第31話 祈りの地割
隆慶四年 永禄十三年 五月 真三郎 十歳
一期米の収穫を無事に終えた金武間切では、大風の襲来前に二年がかりの検地に基づく地割。
土地の私的所有が認められていない琉球において、一家が数年に渡り耕作することになる土地と村単位で定められている租税を割り振ることになる大抽選会が各村において実施される。
今回は農業の基本である筈の土作りを推進、また抽選において万が一にも不正が起きないように真三郎以下金武御殿の役人立ち会いの元開催されていた。
「次、川上四番目のチルー。成人男子三、女子二、童子四、老人一。
田が七枚。内、上田二枚、中田三枚、下田二枚。畑が合計十七枚だ。貢は米4石二斗、麦三石五斗、大豆二石、布四反」
三良の父、漢那可領が声を張ると呼ばれた農民が前にでる。
「チルーとやら、そなたの今の地割に貢高に間違いないか?」
「へい、まちげーないさぁ」
「家族数応じて田を二枚、畑を五枚増やす。貢も米ハ斗、麦七斗増じゃ。弟が改めて一家を持つときは改めて地頭地か、開拓地より配分し、童子が成人しても新たな田畑を追加する。では、回すがよい!」
漢那村百六十一戸米に換算して三百二十八石、五百六十二名の村人の内、各家長が大屋子(村長)の屋敷まわりを取り囲んでいる。
「カーッぺッぺッ!でーじなとぅんあきさみよー!はぁっ!」
庭に並べられた箱を指示に従って気合いをいれてぐるぐる回しだす。
真三郎謹製のガラガラポンである!飛び出す玉にはそれぞれ番号が振られている。一等、常夏の琉球二泊三日旅といった金○は入っていない。
「チ、チルーよ。壊れる。ゆっくりとまわすように!」
文子の声が飛ぶ!
「へー」
ガラガラガラ!
カラン!
「もう1回!」
ガラガラガラ!
カラン!
「うむ!上田は東川口十七番、西山際二十一番。」
「「おおっー!」」
屋敷を取り囲む石垣から身を乗り出して抽選を見守る農民達。
屋敷の雨端の中には検地で作られた村の図面が広げられており、その場で樽金が作成した土地台帳に割り振られた農家の氏名が新たに記載され、以前にだれが耕していたのかも確認している。
畑のうち作物が植えられているものは収穫まではいまの主が管理し、その代わりに利用期間に応じた収穫物を渡すことになっている。
「次は中田!」
チルーは隣のガラガラに手をかける。今後三十年は耕す田畑だ、祈る手に力が入っており、抽選結果に阿鼻叫喚する声が轟くなか漢那村での大抽選会は夕刻遅くまで続いたのだった。
◆
「朝公様!地割の立ち会い、さぞお疲れの事でしょう。百姓からの訴えや要望も沢山ありましたから。
今宵はあばら屋でお恥ずかしながら拙宅にてご休憩を。せめてものもてなしとして湯と夕食を用意しております」
客間である一番座で一息ついて寛ぐ真三郎に三良の父である可領があいさつに訪れる。
「おおっ悪いな可領!漢那村はなかなか上田も多く民も力強いな」
「はっ!朝公様には、愚息(三良)がいつも御迷惑をおかけしておるようで」
「なんだ、三良いや、可良は農方の長として実によくやってるぞ?
特に今回の地割に反対、不満をもつ民の説得や、水利の調整、開墾場所の選定や新たな作物の普及。
金武間切の情勢に詳しく、民に快く交わる三良がいなければ、規則規則で融通の効かない樽、隆成だけでは不平不満が噴出して今年中の検地地割は実施出来なかっただろうよ」
「あの暴れものがのぅ」
かなり盛った評価に三良の父の目に熱いものが浮かぶ。
◆
「うぃっく!ふわぁ」
「ふっうー地頭地は削られましたが、朝公様の開墾や、新たな農作物、芋はふぃー」
「三良も働けよぉ」
「漢那はサトウキビの研究と苗の生産にも、」
「やはり、田んぼは増やしたいが水がなぁ」
「茶ぁ!」
「あのなんだっけ、そう、う○こ、あれは育てやすい」
「フラー!ウコンだよ!ウコン!」
「いぇ!そろそろ三線弾こうかねぇー」
「おっ、まってました!」
「ささっ朝公様も!」
「いや、俺はまだ未成年ちゅーに!」
「可領様!」
「樽金、ちょっと、う○こ、後はよろしく!」
「ぶっ!誰だ!水と泡盛を入れ換えたのは!」
最初は按司地頭である真三郎をもてなそうとグルクンの塩焼きや易化汁に奮発した白米を出してきた可領の気持ちを汲んで摂待を受けていたのだが、いつの間にか水が泡盛に代わり気がつけば呑め呑め呑まーな無礼講の大宴会と化していた。
「ふぃー厠はここだな?暗いと怖いなぁ」
「ふぅーーー」
フー ペロン! ペロペロ!
「ガ、ギユ、ウギャアー!」「で、で、デターー!」
真三郎の帛を裂くにはちょっと……いや、違う蟇をギュッと踏み潰したような悲鳴が夜の帷が降りた漢那の村に轟き渡る!
