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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第35話 今帰仁ノロ

  今帰仁監守(なきじんかんしゅ) 今帰仁朝敦(ちょうとん)の守備する琉球の北の守り今帰仁城。そこに大島親征の首里親軍(しゅりおやいくさ)、第四軍の大将(名前だけ)として入城した金武御殿(うどぅん)軍、つまり真三郎軍 総勢五十名。五十騎ではない。

  騎乗は真三郎の他は途中、羽地(はねじ)から安李に真牛。後は荷駄用の馬が四頭程。残りは徒の兵が続いている。一行が目立つのは揃いの股引きや上着が揃いも揃って濃い蒼の藍染めであることだ。


「朝敦様。城外まで、わざわざのお出迎え忝けなく。こちらが、金武王子、朝公様です」

 となりの間切で面識があるのだろう、安李が一足早く馬を降り真三郎を紹介する。

「久しい、でよいのかな?朝敦殿」

 真三郎は馬の手綱を引いてた足軽姿の飛漣(フェーレン)の補助で下馬して、挨拶をする。

「はい、一別以来ですな、朝公様。首里に登ったのが三年も前ですからお忘れになられても」


「えーと三年前だと、俺は七つか八つ……それは悪い。ともかく、わざわざの出迎え忝ない」


「朝公様。王子殿下が遊軍の将として今帰仁城に入られるのですから監守自ら城外まで出迎えるのは当然でございましょう。

 ささっ!今帰仁の常備兵が五十に此度徴兵した兵が二十。朝公様の手兵が五十。島尻の親方衆から参る割当ての八十の兵は明日にも着陣するでしょう」

 こちらも胴丸を履いただけの軽装備である朝敦が門下で下馬した真三郎達と話しながら本丸の手前、二の丸正門へと案内する。


「朝公様方には、奥の曲輪(くるわ)の我が殿内(どぅんち)(王族の御殿より一つ格下の名称)にて茶菓子の用意が。

 旗下の方々は、取り合えず、外郭の南の馬場に馬や荷を入れていただきます。ただ、二、三日中には首里天加那志(すいてんがなし)御自ら率いる本軍を今帰仁城本丸にお迎えいたしますので、申し訳ありませぬが、いま暫くは設営の準備の手伝いをお願いすることになります」


「まぁ猫の手でも借りたいだろう。俺も手伝おう。その為にも少しばかりだが、糧食等も持参しておる。早速使おう!」


「そ、それは誠に忝ない。城内に収用できる人数にも限りがありまして、運天の港から村中の家を挙げても千二百もの兵の宿飯等もてなすのは一苦労にございます」


 今帰仁城は四層からなる城郭で区切られた山城である。

 話しながら見晴らしの良い頂上、本丸にある城主の殿内まで上るだけで、重い胴丸の中が蒸れて汗が零れる。

 なんせ今はまだ九月。旧暦で一ヵ月のズレがあってもまだまだ泳げる程暑い琉球である。

「先程、御主の到着まで、二、三日と言ったが大島の方の戦況はわかるのか?」


「はい、では、奥の間に地図の用意もありますので、御主(うしゅ)の着陣前に戦況をご説明いたしましょう」

 茶菓子と聞いてしれーっと付いて来ようとした飛漣(フェーレン)を真牛が拳骨で黙らせて今帰仁殿内の座敷で、安李と真牛の三人で唐渡りの茶を頂く。


「朝公様はこういった地図をご覧になられたことは?」


「いや、只丸を並べたような地図は首里にいた頃に見たことがあるが、これ程精密な地図は初めてだよ」

 鳥瞰(ちょうかん)図といってよいのであろうか、島の大体の形だけでく、港からみえる山の稜線が見事に描かれている。

「船を動かすには今、何処にいるかを把握する必要があります。それには陸地の地形や遠くから見える山等を目印としますから、これ程精密な地図が必要なのですよ」

 琉球に追いて唐船が安全に停泊出来、どんな大風(うふかじ)が吹こうともながされぬ天然の避難港、運天港を領する朝敦である。戦場となる奄美(あまみ)の島々に久米までの航路や、暗礁(あんしょう)、目印となる山や地名が細かく書かれた地図を持ってきて次々と説明を始める。

(だいたいの日本地図の形は解るけど、まぁ北海道があることとかね。まぁ、琉球と大和、いや交易するなら南方や明、ヨーロッパかぁ世界地図も探さないとなぁ)

