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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第37話 笠利の春

 隆慶(りゅうけい)五年 元亀(げんき)二年 三月 真三郎十一歳


 真三郎が馬のえなりじゃなくて、『えけり』、馬が真三郎の『をなり神』として霊的に守護するという義姉弟の契りを無理矢理に結ばされてからはや五日。


 そろそろチーレム要素が投入かと期待していた真三郎は、深く深くマリアナ海溝の奥底に棲むダイオウグソクムシのように丸まって落ち込んでいた。



「朝公様!起きてください!先程早船が参りまして、御主(うしゅ)の大島征伐が完了、無事鎮圧したとの報にこざいます。それからこちらの文を持参して参りました」

 朝っぱらから安李(あんり)のでかい声が二の丸の仮屋内に響く。

「ふっああぁ、そうか、無事鎮圧か……」

 死んだ魚のような濁った目をした真三郎が、虚ろにつぶやく

「戦という戦はなかったようです。大島の大親(うふおや)達があてにした島津は日向の伊東に押さえられたのか、端から支援する気はなかったのかも知れませ…………聞いてます?」


「聞いてるぅすよ」


「そ、そうですか、昨夜何があったのかは判りませぬが、御主よりご出陣の命ですが」


「ああ、そうか。わかっ ??へっ出陣?」


「はい、大島の謀反に加担した大親衆は責を取っての懲罰、(ただ)人つまり百姓に落とされます。

 大島の村々には新しく、監視役の役人を首里より派遣するとのことですが、その間の留守居役として、赤木名(あかぎな)城にて遊軍百に大島に残した兵百の指揮を任せるとの命令にございます」


「って、大島に渡るのか?俺も?」


「御主からの文によりますと、明日か、明後日には軍の一部、浦添より北の兵が運天(うんてん)の港に入り、陸路で戻る、御主の軍は直接那覇に向かうので入れ違いとなりますが、空いた唐船を使い大島に渡る様にと」


「期間は?」


「御主や、出兵した名護、国頭の両親方が王府に戻られて表十五人衆による評定で、此度の功を評し、大島の新しい代官が決まり、在地に赴くまで、そうですなぁ、約一月か二月はかかるかと」



 ◆



 今帰仁運天港から出航して二日、生憎の悪天候に良港のない与論、沖永良部、徳之島をすっ飛ばして、真三郎率いる遊軍は二隻のジャンク船に分乗し、大島の最北端に向かっていた。


「おーい!城が見えたぜ!」

 煙となんとかは高いところが大好きとやらで、主柱(メインイマスト)の最上段に陣どった飛漣(フェーレン)の叫ぶ声がする。


「真三郎様!あれが恐らく赤木名(あかぎな)城です!」

 三良と真牛が飛漣の声に海図を確認する。

 既に往復している船長が陸の在番に到着の合図となる旗を上げさせる。


 長期間の留守居としてかんジィにそのまま金武間切を預け、久米(くにんだ)での米会所や出店での補助、米相場での投資、大島対策の下準備と補佐役として樽金を戻す。

 大島に向かったのは南風掟(はえおきて)(家老)となった池城安李(あんり)と真牛。大島に普及させる為に種芋や芋蔓、高価な鉄製の農具をいくつも抱えて合流した三良に飛漣。……に何故か今帰仁ノロであるババ様の名代として馬が黒に近い程濃く染めた藍染の上着を羽織ったユタ巫女姿で同乗していた。


 小型の琉球制作のジャンク馬艦船(マーレンせん)には操船役の水夫の他、真三郎の旗下の兵が七十と三十に分散して乗船、大島の最北端にある天然の良南笠利湾内の奥深くに滑るように進みゆっくりと錨を下ろす。

 

 明の財政難と嘉靖(かせい)の大倭冦時代とまで呼ばれた老船主王直(おうちょく)ら武装商人らの跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)により中古軍船を琉球の進貢船として使える様に改造して下賜する制度がなくなり早三十余年。

