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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第24話 王統

 隆慶(りゅうけい)四年、永禄(えいろく)十三年 正月 真三郎十歳

 旧暦の正月、新暦でいう所の二月中旬は常夏を謳う琉球においても一番寒い真冬の季節である。氷点下でころか摂氏十℃を切ることすらなくとも温暖な沖縄の気候にすっかり馴れた真三郎にとっては凍てつく程の寒さである。

 

 因みにに多くの球団や、サッカーチームが何故かこのさむーくて雨の多い時期にキャンプを張り悪天候でのがっかり中継や、日本一とのニュースを流すためか、一番くそ寒いこの時期に海開きを行い、寒さ震える子供達をお菓子で釣って無理矢理海に入れるという風習がある……のであらる。


 兎も角、首里城での新春の儀式、朝拝御規式(ちょうはいおきしき)に参列するために真三郎は第三王子としての正装を着て、正殿前の広場御庭(うなー)正面の右から三番目、王府の役人らを見下ろす位置に腰掛けていた。

 列の順位一番は次男ではあるが、王妃の子である中城王子(王太子)の阿応理屋恵(あおりやえ)王子、唐名(からな)尚永(しょうえい)

 慣例により采地である中城間切には下らず、首里の要地を占める中城御殿に住まい父王を補佐しながら王府で(まつりごと)の重責を担っている。真三郎のひとつ上の兄である。

 そして真三郎の三つ年上、尚元王の長男ではあるが、身分の低い女官を側室にあげた妾腹の庶長子。

 朝貢(ちょうこう)交易の基点でもあり、戦略上の要地、久米島を采地として与えられた久米具志川(くめぐしかわ)王子の朝通(ちょうつう)、唐名は中華の国では明らかに長男を表す伯の文字を与えられた尚康伯(しょうこうはく)が真三郎こと金武王子朝公(ちょうこう)尚久(しょうきゅう)に続いて序列三位に座る。


 左には、尚元王の王弟達、真三郎の叔父にあたる勝連(かつれん)王子尚楊厳(しょうようげん)大伊江(うふいえ)王子尚鑑心(しょうかんしん)北谷(ちゃたん)王子尚桓(しょうかん)東風平(こちんだ)王子尚範国(しょうはんこく)読谷山(ゆんたんざ)王子尚洪徳(しょうこうとく)といった直系の王族らが威風堂々と並ぶ。



 グゥゥウオーン!グァワアァン!

 ピン!ビャェーン!


 銅鑼(どら)や、(かね)(しょう)琵琶(びわ)といった明国由来の楽器に和風な琴や太鼓。これに三線(さんしん)で琉球の独自性を加味した楽団、御座楽(うざがく)の雅な調べを御庭(うなー)に奏でだす。


首里天加那志(すいてんがなし)(国王)!真和志(まわし)大君(王妃)のおなーりぃ!」

 首里城正殿の扉が観音開きにゆっくり開くと明の皇帝より下賜された四本爪の龍が刺繍された真っ赤な(ほう)、唐衣装を身に纏い、玉石を散りばめた王冠を被った琉球国王、尚元王が薄絹の大扇を掲げる女官を従え厳かにあらわれる。真紅の袍は炎と冷気を操る南海紅竜王を続けてイメージしたとかしないとか……

 続く王妃は阿応理屋恵(あおりやえ)王子の生母であり、身に纏う袍は国王同様、赤をベースとした絹の逸品であり刺繍されるのは金色の飾り尾羽も鮮やかな鳳凰である。


 グァワアァン!グァワアァン!


