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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第63話 うふあがり


「急げ!ありゃやばいぞ!」

「船頭!これ以上切り上がるのは無茶です。船体が持ちましぇーん!」

舵を握りる船員が悲鳴のような泣き声をあげる。


急激に発達した積乱雲は暖かい黒潮の運ぶ水分を大量に含んだ湿った空気をどんどん吸い込み、やがて重みを増した黒雲は雷雨となって一気に自重崩壊を始める。

「殿様ぁ、り、龍だ!龍神だ!」

飛漣(フェーレン)が進行方向であった左舷を指差す。

「ばか!あれは竜巻だ!お、面舵いっぱい!いや、帆を、帆を急いで巻き上げろ!裏打ちしてしまう!いいからどけっ!」

舵を替わった川満船頭の指示に告天号は大きく向き変える。

雲の一部が細く漏斗状に海に向かって垂れだしたかと思えば白く、細く収束した竜巻は、やがて天と海をその身で繋ぐ真白き龍の如く姿を変えて告天号にと牙を剥く。

「だ、だめです!何かひっかかって動きません!」

帆を畳む綱を引く船員らの悲痛な叫びが船を打ち出した大粒の雨の中にもかかわらず響き渡る。


ジャンク船系統の帆は今でいうブラインドのような形状で綱を引っ張ると帆が折り畳まれながら上に上がる構造である。

「真牛、飛漣(フェーレン)俺らも手伝うぞ!」

駆け回る船員らに邪魔だとばかりに船室に押し込められた真三郎であるが、なにもできずに手をこまねいてばかりはいられない。

「何を馬鹿なことを!いいです。殿下は船室の中にいてください!」


「ぎゅぐぇーっつ!」

怒鳴る真牛に空になった竹の水筒を腰に強く、かなり強く巻き付けられる真三郎。


「くっ!すまねぇが殿下は中に、これが上手く…… 」

「「「はーいーやー!」」」


船乗り達に混じって甲板で上着も脱ぎ捨てた真牛も綱を握る。

「おっっと、牛兄ぃ、俺にまかちょんけー!」

揺れる甲板から飛漣の振りかぶる釣竿は帆柱の先端をものの見事に捉える。流石に一寸前まで金武と読谷間切の境にある多幸山にて釣竿の針で荷物を引っ掻けて奪ってう元妖怪追い剥ぎ(フェーレー)である。

波に煽られ左右に揺れる船体、それ以上に遠心力がかかりながら大きく揺れる帆柱の上に(ましら)の如く登ると綱が絡んだ滑車からずれて引っ掛かっててた綱をさっと戻す。

「出来た!!」


「さ、三角波だ!」

「つ、つかまれ!」

二方向からの波が合わさり、富岳三十六景のひとつ相模浦沖のような巨大な波頭に一瞬船体が宙に浮き、落ちる瞬間真三郎の股間もギュッと縮まる。


「うわあああっ!」

帆柱を慎重に降りようとしていた飛漣が着水の衝撃に足を滑らせる。


「「飛漣!!!」」


「ふぅぃー。ナイスキャッチ!」

揺れる帆柱から荒れ狂う海に向かって頭から滑り落ちる飛漣の伸ばした腕を舷側から身を乗り出した真牛が片手でつかむと、一気に引き上げ甲板にお姫様抱っこで見事に抱える。濡れ濡れの二人に思わずサムズアップする真三郎である。

