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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第18話 ジュリ馬行列

 西方の勝利で終えた久米唐営(くにんだとうえい)大綱引き。

 真三郎達は無病息災の縁起物である短く切られた手綱を土産に羽友の屋敷に帰ってきた。


「はぁぁ、でーじ疲れたさぁ。腰はガクガクだし、手にマメまで出来ちまったよ」

「真三郎様鍛え方が足りませぬなぁ!金武に戻りましたら、修練の量を増やしましょう。人足ごときに無様な真似をさらした、三良は勿論!算盤ばかりの樽金も一から鍛え直しだ!」

 真三郎から三良に更には誘爆は樽金にまで盛大に引火している。


「ま、正臣(まさおみ)殿。兎に角、明日が祭の最終日。明後日には金武にお戻りですから今日は早く休みましょう。

 ほら、朝公様もおねむですよ」


「Zzzzzzzzzzz」

(…………う、上手く誤魔化せたかな?)


 ◆


 祭屋台営業最終日。更に追加で三百五十食を仕込んだが、三日連続で午前中での売り切り、屋台の撤収も無事完了した。

 御殿(うどぅん)の懐も十分潤い、樽金より臨時給金(ボーナス)を貰った面々はほくほく顔で祭の締めくくり(フィナーレ)である、ジュリ馬見物に向かうことになった。


「なぁ?羽友、ジュリ馬って花魁(おいらん)のことか?」


「おいらん?大和の言葉ですかな?朝公様にはまだ早いかもしれませんが、ジュリとは尾類と申しまして、まぁ所謂、遊女のことです。

 そもそも、尚円王様の御代より、さらに百年もの昔、久米(くにんだ)が宋の時代に三十六姓により漸く港として開かれた頃のこととも言われております」

 ゴホンと一息いれた羽友が久米の由来から語る。


「時の王女、それは歩けば、薫香(くんこう)が辺り一面に漂う程の絶世の美人(ちゅらさん)だったそうじゃ。が、波上宮(なみのうえぐう)に参拝した帰りの事じゃ。

 護衛の役人がほんの僅か、目を離した隙に荒くれた船乗り唐人に拐かされ、無理矢理乱暴されてしまったのじゃ」

 かんジィが見てきた事のよう羽友の語りに押し込んできて続きを語り出す。


「辱しめを受けた王女は、死んでも死にきれず、侍女達とともに辻で、ジュリ、遊女に堕ちてしまったのじゃ」

(強姦被害で辱しめられ死にたくなるってのは解るが、何で侍女達まで、なんで自ら遊女に堕ちる?)

「……で?」


「そうじゃな、ジュリにその身を堕としても、日夜思い出すは父王の優しさ、兄王子との懐かしい城での日々。

 その折じゃ、久米のシキバ、競馬(ンマハラシー)結びの一番に兄王子が出るとの話を耳にしたのじゃよ!」


「「ふむふむふむ」」


「王女は自分に出来る精一杯の装いをして、侍女達を率いて祭で見事に躍り、兄王子の顔を一目見ることが出来たのじゃよ」


「「それから?」」


「ん?それだけじゃよ。ひょ、ひょ、ひょ」


「えー!」(オチは?一目みるだけ?救われないの?んで遊女続けたのぉ)


 シャンシャンシャン!シャンシャンシャン!


 カチッ!カチッ! カチッ!カチッ!



「真三郎様!き、来ましたぁ!!」

 無礼にも天使館(てんしかん)を取り囲む石垣の上に乗って背よりも鼻の下を伸ばしつつ見回していた三良が高々と叫ぶ!


 二十人近い黄色地に赤花(あかばなー)を散らした紅型(びんがた)をふわりと纏い、軽やかに舞う遊女達は、花飾りの付いたクバ笠を軽く被っている。現代の花笠の様式美にはまだ至っていないが、笠から覗く切れ長の瞳と、チラリズムは十分な風情と南国的な色気を感じさせる。


「優雅なものだなぁ」


「はい、確かにジュリ達の多くは借金の為や、苦しい農村から売られた女子供ですが、明の使節や、大和の商人をもてなすために、礼儀や作法、更には異国の言葉使いまでを教わり、才があれば、躍りや楽曲も学びます」


「まぁ、一概にとは言えぬでしょうが、中には王府の役人が足しげく通う高級な店もあります。

 まぁ、安い所や、下の下で衛生的に問題山積な所もあるので、勝手に行かないでくれよ可良(三良)君」


「お、俺だけ?」

 鼻の穴を膨らませて羽友の話を聞いていた三良にキツイ牽制がはいる。

「ひょ、ひょ、ひょ、目が血走っておるからじゃ」


「ぶふふっ」

「だな?」

「………」


 シャンシャンシャン!シャンシャンシャン!


