第34話 尚氏蒼備え
尚元王、首里天加那志より出陣の命を受けて早三日、真三郎は金武間切の政庁でもある喜瀬武原の金武御殿に各村の大屋子(庄屋)を集めていた。
「皆の衆、忙しい中、緊急の招集に集まりご苦労である。
さて、使わした文にも記したが、此度、首里天加那志、御自ら大島に御親征遊ばすこととあいなった!」
「「御主加那志、万歳!万歳!」」
儀礼に従い、平伏した大屋子達が一斉に唱和する。
「また、金武王子たる、俺も第四軍の将として、今帰仁城に入ることにあいなった!」
ざわつく大屋子達は思わず互いの顔を見回す。
「それに伴い、各村に兵の割り当てを言い渡す。隆成!」
「はっ!では。金武村 兵七名。内、文子を一人。漢那村 兵六名、|文子一名。祖慶村 兵五名、文子一名。…………………最後、山田村 兵二名。
これに金武御殿直属の兵を加えた四十五名が首里親軍に金武間切が割り当られた兵力、これで出陣となります」
樽金が、戸籍に村の規模を勘案して作成した帳面を片手にそれぞれ動員数を割り振る。
各村の人口、青年男子の数、もろもろの条件を加味して、樽金が夜鍋して決めた動員割り振りだ、地割の為に整備した戸籍(仮)が実に役立つ。
「地割を終え、新たな田に田植えを終えたばかりで人手が足りぬだろうが。兵を出した家には貢を減ずる予定だ。よろしく頼む。
また、槍や鎧、弓等は今帰仁城にも準備されているが、持参できる者は米か、麦を給付しよう」
「特に山仕事で、猪狩等弓矢が得手なものは参加させたい。できるだけ配慮を願いたい!」
控えていた真牛が出来るだけ射手を集めようと声をかける。
「何か質疑はあるか?」
(うーーん、領民に負担がかからないよう配慮したが、やり過ぎだろうか?)
「「「ありませぬ!」」」
「では、各自、村にて壮健な、出来るだけ若者を集めて三日後に此処、金武御殿に終結させよ!三日程鍛練し、今帰仁城に出陣する!」
「「はっ!」」
◆
「はっ!」「ふん!」「たぁー!」
「おーい!真牛!ちょっといいか?」
「はっ!」
明日から始まる軍事訓練に備え、片袖を脱いだ格好で棒を使った型の復習を行っている真牛を室前にに呼び寄せる。
「精がでるな。真牛!」
「はい!真三郎様も将として、万が一に備えて鍛え直さねば!」
手拭いで、流れる汗を拭きながら笑顔で近づく。
「あ、え、そ、そうだね。今はちょっと忙しいから、落ち着いたら、そう。かるーくな?かるーく」
(あちゃーやぶ蛇だったかな?ちっ脳筋体育会系め!)
「それより、明日からは兵の調練を頼む。主上の話では遊軍で戦には出ない予定だが、念には念をだな。で、これは、俺からお前に褒美だ!」
布に包まれた二つの金具、貴重な鋼を使用した逸品である。
「真三郎様?これは?刀の鍔ですか?」
「ちゃうわ!こう、穴が空いてる所に指を入れてこう握る。」
一つに指を入れて握って見せる。
「ほう!こっ、これは!」
「どうだ!飛漣を取っ捕まえた時に馬の蹄鉄をその手に装備してたろ?」
「手甲ですね。」
「で、使い勝手が良いようにと特別に鍛冶頭に頼んで作らせてたのだ!まぁまさか、この時期に戦があると思わなかったがな」
感激したのか滑らかな迄に磨き抜かれた金属片を押し抱く。
「それなら懐に隠しやすいし、鋼製だから、大概の刀も一発でへし折るぜっ!ホントは先端に金剛石でも埋め込みたかったが、予算がな?
