第42話 殖産の胎動
「ふわぁぁぁわぁ!久しぶりの帰宅だぁ。やっぱり住み慣れた我が家が一番だなぁ」
今帰仁城での遊軍を率いた留守居役から突然の大島出陣に城代としての滞在。
実に約四ヶ月も喜瀬武原にある金武御殿を留守にしていた真三郎一行は久方ぶりの帰宅に思いきり羽を伸ばそうとしていた。
「ひょ、ひょ、ひょ!真三郎様。御無事に初陣を果たされなりよりじゃな」
「朝公まさ、お帰りなさい、ませじゃ!」
御殿の門塀前には留守居のかんジィに手を繋いだ図南。
以下十名程の捌理、文子といった御殿勤めの役人、そして先に使いとして出した飛蓮が出迎えに整列していた。
「おおっ、かんジィ、皆の衆!長らくの留守悪かったな。図南はちょっとじじ臭いが琉球言葉が上達したな!」
「あいえなぁ!ささっ、早く風呂にでもはいって、ご飯にするさぁ!仕事なんかはもー明日にすればいいさぁ!」
かめオバァは食事の準備中だったのか、腕まくりしたまま、迎えにでている。屋敷の厨房からは揚げ物の香ばしい匂いが漂ってくる。
「おおっ!久しぶりにかめオバァのご飯だぁ!」
「ほんと久しぶりですなぁ」
「あいっ!真三郎さぁ。まずは風呂からどぅ」
久しぶりに焼石による湯船に浸かれるとあって実にご機嫌な真三郎である。
◆
しばらくはのんびりとしたかった真三郎達ではあったが、一応は領主とその近臣達。
真三郎の内政チート実現の為に翌日から早速間切各地の仕事に散らばり、真三郎は、溜まった書類の読解に四苦八苦しながら決裁していったのである。
そして、旬日後、御殿の一番座では既に第何回目か解らなくなってきた内政検討会議が開催された。
面子は真三郎。傅役を解かれ正式に南風掟となった池城安李、かんジィこと家宰の新城安桓、近臣で蔵方の程隆成(樽金)、農方の漢那可良(三良)、山方兼護衛役の座波正臣(真牛)に書記役の捌理が二人。
三番座には関係する役人らが呼び出しをまって待機している。
「えーと、ではまず早速だか、留守中の報告を頼む。そのあとで今回の出征の収支、今後の方針の確認の順だな」
先ずは真三郎が会議の開催を宣言する。
「畏まりました。では蔵方から。二期の植え付け後の出陣、動員も少なく、収穫前には帰陣できたことから、米の税収入には其ほど影響はありません。
出兵に合わせて国頭や名護、大島で供出した米や、麦、芋については、出来たばかりの天久の米会所に観音寺の地下蔵に保管していた米を持ち込み高値で売り捌いたことで、逆に三十七石分の増収となりました。
これらについては首里屋敷には銀子で、天久の米会所では証文として半分づつ蓄えにいれております。現在、観音堂の地下蔵に二十五石の蓄えもあります。天候も見ながら一期の収穫までに残りも売り捌きますので、銭に換算すれば、まぁ倍の値には成るでしょう。
その他、布、壺、瓦、炭の他珊瑚や、螺鈿細工用の夜光貝、ホラ貝、鼈甲が少しばかり物納されております」
金武間切の租税について手持ちの帳面すら見ずにスラスラと樽金から報告があがる。
「あれっ?亀の捕獲は暫く禁止したのじゃないか?」
先年に海亀保護の布告を出した真三郎が樽金に確認する。
「どうやら浜辺に打ち上げられた亀の甲羅のようです。納めた村の大屋子からの証もあります」
「そうか、真珠貝については安棟叔父上の羽地内海での養殖実験が上手く行くまでは無駄に捕獲しないようにな?」
外洋に面している金武間切では大風の影響をさけられず養殖は難しいと諦めた真珠だが、安棟叔父の領地である屋我地島と運天港のある羽地内海は台風時の避難港となる程、深く穏やかな内海であり、竹の筏と竹で編んだ篭に真珠母貝を入れて様子を見ている。
当然何れは核を移植して一気に養殖真珠で一儲けといきたいが、今の段階でいきなり博打は打てていない。
「はっ!」
「それから、鍾乳洞に保管している薬用酒が五石(900㍑)、古酒用の泡盛が十二石分を越えております。」
「古酒作りは五年、いや七年ぐらいは寝かせてから少しづつ出荷するから最低でも毎年五石分は新酒を追加で保管するようにな」