御主加奈志(うしゅがなし)!|万歳!万歳!万々歳!」

「真和志大君(王妃)!千歳!千歳!千々歳!」


 三司官筆頭の国頭(くにがみ)親方国頭盛順(せいじゅん) 唐名を 翁寿祥(おうじゅしょう)が音頭をとり、御庭に平伏した百官と同じく真三郎達王族も一斉に国王夫妻の長寿の祈願を唱和して新春の儀礼が厳かに始る。

 

 

 新春の儀礼は琉球の天地開闢(てんちかいびゃく)の地のひとつであり、首里城外郭にある最も重要な御嶽(うたき)首里森御獄(すいむいうたき)前に築かれた祭壇に場を移す。

 明製の巨大な銅鼎には南越から運ばれた貴重な沈香が贅沢に焚かれ、祭壇にずらりと並べられた青磁の器には今年琉球各地で採れた五穀、山海の珍味が盛られている。

 国王自ら天にまします神に新春の祝詞を(ことほ)ぎ、平和への祈祷を行う子之御拝(にぬふぁうぬふぇー)である。


 再度、正殿正面の御庭に場所を戻して文武百官が改めて忠誠を誓い、改めて長寿を祈る朝之御拝(ちょうぬうぬふぇー)


 国王、王妃がいただいた御酒(あわもり)を百官に振る舞い、王家の子孫繁栄を祝う大通り(おおとーり)

 この儀式が宮古島に伝わり、オトーリと称して回し飲みの習慣が出来たとか……


 チャン、チャラララン!チャン、チャラララン!パォーン!


 王に王子(きんぐあんどふりんす)ら勢揃いした御庭では雅楽の流れを汲む音曲に(黄色くない)歓声がいつ果てることなく響き渡り、日没と共に南海の真珠、琉球王朝の華やかな正月の一日が暮れていくのだった。



 ◆



朝通(ちょうつう)大兄様!御久しゅうございます」


「ふっ、昔の通り童名、忠樽(ちゅうたる)でよい、真三郎。久しいな


「はい、忠樽兄様。二年振りになりましょうか?」


「うむ、昨年の正月は海が荒れたからなぁ。真三郎も大きく逞しくなったな。まったく、陸続きのそなたが羨ましいわ」


 正月二日、真三郎は長男で三つ歳上の久米具志川王子朝通、尚康伯の首里屋敷を護衛の真牛だけを伴い尋ねていた。


 久しぶりの異母兄弟は水入らずで話したいと奥の一番座に案内される。

 朝通の膳には泡盛、真三郎の膳には大和の茶と摘まみにと豆腐と塩漬けの小魚(スク)が置かれている。


「忠樽兄様の領地の久米島はどのような島ですか?」

(のーんびり、琉球(うちなー)らしく、そんなの気にしない楽天的な島のイメージしかないしなぁ。)

「そうだな?那覇の港からは慶良間経由で二日、上手く風にのればわずか一日の距離じゃ

 島とはいえ案外、水に恵まれておってな、米もよー取れるし、唐船やら倭船らの風待ち、潮待ち休息で多少は銭も落ちるな」


「へぇー船が泊まれる港は羨ましいです。うちの采地、金武間切は平底ではない唐船等の大型船が停泊できるような港がなくて困っています。

 そもそも御殿から海が見えぬのが悩みで、懐に余裕が出来たらいつか西側(サンセット)の風光明媚な場所に移そうかと」


「これこれ、そのような理由で御殿を移す等無駄金を使ってはならんぞ。

 ふっ。まぁ、小さい頃から書院の書庫を漁ったり、御内原から抜け出そうとしたり変わった弟だったが、領地はきちんと治めて励んでいるようだな」

 金武間切での内政成果を耳にしている事を臭わす。

「い、いえ。これも亡き祖父や叔父達のおかげですよ」

 言外に後ろ楯の全くない庶長兄と異なり、恵まれた母方の一族の支援のお陰であると主張する。

「いいや、領内をわずか二年でよう治め、大風(うふかじ)からの復旧の手腕。明や大和からの食糧の手配や、王府への貢納の代納制度は船で運ばねばならん久米島も助かっておる。なんせ帰りは荷もなく空船だったからな。貢納の期限を守らんと潮に船が流れたことも昔はようあったらしい。