 優雅な躍り女の行進のあと、続くのが、本日の主演目(メインイベント)、ジュリ馬の行列である。かんジィの話によると先ほど語った古えの王女の逸話に因んだ仮装行列である。


 帯で締めない紅型(びんがた)の衣装は遥か南方から運ばれる蘇木で染めた深紅を基調に色鮮やかな花鳥紋様が染め上げられおり、風に舞う裾から仄かに漂うはこれまた遠く南越、(ベトナム産)の沈香(じんこう)の薫風である。

 麗しい唇を紅く彩る艶やかな(べに)は恐らく紅花から極僅かに採られる最高級品であろう。

 シキバの大通りは各妓楼(ぎろう)首座(ナンバーワン)が、女の意地を競い合う街道(ランウェイ)である。馬の形をした玩具に跨がってさえいなければ…………


「た、た、たる、う、う、うゆ、か、か、かかんジィ、あ、あ、あのアノ、う。馬の玩具は……あれは一体なに?、くくくっ」

 横っ腹を押さえて爆笑を堪える真三郎を皆がねめつける。


「ふっ。まだまだ真三郎様に解りませぬか、あの馬の玩具に跨がるジュリ達の腰付き、醸し出さす色気が」

「後5年は、」

「ひょ、ひょ、ひょ、まだ、まだだね」

 かんジィがご隠居仕様の杖を肩に、頭巾を被り直してクールに決める。


「そ、そうなのか?まぁ、いまいち納得し難い点があるがが華やかで美しいのはわかった」


「一旦、屋敷に戻って今日は休もう。明日は早いだろ?」

 ジュリ達の残り香に後ろ髪を引かれている三良を引きずり帰るのであだった。


 ◆


「朝公様、留守中に私宛に文が届いたそうなのですが、中にこれが」


 羽友屋敷に戻り、一番座においてやっと一息つく真三郎達。そこに羽友が、一通の文と茶を持参する。

「樽金!」

「はっ!」

 確かに表包みの宛先は天使館 通事長 程羽友様となっているが、中の文は真三郎宛であった。

 樽金が文を開くと墨の匂いとは違う、仄かに芳しい香りが一番座にふわっとひろがる。


「真三郎様!真三郎様に是非とも会いしたいと、今宵一席設けるので待っていると書かれております」

「?蕎麦の商いの件か?しかし俺宛て?どうして正体が?まさか、お忍びがバレたのか?」

「そのまさかで、宛先は尚久(しょうきゅう)様宛てになっております」


「んー、怪しいなぁ。元服してからは学業、任地に赴いてからは金武にいたからそれほど俺の顔は知られてないはず。それに公文でしか使わぬ唐名(からな)の尚久とはな」

 頭をひねる真三郎。

「ふむぅ。心辺りとしては我が家に滞在してる事、息隆成が金武御殿において殿下のお側に仕えておることを知っての線からでは?」


「ひょ、ひょ、ひょ、近習からか?」


「首里屋敷に長い間勤めていた金城、玉城殿の御二人からでは?」

 三良が別の線を疑う。

「しかし、別段、久米唐営に滞在しても特段問題があるわけでは」

 真牛が警戒の声をあげる。

「しかし、誰だ?いきなり王子殿下と知った上で呼びつけるのは?樽金、誰だと書いてある?」

 たまらず三良がつい声を荒げる。

「そ、それが……」


「貸せ!樽金。えーと、なに、なに、翠薇楼(すいびろう) 女主人 夜来香(いぇらいしゃ)!」


「「「い、夜来香様!」」」

 真三郎を除いた五人がはっと息をのむ。特に憤慨していた三良は声が裏返っている。


「誰だ?知り合い?有名人?」


「い、いえ、お名前とお顔だけは。安桓様は?」

 真三郎に聞かれた羽友が挙動不審な反応を示しつつかんジィに話を振る。

「ひょ、ひょ、ひょ、確か兄上が存命中に何度か。しかし、儂なんぞの顔など……」


「文には、御隠居一行、六名様で御予約、お待ちしておりますと」


「そ、そうか!では図南君は妻にでも任せて、某も……」


「ち、父上、母上が背後に………」

 騒ぎを聞き付けたのか羽友の背後に図南を寝かしつけた林明が音もなく現れ仁王立ちしている。

「ご、御無事でいってらっしゃい!!!」


「いや、って!行って大丈夫なのか?真牛!三良!!!」

 真三郎が見たのは真っ赤になり、ボーっと文を透かして彼方を見る真牛と、すぅっーと一筋の鼻血を足らす三良の姿であった。


「ひょ、ひょ、ひょ!真三郎様!翠微楼は久米唐営、いや琉球随一の妓楼じゃよ。倭冦の大商人、大和の豪商、首里の高官等はあたりまえ。大明からの冊封の使節、正使様方もご利用になられる由緒ある最高級の妓楼じゃ。

 そして文の差出人、夜来香(いぇらいしゃ)様といえば、その翠微楼の女主人にして、首里天加那志(すいてんがなし)の側室へとの求婚もすげなく袖にしたという。正に絶世の、魔性の美女じゃよ!」




続きはちょっと間をおきます。


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