第74話 仲秋の宴①
本日二話投稿
酷評にアカバンの予感が……………
万暦三年 天正三年 1575年 旧暦8月15日 グレゴリオ暦ならば9月14日 真三郎15歳
沖縄の九月といえば台風シーズン、フィリピン沖で発生した台風がそのまま西に進まず偏西風に押されて琉球列島でゆっくり北東に進路を変えて北上。やがては日本列島に沿うように速度を上げながら進み何処かに上陸するのが常である。琉球の島々のどれかには平均して一つは上陸、暴風圏内に二、三度入るのは珍しくない。
そしてやはりというか、仲秋の宴の予定日、望月の夜は大荒れとなり、司天官(気象予報士)の予測により二日前には宴の順延が残念ながら決定していた。
◆
五日後
台風一過、南風により大風の後は透き通るような青空にカラリとした風、絶好の片付日和となるはずが、湿った風は分厚くたれ込む雲をもらたしていた。
「これは…………」
「ふむぅ」
「月は無理でしょうな?」
「せめて風が吹けばあの雲を散らして一瞬なりとも………」
「でーじなとぅん」
「風ひとつないとは、金武王子殿下もついてない」
「流石にこれ以上の延期は重陽の宴に支障が………」
「強行するしか……」
「宴だけでも………酒に酒肴、音曲さえ」
漫湖に浮かぶ奥武山、号して天燈山 沖宮。かって真玉橋の生け贄騒ぎの際に一芝居を打ったその場には真新しい桟敷が築かれていた。
夕刻に冊封使一行に尚永王一行をきらびやかに飾り立てた竜舟にて久米唐営の船着き場から奥武山に渡し、三番勝負の爬竜舟競争が前座として場を盛り上げていた。
カンカンカン!カンカンカン!グワァーン!
「久米の一組の勝利じゃぁ!!」
ドンドンドン!!カラーン!グワワァーーーン!!
琉球を代表する港、唐口の久米と大和口の泊、メインレースの勝利を告げる大旗が大きく振られると、背後に並び立つ三重城と屋良森城の鐘に太鼓の音が漫湖の湖面を通してはるか彼方まで響き渡る。
ボフッ!ボフゥ!
爬竜舟競争の終了を告げる鐘と太鼓の音を受けて桟敷の周囲の篝火に次々に火が灯される。いよいよ仲秋の宴の開演である。
五丈四方(約10㎡)に築かれた舞台には緋毛氈が敷かれ左右に一段下がって置かれた楽壇では笛、小鼓、笙、小銅鑼、胡弓に三線を加えて琉球風にアレンジされた楽工達が妙なる唐楽の調べを奏で始める。
よーぉー!シャンシャン!はっ!ピィーー!
寿星と呼ばれる翁の仮面姿の米須伊原親雲上楽人様による唐代からの歴史のある格式高い開演の舞いが厳かに執り行われる。
パチパチパッチン!
