第22話 研究工房
隆慶三年、永禄十二年 十月 真三郎九歳
第二回金武間切内政検討会議から早三ヵ月。大風の吹きつける季節はようやく過ぎ、実りではなく、二度目の作付の時期である。
カンカンカンカン!グツグツグツグツ!ガッタンガッタン!ズッコンバッコン!
金武御殿の離れ、通称工房では何故か白い綿で出来た足元までの大きめな上着を羽織った真三郎が、各棟での作業状況を見聞、もとい、指示していた。
◆
「泡頭!石鹸が固まったと聞いたが」
石鹸開発担当文子、役名泡頭の工房に真三郎が駆け込んできた。石鹸の試作で使用した山猪や海豚といった動物性の脂が酸化したすえた臭いが辺りに漂う。
「はい、朝公様。どうぞ手にとってご覧ください。」
泡頭と二人の下男が不安そうな目差しで生唾を飲み込んだ真三郎の様子を伺っている。
真三郎の目線の先には茶色い蝋燭状に固まったレンガ状の石鹸が笊に三十個程積まれている。
「クンクン!匂いも良い!ちょっと柔らかいが、よく固まったな?どうやった?」
「はっ!固い木の灰も色々試したのですが、浜に打ち上げられた海草や海藻を焼いた灰が一番であり、費用もかかりませんでした」
「成る程、海藻石鹸か。聞いたことあるよーな?ないよーや?塩分なのか、海藻、海草がいいのか?まぁ、兎に角でかした!製法は極秘だぞ!最高機密だ!給金や職地は弾むからな」
「「「はっ!有り難き幸せ」」」
三人の職人が工房の脂で汚れた床に一斉に平伏する。
「うん、うん、今度は更なる品質の向上と、付加価値、香り付けだな」
「はい、指示のありました熟成の期間と保存についても研究いたしますが、次の問題は脂の値段と大量の灰の集め方です」
「うーん。灰については、海藻だけに塩を作るといって集めよう。幸いうちの間切は西も東も海だしな。民にはこっそり羽地からの塩を配れはよいかな」
「脂の替わりとなる油は三良が、胡麻や、菜種を植えておる。椿等もあるから直に安く手に入るようになるだろう」
(くぅぅー。な、長かったぁ!誰だよ。灰に油で簡単に石鹸できるっていった奴!直ぐにチート無双ヒャッーハー!うひゃうひゃの予定だったのにぃ)
「増産したら明に、大和にも大量に売り出すから頼むぞ!」
「はっ!」
試作品をひとつ手にとり、待ち受ける薔薇色の未来を想像して、お昼前だけどウキウキ歩きながら次の工房に向かう真三郎。
◆
「木工頭!どうだ?千歯と唐箕の製作は順調か?」
「これはこれは、朝公様。ご覧のとおり、月に二十は出ております。まぁ、千歯は早速あちこちで模倣されているようてすが。」
見ただけで構造が解る千歯は兎も角、ちょっと構造が複雑で、何度も試作に改良を重ねた唐箕はまだ、そう簡単には真似されてないようである。
「水車の方はどうだ?」
「あれはなかなか上手くいきませんなぁ。あの絵図面だけではなかなか」
(水車で水田を増やす灌漑施設は一朝一夕には出来ないからなぁ。まぁ開拓は畑から徐々にだな)
「まさふろさま!北京家鴨、剃羊肉、鮮包子!」
すっかり、うちなーんちゅの子供らしい格好になり、痩せこけた鶏ガラの様な姿から、子供らしいふっくらとした頬を取り戻した図南がお盆にお茶と芋を潰して米を減らした餅をもってフラフラと工房にやって来た。
「おっ!図南か?なんだ?あぁ、かめオバァにお茶を持ってくよう頼まれたのかな?」
「好!お茶!おばぁ、まさふろさま飲む!ハイサイ!」
「おー!よし、よし、少しは琉球の言葉も覚えてきたなぁ!」
髪をくしゃくしゃ揉んで誉めてやると真三郎には図南から幻覚の犬尻尾が生えて滅茶苦茶振られてるように見える。
