掲げられる。
バーン!!!
「ほう、あの人形は王子殿の手作りぢゃと?」
「はい、ネットもなくて暇なので夜にこう針でチクチクと」
無心でフェルトを刺すまねをする真三郎。
「寝てなくて暇なら少しは官話でも詩作でもやらんか、まったく………」
聞き違えた尚永王がチクチク真三郎に針ではなく釘を刺す。
「お恥ずかしいアレは試作でして………職人が土産用に作った品も鶩屋で売り出すようでして、おおっと、二幕が……」
あわてて話をそらす真三郎。
ガジュマル木をモチーフにした王宮で国王夫妻が逆臣に討たれ、城は邪悪な黒犬の物となる。
「恵応は、恵応はどうなってしまうの?」
「なんて極悪非道な黒犬………」
「ふむ、古典にいう貴種流離譚の一種ぢゃな。」
女官達の悲痛な声に冷静に蕭崇業が解説する。隣では山原水鶏が酌をよくみるとクィーナの髪には銀の簪、高位士族の妻や娘しかつけれない身分証明の簪だか、冊封使からの賜り物となれば例外である。
「獣の世界にしたのは秀逸ですわ、あの動き京師の座でも拝見したこともない出来ですわ!」
鍛え挙げられた役者の動きに謝杰も感激している。
場面代わって、背後のセットには二つの大岩、海ギタラと陸ギタラ、第二尚氏の開祖尚円王こと金丸の出生地、伊是名島を思わせる風景である。
頭にシーサーの面を被り、綺麗に六つに腹筋の割れた青年恵応が登場し、高々と歌い上げる。
「なーんくるないさぁーー!!!」
……………………
い、以下省略
……………………
シーサー恵応王子は無事に父母の仇を討ち獣のヤンバル王国に平穏が訪れる。
舞台袖から出演者が一列に並び万雷のごとき拍手が対岸の古波蔵まで轟く。
「ふむ、斬新かつ面白い趣向ぢゃな!」
正使として威厳を振り撒くが隣でシナを作るクィーナがいやでも目にはいる。
「そうね、月は残念だったけど天候までは仕方ないわ」
「いや、もう暫く、後一つ余儀が………」
舞台の垂れ幕が下ろされると、漫湖の水面、遠く高台には首里城、夜半、不夜城の程を成す西の久米と異なり農村の広がる東側には贅沢な灯はあまり見えないはずであるが、幾つもの篝火が焚かれ水面を照らしている。
「あっ!!」
「篝火が?」
「な、なんだなんだ!!」
真玉橋や対岸の古波蔵村から次々と火球がフワリと空に昇りだす。
水面には空に昇る火球が写り込み幻想的な光景を作り出す。
奥武山でも陣幕の奥で灯されていた篝火の上昇気流を捕らえた天灯が次々に放たれる。
「こ、これは!」
「うー幻想的!」
「綺麗………………」
「天に向かって落ちていくようですわ!!」
松脂の松明を燃料に明の高級紙、徽州澄堂紙に桐油を染み込ませた紙気球、その数200機、さらに湖面には障子紙で覆った蝋燭を乗せた板筏、所謂精霊流しが400隻。上流の真玉橋や、漫湖に浮かぶ小舟がら流され星も見えぬ曇天の琉球を天上天下の星々の海に浮かべてしまう。
「こ、これは見事ぢゃ!!月ならぬ天の灯りぢゃよ!!」
「す、素晴らしいわ!!是非京師の帝にも御覧いただきたいぐらいだわ!これはご褒美よ!んー(^3^)/!」
辺りが空を見上げている隙に真三郎を引き寄せいきなり…………………頬に口付けをウケる真三郎。
「orz…………しょんなぁぁ、俺頑張ったのにぃ、ご褒美がこれなんて、ありえねぇーー!!」
段な護衛の控え室で様子を伺っていた真牛と通事をクビになった樽金が、腹筋が割れる程笑いまくり樽金は二、三日腹の筋肉痛で苦しんだという。
大丈夫でしょうか?
不味かったら…………なんくるないさぁあ!!