「真、朝公様!」

 呆ける真三郎を真牛がつつく。

「あ、すまん、地図の余りのすばらしさにまるで旅した様な気分に感激してたのだ」

「ほう。よろしければ、城に滞在中、手が空いた時にでも模写させましょうか?」

「おおっ!それは忝ない。感謝するぞ!朝敦!で、では早速戦況を頼む」


「はい、では、まず、国頭親方は与論から徳之島までの各大親(うふおや)を速やかに確保しまして、それぞれの島に大島に同調せぬようにと押さえの兵を置きました」


「ほほう。流石は国頭様!動きにそつがありませんなぁ」

 駒替わりだろうか、木片を軍に見立てて地図に並べる様子に安李が感嘆の声をもらす。

「はい。その報告を受けた名護親方の第一軍八百は三隻のジャンク船に山原(やんばる)船、徴用した貢納(こうのう)用の船等に分散して、名護を出立、国頭間切の奥と徳之島でそれぞれ補給を行った後に、大島の南端古仁屋(こにや)に侵攻、これを落としたそうです。まぁもっとも戦らしい戦はなかったようですが……」

 大島だけの地図に謀反に加わった大親の村に次々と黒石を並べていく。

「この後は島を東回りにぐるりと進みまして、戸口(どくち)城を落としましたら、名護親方の祖父からの縁地である用安湊(ようあんニャト)で、本隊であります御主(うしゅ)の出陣をお待ちすることになっております。」

 地図上から黒石を取り、替わりに白石を並べる安敦の手をじっとみつめる真三郎。


「朝公様?」


「いや、なんでもない。続けて!」


「はい。御主の本隊は久米や、泊の港を出まして、この今帰仁、運天港で一旦休息を取られましたら、同じく徳之島の平土野港(へとの)を経由します。只、こちらはまず、大島の西回りに進みまして、浦上(うらがみ)城を落とします。

 そして最後に用安湊(ようあんニャト)から陸路をとる名護親方の軍と、海路の御主の軍が、笠利(かさり)宇宿(うしく)大親の立て籠る赤木名城(あかぎな)を攻め落とす予定になっております」


「恐らく戦になるのはこの三城ぐらいでしょう。」

 朝敦が白石に囲まれた黒石を笠利、浦上、戸口の三城の位置に戻し並べる。

「うむー流石は今帰仁監守朝敦様。大島への備え、北方状況の把握は万全ですなぁ!」


「ふふふっ、安李殿。島津の内輪揉めに安穏としておって大島の反乱を赦した(とが)は某にもあるのですよ。御主には出陣を願ったのですが」


「安敦殿。俺の金武御殿や、安棟(あんとう)叔父の羽地御内は石壁がある程度の屋敷だが、首里の城や、この今帰仁城、読谷山(ゆんたんざ)の朝苗叔父上の座喜味(ざきみ)城の様に大島の城も戦になるほど城壁の堅固な城備えなのか?籠る兵力はいかほどか?」


「そうですなぁ。大島の城も今帰仁の城と同じく三山の、そう200年は昔の動乱の時代に作られた城ですからなぁ。

 そう、かつての北山の領域は朝公様の金武から大島までを治め、この今帰仁城を王城となしていたとか。後は、浦上城は大和で栄華を極めた平家の一族が建てた城とかで、大島の城も古い城ですが曲輪や、土塁、壁に、堀も備えたなかなか堅牢な山城だとか。まぁ、鬼界(きかい)の大親衆や、薩摩からの援軍も無さそうですし、七島の海賊衆にも動きはありません。赤木名で百、他の城で五十から七十、女子供もいれても倍。十倍の兵を揃えた首里親軍(しゅりおやいくさ)の敵ではありませぬ、安心めされよ」


「やはり薩摩の後ろ楯、後詰めはないのだな?」


「使僧がなにやら大島の大親を唆したらしいのですが、今は日向の伊東が飫肥(おび)をも領し日の出の勢いとか。せいぜい交易の邪魔でもしようとでも画策したのでしょう」


「うむ、安心した。戦騒ぎも落ち着いたらいろいろ大和の情勢やらを教えてくれ。では、港での兵の糧食や仮宿作りでも差配しようか。安李、正臣、さぁいくぞ!」


「「はっ!」」

(ふぅーよかった。どうやら戦には行かなくて済みそうだな?この胴丸だけでも脱いじゃおっと。めっちゃ暑いし)