で、それの名前、銘は難駆流!難敵もかわして、駆けて、攻撃は受け流す。まぁ、ナンクルナイサーにかけた銘だな!」
「ま、真三郎様!銘付きの武具を某に。この真牛、いえ、座波正臣。何者にも屈せず、終生の忠誠を真三郎様に誓います!」
感極まった様子の真牛が、跪拝して両手を包むような格好で改めて忠誠を誓う。
(えっ、何、調子に乗って作ってもらったネタ武器のつもりだったのに、そんなに…………まぁ、いいか。)
「うん。期待してるぞ!真牛」
「はっ!」
◆
「樽金!兵糧の集まりはどうだ?」
今帰仁城での留守番の予定だか、今一番慌ただしく寝る間もなく動いているのは実は樽金だ。
「はい、金武の港より与論島を望む国頭の奥村に二十石程送る手筈になっております。こちらは明日にも勝連の朝宗様の船が金武の港にたち寄って運びます」
「朝宗叔父上の出陣はないのだな?」
「はい、勝連、具志川の兵を纏めて国頭親方の与力とされております。東の軍は奥に結集とのことです。」
使えるものは叔父でも王子でも使う。急な出兵で兵糧の手配に困る軍にとっては渡りに船であろう。
「手勢の分は?」
「今帰仁までは陸路になりますので、読谷や、開墾用に使っている馬を手配しております。
名護親方の第一軍は明後日にも出陣とのことですので、恩納の村より、雑穀も合わせて二十石程送り届けております。本隊が出立する時には金武の保管庫よりまず十石、荷駄の手配が済み次第、順次百五十石分は今帰仁城に輸送する予定です」
「うん、うん。万が一にも戦場で略奪騒動が起きないように備えないとな、これで、観音堂の蔵は空か?」
「はい、一期の収穫を終えたばかりで、今は二期を植えたばかりです。在庫は緊急用程で、」
「うーん。久米の楊理殿か、夜来香殿にでも使いを出して、今は金武の蔵が空なこと、戦で消費すること、年末に向けて金武から米の放出がなく、米の値が恐らく上がるだろうと伝えたら?」
「そ、それはまた足元を……」
思いきり渋面をつくる樽金。
「なぁに、どうせ浙江の主な商品は絹や生糸、陶磁器等の高級品だ、船を安定させる重り替わりにいつもなら銅銭を積むが、高値となる米を積むかの違いになるだろう。銅銭なら腐らぬしな。恩が売れそうな方を運ぶだろう」
「畏まりました。手配が済み次第、合流いたします」
◆
「三良!悪いがお前は今回も留守番だ!」
「そ、そんなぁ。真牛はともかく、樽金よりは剣も弓もいけますよ!」
おいてけぼり宣言に泣きそうな三良。
「樽金は、兵糧の勘定方だよ。お前がやるか?」
「い、いやぁ」
「二期の植え付けが終わったばかりだ。砂糖黍の生育も気になる。農方として、また、兵を動員したことで各村に不満噴出しないか気になる。三良は今、金武からは動かせない」
「真三郎様!」
重大任務だと理解した三良の目の色がガラリと替わる。
「ここでかんジィの輔佐を頼む。それと、大島には唐芋の普及が全く進んでおらん。今回の謀叛の一因にも貢納の負担がある。泊の米会所が出来たら大島の貢納も扱うつもりだか、芋や砂糖黍の普及をこの機に図りたい」
「なるほど。砂糖黍は冬に苗を確保しますが、芋蔓はどれ程確保できるか。うーん。わかりました。お任せください。各村をまわり、状況を至急確認いたします」
◆
今帰仁城
現在は石造りの城壁しか残されていないが、世界遺産にも指定された、四層の曲輪からなる琉球の要地に聳える城塞である。
かって琉球が北山、中山、南山の三国に別れ鼎立した琉球三国志ともいえる様をなしていた頃の北山王の居城であった。
浦添から出た中山による統一後には、王家の一族が北山監守として配置される等、琉球北部の要、また、唐船が停泊できる運天港を眼下に抱える要地として重要視されていた。
「ま、朝公様!あれが今帰仁城、恐らくあの方が、監守の向和賢、今帰仁按司、今帰仁朝敦様では?」
金武王子勢総勢五十人に羽地から池城安李が傅役兼南風掟(家老)とし手勢の五名を引き連れて合流していた。
「向?尚ではなくて向なのか?王家の一族と聞いたが?」
真三郎の軍装は真田の赤備え……ではなく、侍ブルーの蒼揃え、鎧は大和風武者鎧に真三郎が着れるの子供用がなく、かなりぶかぶかな胴丸だけだか、金武で大規模生産を始めたばかりの藍を使った藍染め衣装を足軽兵にも着せている。
この機に金武産の藍を宣伝しようという下心と防虫、防臭、もしかしたら蛇避け?の効果を期待してだ。
「はっ!開祖尚円王の末子が祖だとか。そこから四世は離れて降りますからとうに臣籍に下りまして、尚から冠を外して今は向家と。しかし今帰仁の城主として御殿名乗は許されておるようです」
「そうか!」
「これはこれは!見事な蒼備えにございますなぁ
某は今帰仁監守、今帰仁朝敦にござる。さっ、さっ!お疲れでしょう。
まずは、軍装をお解きになりなされ。明後日には御主の率いる軍船が運天港に入ります。それまでは城内でごゆるりとさないませ」
見事な石造りの城門前で今帰仁朝敦の出迎えを受ける。
いよいよ戦乱の雲が真三郎を、いや琉球を覆い始めたのであった。
真田丸面白いっす。朱漆なんて高いし、鎧は船に乗るから侍ブルーにしちゃいました。