「うむ、見事!」
「素晴らしい舞いでしたわ!」
「舞いも見事じゃが、この酒肴も中々の美味、京師でも食べた事がない珍味ぢゃよ」
膳には陽数にちなんで九つの酒肴、マニラからの珍しい椰子酒に明の紹興酒、金武の鍾乳洞で五年寝かせた古酒に果実汁も並ぶ。
正面に尚永と王妃、左右に蕭崇業と謝杰。留守居の名護親方を除く三司官ら王府の役人に冊封使の高官も下座に控える。総勢200名を越える客に合わせて500を越える明の儀杖兵に首里親軍
「はっ!こちらは鮪をたまり醤油とみりんに浸けたヅケと申す料理に、グルクンに古宇利島産のウニを乗せて炙った皿になります。久米唐営では豚をよく召し上がると伺いましたが、南海の珍味をと、亮成!通事を」
後ろに控える陪臣の樽金に通訳を頼む。
「あら?生、生はちょっとねぇ?」
赤黒く漬かった刺身に延びる箸がとまる。
「おや?これは?豚の脂身、ではないな?はて?」
「はい、これは慶良間で捕れた鯨の尾の身を塩漬けにしまして、紅麹で鮮やかな色を………ん?」
話していてふと違和感に気づく真三郎
「朝公様、冊封使様方は琉球語を」
後ろに控えた樽金が女将のごとくささやく
「うふふ。驚いたかしら?三ヵ月も滞在してるのよ、琉球の言葉なんてでーじかんたんさぁ」
流暢なうちなー口の謝杰
「さよう、通事は下がってよいぞ!」
正使の蕭崇業もペラペラ、明各地から集まるエリート達、広大な明では州ごとに別言語と言えるほどであり、科挙の合格者は地頭が違う。特に遥か琉球まで明の高い文化を誇る為に選び抜かれた言語学も天才的な二人である。
「あなたが王弟の朝公ちゃんね?うふっ」
「今宵の宴、如何なる趣向か楽しみぢゃよ!」
「はっ!お任せください!舞台の準備も整いましたので、まずは新しき花舞!鶩屋、|至高の四人組です!」
琉球各地より一芸に秀でた芸達者を集めた選抜オーディション、美貌に歌に踊りの達人を高額な給金で雇っているのである。
舞台の左右に設けられた高櫓より赤花(ハイビスカス)の花弁が撒かれ舞台や座敷にふわりと舞う。
登場する曲に合わせて舞台袖からは赤い紅型を着崩した舞台衣裳の娘が一人、おおきく左右に手を振りながら中央右に進む。当時の琉球には珍しい肩までのショートヘアだ。赤い漆の髪止めにも赤花があしらわれている。
「みんなぁ!輝く赤花は琉球の国花!花の精霊!元気担当、華だよぉぉーー!!」
「「「ハーナ!ハーナ!」」」
桟敷を取り囲むように法被に鉢巻き姿の若衆が赤く染められた撥を振りながら舞台下ににじりよる。
「あ、あれは?」
いくぶん不安そうな顔の尚永王が真三郎に問う。
「ご安心めされ、あれも仕込みにて、」
続いて藍にて蒼く染められた紙吹雪が舞い、左手より長い黒髪を纏めずに後ろに流し蒼い紅型を纏った少女が登場する。
「こんばんわぁ!!煌めく海は、紺碧の世界!癒し系美少女。魚だよ!!」
「「「ギョ!ギョ!ギョ!!」」」
今度は蒼い撥を掲げた若衆。何故かぴちぴち跳ねながら舞台下に集まる。
「さぁ!はりきってぇ!!」
ウコンで黄色く染められた紙吹雪が舞う。
「南海楽土は実りの秋!黄金の花が田畑に咲く!天の御使い稲でーす!!」
フクギで染められた高貴な黄色の紅型に豊穣な身体、稲穂を紐変わりに黒髪を二つに纏めている。所謂双尾だ。
「「「イーナ!イーナ!」」」
もちろん黄色の撥に法被姿の若衆である。
「「「さぁ!!最後はもちろん!」」」
舞台に揃った三人の美少女が背後に声を揃えて呼び掛ける。
「琉球は世界に誇る自然の遺産!神秘の森に佇む可憐な妖精、飛べない鶏は山原水鶏、水鶏ぞよ!!」
その辺からかき集められた葉っぱが大量に宙を舞い、杉の葉を火くべたスモークが立ち込める。近付きすぎた法被姿の若衆が何人か咳き込む中、染めるのが難しい緑の紅型に、嘴の赤をイメージしたかのように高価な紅を分厚い唇にたっぷり刺した上から四尺、四尺、四尺の豊満すぎる体型の持ち主が舞台真後ろ垂れ幕が左右に開いて現れる。
「「「クィーナ!クィーナ!クィーナ!!」」」
何故か一番熱狂的な歓声が跳ぶ。
「花舞としまして、琉球の誇る四輪の至高の花達が歌い舞います!!曲は十二支!!」
カンカンカン!グワァーン!ピィーー!
