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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第30話 銀子の虎

 あぁーる晴れたぁー昼下がりぃー、

 久米唐営(くにんだからえい)の一画、夜になれば艶やかな三線(さんしん)の調べに合わせた琉歌(りゅうか)や、明の音曲だけでなく、遥か南方の異国の歌すら流れてくる遊廓、花街ではあるが、夜に花咲くこの街は未だに微睡(まどろむ)むような気だるさに包まれていた。



「真三郎様!」


「うん。いいんじゃない?」


 パシッ!パシッ!「うっ!」

(うーっ!いったぁ、気合いいれすぎたぁ)

「真三郎様?」


「いや、大丈夫だ!用意万端、遺漏はないな?さぁ、いくぞぉ!」


「「「はっ!」」」

 円座を組んだ四人の手が中央に集まり、気合いを入れる。


 ◆


夜来香(イェライシャ)殿、(パン)(闇の中華系郷友会的組織)の集まりを翠微楼(すいびろう)で行うとは有り難いが、このようにまだ日が高い。早い時刻では余り楽しめぬなぁ」

 でっぷりとした太鼓っ腹をわっさわさと揺すった貫禄たっぷりの商人、蘇州の絹に刺繍等華やかな織物等の製品に生糸を主に取り扱う蘇州の郷紳(きょうしん)(大地主)出身の倭冦商人の一人、黄文淋(こうぶんりん)。五艘のジャンク船を保有している豪商でもある。


「あらあら?本日は、幣への新規加入とちょっとした貸付の案件ですわ。わたくしは、ある筋よりお願いされたので翠微楼を集まる場として提供しただけのことですわ」

 久米随一の妓楼、翠微楼の女主人にして、四艘のジャンク船を持ち、久米の港で働く多くの荷揚げ人足達の頭でもあり、杭州産の手が込んだ工芸品、農産物を扱う夜来香(年齢不詳)


「ふっ、夜来香どのに借りを作る御仁か、後の回収がどの様な目にあうか、ふっ、楽しみじゃのぅ」

 微王(びおう)、老船主王直(おうちょく)と同郷の微州黄山出身であり、文房四宝、筆紙硯墨等の王府向けの納品を一手に扱う陸宣化(りくせんか)はヨボヨボのジジイに見えて嘉靖(かせい)の倭冦大乱の荒波を渡り切った眼光するどい老練でもある。

「まったく、いくら夜来香様の召集とはいえ、こんな昼間っから妓楼に呼び出されるとはなぁ」

 酒で有名な紹興出身で、酒や、調味料を取り扱う楊理(ようり)

 大風(うふかじ)の被害にあった時に雑穀の緊急輸入に貢献したナイスガイで夜来香の弟分、三艘のジャンクを保有している。



「さて、只今久米に滞在中の幹部連の皆様をこのような昼間から御呼び立てしておきながら、茶のひとつも出さずに申し訳ありませぬ」

 司会役の夜来香が風がなくともふわりと浮き上がる薄帛を艶やかに払いながら立ち上がり、袖から漂う香りに我を忘れる三人の豪商を見回す。

「……ん!オ、オホン!今日の会の案件は(パン)への加盟の申請だとよ。といっても浙江渡りの商人じゃない。なんでも琉球在地の商人じゃと」

「琉球の?」

「幣の法はどうなっておる?夜来香殿?」

「まぁまぁ、皆の衆。ここはまず、夜殿の顔を立て、話を訊かねばのぅ」

「あらあらぁ、流石は陸様!あいかわらずお優しいのねぇ!」

「ふっ、ふっ、ワシはいつも夜殿には優しいぞよ」

「夜殿、陸殿、早く進めましょうぞ」

「では」

 夜来香が薄絹に細かい刺繍が施された扇をパチリと鳴らすと、盆に蓋の閉じられた大皿を並べた給仕女が帳を開けて現れた。

「ほほぉう」

「茶の一つでないのも趣向の一つかな」

「料理人か?何処の誰じゃ?店の出資についてかのぅ」

「はぁい。先ずは試食をと。純粋にまずは料理だけを見て判断して欲しいとの趣向ですわ!」


「ふん!何奴か知らんが面白い。で、お主は何者じゃ?」

 給仕女に続いて腰下だけの黒い前掛けを付けた真牛がかなり緊張の面持ちで現れる。


「せ、説明役にございます」

「ほぅ、緊張しておるようじゃが、隙のないみのこなし、ただ者ではあるまいな。真に料理人か?まぁより琉球の言葉で構わぬぞ」

 陸宣化が隣に座る夜来香にしか聴こえぬ声で呟き、続いて官話ではく琉球言葉での説明を許す。

「ま、まずは、前菜と致しましてこちらをお召し上がりください!」

 翠微楼で使用されている最高級の白磁の皿には色鮮やかな笹。その上にプルンとした笹の緑との対比も美しい淡い黄金色の塊。


「まぁ、綺麗な黄金色」

「おう!中から溢れる!」

「こ、これは!ただの玉子か?卵からも鶏の旨味が実に濃いな!」

 小皿に取り分けた黄金色に輝く一切れを口に入れた面々が驚愕の声をあげる。

「はい、これは、シャムから伝わった軍鶏(シャモ)の骨を煮てとり出しました出汁をその玉子に含ませ焼いた、出汁巻き玉子と申します。鶏の他に使用したのは羽地(はねじ)の藻塩だけにございます」