「ま、真三郎しゃま!」
腰に指した脇差しを抜き払った真牛が奥の座敷から一足跳びで厠の前に下半身剥き出してピクピク倒れている真三郎を抱え込む。
「ま、ま、ま、ま、ま、ま!」
「ま?真三郎様!気を確かに!」
「な、な、な、なんか、い、いた!ま、妖怪かも!け、け、けつを、けつをやられたぁ!」
樽金や三良、家主の可領初め地割作業に動員された捌理や文子が灯りや棒などをもって裏庭に駆けつける。
「真三郎様、御免!」
「傷は見当たらない!屋敷の中で確認だ!三良はあるったけ灯りを!樽金は荷の中から何か薬を!」
真牛が真三郎の剥き出しのけつに灯りを近づけて怪我の有無を確認する。
「お、おう!解った!可領さ、三良は水と酒も!」
「は、はい!」
「念の為、曲者がいないか、辺りを確認しろ!」
南苑からの帰り道に不審者に付けられた心当たりのある真牛か酔いが一気に覚めたかのように指示が乱れ飛ぶ!
「真三郎様!お気を確かに!何処にも怪我はありません。ハブでもありません!」
宴会場となっていた二番座に担ぎ込まれた真三郎は仰向けの体制から腰に布を充てられ足を全開に拡げた所謂、ま○ぐ○返しの格好で剥き出しの下半身を衆目の前に晒していた。
「ぷっ、ぷっ、ぷっ!」
「くっ、くっ、くっ!」
「うわっーはっはっ!」
「どうした?気が触れたか?」
いきなり腹を抱えて笑いだす可領他の役人に目を剥く真牛。
「い、い、いや、まて!ま、真牛!先ずは真三郎様に服を!くっ、くっ!」
「三良!」
「お、落ち着け真牛、樽金。く、曲者じゃない!豚だ!うちの厠は豚便所なんだよ!豚便所!」
豚は雑食である。人間のう○ちが大好物……ではないが、未消化の穀物、そうコーンの様なものが混じることが良くある。中国より伝わったこの水洗ならぬ豚洗トイレは人間の排泄物を有効活用する合理的なトイレである。
元は冊封使をもてなすための豚の飼育が急務であり琉球各地、先ずはう○ち以外の餌をも確保できる大屋子や豪農を中心に拡がりつつあったのだ。
因みに首里城や金武御殿等では豚の匂いもあるので、おまる式であったのだ。
◆
「くっ、くっ、くっ、くっ、くっ」
「ぷっ、ぷっ、ぷっ、ぷっ」
「は、腹が……」
「やー!しなすど!笑うな!」
「そう言われましても、くっ、くっ、くっ」
漢那村での騒動?も無事平穏に終わり、真三郎一行は次の村に向かっていた。
「はぁーもー死にたいのはこっちだよ!何あの羞恥プレイ、誰得なんだよ!もー!」
愛馬歩弐丸の背に揺られる真三郎だか、昨日のペロペロ事件よりけつになにやら目覚めたのか違和感を感じ続けていた。
「しかし、真三郎様の大事な所がご無事でなりより、もう少し大人になられてなら危うかっっっっく、あっ、腹が、」
三良が腹を押さえて馬から落ちそうになる。
「氏ね!タヒね!笑い死にしろ!まったく!」
「ま、真三郎様、後は辺野古村で今日の地割は終了ですので、少し休憩しましょう」
樽金の言葉に一行は新しく架けられた橋を渡った所の木陰で馬を降りる。
「なぁ、こら三良。ここはなんて処だ?」
「えーと確か、ここは潟原です。ほら、ヒルギが生えているでしょう。原野のようですが干潟になっています。橋より海側はヒルギの森、山側にはイ草が生えて原野のようになっている湿地帯です」
「イ草?畳の?」
「畳?さぁ。近くの村では刈り取って屋根に葺いたりしているようですが、他に聞いたことはないなぁ」
「確か、御殿の一番二番座に敷かれた畳は大和は博多から運ばれた高級品ではありますが……」
「帰りがけに少し採取していこう。ちょっと気になる」
「そうですね。帰りは潮が満ちるかもしれません。少しならすぐに採取させますので、その間、休憩しましょう。」
「さっ!真三郎様!可領様からの差し入れのお握りですよ!」
「おっ!中は肉味噌だぞ!うむ!実にうまし!」
「くっ、きっと三良ん家で飼ってた豚……」
「えっ!ってことは、う○ちを食べた豚の肉を俺が食べて、そのう○ちを?」
お握りをかじる真三郎の手が止まる。
「まぁ、ほんのごく一部ですが、」
「イヤイヤイヤイヤ、寄生虫とかなんとか、イヤーァやめてぇー豚肉喰えなくなる!絶対やめさせてやるぅ!」
金武間切では人糞の堆肥化が推進され、豚は山裾の猪垣を利用した広大なイタジイの森に放し飼いされるようになった。
冬場には椎のドングリを食べて旨みを増した黒豚は脂身が実に旨いと冊封使の歓待に必須な王室御用達になったとか。




