第55話 おもろ
未成年の飲酒シーンがありますが、いちおー歴史ジャンルなんでおK?
万暦元年 元亀四年 西暦1573年 三月 真三郎十三歳
旧暦ゆえ、はや夏の盛りを思わせる琉球の春。
首里城の正殿の奥背後、世誇殿では国王と王妃を迎え、即位式が盛大に執り行われていた。
もちろん、先王の死後、速やかに後継者である中城王子(王太子)阿応理屋恵が首里城内の寝廟殿に於いて先王、尚元王の御霊を祀り正式に尚永王として実質的に即位している。
今回の即位式は王妃および側室ね夫人の選定に伴う結婚披露宴を兼ねた国内、士族向けの儀式である。また、このあと明皇帝からの冊封を請ける対外的な即位式を正殿正面の御庭でと、都合三回も即位式執り行うことになるのである。
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「……より、北谷王子朝理が子女、真満金を妃とし、佐敷間切の按司加那志とし、年五百貫を封する」
世誇殿に設けられた玉座から皮弁冠に深紅の綾地に瑞雲や龍が隙間なく刺繍された唐御衣装を身に纏う王が立ち上がる。
腰に帯くは金装拵えの宝剣千代金丸。手の開祖京阿波根実基が京の都に赴き研ぎ直した王権の象徴足る名刀である。
尚永王の王妃に選定された真満金の化粧代となる歳費の額を議事進行役に任ぜられた筆者主取の孫親雲上が朗々と読み上げる。
「はい。つつしんで」
玲瓏な声の王妃は王と同じ赤地の衣装だか、刺繍ではなく、絹の紅型で妃の象徴の鳳凰が色鮮やかに染め抜かれている。漆黒の纏められた髪には黄金の簪飾りが花開く。
「屋慶名親方英之が子女、泉を夫人とし、前東之按司加那志とし、年二百貫を封ずる」
「ありがとうございます」
王妃より一歩下がった夫人の称号は真三郎の母、梅嶺と同じく前東之按司 黄地の紅型に赤花(ハイビスカス)が散らされている。金の髪飾りも二回りは小振りである。
「また、嘉手苅親方明信が子女、弥生を夫人とし西之按司加奈志とし、年二百貫を封ずる!」
「ありがたき幸せにございます。」
二人目の夫人は桃色の紅型に神獣の紋様である。年も二人より更に若く……幼く見える。
「うむ、余と共に琉球が安寧が為に、聞得大君様、また母上や、三平等の大アムシラレ方の指導に従い祭祀を司ってくれ」
「「「はい」」」
「うむ」
一斉に跪拝して王の左手に並ぶ。
「我が義父にして、北谷王子朝理殿。前に」
尚永王が王族席の朝理を玉座前に喚ぶ。
「はっ。」
「余は僅か十四にして父を喪い琉球国王として大任を負うことになった。叔父でもあるそなたが岳父となるのは心強い限りである。王子ゆえに直接国政に関与させられぬが、真和志より百貫の扶持をそなたに与えるゆえ、しばらくは首里の屋敷に滞在して余や王妃の相談に乗ってくれ」
「ははぁ!」
「久米具志川王子朝通!金武王子朝公!前に」
同じく朝通と朝公、真三郎は玉座の前に平伏する。
「兄上に置かれては中々首里で会えぬ。三人きりの兄弟、父の遺言もある。小禄に五十貫の扶持を与えるので、折りをみては首里に参り余の相談に乗ってくれ」
「首里天加那志の御心のままに」
「朝公、慶賀使の貢では手間を取らせた。父より馬艦船を拝領して采地に新たに港を作ったと聞く、兄上とも話がしやすいよう慶良間の間切五十貫を新たに与える。今後も頼むぞ!」
「はっ!ありがたき幸せ!」
(ケラマ?慶良間って渡嘉敷、座間味の慶良間かぁ。南国リゾート追加きたぁ!別荘でもつくっちゃう?)