 三本マストで外洋を駆けるような大型進貢船については未だ中国の福州にて自腹での建造を依頼せざるを得なかったが、簡易な修繕、随行用や、琉球の島々を渡るのに十分な船を造るだけの造船技術の伝授も認められ、琉球に自作のジャンクが建造できる程芽吹いていたのだ。


「ふぅ。どうにか日没前には無事に着いたな。馬さん。だ、大丈夫?酔わなかった?」


「ありがとうございます。朝公様。安心してください。ババ様より大島でもお守りするようにと。どんな災いからも『をなり』である私が身をもってお守りいたします!」

 すっかり姉というか母性愛のような目付きで真三郎に微笑む馬。


「よかったですね。朝公様。をなり神の加護は絶大ですぞ。某も幼き時に石垣に嫁いだ妹の髪をほれ、この守袋に」

 安李のモサッとした胸元には唐渡りの赤い(あや)で縫われた守袋が下がっている。

「へぇー」

 真三郎が意識を向けた胴丸の下の胸元には最初に着けられた時にはびっくりする程冷たかった獸形の勾玉。今では昔から付けていたかの様に肌に吸い付き馴染んでいた。


 グァーン!グァーン!


「「「大金武(うふきん)王子、朝公様! 千歳、千歳!」」」


「ほっほっほっ、朝公様。御無事の到着、なによりにございます!わた、ん、某は首里天加那志(すいてんがなし)より、赤木名監守(かんしゅ)代理を命じられました。保栄茂親雲上保毛にございます。おほっほっほっ」


「ほ?ほえもぺーちん、ほもーう?」

 浜に並んだ出迎えの行列の先頭には、髭を伸ばすのが当たり前の琉球の士族には珍しく青々とした剃り後も眩しく。

 大和の扇子で口許を隠し、既に鎧すら身に付けていない軽装だか、大柄な武人らしき身のこなしの役人が笑いながら近寄ってきた。


「ほっ、もうっ!保栄茂と書いて二文字の『びん』、ビンカンのびん!保栄茂(びん)親雲上(ペーチン)保毛(やすあつ)よー!私の王子様っ!以後、お見知りおきをっ!ってやだわ!しりだなんて」


「あ、あのぅ……」


「朝公様!私の後ろに下がってください!何やら邪悪な妖気が!」


「ふん!何よ小娘が!ってあら?そちらの護衛は、もしや阿波根(あはごん)様の?」

 真三郎を左右に守る真牛と馬、巫女姿の馬をスルーして、真三郎から授けられた難駆流(なんくるー)を装備して、万が一に備えて身構える真牛をじーっと穴が空きそうになるまで見つめる。


「あ、あぁ、まう、座波正臣(ざはまさよし)だ。俺の護衛役で、確かに阿波根流の(てぃ)の使い手だ!よくわかったな」


「座波、ああん、やっぱりぃ!京阿波根実基(きょうあはごんじつき)様(真牛の師匠の師匠)の領地であった阿波根は私の実家、保栄茂の隣なの。

 そして私は、最後の直弟子にして、あなたの師匠、座波(ざは)親雲上の一番弟子でもあるのよね!つ、ま、り、貴方達の姉、いえ兄弟子ってことね!これはなんて運命(さだめ)か,し,ら?うふっ」


「えーと、保栄茂親雲上(びんぺーちん)って?もしかして?こっち?」

 真三郎が右手の平を左の頬の前にもってくる。


「おーほほほ!それはあくまで噂で、う・わ・さっ…………そんなことよりお仕事よ!お仕事。

 ささっ!城内にどうぞ!旅の汗を流す湯浴びの準備はできてまふよおーほほほ!」



 戦国の世、信長に信玄、まぁ実によくあるありふれた話であった。


 ◆


 笠利(かさり)の赤木名城では琉球国の王子が駐留軍を率いて滞在するとのことで、貴重な鶏を潰して煮込みにした汁を鶏肉、錦糸玉子、貴重な椎茸を乗せたご飯にかける料理を夕膳に出してきた。