 ◆


 運天港

 今帰仁城に背後を守られた、運天港は天然の良港である。

 羽地按司(あじ)である池城安棟の領地、屋我地(やがち)島を挟み、広大な内海をなす羽地湾は現代でも台風時に大型タンカー等が停泊してくる避難港に指定される程風に強い湾である。

 唐船グムイと呼ばれる。明の大型ジャンク船ですら容易に停泊できる琉球では数少ない良港は、その昔、保元の乱で敗れ、伊豆大島に流された源為朝(みなもとのためとも)が島を抜け出て漂着した港であり、運を天に任せてたどり着いたことが名前の由来とされている。

 その為朝が地頭の娘に産ませた子が舜天(しゅんてん)、初代琉球国王とのちの正史に記載されることになる伝説の港である。


「朝公様!米を炊くにも薪も釜が足りませぬ!」


「うーん。今で炊いて置くとこの陽気、傷むか?取り合えず(かまど)だけは作っておけ!鍋や釜に薪は羽地や名護の殿内からも調達すると樽金がいってたな。米は麦入りだろーな?」


「はい。」


「…伽俐かりの準備はどうだ?」


「はい、今日は今帰仁城にいる兵の分は賄えております。明日はやはり………」


「朝から作って(かめ)に入れて回りに火を焚いていたら持つだろう。首里親軍(しゅりおやいくさ)は首里や那覇の士族がほとんどだと聞く。

 金もあるだろうし、戦の最中は恐らく干し飯程度しか食い物がないだろう。一度食べたら夢に出て、戦の後にでも伽俐の話を広めてくれるだろう。くっ、くっ、くっ」


「く、黒い…………」

 調理を手伝う金武の文子(てぃごく)達が真三郎の魂胆に呆れた眼差しを送る。

「い、いいんだよ!こんだけただ飯を奢ってやるんだからな!」

「飯の用意が終わったら真牛の特訓でもするかぁ、ああっ?」

 ツンデレである。



 ◆


「ふぅ。日も暮れたし、後は明日だな?今日はもう休むとするか」

 今帰仁城、最奥の今帰仁殿内(どぅんち)は明日の御主のお宿泊に備えて朝敦の磯城の元、篝火を焚きながらの準備中であり、二ノ丸の一郭を居室として借り受けた真三郎はそれを横目に慣れぬ茵を早々と引いていた。

(し、しまったぁ!枕はもってくれば……)


「何奴っ!」

 金武御殿を離れるにあたり、真牛は宿直(とのい)として常に傍らにあり、怪しげな気配に誰何(すいか)の声が飛ぶ。


「あ、いえ、あの、あやしい者ではございません」

「私は、今帰仁ノロ様にお仕えしておりますウマと申します。あの神女様が是非とも王子殿下にお会いしたいと」

 まだ、十代前半、真三郎と余り変わらぬ年頃でフワッとした生なり、大麻の上着を羽織り、髪には葉っぱの冠、神カムイをした少女が控えていた。

(巫女!ミコ!ミコキタァー!)

「ん!ゴホン!真三郎様!何を考えてるのか分かりませんが、ウマ殿はともかく、今帰仁ノロ様はかなりのご高齢のはずですよ」


「はい、それで夜分大変申し訳ありませんが、是非、殿下には神アシャギまでご足労願いたいとのことです」


「えー今から?うーんハブとか恐いしなぁ」


「大丈夫です。王子殿下、今帰仁御嶽(うたき)の神アシャギは、この今帰仁城内、外郭に御座いますゆえ、」


「そうなのか?」


「はい、首里城の聖域、首里森(すいむい)御獄と同じく、今帰仁城にはクボウ御嶽がございます、神アシャギはその祭場になります」



 ◆

 今帰仁城外郭の一郭、厩等のある北側と異なり、すこし窪地となって、南国特有の蔦の絡む木々が生い茂る場所。そこに単に加工すらしていない自然石を積んだだけに見える石垣とその奥にちょっとした八畳程の大きさの社がある。