「坊主、助かったぜ。後は海の男の出番だ!やろーども!殿下の前になさけねー姿をさらすんじゃねーぞ!」

飛漣に礼をした船頭がカツをいれる。

「「「よーそろ!」」」


「横波にだけは注意しろよ!殿下、悪いが荷をすこし捨てさせてくだせぇ、船がもたねぇ」


「勿論だ、早く荷を捨てろ!」

久米から西回りで金武間切に向かう告天号に積んだ荷の多くは金武鍾乳洞にて長期保存し古酒(くーす)に仕込む予定の泡盛である。

「ちっ!もったいねー龍神様が酒欲しさに荒れてやがる。」

「おう!たーんと呑んで、呑んだら嵐を止めてくだせー!」

「ほらよ!!」

船倉から次々と海に投げ出される樽が二十石、約四トンを越え、これ以上は逆に船のバランスが保てなくなり、転覆の恐れがあると川満船頭から中止の指示がはいる。

「ふぅー」

ギギギッー


舳先を風上に向けて大波を幾度も乗り越えるなか、強い雨足は数刻早く辺りを闇に包み込んでゆく。



上間親方長胤屋敷


「やはり、河神のタタリじゃと!」

「いや、龍神の祟りらしいぞ!」

「贄はどこだ!娘をだせぇ!」

「ちっ、いないぞ?逃げたのか。」

「うわぁ、だ、だれだ火を放ったのは!火付けは重罪じゃ!」

「し、しらねー!逃げろ!」


金武王子朝公御座船、告天号が金武湾沖で急な嵐に巻き込まれ行方不明になったとの一報は樽金らの箝口令にも関わらず首里の士族街や商いに敏感な久米唐営以外にもまたたく間に野火のごとく広がっていた。それも龍神の祟りとの不吉な噂とともに


真玉橋(まだんばし)の神箭の儀に不満を抱えていた一部の民が三重城(みえぐすく)屋良森城(やらむいぐすく)の普請で国場川の河口でもある漫湖(まんこ)にまたしても手を入れた為に龍神の怒りに触れたとの噂である。



首里屋敷


「長胤殿、よくご無事で、安昔もよくやったな。」

真三郎の留守を預かる池城安李も昨日から寝ては居らず疲労の折りの出来事に頭を抱えており、飛漣の不在は金武間切との意志疎通に時間を要していた。

その織りでの新たな問題である。

「しかし、暴徒化した民が火を放つとは……我が古波蔵村でも一部の領民が騒ぎだしまして……」

屋敷を荒らされた上間親方らを真三郎の叔父の一人で池城三兄弟の三男、早くに古波蔵村の親雲上になった安昔が匿い首里屋敷に伴ってきた。

「しかし、殿下の行方も今だ掴めぬ時にまたしても迷惑を」

疲れ果て震えて眠る娘を横目に上間親方が陪臣であり、身分は下の安李らに頭を下げる。

「首里での始末は兄(三司官 羽地親方、池城安棟)もおりますれば我らに、久米は程羽友、君之殿が押さえております。長胤殿はお勤めがあろうが娘御達は恩納の仮屋敷に一先ず身を御隠しなされ、予見されたのか、をなり(真三郎の霊的守護者)であります今帰仁ノロの馬様から急ぎの文で御二人が参ったら恩納にお連れせよと、あちらでは家宰の安桓が万事うまくやるでしょう。」

正式にはまだ今帰仁ノロを継いではいない馬ではあるが長胤を安心させるために今帰仁ノロの名と元は航海の無事を司るをなり神の名前を掲げる。


「殿下のをなり神……しかし、殿下の行方も今だ掴めぬのに」

をなり神の名に僅に愁眉を開く長胤

「なに、最新式の船に慶良間の船頭、船人夫達だ。二、三日もすればよき知らせが来るかと。」

自分にいい聞かせるように断言する安李


「では、あれの亡き母の里も近く、今は頼れぬ為、真に申し訳ございませんが、娘の恩戸(うみとぅ)と豊見城の元祝女であり、娘と同じく贄に指名された嘉樽(かたる)も」


「上間親方の下で侍女をやられてたとか?」


「はい、此度は御迷惑を、誠に申し訳ございませぬ。」

半分廊下にはみ出した下座から額を擦らんばかりに土下座をかます。


贄に一度は選ばれたものの真三郎の饅頭作戦で溺死を免れた嘉樽であったが、村人からは避けられノロの畑であるノロクイ地が夜中に荒らされる、神事は別の神女が依頼される等村八分の目に会い、ノロを辞して上間親方、同じ境遇といって良い恩戸の世話係として使えていた。

「なに、なに、殿下の噂で難儀した皆様を放置したといったら殿下に何をされるやら、」

目の下の隈も色濃く残る安李が空元気を見せつけるのであった。



時は遡り、嵐の翌日、未明。


「かなり東に流されたか。しかし、なんだったあの嵐は?司天監の予報になかったが…………」


嵐のピークも過ぎ、一晩中操船に奮闘した船員の多くは屍の様に疲れきった身体を横たえていたが、流石に船頭の川満は起きており、明由来の最先端の航海術か天性のカンかコンバスで地図を見比べながら現在地を探ろうとしていた。