 丁寧にじっくりコトコト灰汁を取り続けたらしく、澄みきりつつも表面には天鵞絨(ビロード)の様な鶏の油が黄金色に耀き(スープ)が食欲を是が非でもかきたてる。


「ふぅー、旨い!奮発したなぁ。これはここ大島の郷土料理かな?」


鶏飯(けいはん)とかいうらしいです」

 若干船に酔っていた安李も食欲が戻ったようだ。

「ふむぅ、この薬味に使ったのはシークワーサーの皮か?鶏からしっかり取った出汁は濃厚だが、これをあっさりと飲ませていれる。これは?アーサ?時期的から生ではなく、乾燥させたアーサを軽く炙って入れたのか、磯の香りがまたすばらしいな」


「いかん!保栄茂親雲上が、三良!飛漣!真牛を押さえて!」

 たわわに鍛え挙げられた胸元がはだけだす前に二人がかりで真牛を押さえるが、馬と保栄茂親雲上が顔を覆った両手の指の隙間からそのあられもない姿をガン見している。


「「おっふーぅ!きゃあぁぉ!」」


 ◆


「……では、そろそろ公儀(こうぎ)の刻限でよいかな?」

 食事を終えると真三郎の合図で、馬と飛漣は早々部屋に下がり、安李、三良、真牛に保栄茂親雲上の五人だけが残る。


「ほほほっ。真面目な殿下もこれまた素敵ですわ。では私からこれまでの状況を手取り足取り教えますわね。

 まずは戦について、籠城はしたものの直接な戦火はまーったく交えませんでしたわ。

 戦死者というか、下船時に誤って海に落ちた兵が一名。戦中ゆえ、村で略奪や乱暴狼藉がありました……が、もちろん、ちゃーあんとお仕置き済みよ!

 ただ、大島の大親達は責を取って百姓に落とされちゃうんですが、残された民にもやはり不平不満が……」


「で、そもそも大島の抱える問題はなんだ?」


「そうね。私が、捕虜にした大親達にい、ろ、い、ろ、と詳しく聞いたところはね、」

(か、身体に聞いてないだろーな!)ガクブル!


「まぁ、見ての通り、大島って耕地に恵まれてないのよね!小さな、川もない与論や沖永良部はともかく、山があって水に恵まれて耕地のある徳之島は田もあり貢納だってそれなりに出来るけど。

 ほら、見ての通り大島は山がち、まぁ代わりに湾が多くて良港に恵まれたから昔は交易、倭冦も根城にしたりなんかして立派な屋敷なんかも設けてたみたいなんだけど、先代尚清王が前回の大島征伐の後にね、異国との交易港を久米に集約したもんだからもーいろいろと不満もアレも溜まってたのね!おほほほ!」

 保栄茂親雲上保毛(よしあつ)が大島と周辺離島の地図を広げて説明に入る。

「薩摩の僧、えーとなんていったかな。雪岑(せつじん)が唆したってのは?」


「まぁ、島津に付いたら自由に明との交易を認めるとか、税率は下げるとかの口約束はあったみたいなんだけど。

 まぁ島の東側、名護親方ゆかりの用安湊(ようあんニャト)等は島津の重臣である種子島や七島の海賊衆を避けて、これまでも琉球や南方に向かう日向の伊東や土佐の一条、堺の商人の船がずっと寄港してたから、島津派に伊東・大友派と島内での意見の一致は難しかったみたいなのよね」


 首里の王府のお膝元として貧しいながらも穏やかな平和を漫喫していた琉球本島と違い、大島各地は戦国大和の動乱の影響を強く受けていた。


「うーん、いくら望んでも明との独自交易の再開は無理筋だな」


「うむ、御主の権を犯すことになりかねません」


「とりあえず、芋の普及を進めましょう!芋蔓は大量に準備しております」

 三良にはこの機会に大島各地にも芋を普及させるべく指示をしており、馬艦(マーラン)船には金武から運んだ苗や種芋が大量に積まれていた。

「そうだ、栽培法の工夫はどうだ?」


「はい、苗の取り方、畝、栽培法もある程度確立いたしました」


「ほう?」


「先ほど少し見てきたのですが、大島の土壌は金武と似て赤土ですから上手くいくでしょう。苗の埋める深さや、伸びた時にある程度根を切ること、葉を増やしすぎないこと、肥料は入れすぎないこと等がコツになるようです」