「「子、丑、寅!寅、寅、寅!今年は寅年だよ」」
唄う四人の動きは冴え渡り一子乱れぬ姿に歓声が轟く。特に声量はあっても動きの鈍そうな水鶏が驚くほどキレッキレッだ。
「「卯、辰、巳…………………亥は、明では豚だよ!!チャラチャラ!寅、寅、寅!」」
バーン!!
最後にクィーナが赤い襦袢が見えそうな前後開脚で身体の柔らかさを誇示した型でピタリと締める。
……………「「「うおおおーー!!!」」」パチパチパチパチ!ピィーー!パチパチパンチ!
思わず警備担当する首里親軍が鳴らした口笛が混じるなか、冊封使一行に随行した200人の明人、琉球側の役人達も立ち上がって拍手を続ける。
「く、水鶏ぢゃったか?ふぅー!」
息を切らせてポーズを決めつつ顔にかかった前髪をエロく、くいっとかきあげる姿に撃ち抜かれた蕭崇業が鼻息を荒くする。そういうタイプがどストライクであるようだ。
「ま、まぁ、まだまだありますので、次は久米唐営の誇る妓楼、翠微楼の妓女達による拍舞!!!」
至高の四人組が舞台を降りると続いて明の最高級妓楼で流行り始め絹の高騰を招いてしまった真っ赤なチャイナドレスにこちらは現在、翠微楼のみで見かける細い踵沓を履いた色気ムンムン、ナイスバディの集団だ。どことなく漂う風すら甘美であり、先程まで至高に合わせて撥を振り回していた法被姿の若衆達が生唾を呑む音が聴こえるほどである。
「南海に咲き乱れる徒花か、夜の帷に舞う蝶か、蛾か?舞って唄うは久米世(久米の時代)!!」
チャンチャンチャンチャン!!
「「お、爺、爺、爺、爺、気になるオジィはナンクルナイサ?」」
「「お、婆、婆、婆、婆、恋せよオバァはマーサンど!!」」
七人の妖艶な美女が際どい所までスリットの入ったチャイナドレスに纏足ではない選び抜かれた美脚を披露しながらタップダンスの様にヒールで見事に拍を鳴らすのだ、相伴に預かっていた琉球の群臣だけでなく、冊封使の随行達も口を開けて箸や、盃を落としている。
「アガッ!!」
ポカンと箸を落とした尚永王の脇を王妃として静かに並んで控えていた北谷王子朝理の長女 真満金、号して神功がぎゅっとつねり、返す刀で真三郎を冷ややか過ぎるジト目でみやる。
「うっ!」
(うっ、夜、夜来香さん、ぼかぁやり過ぎてしまったわけで……………いかん、いかん。)
王妃以下二人の側室、王宮の高位女官達の今回の接応役である真三郎への評価がただ下がりした原因であった。
「つ、次は趣向を換えまして、琉球伝統の若衆による演舞、武舞!!」
「鶩屋の精鋭、初代、跳躍団!!入場!!」
舞台の両袖から側転に後転しながら四人の若衆が登壇していく。
遠目にはまるでごみ袋のように見える最上級の羅、褌はもちろん、乳首までが透けて見える。
先程まで真三郎に険のある視線を浴びせかけていた女官達に一部の高官(保栄茂親雲上)からもキャーという矯声。貴賓席の冊封副使謝杰も食い入る様に舞台を見つめている。
「こちらは手の型等を随所に取り入れた若衆舞になっております。」
真三郎の解説を聴く者はいない。
チャンチャンチャンチャン!
「回転舞!!」
一列になった若衆が右手を回転させながら防御の体制、続いて身体も突きを避けるように腰を落としながら順番にそう、風車の如くまわりだす。
ヤンヤ、ヤンヤ!!ピィーー!
「走人舞!!」
横一列に並んだ跳躍団が楽に合わせて舞台を走るように足を高く上げて動かすも前には進まない、足を上げるより着地した足を引くことが重要である。
「キャー!此方をみたわ!」
「私に手を振ったのよ!」
「なによ!」
「はぁん!桃色の乳首!!」
武に頼らず、楽や芸によりたつ琉球王国に一陣の風が吹き込んだ瞬間であった。
つ、次も酷いかも




