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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第73話 宇賀神

首里城御庭(うなー)での国を挙げた冊封の儀も無事に終わり、北殿に場を移しての宴会は琉球の御冠楽(うざがく)隊と明の路次楽(ろじがく)隊によるお互いの国の音曲の即興的な演奏と夜が更けるまで米須伊原(コメスイバル)親雲上楽人(がくと)様らによる古典の舞にてお開きとなった。


首里門からはるか眼下に望む久米唐営の天使館。

国王自ら見送りに出た冊封使一行が見たものは首里の町から遥かな天使館まで二間ごとに続く火竜のごとき約2000人の首里親軍(しゅりおやいくさ)の掲げ持つ松明と十間毎に燃え上がる篝火(かがりび)の連なりである。

使節一行を夜半に送るためだけに琉球中からかき集めた琉球松に薪の山は真三郎の竈による燃料(エネルギー)改革がなければ那覇の庶民の暮らしに薪の高騰という形で負担がいく程であった。


「ふぃー、終わった。終わった。」

御轎(うちゅう)の列が首里の町外、中山門を四半刻かけてゆっくり夜景を眺めながら通り過ぎる鐘の音を待たずして真三郎が伸びをする。

「朝公!ふっふっ、もう少しじゃ。」

王妃を従え先頭で頭を下げていた尚永王から頭をあげるのが早いと苦笑いの叱責が背後に飛ぶ。

「し、失礼!!」

グワァーン!

「止め!」

司香の声に群臣一同が今度こそは頭を上げて、自らの国王。若太陽(わかてぃだ)首里天加那志(すいてんがなし)に跪拜する。

「ふむ!皆の者、大儀であったな!

さて、|御物城御鎖之側《貿易倉庫兼外交担当大臣》の豊見城親方や|久米長史《久米村総括兼外交担当大臣》の鄭佑より冊封使の持ち込んだ御物の評価(はんがー)取引も順調と聞く!」

「はっ!」

「大和の商人に倭こ、んっ琉球商人達の一部には既に内覧も無事に終えております。」

中列より進み出た準大臣クラスである紫冠の官吏が跪拜して復命する。

「うむ、三司官、羽地親方。金武王子!」

二列目に控えていた真三郎の斜め後に安棟が進み出る。


「安棟!天使館の接応。大変じゃが残りの期間も頼むぞ。」


「はっ!」

安棟が跪拜のまま答える。

「朝公!仲秋の宴は来月じゃが準備は進んでおるか?」


「お任せください!いろいろと趣向を凝らしておりますれば。」

顔をあげた真三郎がニタニタと思わせ振りな笑みをこぼす。

三重城(みえぐすく)屋良森城(やらむいぐすく)を見事な鐘楼と鼓楼に変え、(そら)五色(ごしき)の魚を泳がせたそなたじゃ。心配はしておらん。」


「はっ!」


「明朝の祭天儀礼の後に書院に参れ、ちと話がある。」

群臣の手前か真三郎を招きよせ小声で話す尚永王。

親密そうな兄弟の様子に一部の群臣の間に安堵の表情が浮かぶ。



首里正殿及びその至尊の玉座は中華の歴代の皇帝や大和の帝もそうであるように南面してはいない。

基盤となる首里の丘が東西に伸び、町並みも北に広がるからか琉球独自の風水は90度傾いているように四神相応の配置を採り、中華世界を中心に配置し琉球国王の玉座ははるか西の彼方を望む。まさに守礼の国にふさわしい。


しかし、冊封の翌朝、冊封の儀の執り行われた御庭では明の役人達に秘密裏に王府のごく一部高官のみが参列し密かに子の方角を拝礼する祭天儀礼が行われていた。


かつては亜細亜の各国で行われていたシャーマニズムに基づく天の祭礼ではあるが、天子の治める中華以外、冊封を受ける国には禁止されていた。さらに天を祭るに太陽の昇る東、琉球開闢の久高島の方角でもなく、南中する南でもない。

密かに天として大和のある北の方角を拝礼する意はなんであろうか?


閑話休題



首里城 書院

明は太湖に産する奇岩を模した不思議な形に孔の開いた巨大な琉球石灰岩を中心に蘇鉄や色鮮やかな南国の花木を配した琉球式庭園。庭園を望む障子は大きく開け放たれ中から心地よい音が響く。

パチン!