 普段は幽霊や妖怪等(エセ)科学的なことより猛毒を持つハブを何より怖がる真三郎ではあるが、張り積めた空気と異様な寒気に震え出す。


「ご、ここが、神アシャギ?ななな?入って大丈夫なのか?」


「はい、奥のクボウ御嶽には男子は入れませぬが……」


「おぉ、ウマや、殿下をお連れしたか?」

 社の中から萎びた、しかしながら強い口調の老婆、ロリはつかないただのババァがうずくまっていた。


「はい、こちらに」


「よし、そなたは下がりや。殿下お一人で、こちらに」


「あ、今帰仁ノロ様!こちらは些細ながら、お納めください。」

 苧麻(ちょま)で織られた質の良い反物を六反真牛に持たせている。生なりの麻布は巫女の正装になるのだ。

「ほほぅ、失礼なことを考えている割には目上に対する礼儀をわきまえとる。まぁ、それはそれ、忝ないな」

「さぁ、どうぞ奥に入られよ。なぁに、喰いはせぬよ。護衛の方はウマと宮まで下がりや」


「うーん、だ、大丈夫、だ、真牛」

(なに?心が読めるとか?)

「はい」


「さぁ殿下。さっもっとちこう」

  今帰仁ノロは大きな聞得大君程ではないが、大きな黄金造りの(ジーファ)を白髪に差し、首には三連からなる勾玉や水晶の首飾り。

 位牌のような朱塗りの置物や銅鏡、しめ縄に香炉、揺らぐ蝋燭な炎に酒の壺等がところ狭しと並べられた神アシャギの建物内には不思議な甘い果物の熟したような香の匂いが漂っている。


「ふむぅぅぅ」

(ち、近い!近い!)

 胡座(あぐら)で座る真三郎の目を医者が診察するようにじっと見つめると、回りを一周する。

「次は手をお出し!」

「なるほど」

「そ、それは?」

 真三郎の差し出した手を包む様に握る神女の手には不思議な幾何学的な紋様の刺青、決して財宝の在処などではない。

「ん?なんじゃ、おぬし針突(はじち)(刺青)も知らんのか?真鶴(まつる)もしとるじゃろが?」

「真鶴?」

安桓(あんかん)の妻じゃよ。今はそなたの元におるじゃろ?あれも儂と同じ今帰仁の出じゃよ」

「か、かめオバァ?真、真鶴?鶴?いや、あれはシミかと……」

 思い出せば今帰仁ノロの半分にも満たない大きさではあったが、確かに規則正しい紋様状であったことに思い至る。

「ふふん。無知じゃのぅ」

「そなたの曾祖母、安基(あんき)の母は今帰仁ノロであったことは知っとるか?」


「はぁ。確か亡くなる前に安基じい様が……」

「わしの先代じゃな。安基を産んで不思議と霊威(せじ)を喪ってのぅ。たぐいまれなる神高(かんだかー)な巫女じゃったが」

(確か、そんな事いってたな。)

神人(かみんちゅ)霊威(せじ)は三代目に引き継がれるという話は聞いたことはあるか?まぁ、普通は娘になるがのぅ。ふむ、ふむ、ふむ。まぁ、確かに摩訶不思議な霊威(せじ)はあるようじゃが、今帰仁ノロ系の霊威(せじ)でもないか。

 ふむぅ。安基がゆーとったが、やはり、琉球の王気でも………やはりないのぅ」

 首にかけた勾玉を握り、真三郎には聞こえない小声でつぶやく。

「殿下、そちらの蝋燭に火を灯して、香を香炉に供えてくだされ。そう、手をあわせて、わしの後に唱和して祈りなされ」

「は、はい。」


「うむ、カラウカー、ヒヌカン、テンチギ、ソイツギ、クボウ……………」

「からうかー、ひぬかん、てんちぎ、そいつぎ、くぼう…………」


『そ、その者蒼き衣を纏いて、彼方より金波の海に降り立つべし、失なわれし大和との絆を結び、ついに人々を清浄の地に導かん。』

 突然今帰仁ノロがそれまでの年老いたしゃがれ声から、うわ若き女性のような美声でつぶやきはじめる。

「バ、ババァ様!」


「誰がババァじゃ!ふん!どうやら託宣(たくせん)があったのう暫くは今帰仁に居るだろう。今日のところはひとまず下がりゃ。ちと疲れたでな」


 避けていた琉球神道のシャーマニズムに困惑する真三郎であった。






ヒメばぁさま!

アカバンなりませんよね?



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