「いぇっ!五年ねぇ、オジィも長生きせんといかんねぇ!」
後は五年は呑めないことにかんジィがおどけてみせる。
「かんジィ!長命酒ならちょくちょく味見役と称して呑んでるだろ?」
「あいえなぁ!だっからよー、最近元気になって大変さぁ。」
仕込の確認と称して酒をちょろまかしていたかんジィがおどけて白状する。
「いぇー道理でかめオバァの色艶がいいと!」
三良が下ネタに下ネタで返す。
「「「ぶっ、あははっ」」」
(ゲロゲロ、そ、想像しちまった………)
◆
「つ、次は農方ですが、砂糖黍の収穫と新たな農地への植え付けを終えております。今季は三十五町(東京ドーム7つ分)の畑に植え付け、四町分の畑では株出しの試験をおこないます。内十二町分が新に開墾した農地になります。
ああ、黒砂糖の製造は植え付けを優先したため、四半石(45キロ)ばかりとなりました。」
気を取り直して三良が、正確に報告するよう樽金に言われたためか、帳面をちくいち覗きながら報告する。
「まぁ、今は仕込みの時期、仕方ないか。黒砂糖を盛大に売り出せるのは来年からとして、試作品を高値で買い取りそうな大和の商人に分けてみよう」
「はっ!それから唐芋は金武間切だけで百十五町程。
急速な勢いで増えております。おかげで雑穀の値は徐々に下がっておるようです。
一方米は、引く為の水の確保が難しく十五反程しか増やせませんでしたが、図南の奴が木工頭と水汲み水車とやらを試作しております。 ついでに粉を引いたり、鍛治に使えないか等試行錯誤しておるようです。これは後程御覧頂きます。
砂糖黍の搾り車は来年の収穫までに各村に四、五台は配布できる様に計画を立てております」
「概算でいいが、来年の黒砂糖はどれくらい出来るかな?」
「苗に廻す量と作柄次第ですが、百から百五十石はできるかと」
「ほう!十分商品になるな!これなら来年の取引を少しは約してもよいかもしれんな」
「それから伽俐用の鬱金は四町半、南蛮芥子は一町、大蒜も二町分は植えられております。
伯英殿から頂いた南蛮の種についてはこの喜瀬武原の畑を数反確保して実験圃場といたします」
「何が生るかわかるか?」
「名前や、栽培方法、食べれるものかすら不明なものもいくつか……」
明の農書には種の細かな形状が記載されておらず、いささか口ごもる三良
「うーん生えたり、花か実が生れば判るかな?他は?」
「千歯は既に領内に行き渡っておりますが、唐箕については他の領地にもいくつか売れております。
四ヶ月の間に二十四台作製したそうです。収穫までに更に増産いたします」
「うん、うん、仕事が楽になる工夫は広めないとな」
◆
「山方ですが、琉球藍は道沿いも含めて約一町分。これは藍玉にして三石分は製造できるように小屋を増やす必要があります」
真牛が、山方の責任者として増産の許可を求めてきた。
「わかった。藍染の軍装の評判もよかった。このまま増産するから小屋をもっと増やしていいぞ」
「はっ!炭小屋は材料の木材も安定してきており順調でございます。木酢と歴青でしたか?こちらもご指示通り分離できております」
「うっ、すっぱっ!真三郎様、これは?」
真牛が場に出した壺を開けた瞬間、木酢の臭いを直接嗅いでしまった樽金がうっと顔をしかめて鼻を摘まむ。
「うーん、なんでもそれぞれ害虫よけと船の水漏れなんかに効くらしいんだけど。
三良!畑で虫が出たら薄めてから試してみて」
樽金から壺を渡された三良も臭いを嗅いで思わず咳き込む。
「ほう、歴青ですかな?羽地の造船所でも使こうてましたな。あれは確かわざわざ久米から買うてたような」
安李叔父は羽地間切の造船場でみたことがあるようで木タールに興味津々である。
「これは炭のうち備長炭でしたか?途中で掻き出して灰のなかで急冷した試作品です。真三郎様の仰ったように金属的な固さはないのですが、これまでの炭に比べ固く、火持ちはかなり良くなりました。」
真牛が普通の炭と備長炭を笊に盛って場に差し出す。
カン、カン!