パチン!


「金武王子殿下がお越しです。」

案内係の小赤頭(こあくべ)(小姓)の声に王自らの指示が飛ぶ。


「おおっ!遅いぞ朝公!朝公の茶を淹れたらそなたらは少し下がっておれ。」

「はっ!」


パチン!


パチン!

「どうだ?朝公も象棋を嗜むか?」


「おっ!将棋ですか?御主と兄上の勝負…………?えーとこれはいったい?」

碁盤に並べられた丸い駒に真三郎の手が止まる。

「なんだ朝公。象棋も知らんのか?全く、仲秋の宴は大丈夫か?官話も上達しておらんようだし、明の使節が余興に一局求めてきたらいかんする?」

久米具志川王子朝通が動かそうとした丸い卒と朱書かれた駒を前に進めながら怪訝な表情で真三郎に苦言を呈する。冊封の後の宴会も一人相槌を打つだけの真三郎に気付いていたようである。


「えーと、その卒とか砲の駒はいったい?」

(あれはまさかの軍儀??わだすは………)


「なんだ、本当に象棋も知らんのか、来月までには覚え…………!!」


パチン!


「ふっ詰みましたかな?」

朝通の男にしては細長い指が局面を差す。


「くっ!!んーないなぁ。この借りは朝公にといいたいが、遊びはここまでだ。」

尚永王が盤上の駒を散らし、懐より一通の書状を差し出す。


尚王家、当代の王に連なる三人の異母兄弟が王の私室とはいえ一室に集うのだ。内密の相談である。

「こ、これは?」


「冊封使からの書状じゃ」


「なになに、万暦二年九月広東、福州沿岸を荒らしていた大倭冦の頭目林鳳(リンポー)、広東巡撫 の掃討作戦により広東の入江より離脱。遠く離れたルソン島に新たな本拠を築くべく六十のジャンク船に3000の手下共を乗せて襲来す。」

漢文の書状に一瞬戸惑う真三郎に変わり朝通が読み下す。

「さ、三千!ルソン!」


「ルソンに砦と町を築いていたエスパニア人が砲撃により撃退、別の場所に上陸し要塞を築こうとしていた所を広東巡撫より兵科都護史(とごし)凌雲翼(りょううんよく)の率いる掃討艦隊とエスパニア、ルソンの現地人の連合が海上を封鎖、一部の手下が運河を掘って逃げ出したが首魁の林鳳に副将の倭人は無事に討ち取った。

琉球国王におかれては領内に逃げ出した倭冦の残党が根城を築かぬよう海域の巡回警備を強化せよ………とあるな」

書状を収めて尚永王に差し出す朝通


思わず顔を見合わせる真三郎達。

「三千の倭冦となれば首里親軍に匹敵する大軍、六十艘のジャンクなど那覇の港を埋め尽くす程では………」

琉球の表玄関にあたる久米島の領主である朝通 は顔面蒼白である。

「落ち着け朝通、残党とある。ジャンクで何艘といったところであろうし、冊封使は鎮圧、安全を確認して参っておる。」


「しかし、話に聞く尚清王の御代には倭冦が那覇の港に押し寄せたこともあったとか………」

(危険なのは島津だけだと思っていたけど…………うー付き合いのある浙江や福州の倭冦は武装商人って感じだけど三千の手下の海賊団って……琉球に攻めてきたらひとたまりもなかったかも)

「冊封に合わせて朝公が三重城と屋良森城を改修してくれたので防備はかっての比ではない……とはいえ、大砲や火矢を満載されると」


「冊封使様に琉球の防備の為に冠船の砲をいくつか譲って頂くわけには?」


「うむー、残党が未だ彷徨く今は難しいであろうな。」


「では琉球で大砲なりが鋳造出来ぬか試して見ましょう。鐘楼の鐘も半分は琉球で鋳造しましたし。そうそう大和の船は火縄銃を多く積み込んでおりますが、南蛮の技を大和で改良したようで琉球の職人も真似が出来るはずです。」

