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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第68話 撰銭


首里城 奥書院 尚永王 私室



「待たせたな朝公。ふぅ、暑いな。扇げ!扇げ!」

書院に着くなり龍の刺繍が散りばめられた豪華な袍

を小姓の一人の介添えで脱ぎつつ、別の小姓に扇がせる琉球国王 尚永王。

夏場の正式な式典は王の寿命すら削る苦行である。

「いえ、折角の文を頂きながら直ぐに登城せず申し訳ありませぬ。」

暑気払いにと真三郎の差し出した熱めの湯茶は金武で試作しているミント(ティー)である。


「おや?これは後味が涼やかだな?ただの茶ではあるまい?」


「ミントと申す南蛮の薬にございます。福州の船より頂きまして、暑い琉球の夏に一服の清涼をもたらす味かと」

乾燥させたミントと茶葉のブレンド茶を詰めた大降りの茶壺を献上する。

「ふむぅ、ま、まぁよい、それより聞得大君御殿を詣でたとか、大伯母、いや、聞得大君様は息災であられたか?」

白磁の碗に注がれた薄緑のハーブ茶の香りと喉ごしの清涼感をしばし楽しんだ尚永は献上された茶壺から真三郎に目を向けて話題を換える。


「すこし咳き込んではおられましたが、言葉もはっきり……ただ、侍女に聞いたところによると病篤く、普段は横に成られている方が多いそうでってご無理をさせたかもしれません。」


「そうか………まぁよい。お前は此度の災禍もかかわりなく壮健そうでなりよりだ。」


「御主加那志のご加護を持ちまして。」


「ふっ、公務中ではないぞ、で、うふあがり島に流されたとは真の事か?」

尚永王も齢15の少年王、冒険話には多少の興味があるのだ。

「はい、丸一日強風に煽られ、上を下へ、東へ西へ。琉球への帰りの航路を探るべく船頭が明の航海技術で星と太陽から座標を測量した所、久高島の真東、距離は宮古の同じ程の場所に二つの島がございました。南の島に漂着しましたが、浜はなく、周囲全てが高さ二十間(60メートル)はある断崖絶壁に囲まれたまさしく絶海の孤島、本気(マジ)で死ぬるかと思いました。」

身ぶり手振りを交えて話す内に小姓達も良くわからない単語に気付かずクックッと含み笑いをもらす。

紐で亀甲に縛られ吊り上げられたことは話しても若干そそうが有ったことは金武御殿の最高機密(トップシークレット)である。

「ははははっ、無事に帰れたそなたらはでーじ強運じゃな。」


「はい。聞得大君加那志に祈願したお陰で、まさに九死に一生、運良く飲める水が手に入りました。そこで首里天加那志に一つお願いが………」

和気あいあいとした雰囲気に乗じて声を潜める真三郎。

「なんじゃ、公な願いは聞けぬぞ、公は評定でやる決まりじゃ」


「公とはすこし…………実は嵐の中、諸仏諸神に祈りまして、その中でうふあがり島の他に冊封使だけでなく明との交易船の通り道にあたるユクン・クバジマ(魚釣・久場 尖閣諸島)に烽火台と水があれば水場等を設け、海難救助の女神媽祖(まそ)神(久米唐営の天妃宮の祀神)の廟に奉じると誓いを立てまして。」


「なんじゃ、そんなことか、そうか、媽祖の功徳に対する寄進なら別に構わぬぞ、父の大島征伐の原因も宮古からの貢納船が風で薩摩にまで流されたからじゃった。そなたの好きにいたせ。」

公費の工面ではないと尚永の懐もゆるむ。

「はい。ありがとうございます。ただ、今は冊封の支度に力を注ぎたく、宮への寄進で済ませ余裕が出来る再来年にも調査に入ります。」


「うむ、冊封の儀まで一年もない。準備に遺漏なきよう。朝公は確か…………」


「はい、仲秋の宴と三重城にございます。」


「うむ。金武と久米の往復で忙しかろうが期待している。頼むぞ」


「はっ!」

(こっそり離島探索の言質はとれたかな?)