二人の兄弟への加増によるのか、岳父に比べて少ないのか、はたまた別の思惑か群臣の中に一瞬のざわめきが走る。
「即位に伴う除目は以上である。御主の御代に!」
孫親雲上が、一瞬走った空気を切り裂くように華燭の典の始まりを告げる。
「首里天加那志、万歳!万歳!万々歳!」
「佐敷按司加那志、千歳!千歳!千々歳!」
◆
「では、余興の第一目、金武王子朝公殿下、並びに羽地按司安棟様によります『かぎやで風』演奏は米須伊原親方楽人、池城安頼他四名!」
玉座の対面に設けられた舞台の袖から真三郎と三司官でもある安棟が摺り足でゆっくりとせりあがってくる。
チャン、チャン、チャン!チャンチャンチャン!
「♪きゅーーぬーーーーーふーーーくーーーーらーーしゃーーーやぁーーーーー♪」
*
*
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「ふっ。一流ではないにしても、 見れるだけの舞にでも成ればと危惧しておりましたが、………まぁまずまずの出来で、ふっ」
唄と演奏を終えた米須伊原親方楽人様が国宝級三線城開鐘の棹をいとおしそうに撫でながら溜め息をつく。
「そ、それは酷いなぁ楽人様!」
超一流の唄と三線の伴奏によるかなりの嵩ましでどうにか観れる舞台になったのだ、手配した安棟叔父上の手柄である。
「朝公様、いろいろと思うことはあるやも知れませぬが、今は祝の席。ささっ早く席に戻りましょう」
めずらしき、祝の席にも関わらず目に険を浮かべた安棟が急かす。
「あ、ああ。叔父上?もちろん次の出し物は誰かな?」
◆
「おおっ、真三郎。中々の舞だったぞ」
衣装を整え席に戻った真三郎の杯に兄、朝通が酒の代わりに茶を注ぐ。
「兄上はやられないのですか?」
「まぁ、病がちであったし、一人ではな」
「しかし、今日は血色も良いようで。俺も折角の席だし、五月蝿い連中もいないから少し御酒でも嗜もうかと」
茶の杯を干して手酌で阿応理屋恵王子の生まれた十四年物の古酒の入った酒器に手を伸ばす。
「そうか?早くないか?まぁ、少し嘗めるだけな?」
手酌を制した兄が真三郎の茶が空になった杯に極僅かばかり酒を注ぎ、真三郎もこちらはたっぷりと注ぎ返す。
「とーとーとー!」
「さっ、兄上も!」
「とー!とー!」
「「では、佳き日に乾杯!(^_^)/□☆□\(^_^)」」
「ぷはぁ!旨いなぁ」
「おっ!次は女官達による天道虫の舞だぞ!」
普段は御内原で王妃達に使える女官が揃いの衣装と扇を手に優雅に舞う。
「うん、華やかでいーねぇ!」
「御来賓の皆様!国王陛下、王妃殿下、夫人の皆様のお色直しが終わりました。玉座に登段の折に改めて万歳の三唱をお願いいたします!」
真三郎達の余興中に中座した主役の四人が改めて玉座に登段する。
王冠を外した尚永は漆黒の琉装、よくみると金糸や銀糸で龍の刺繍が施された高級品であり、王妃は青、夫人は緑と白地の紅型であり、明からの絹張りの扇を手にしている。
「うん、うん、真満金。綺麗になったなぁ」
親族席の北谷王子朝理が娘の晴れ姿につい涙ぐむ。
「「「首里天加那志、万歳!万歳!万々歳!」」」
「「「妃殿下、千歳、千歳、千々歳!」」」
「皆様方!阿応、いえ、尚永陛下の即位に琉球各地より参られ、その忠節を示して頂きまして、妾も安心いたしました」
尚永の即位に伴い国母となった先の妃 真和志按司加那志がまだまだ妖艶な美貌を引き立てる黒地の紅型の袖を振る。
「陛下は若くして琉球の国主とおなりになられたのですが、先王の指示で、帝王学を国士監に遊学した官生らの薫陶をしかと受けておりまする」
「「ほう!」」
病で倒れた父王の代理として三司官の輔弼を受けて十分に果たしてきた尚永であった。平和な琉球では若い国王でも不安視する声は少なく、王位争いが起きなかったことで王族、首里の高官にも安心感が広がっている。
「そこで、陛下の治世を祝ぐ『おもろ』を皆様で唄いましょう」
「おおっ!それは善哉、よき余興になろう」
「ふむぅ」
(おもろ?おもろって何?)