「そうだな、軍備も少し整えるか、朝通は久米島の防備、朝公は慶良間の連絡網を密にして技の手配を内密に進めてくれ。」


「しかし、このような大事をうちうちで決めて宜しいので?」

青ざめた朝通が訪ねる。孤島の久米島では何かあっても援軍の当てがないのだ。

「軍備には母上が反対なのじゃ、聞得大君様を初め神女(ノロ)達の霊威で守護された琉球に武器は要らぬ、溶かして楽器にでもせよと、倭冦なんぞ火に当てた蝋のごとしとな。」

苦虫を噛み潰したような表情の尚永王。

教祖のような白衣の神女達が現実の危機を直視せず三線片手に唄う姿が脳裏に浮かぶ三人

「三司官らには?」


「杞憂であればよい。様子をみて話すつもりじゃ

朝公には仲秋の宴の準備に忙しいなか悪いな。」


「いえ、お構い無く。」

(これはおおっぴらに大砲制作オッケーってことでいいかな?火縄銃も手にいれるか……)



首里 円覚寺

宗教都市でもある首里には円覚寺、天界寺、天王寺て庶民には余り普及してはいないが多くの寺社伽藍が立ち並んでいた。

特に鎌倉円覚寺を模して創建された首里円覚寺は臨済宗の名僧芥隠承琥を開祖とする第二尚氏の菩提寺であり、冊封の為に神話の時代の王の神主(位牌)まででっちあげた崇元寺とは格が違っており、態々明より運ばれた石材も散見できた。


その一画、正方形の放生池(亀や魚等を放って功徳を積む池)の中央に美しい堂がある。


「オン ウガヤ ジャワ ギャラベイ ソワカ……」


白い神衣を羽織り巨大な翡翠や水晶の首飾りを身につけた妙齢の美女が閉めきられたお堂の中で一心不乱に唱える真言

堂の中は捧げた沈香の芳しい香りの烟に隙間から差し込む日の光が見事なコントラスで神像を照らす。


祈る女は尚永の母、国母である梅岳

神像は弁財天、といって一般に想起される琵琶をもつ七福神の一柱、ボートに乗るカップルを別れさせる嫉妬深い(霊験あらたかな)弁天、富を祈る弁財天、音曲芸能の弁才天とも称される弁天様ではない。

かといって元の神格であるヒンズー教の三尊神の一柱ブラフマーの妻である白鳥に乗る水神サラスヴァティーの姿でもなけれは間違っても額に第三の眼がある甘味の女神(食っちゃ寝)の姿でもない。


八臂に武器を持ち来沖した冊封使が弁戈天(ほこ)とも記録した恐ろしい姿で荒ぶる女神、中世日本の偽書(インドより伝わった経典に由来しないお経)で土着の蛇神と習合した日本独自の儀軌(ぎき)(神仏の姿、どんな武器を装備しているか当時のぼーさんがかんがえたさいきょうのほとけさま)に基づく神、頭上に翁面蛇神の冠を頂く宇賀(うが)弁天である。(琵琶湖に浮かぶ竹生島の弁天)

由来は不明ではあるが定期的に琉球を襲う大風に回りを水、大海に囲まれ、山には毒蛇(ハブ)が蠢く琉球。聞得大君を始め女性の地位が比較的高い琉球において神仏習合の中で琉球神道の君手摩(キミテズリ)、聞得大君に憑依するとされた女神と同一視され信仰を集めていた。


「オン ウガヤ ジャワ ギャラベイ ソワカ

オン ウガヤ ジャワ ギャラベイ ソワカ

来月仲秋の宴に大風を!大雨もって北の面目を潰してたもれ!くっくっく!官話も唄も詠めぬ愚か者が城の修復でいい気になりよって!

前回は今帰仁のババァ共に邪魔されたが、妾の霊威(セジ)に霊験あらたかな弁天様の御加護。いくらなんでも大風はいかんともしがたいじゃろうて、あーはっはっはっ!」

美しく真っ赤な紅を引いた口許を右の掌で隠しながら高らかに笑う声が首里 円覚寺 弁天堂から城にまで響き渡るのであった。



当時は久米の天妃宮の裏手にある善興寺にあり中国の航海神、碼祖とも同一視されており、首里の円覚寺の弁天堂には薩摩の侵攻で略奪されるまでお経が納められていたようですが、話の都合でもう首里にあったことにしました。m(._.)m


※今回の話でかなりブックマ減ってるんで連休中には書き直すかも………もーちょい丁寧に書いてみます。

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