「キーン!って感じにはならないか。やり方か、木のせいかな?もう少し工夫して試してみよう」
備長炭を真三郎がぶつけてみるが、期待していた金属音には程遠い……が、これまでのスッカスカの炭に比べれば遥かに固くしまっている。
「はっ!それから、冬の間に山に植樹したのは藪肉桂四百、琉球櫨二千五百、楠千、椨五百、琉球松千、黒木(黒檀)千、山桃五百になります」
「黒木や松、山桃は道沿いや屋敷の生け垣にもできないか?それから他にめぼしい材や、植物があれば育ててくれ」
それぞれ香辛料や染料、蝋燭や樟脳の材料となる有用樹である。
「はい、実は漆喰用の石灰を焼くためにヒルギを炭にしたところ、剥ぎ取ったヒルギの皮が良い染料になるらしいと報告がありました」
「染料?ヒルギの皮?何色になる?」
「濃い茶色にございます」
「茶か、赤なら良い値になるがなぁ、うーん残念。まぁ大和にはない素材だし、苧麻や芭蕉の織物に使って、交易品になるか、炉卯兔薬種店に置いてみよう。上手くシャム辺りから蘇木の種か苗が手に入ったら琉球の山に植えるのになぁ」
品の良い赤の染料である蘇木はマラッカやシャムでしか採れない高級染料、進貢船の荷として明から求められる品である。
「防風林にしている福木や鬱金からは鮮やかな黄色が採れるようです」
「フクギか、防風林をいきなり切るのはなぁ。大風が吹いたら被害がとんでもないことになりそうだし、そういえば、明からの書物に織機の図が………いや、話がそれたな。まずは現状把握だな、他には」
「今の所は以上です」
◆
「よし、じゃあ次は」
「先の出征の収支でございます。」
樽金が新たな帳面を広げる。
「出陣にあたり、直接持ち出した兵糧は米で二十二石、麦二十五石、蕎麦七石、芋二石、伽俐粉は大壺で三、猪肉の薫製が二頭分、鶏十二羽、大島で配った食料は麦二十七石、蕎麦三十石 、芋十五石、芋は苗の植え付けの為に配った物にございます」
「うーん、改めて見るとかなりの持ち出したな」
改めて数字で報告されると莫大な出費である。
「はい、それから国頭親方と名護親方の軍に供出した分は砥石等の石材と、芭蕉布等に交換することになりました」
各地の特産であり、腐るものではないことに安心する真三郎。
「うん、それはこちらから善意のみで送ったものではないし、まぁ評価差額は交際費として処理だな」
錬金術ではないので等価交換の法則は効かないようだ。
「では、軍装として槍二十本と胴丸十体、藍染めにした衣が予備を含めて二百十着、全部で千五百八十貫文、銀で約十二貫分も使っております」
(1580貫文、銀12貫なら、えーと約1600万円!!)
「た、た、樽金、銭蔵は、」
「大丈夫にございます。どうにか、久米で借りた銀子に手をつけなくても回ります。
それより、恩賞で頂いた馬艦船でこざいますが、あれの価値は実に銀八十貫に相当いたします」
「そ、そんなに?」
(や、約一億!)
「明の福州の福船や広東の広船の様な南海用の船や浙江の河用の沙船よりはかなり質の落ちる琉球製造の船でございますが、ジャンク船に習い隔壁も備え、帆柱で荷も吊るせる最新鋭の船にはなっております」
「しかし、金武間切では、」
「はい、大潮なら兎も角、今の領内に停泊できる港はありません。沖泊めにするか、運天、勘手納の港を借り受けるか……」
「うーん、それでは運搬に費用がかかり過ぎるし、明への交易に使うには小型にすぎるか?…」
これまでも金武の産物を良港のある地に運ぶのに苦労した為に金武鍾乳洞を保冷倉庫として使い、小型の船で少量ずつ出荷してきたのだ。自前とはいえ大型の船が手にはいっても直ぐに活用する方法がみつからず、頭をかかえて真三郎が悩む。
「はい、進貢船の護衛用や、随伴船としてならともかく、あれで明やルソンまで渡るのにはやや心もとないかと」
(倭冦とかに襲われたら一発アウトだしなぁ)
「真三郎様。遠浅の金武は沖泊しかできませんが、恩納は少し竣渫すればジャンク船は無理でも馬艦船なら停泊できるようになるかと」
「恩納か、地下蔵や、農地の多い東側ではないが、直接、運天、久米、泊を繋ぐことができるな」
(万座毛の近くだな?やっぱり沖縄なんだし、海がみえるあの辺りに屋敷を、御殿移したいなぁ)
「明や南方はむずかしくとも大島や、先島あたりなら単独で船もだせましょう。」
「しかし、殿下。船の御下がりは何時に?」
安李が下賜された船のことを確認してくる。