万暦二年 天正二年 1574年 9月



夏から秋、これ迄ルソン島を襲っていた大風が徐々に偏西風に流され琉球、そして大和方面へとその矛先を換える時期、その切れ間を捉えた最後の南風を捉えて南方から琉球に戻る交易船に大和各地に琉球や明、南方の産物を満載した交易船が那覇久米の港では出航の手配をしようと港は大にぎわいであった。

港が賑わえば妓楼もまた大輪の華を咲かせる。南海の商いで一儲けしてきた者、これから船底の一枚下は地獄の釜の航海に出立して身を立てようとする者がピンキリの女との逢瀬を重ねて夜が更ける。


久米唐営 翠微楼(すいびろう)


「組屋さん、いよいよ大和、若狭向けてに出立ですか。」


「お陰さまで卯屋さん、ルソンでは金や南方の香辛料や珍しげな壺や布が手に入りましたが、いやはや琉球の方が良き品が入りましたなぁ。」

久米唐営の最高級妓楼 翠微楼。浙江倭冦の一人、美貌の女主人夜来香(イエライシャ)の営む店ではあるが、奥の個室では商家の取引や接待も行われる。今宵の幹事は卯屋の若旦那こと真三郎、招待客はマニラより琉球を経由して大和に戻る商人達である。商いの場とあって控え目なスリットの給女が卓に酒肴を並べては席を外す。


「そうでしたか?うちも派遣した正房(手代)が龍涎香をエスパニヤ人に売り付ける予定が値も仕入たい品も値が折り合わず……」


「神屋さんらも同様で、明からの生糸は兎も角、絹や帛の製品が軒並み品不足のようでして、ぬえばえすぱにあ(メキシコ)と申す東の果てから大量の銀が運ばれて来たばかりでありましてな、折角の石見の銀も存外安く買い叩かれたとか、」


「そ、そうですか。マニラに渡る明の商人は福建や広東の出が多いそうですし。絹の産地の浙江や四川から離れておりますしな。」

(絹織物不足はまさかチャイナドレスの影響…………だったりして、まっいいか。)

席を離れる太股と揺れるしりを眼で追いながら実は真実を見抜いていた真三郎。

「ニンポーでの交易が再開できれば絹織物の産地に近いのですが………」

「明の官憲は未だ大和への海禁を続けておるし、」

「大和の船も倭冦の影響で……」

「さようで、全くそのせいで大内も細川も毛利様、三好様にとって変わられたようなもので、御久しゅうございます。金武、いや卯屋の若旦那様!神屋の番頭になりました吉右衛門にございます。」

商人達の話題に耳を傾けては情報収集に努めていた真三郎の耳元に声がかかる。

「これは、確か…えーと」

親しげな挨拶に戸惑う真三郎。

「そうですね。七年ぶりにございましょうか。あの時分は手代でしたが、今は二隻の船と南方での商いを任されております。一緒にルソンに渡った組屋殿から子細は伺っております。」

四十がらみの日にやけた海賊と呼ばれるほうが相応しい風貌の男の目配せに祖父新城安基の照会で信長の名を聞いた商人のことにはたと思い当たる真三郎。


「あー、ああぁ!確か博多は神屋の!えと、御久しゅうございますな。此度のマニラでの商いはいかがでした?」

金武王子としての面識は惚けてくれるとの目配せに卯屋として対することにした真三郎は何食わぬ顔で酌をして話を続ける。

「はははっ覚えておいでで。ルソンはすこし当てが外れましたが、収穫も。何やら来年は冊封の年とか。明の下賜品を目当てに参りますし、琉球の黒砂糖に薬酒、香辛料といった特産品を買い付けに参りますよ。」

利幅の大きい中国産の絹は少なくともシャムの鹿皮(鎧に必要)に鉛(もちろん鉛玉は鉄砲)、マラッカの錫(銅との合金の青銅は錫の添加量によって金色に輝き鎧等の装飾に)等に大和では手に入らない大量の硝石(火薬)といった軍需品を積載した死の商人ズが悪い笑いで盛り上がる。なんといっても軍需物資は儲かるのである。


一方、黒砂糖は残る在庫が少なく、真三郎の目的は来年の来琉に備えたサンプル品の商品提供と新しく出来た船宿兼倉庫に新たな商いの宣伝である。


「こちらこそ。来年には泊の日本町(後の若狭町)に納屋(倉庫)も増やしますし、出来ますれば上限枠を設けて皆さま方大店の割符(さいふ)(小切手)も是非に取り扱わせて頂きたいと」

真三郎の爆弾発言に酒を交わす商人達の動きが止まる。

「そ、それはまっこと有り難いことでんが……卯屋はん、まさか大和のどこかに支店でも?」

南海の産物を扱う競合店の予感に顔を見合わせる。

「へぇ、琉球から大和に学問やら修行やらで渡る者も増えましたし、いずれは琉球の産物を売るだけでなく、大和からの仕入の拠点を博多か堺に設けようかと。」

琉球や南方の国でしか作れない特産品の黒砂糖は兎も角、在庫が溜まり始めた内政系チート発明品の石鹸を大量に流通させ、さらに製法の秘密を守る為にも直接大和に出店する必要がある。少量なら南蛮渡来の珍品で通るが、大量に売ることや堺等にいるポルトガル人の宣教師たちに石鹸の出所を疑われてはまずいのだ。