「そうじゃな?陛下に継ぐ大金武王子、朝公様からどうですか?」
「おおっ!さて、さて!」
「噂の金武の火之神」
「えーと、おもろ?おもろねぇ」
急に余興を振られて辺りを見渡すが、他の面々も指折り唄を考えている。
「ささっ、朝公様!」
うっすらと意地の悪そうな酷薄な笑みを浮かべて国母が促す。
(ええーい!ままよ!)
真三郎はおもむろに立ち上がる
「で、では!下の句が猫っぽくなります!
『は、春の海 ひねもすのたり のたりかにゃ♪』
うーっおもろ!!」
両手の親指で顔を指し飛びっ切りの笑顔ではにかみ片目を瞑る!隠せぬ照れが気恥ずかしさが拭いきれてない。
「…………………………………………………」
「…………………………………………………」
「…………………………………………………」
「……で、殿下?えーと」
「?何を」
(は、は、外した!orz)
「ははっ!朝公にはまだ早かったかな?では替わりに某が唄おうか。」
白けまくった空気を一掃するよう兄王子であり、次席となる朝通が笑う。
「ん、ん、
♪首里天加那志や 大国や世添える 按司添しよ 鳴響め 精軍せち勝れ 精百せち勝れ………♪」
抑揚に見事な節回しの唄が世誇殿に響く。
「おおっ!流石朝通殿下」
「すばらしい」
「ふむぅ。韻をよく踏んでおるし、即位の席に相応しいおもろじゃ」
「次は儂じゃ!」
「名護様!三司官の首であられるあなた様は最後の締めに願います!」
「では、儂じゃな!
あはれ愛し阿応理屋恵 島討ち為ちへす 戻りよれ 国討ちへす 戻りよれ………♪」
琉球の古い韻を重用する唄である『おもろ』にパクった五七五の俳句をアレンジしてネタ化してしまい即位式の雰囲気に思いっきり冷水を浴びせた真三郎。
兄朝通の機転により即位式は滞りなく進み、酒も入った席はカチャーシの原形となる踊りにより厳か、ではなく賑やかに幕を閉じるのであった。
◆
首里屋敷
「で、慶良間間切を頂いたと?」
南風掟(筆頭家老)の池城安李と樽金の瞼が、痙攣するかのようにピクピクと動き、かんジィは深い溜め息を漏らす。
「そう。それより、水か白湯を!まだ酒は早かったかな?あたたぁ」
こめかみをぐりぐり押さえる真三郎。
「はぁーまったく、宴の席でのやらかしは兄より聞いておりますよ!」
「どきっ!」
何がドキッ!だよというジト目は無視して白湯をクイッと飲み干す。
「ひょ、ひょ、ひょ、ふむぅ。やはり学問の師を新に雇わんとのぅ」
「いや、いや、詩文の才はないし、学ぶ気もないからいいよ」
「全く。それよりも問題は慶良間ですよ」
「そうだよ。首里の高台からもよく見える彼処の島だよ!ビーチ、いや綺麗な白砂の浜があるみたいだし、いやぁ夏になるのが楽しみだなぁ」
早くもチーレムを築いてケラマのビーチでのムフフなひと夏を妄想する真三郎。
「あ、あのお喜びの所申し訳ありませんが、慶良間は田畑も殆どなく、漁ぐらいしかありません。また烽火台が何ヵ所もありましてその管理費だけでも莫大な出費に……」
眉間のシワを伸ばしながら安李かつぶやく。
「そうさのぅ。確か尚清王の御代には風待ちで安護の浦に二十日も冊封使が滞在してのぅ。その世話が実に大変じゃったとか」
かんジィは中空を見ながら思い出したように爆弾発言をかます。
「え、え、えー!!!そんなぁ聞いてないよぉ!!」
首里の空に真三郎の絶叫と樽金の弾く算盤の音が響く。
とんだ不良物件(采地)を押し付けられた真三郎であった。
資料がないので適当に時代もチャンプルーしてます。
苦情はほどほどにねっ!笑