「ん?殿下!外はまだ雨が、夜も明けきらぬ内に甲板にでるのは危険です。」

船倉から顔を出した真三郎の顔を確認して自重を促す。

「いや、少し胸騒ぎが、ちょっと空気を吸うだけだ、真牛もついて来てくれ。」


「はっ!」



「なぁ、俺らは助かったのかな?」

波浪は治まりつつあり、氷雨のような冷たい雨を除けば残されたうねりが左右に船を揺らすのみである。

「さぁ、朝になれば帆も張れましょうし、大丈夫でしょう。」

「樽金らにもめっちゃ心配かけてるだろーな」


「そうですね、」


「問題はかんジィ、まさかポックリいやいや、帰ったらかめオバァに説教喰らうな。」

普段温厚なかめオバァに心配をかけた時の説教は人

が替わってそれは恐ろしく、オバァの泣き言は良心を刺しまくり身に詰まされる自責の念を数十倍に高めるそれは恐ろしいものであった。

「うっ、そ、それは是非真三郎様が!」

鍛えあげた真牛も精神(メンタル)攻撃には弱いようだ。


「ん?」

ドードーン!

遠雷がはるか遠い海上に落ちたようだが、波と霧のように細かい雨が落雷の音の殆どを吸収してしまう。

「ん?な、なにかいる?ある?なんだ?」

ピカッ!ドードーン!

刹那の落雷の光に浮かび上がるは巨大な断崖絶壁。

大海原に霧の雲を纏いて海面遥か高くにそそりたつ神秘的な島の姿である。

「ブリッジ!ラピュタだ!ラピュタは本当にあったんだ!」

「夢だけど、夢じゃなかった!夢だけど、夢じゃなかった!」

胸の飛行石ぢゃなかった獸型勾玉は光等を放ってはいないが、興奮のあまり訳の解らぬ叫び声をあげる真三郎。

「し、正面!舵を切ってください!」

真三郎の醜態に呆気に取られるも我に返った真牛の叫びにグクッと大きく転進する。


「らび?……じゃない、島!すぐ近くに島!これは伝説のうふあがり島じゃねーか!」


琉球の創成神の降り立った聖地、久高島。そのはるか東の果ての大海に伝説のうふあがり島があると海人(うみんちゅ)達の間では語り継がれていたのだ。


「みろ!北にも同じような島影がある、古老の言い伝えにある夏至の太陽(てぃだ)祀る島と冬至の島じゃ」

「ほんとうか?」

「みろ、日が、夜が明ける。」

雨も上がり、夜が明ける前の凍てつくようなピンとした空気が徐々に緩みんで東の空が朝焼けに白み始める

「しかし、やはり人気はおろか、停泊できそうな入江も見えないなぁ」

船から見上げる島影の断崖は恩納にある万座毛の断崖より遥かに高く険しく続く。


船頭(しぇんどー)!殿下!今調べたところ、あか(浸水した水)の排水に問題はないようですが、帆柱の一つと舵を少しやられました。」

船倉を調べて来た船員の一人が船頭と真三郎に報告する。

「直るのか?」


「調べてみないと、道具もありますが、二、三日はかかるかと………」

いつもは陽気な船頭の口が重い

「ん?どうした?」


「実は………酒を捨てるのはもったいねーと水から捨てた馬鹿がおりまして」

船員の頭を押し付け二人ならんでのダブル土下座

「酒なら残ってるんだろ?水がないならお菓子、じゃなかった酒を呑めばよろしくて?」

手の甲を口に充ててオホホと微笑む真三郎。

(あれ?確かこれはギロチンドロップへのフラグじゃねーよなぁ)

「殿下、酒といっても古酒の為に酒精の高い酒ばかり、のんべーならともかく、仕事にも、ましてや殿下に酒は……………」


「ハイ!ハイ!ハイ!なら!俺らが島を探検して水を汲んでくるぜ!いいだろ殿様っ!なぁ牛兄ぃ!」

揺れ続ける船にヘキヘキしてきた飛漣が下船を提案する。

「真三郎のお飲みになる水か、確かに急務だな。」

真牛も考え込む。

「うねりも収まりそうです、碇を降ろしますが、舵と帆柱の補修中には万が一の事故もありえます。上陸できるなら護衛に後二、三名はつけますので一旦、島で御休みになられては?」



まさかの無人島上陸作戦の開始である。





次号、三少年漂流記


or


ドキッ!男だらけの無人島生活




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