「木工頭!お前らも、ちと休め、図南がお茶をもってきたぞ。茶が褒美じゃが注いでやろう」
「これは、殿下より茶を賜るとは有り難き、も、餅もよろしいのでしょうか?」
三司官である叔父、池城安棟の紹介で那覇からやって来た木工頭とこちらは三人の下男はあまちゃづるの甘茶と芋で増量した蓬餅をほうばりながら試行錯誤について真三郎を交えて話はじめる。
「やはり、千歯は米用だけでも歯を鉄製にしたいなぁ」
「いや、費用対効果が、」
「耐久性が、鉄が無理なら青銅はどうかのぅ。あれなら錆びにも強いぞ」
「真三郎様!水車について他に参考てなりうる図面はありませぬか……」
「揚水は無理ですが擦機になら……」
「いや、叩きつけるより、回して擦る方が効率的な……」
千歯による稲藁からの脱穀と唐箕による籾殻と玄米の分離についてはかなりの効率化が図られたものの、籾を分離させるには臼と杵で何百と突く作業があり、これが作業効率を大きく下げる関門となっていたのだ。
真三郎の指示はこの作業だけでなく、算盤の珠作りに砂糖黍の搾汁、石臼による製粉、麺の為の効率化の課題もあった。
「しかし、上下には簡単にいけるが、横にする歯車には強度や精度が……」
「それは鍛冶頭の方で……」
「うーん、サトウキビはやはりその固さが問題かぁ」
「牛馬をつかうのは?」
「樽金様より算盤の増産について……」
「うむ、それなら場所も」
「そもそも人手が……」
休憩中にも関わらず四人で喧々顎々と今やっている農具等の製作や改良方法について議論が始まった。
真三郎の提案するアイデア(チート)をどうにか形にしようと職人魂に火が付いているのだ。
「ずずっーっ、はぁぁぁ。旨い!
ん?あれ?図南は?」
「朝公様、軒先に積まれた切れはしの木片で遊んでいるようです」
「言葉もまだ不自由だか、随分と馴れてきたのぅ」
「まだまだ子供じゃが手伝いもちゃんとやっておる」
「朝公様、あちらには刃物も、止めさせた方が……」
「そうだな。おーい!図南!」
「お前も、、ん?図南、なんだ?それは?」
「まさふろちゃま、王府井、天安門、毛沢東!」
「好!好!って、いや、意味わからんから!」
「アハハ!朝公様、樽金様をお呼びなさいます?」
「いや、いらんよ。」
図南の官話混じに笑っていると、木片を不規則に組み合わせた塊を図南が動かし始めた。
「ズキュン、ギュール、ダッピョン!グルン!」
ペダルの様なところを上下させると竹の釘で引っ掻けた軸が回る、廻る、ぐるっと廻る。
「なんだ玩具か?自分で拵えたのか?しかし一体なんだコレ?」
「……ち、朝公様、で、で、殿下!こ、これは?」
「こ、この動き?もしや」
「図南君!これは?」
職人達が、慌てた表情で明から密かに持ち込まれたばかりの製図や、作業風景図、更に自分達が作成した模型を見比べる。
「天津甘栗巧克力!」
「えええい!誰か!そうだ!!た、樽金様を!急げ!このままでは埒があかん!」
「ははっ!」
「どうした?木工頭。血相換えて。図南のピタゴラス一致的な物のがどうかしたのか?」
餅をお茶で流しながら真三郎はきょとんとしている。
「あ、朝公様にはこれが、これがお解かりにならないのですか?この動き、いや、なるほど」
図南の作ったカラクリはクランク装置、昔の足踏みミシン等の動力の仕組みであり、上下運動を回転運動に変化させる仕組みであった。
チート不足の為に技術官僚を招致してみました。
かなり前にアラビアで発明されてたようです。