「割符の振り出しが琉球でも可能になればいざという時も安全じゃし、手元不如意で儲け損なうことも減るのぅ。」


「しかし、銭では困るな、琉球では先年より二割は銭の価値が下がっておる。まぁ、儂らが銭の代わりに黒砂糖を積むもんだから明からの銅銭が琉球でだぶついて余っておるようだな。王府が動けばよいが」


「ふっ、王府ではなんにもできぬじゃろうし、銭の流れの把握すらできとらんはずじゃ。そもそも琉球では久米や首里以外は銭が使われておらんようじゃしなぁ卯屋はん。」


「確かに…………………し、いや、証文は当然明との交易の為ですので銀子で振りだします。手数料は大和並とはいきませぬが上限枠はそうですなぁ、とりあえず銀子2000貫(25億円)までならなんとか……」

急にデフレ問題を突きつけられて何やら思惑が浮かびかけた真三郎ではあったが、二、三日後には大和に旅立つ商人にいきなり隠し球をぶつける。

「「に、二千!」」


「それはなかなか……豪気なことで、」


「皆さま方も今すぐご返事をと、まぁそこまでの権限をお持ちではないでしょう。また、うちの担保に対する信用も確認したいでしょうから来年に琉球にお着きになりました暁にはよいご返事を是非に期待しております。」



首里屋敷


「樽金!今うちの、卯屋の銭倉にはどれくらい銅銭がある?」

三重城の普請番として首里屋敷と久米の実家の往復している樽金に帳簿の確認である。


「銅銭?そうですねぇ、真三郎様のご注文で嵩張らない銀子が主ですが……翠微楼での会合でなにか問題でも?」


「いや、そうじゃない。割符の話は予定通りに上手くいった。それとは別に銅だ、銅銭だけでどれくらい?」


「銅銭でですか?そうですねぇ、まぁざっと二千貫分は銅銭ですが?」

覚えているのか首を傾げることもなく答える樽金

「えーと、一貫が1000枚だから、千、万、十万……にひゃ、二百万枚!!」

ひとつ、ふたつと指折り数える真三郎の指がピタッと止まる。


「真三郎様、大型のジャンク船でしたら一隻で軽く一千万枚は船底に積んでますよ。」

(えーと確か明では税金を銀子で貢納。市場で使われなくなった銅銭が琉球や大和に船底のバラスト(重り代わりに)として流れてくるんだっけ?宋、明初期の銅銭に粗悪な私鋳銭(ニセ金)も混じってるみたいだしドンドン琉球に運ばれてきたら、まぁそりゃあインフレになる道理だ。)

「樽金、羽友や君之とも相談するが、大和と比べて 銅銭の価値がだぶついて下がっておるらしい。」


「確か、父も同じことを、大明では既に金属、銅としての価値のしかないそうで」


「そうか、なら話が早い。先日大和の商人も話しておったんだが、うちで撰銭(えりぜに)を行いたい。」


「撰銭、ですか?今は鐚銭は良貨の半分の価値でありますが、確かに基準も曖昧で銭での取引に慣れぬ農民が騙されたり、支払いで揉めることもあるようです。」


「だろ?領内でもハブに打たれ(咬まれ)て畑仕事が満足に出来ぬ民が多いだろ?見本の銅銭を見ながら彫りのちゃんとした良貨のみを選別して、一貫毎にきちんと整理する。三分程の手数料はとるがな」

消費税も三パーセントから、97枚を100文分として認証すれば、差額は手数料になる。良質の銅銭の証明代だ。


「しかし、混ざりものや鐚銭はどうなさるお積りで?卯屋の倉が鐚銭ばかりになるのでは?」


「なに、鋳直して鍋や耕具にすれば良いだろう。」


「採算度外視になりませぬか?」


「鉄が入らぬしいいだろ?それに少しはシャムの錫が手に入った。青銅の鐘を鋳造して三重城の鐘楼に吊るしても良いなぁ。万国津粱の鐘は首里の鐘楼だし、うーん、除夜は違うし、のーとるだむは、アレだし、国家安康、君臣豊楽………うーん、銘は観音堂の日英様か、漫湖だし、沖宮の永興(えいこー)宮司にでも頼むかのう」

(確か、大砲は鉄じゃなくて青銅製らしいし鋳造技術を確立するのに役にたつだろうな。)


年度末で来週は更新できないかも

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