「出汁巻き、……ふむぅ」


「次はこちらを」


「ほほぅ、豚の肉ではないか!我ら大明の民の好みをわかっておるな!」

 青磁の平皿に厚めに切られた豚肉がこんがり狐色に焼き上がっている。

「味気ないのぅ、煮込んではおらぬのか?わしゃぁ翠微楼の東玻肉(トンポーロー)が喰いたいがのぅ」

「なんぞアンはかからぬのか?このまま食すのか?」

「り、陸様!黄様!こ、これは只の肉では?」

「「ん!こっこれは!」」


「はい、こちらはご存知の豚の腹肉を軽く塩、砂糖、ヒハツ、肉桂等の香辛料に漬け込み、寒緋(かんひ)桜の木で燻製にしたもの。それを軽く炙った南蛮人風の料理にございます。

 塩漬けにした塩辛いだけの肉との風味の違いはお分かりでしょうか?」


「塩漬けした豚肉といえば火腿(中華ハム)じゃが……」

「あれは塩辛くて主に(スープ)を取るためもの、炙るだけでこれ程の香りと旨味を引き出すとは。不思議な南蛮の技か」

 青菜と共に盛られた燻製火腿があっという間に姿を消す。


「主菜としまして、大(うなぎ)(カマイ)仕立てにございます。

 琉球特産の大鰻を軽く焼き、じっくり蒸籠(せいろ)でふっくらとなるまで蒸し上げます。鰻の骨を炙ってから引いた出汁に中国醤油、味醂、水飴等で味を整えた特製煮汁に漬けました。

 これを香ばしさを出すために何度も遠火の炭火で炙り炊きたて白米の上に敷き詰める様に乗せ、香り付けに浜山椒(はまざんしょう)を散らしました。一度蒸すことで程よく脂が落ちております。

 ああっ、半分程食べましたら、この炒ったもち黍を散らして龍井(ロンジン)茶をかけて頂いて下さい。

 ああ、こちらのシークワサーとパパイヤの漬け物はお好みで……」


 シャクシャクシャク!ズルズル!ゴックン!

「ぷっはぁーえ!」

「お、お代わりは?」

「あらやだ。わたしとしたことが、はしたないわねぇ。おほほほほっ」

 思わず掻き込んで完食した夜来香が扇で口許を隠して赤面した顔を隠す。

 審査員四人ともが茶漬けを全て掻きこみ完食している。


「最後の〆は甘味にございます。唐の芋を乱切り、胡麻の油で皮ごと揚げまして、熱いうちに黒砂糖と、水飴に絡ませ、最後に風味に炒った黒胡麻を上から散らしたものにございます」

 朱塗りの菓子皿にはねっとりつややかな輝きを放つ濃い目の飴を纏った揚芋が乗っている。

「食後に合わせまして、明前(めんぜん)の新茶を振る舞いたい所ですが、流石に琉球では手に入りませんでした。申し訳ない事にございませんが昨年の産にございますが。浙江の緑茶、雀舌(じえんちー)を準備しております」


 お茶の新芽のほんの僅、産毛を纏い雀の舌にも例えられる芽の先の先、ごつい男の手ではとうてい摘まめぬ極小の芽は幼女の手積みならでは。実に最高級(プレミア)のお茶である。


 ◆


「むむっ!これ程の、また、我々が、食したことのない、これを作ったのは誰じゃ!わしらに何を望んでおる?」

「黄様、落ち着かれませぇ」

「し、しかしシャム渡りの軍鶏(シャモ)を抱え、豚肉、ましてや石蜜の製法に確保できるのは、まさか」

「楊様、詮索は後ですわ。」


「ふむぅ、しかし(パン)は血の盟約じゃ。かっては同じ血といわれとる久米の者でも数代に渡りこの地に住まい、既に同化しているとなぁ。そぅ簡単に入れるわけにはいかんが」

「しかし、微王様の頃には琉球や、大和、朝鮮の船主達も旗下におったが……」

「それは老船主の実力により旗下に集ったのであろう。海禁が解かれ今や船を仕立てるときや、陸での商いでの互助の会と化しておる。問題は信用が」

「ふむぅ陸での商いの取引相手としては」

「夜来香殿!試食は済んだ。なかなかの遣り手に思えるが、そろそろ正体や要望の種明かしをせぬか」


「あら、やだ、そうね……パン!パン!ではよろしくお願いします」


 夜来香の合図で賓客(ひんきゃく)の間の扉が観音開きに開け放たれると鼻腔を一気に(くすぐ)る香りと共に一人の少年が三人の部下らしい男を引き連れて現れた。


「童?」

「いや、あなた様は!」

「楊殿!ご無沙汰であります。いつぞやは大変お世話になりました」

「い、いやこちらこそ商いですから……」

「改めまして、陸宣化様!黄文淋様!楊理殿!此度は久米唐営内に金武間切産の産物を商う店を新たに構えようと思いましてな。皆様方に商いの後見と開店資金の融資をお願いに参りました。