 それに(かまど)の普及に唐芋、砂糖黍は早速久米島でも作付ておる」


「い、い、いやぁ。そ、それほどもかな?」


「真三郎!俺の母は只の大屋子(うふやこ)(庄屋)の娘で御内原に勤めておった一介の女官。王子は名乗っておるが、王位争いにはそもそも無縁な庶子だ」


「忠樽兄様」

 急に静かだか、強い口調になった朝通の声が響く。話の強引な変わりようと兄の表情に真三郎も表情を引き締めながらも戸惑う。

「いや、いや王子などと名乗ることすら可笑しいぐらいだ。

 それより、真三郎の母君は父上の即位に貢献し、三司官を辞した後も父の相談役として国政を担った大新城(うふあらぐしく)、亡き新城安基(あらぐすくあんき)様の娘。また現三司官の一人、池城安棟(あんとう)殿は実の叔父にあたる。そもそも妃となっ……」


「あ、あ、あー兄上!」

 真三郎の背中に脇に冷たい汗がつぅーっと流れる。

「大丈夫、人払いはしておる。そういう話ではない。

 そう、当時であれば、外戚の恐れとして反対するものはあれど、妃となることも難しくない状況だった。

 しかし、実際に王妃に選ばれたのは広徳(こうとく)寺浦添親方の女孫と言われておるが経歴もよくわからぬ真和志加奈志(まわしかなし)様。

 確かに今も御美しい方であり、聞得大君(きこえのおおきみ)様の寵愛を受けた巫女で、次の聞得大君にと言われておる才女だが、」


「た、忠樽兄様。お妃様選びでは黄金の(はさみ)を選んだ霊力の高い(かんだりー)な方が王妃に……」

 話の筋が見えない不穏な話題に混乱する真三郎。

「真三郎!今の聞得大君様。梅南(ばいなん)様は父上のご姉妹、血縁ではなく、とうに廃嫡された浦添王子朝満(ちょうまん)様の娘。お妃様と同じく浦添(...)の出だ!」

 ふっと鼻で笑った朝通のひややかな言葉は静かに続く。

「聞得大君は王の『をなり神』だ。先代まで、いや、前王統の頃も王の姉妹や、近い血縁の中から選ばれてきた。

 次代の王、阿応理屋恵王子の聞得大君『をなり神』にふさわしいはずの同母姉である一枝(ひとえ)姉様は」


「既に浦添の尚懿(しょうい)朝賢(ちょうけん)殿に嫁がれ……」


「………そう、またも浦添(...)だ」

「王権に関わりのない俺は。首里の政治から遠く離れた久米島だからこそよくみえる事もある。

 王位を巡る先代、先々代からの複雑に絡み合った血統の争い。

 安基殿によって謀叛の疑いで離島に流刑となったいた先の国頭親方景明(けいめい)殿、城間(ぐすくま)親方秀信(しゅうしん)殿も安基殿の死により王府に復権しておる」


「た、確かに爺、祖父は三司官の役目でかなり……」

「阿応理屋恵の妃選びはまだまだ先の話じゃが、側室に城間親方の娘があがるかもしれん」

 一息つけんと朝通が既に冷めきった茶で口を濡らす。

「阿応理屋恵王子、アレは良い。……大人しいが、性は善良で真面目な良い子だ。このまま王位につけばきっと民を思い善政をしくだろう。

 浦添王家の尚懿、朝賢様に嫁がれた一枝姉様には賎しい庶子でしかない筈の俺もよう可愛がってもらった」

 真三郎の脳裏に御内原(おうちばる)で一緒に遊んだ兄、阿応理屋恵王子や、真三郎らを過剰に玩具にする。いや、可愛がる一枝姉様の笑顔が浮かぶ。

 金武の領地をもらい首里を離れてからは中城王子としての祭祀や勤めで忙しく兄王子ともはたいして話せていない。


「……」


「個人の性は兎も角、その周り、周囲の動きにも注意しろよ真三郎!遥か久米島にまで金武の麒麟児の噂は届いているぞ!」


「ブッー!ゲホッ!ゲホッ!」


「少しは自重すべき自覚があるのかな?ふっ、この北風が止めば明日にも船で出立する。達者でな」


「はい、忠樽兄様。至言、ご忠告ありがとうございました」



 久しぶりの首里、兄弟水入らずの夜は真三郎にドロドロとした王朝の闇を感じさせ、口数も少なく首里屋敷に戻る足取りを鬱々とさせるのであった。






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