「副船頭に引き継ぎ、金武の文子を五人程操船に馴らせているから領内にあらわれるぬは再来月頃か、いや、大風を避けて秋だな」
「訓練とはいえ、遊ばせるのはもったいありません。使えるなら金武の荷を泊に何度か運ばせましょう」
「そうだな。そうだ!新たな役目として、舟方を設け、頭に安李を置く。羽地の他に安昔叔父の古波蔵、叔母上の嫁いだという、先島、後は大島との交易を任せたい」
「はっ!畏まりました。」
首里屋敷の管理に文子、捌理の指導の他に土木工事を任せている安李叔父上に仕事を割り振る。
「次は……もう四月だか、今年の作業状況を確認するか。」
「では、控えさせている各頭も順に部屋に呼びましょう。」
◆
「泡頭。今年の製造はどうだ?」
真三郎のやっと成功した内政チート定番の原動力、石鹸製作の親方に製造状況を確認する。
「材料も順調に集まっており、年に五石(900㎏)は製造できます。ただ、これ以上は人手と作業場、材料双方の確保が困難です。
今は品質の向上にと中に入れる香料を工夫して、売値を上げることにしております」
海藻灰からなアルカリで若干、手が荒れている泡頭が報告をあげる。
「不良品は革の鞣し等に試しに使っております。あと、製造秘密を守る為にも石鹸工房については区画を分けるか、門等で仕切る方がよろしいかと」
(海藻灰の手配や製造工程を秘密にするため、隔離か………確かにくこれだけ苦労したのを簡単にパクられたらたまんないな)
「確かに、炉卯兔薬種屋にも南蛮渡来といっても詳しい仕入れ先を知りたがる商人が何人も訪ねて来ておるとの文がありました」
樽金が久米の店から届いた便りを思い出す。
「そうか、落ち着いたら君之殿を訪ねよう」
「それから、こちらが、香料となる花から採った精油を混ぜた石鹸になります。御確認ください」
最後に十個ほどの新作を置いて泡頭が下がる。
◆
「木工では汲み上げ用の水車の試作の他、図南君の手伝いもあり、鍛治用の水車をつくりました。あの子は見た目は子供ですが、頭の中身は大人以上ですよ。後程御覧ください。
その他、三良殿の依頼で芋や、砂糖黍の植え付けや製糖方法を木版で刷りました」
木工頭が、芋や黍の苗の植え付け方法等を刷った版画絵を真三郎に提出する。
「ひょ、ひょ、ひょ、図南坊は絵も上手じゃな。庭に小枝で絵を描いとったんだか、あまりに上手いので、試しに彫り物をさせてみたんじゃ」
かんジィが図南を手招きして補足する。
「へぇー。図南凄いなぁ」
真三郎が、図南をよしよしとナデポする。
「えへへっ。舐められたのじゃ」
(舐めてない、誉めたじゃろ!うっ、若干、いやこれは完全にじじぃ言葉に感染してるような)
「そうそう、落ち着いたら伯英殿が仕入れた本にあった織機の製作を頼む。琉球の織機との違いをみたい」
「畏まりました。」
◆
「鍛治方としては木工方よりの発注のある金具に、泡方よりの鍋の修理等が主で工夫や独自の目標はありませんが、木工方の協力で出来た水車の相槌機を後程御覧ください。人手の省略化と備長炭の火力具合も確認いだだきたく思います」
流石に火縄銃や、大砲を造らせる訳にも製法もわからないので、もっぱら下請けの鍛治方である。
「そうか、鉄も出来るだけ融通して、後は青銅の鋳造などでも研究させるか?」
「いえ、やはり金属製品は大和や、明から仕入れた方がよろしいかと」
折角の提案だったが、即座に樽金からダメ出しされる。
「そうだ!確か明から持ち込んだ本に確か製鉄方法があったような?」
「しかし、砂鉄もなにもない琉球で製鉄は」
「あっ………そうか」
「はい。」
「あー、なんだ、それより、こちらの書に硫黄と砂糖を精製しているようなことが書いてるようだが、解るか」
伯英の持ち込んだ本に付箋をつけた頁を樽金に見せる。
「確かに、硫黄と砂糖の精製法とあります」
へたくそな挿し絵の入った頁をめくった樽金が即答する。
「おっ!やっぱり、その本だけじゃなくて、明からもちこんだ本は樽金に預けるんで出来るだけ訳してくんない」
「はぁ」
「硫黄と砂糖の部分は大至急ね!」
明からの最先端知識を活かしての内政が始まるのであった。
はい、那覇ハーフマラソン。完走しました!
ハーフ?
いや、だって気温27度って夏日じゃん。完走率悪かったし初挑戦で制限時間内で中間地点まで行けただけ自分を誉めております!ぱちぱち!
因みに筋肉痛と曲がらない左膝を庇いながら首里城いってきました!
想像や写真だけとイメージ違いました。後日役立てたいっす!