 尚久(しょうきゅう)、まぁ大和名では金武王子朝公と申します」

「お、王子殿下……」

「殿下がなぜ?何故商いなど」


「ふっふっ、まぁ黄殿、次は此方も是非、こちらをご試食ください!天竺渡りの伽俐(かり)にございます」

「先程から漂う匂いの正体はこれか?」

「むふぉ、これはまた。」

「芋の蜜で甘くなった口にこの刺激!」

「はふ!はふ!」

「あらやだぁ、汗が」


「如何でしょう?何故商い等と先程黄殿が仰いましたが、そもそも琉球の王家は親見世(おやみせ)や天使館を見るまでもなく、王府そのものが商いをやっているようなものです。

 近年は海禁の緩和や南蛮人の船の影響で琉球、久米の繁栄にもやや陰りが見えておるのでは?」


「尚久様!」

「王子殿下!」


「ふっ、確か王府の指定港は福州と定められておるでな。

 老船主王直殿が明の官憲によって謀られた上に誅された。

 そしてまた、隣の章州月港が開かれて巡撫(じゅんぶ)(税関兼海保)が置かれて以来、倭冦商人も福建や広東の出身が徐々に力をつけて直接シャムや南越、ルソンまで船を出しているとか」

 かっての栄光をしる陸老が商売敵の南方進出を苦々しげに吐き捨てる。


「た、確かに日の本がどうにか海禁緩和の対象外となりましたので、琉球にて日の本の産物を交易しておりますが……」

 伽俐の影響か、話の流れからか、黄文淋のまるい額に大粒の汗が浮かぶ。

「良港に恵まれ、船も長江や江南の河川に適した浙江の船と南洋を行き交う外洋向けの福建、広東の船か……」


「あ、朝公様!かなり交易に、中々あちらの方の事情にもお詳しいようですが……」

 楊理が情報源とみなす久米出身の樽金をじっと見つめながら流れる汗を手巾でそっとぬぐう。

「おっとそうだった。琉球では硫黄や馬に加えて大和の白銀やシャムの蘇木を献上し、代わりに明の聖上より下賜された品を大和等からきた商人に売っておる」


「はい」

「うむ」

「ふっ、これでは王府の銭蔵に富が貯まることはあっても金武のような田舎には金がまったく流れて来ぬ。

 それ故、金武や先島の産物を売るアンテ、旗艦、いや、えーと見本となるような店を久米唐営内に置くことにしたいのだ」


「まずは、商人や船の人足も食せる飯屋からとなります」

「琉球では未だ産しない香辛料もいくつかあります故、薬種問屋も作る必要があります。まぁ薬より食べる品が主な取り扱い品となりますが、金武の領地では薬用酒も仕込んでおります」

 樽金、三良が既存の商いとは競合しない事を補足する。

「薬酒とな?」

 ジュルっと舌を舐める音がする。

「どうでしょう。皆様方の不利益にはならぬよう御約束いたします。どうか、久米内での後ろ楯と、融資をお願いいたします。

なお、某の名を未だ公にするわけにはいかぬ故、こちらの程君之(ていくんし)が主人として立ちまする」

「ほう?確か麺屋の程ではないか!」

「なかなか目新しい食い物だと思うたが、あれもまさか?」

「いえ、原案のみで後の工夫は程殿の才です」


「後は、具体的な商いたが……」

「樽金!こちらは財務担当の程隆成(りゅうせい)。程殿と同じく久米の出で同じ一族。某の将来の家宰だ」

「程隆成にございます。こちらの資料をご覧ください。まずは、金武で産する材料や先島からの荷の予定。原価は………回転率は…………人件費は……………二年で投資額は回収出来、薬種問屋や他に手掛ける商いとの…………久米と泊………………相乗効果が…………となっております」


 ◆


「何かご質問やご指摘はありますか?」

 真三郎には見事なプレゼンをこなした樽金にしか見えない。


「で、でわ。皆さま方。幣は久米三十六姓出身に順じ準加盟として後ろ楯に。

久米で新たな商いに手を出すときは、王府とは別に事前に相談と許可を得ること。

幣への積立て金は利に応じて同じ条件で拠出する、但し商いが安定するまで二年の間は保留とする。

……以上でよろしいかしら?」

「ああ」「応」「善哉、善哉」


「融資はいか程といたします?私は銀五十貫まで出しますわ」

「むぅ、俺は二十貫までだな。但し、薬酒の出来によってはさらに追加してよい」

「某は四十じゃな」

「ふむう。殿下の若さと将来を買って儂も五十出そう」


「ひぃ、ふぅ、みぃー、えーと銀百六十貫。どうかしら殿下?」

「はい。十分です。銀、成立です!

 それから、今後は殿下はちょっと、(おおやけ)事ではないので、真三郎か、店の名を決めましたら屋号で御呼び下さい。」



 ◆


 銀一貫は現代の100万円、銀の需要が高まった明ではその数倍の価値があったという。少なくとも約一億六千万の融資を得たのであった。







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