「流石だなよくやったな、三良!」


「あら?これが噂の芋の苗ねぇ?保栄茂でもできるかしら?」


真和志(まわし)間切の古波蔵村でも試しに植えておりますので、安昔叔父上に聞いてみましょう」


「後、なにか銭や、食い物の種になりそうなのはないのか、特産品とか?」


「山は金武とおなじく時間がかかります。先見隊の話によると、こちらでは(かまど)はまだまだ普及してないようです。

 木材は金武と同じく増産、炭づくり、羽地と被るかも知れませんが後は薪で塩づくりはできましょう」

 真牛が山方での経験を活かした産業振興策を提案する。


「塩はまだまだ大和から大量に仕入れてるらしーからな、まぁ、大丈夫だろう。芋で食い物に余裕ができたら七島(トカラ列島)に送って硫黄とでも交換できないかな?樽金からの情報だか、徳之島からは年に二万斤は進貢用として硫黄城(いおうぐすく)の蔵に納められていると聞いた。

 王府の扱う硫黄が買えぬ浙江の商人達は薩摩や豊後から運ばれる高値の硫黄を仕方なく久米で買っているらしいぞ」


「そうじゃな。硫黄の産出はどうなっているか………増産や、七島から仕入れることができれば税代わりになる……か?」

 塩の話にピクとした元羽地間切地頭代理だった安李は琉球の交易の柱でもある硫黄にて話を振り向ける。


「泊の米会所は大風が止むくらいには出来あがるだろう。もともと大島からの貢納品を保管する大島蔵は天久宮の境内だ。うちの蔵も儲かるし、大島の負担は減る、ウインウインだな?後は?」


「ういん?まぁ、そうですね。ああ、真三郎様、確か大島と徳之島にもハブがおるそうです。少々危険ですが反鼻(はんび)(蛇の干物)作りは直ぐ金になり、ハブが減れば咬症の予防になります。薬種に、薬酒作りにといくらでも使えます」

 三良が、大島でもハブの大量買入を進言する。


「あら?なーに?反鼻って?薬酒?何に効能があるのかしら、とーっても興味あるわぁ」


「よ、保毛(よしあつ)殿には猫に小判ぢゃなくて鬼に金棒、き、危険です!」

「おっきな肉○って?もうやだぁこの子。下品だわぁ もー明日は代わりに真牛きゅんに、あの生意気そうな小僧でも一緒にしごいてあげようかしら。おーほほほほっ、私としたことがしごくだなんて」

 開いた扇で伸びきった鼻の下を隠して微笑む。


「お、俺は、真三、朝公様と一緒に畑に出ますので、真牛。頼んだぞ!」

 真っ先に逃げ出す三良


「すまん、真牛。生けに、ほ、他に鍛練する兵を十人程は、」

 あわてて真三郎も逃げようと腰をあげる。

「お、おまちを!今、生け贄っていいませませませんでした?び、保栄茂親雲上!真三郎はもちろん、この三良も座波親雲上の弟子です!やるなら一蓮托、じゃなくて。やはり安全上、朝公様のお側を離れるわけには参りません」

身の危険を察知したのかさらっと真三郎呼ばわりした真牛。


「うーん、そういえばそうね。落ち着いたら城内で特訓よおーほほほほっ!」



 真三郎以下金武から引き連れた兵は朝早くから夜遅くまで雨が降ろうと、風が吹こうと大島の復興に精力的に、まさに身を粉に、死力を尽くして働き、決して城に帰ってゆっくりと休むことはなかったという。



あくまで噂なので、実在の人物ではぁ

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