第16話 琉球競馬
詳しい資料が探せないのでテキトーです。
フィクションです。実際の人物や出来事は参考にしただけです。
シキバに設けられた屋台、日除けの簾は引きちぎられ、割れた板看板、地面には粉々に砕けた碗。
まさに死屍累々たる有り様である。
「ま、真三郎様!申し訳ありませぬ、俺がついていながら、この有り様どのような処分でも……」
三良が真三郎直伝の飛び土下座でいきなり謝罪する。
「……それは良い、無事か?謝罪は後でよい。それより三良!一体何があった?」
「はっ!実はこの後の競馬に出場する牝馬に興奮した荷馬が、暴れ馬と化しまして、周辺の屋台も含めまして御覧の有り様。俺が馬を上手く取り押さえることが出来ていれば……」
唇を強く噛み締める三良の口許にうっすらと血が滲む。
「馬による不慮の事故であるなら仕方あるまい。怪我はないのだな?」
辺りを見渡すと周辺五ヶ所程の屋台が破壊、シキバの砂浜も荒れ果てているが怪我人の姿や血のりは見当たらない。
「はい、朝公様!久米在番の役人が、荷馬の馬主を拘束、番所の方に連れて行きましたが……」
真っ青になった玉城が処分が無さそうとわかったのかほっとした表情で説明する。
「そうか、とりあえず、皆で割れたものを片付けて急ぎ屋台を開く準備しろ。周りにも手を貸してやれ」
(うー、困ったなぁ。麺は図南の機転、麺押し出し機でなんとかなるとして……肝心の山猪出汁が……今さらガレットは……んーないなぁ。
いや、そもそも今の時代、卵がめっちゃ高すぎだから無理だし、ハムや、チーズもないしな。
今から材料もないし準備したら祭初日は棒に振る?………いやいや……そうだ!)
「樽金!今、手持ちの金はあるか?」
「いくらかは」
「悪いが油を買ってきて!椿とか胡麻の、灯用ではなく食べれる高品質のやつを二、三壺分。
それから屋敷の勝手口に唐辛子とにんにくの飾りがあったよな?」
「あ、はい、赤い南蛮芥子でございますか?明かルソンの一部の魔除けとかで、確か母が」
「よし!塩と、その飾りを悪いが貰ってきてくれ?出来ればいくつか」
「金城!月桃の葉か実芭蕉の葉でもよい。
皿の替わりに使うので、急いで集めてまいれ、ムーチー(鬼餅)の時期ではないから大丈夫だろう?」
矢継ぎ早に、指示していると、複数の穴を開けた麺出し機を肩に担いだ真牛が現れる。
「真三郎様、先ほど血相を変えた樽金と三良とすれ違いまし…………こ、これは」
こわれた屋台に口をあんぐり、そのまま絶句する真牛
「説明は後、後。片付けと力がいる麺出しの方を頼む」
樽金と三良が家や追加で貰ってきた、唐辛子、ニンニク、小量の塩。出店を回って買ってきた上質な椿油。真牛が打つというより押し出した特性麺。
(準備は出来た。作るのは、そう、シンプル イズ ベスト!ペペロンチーノ蕎麦だ!)
かけずり回った皆が座り込む中、真三郎が汁を温める予定だった簡易竈に高価な鉄製中華鍋をかける。
鍋に椿油をたっぷりと入れ、みじん切りにした大蒜をこれまたたっぷり入れてから火に掛ける。火は弱火だ。
乾燥した唐辛子は辛味が出る前に直ぐに焦げてしまうで、一旦水に付け、半量程は辛すぎる種を取り除く。目を擦ると大変なので、注意してから三良にやらせている。
「真牛、麺を頼む」
真牛が再度練った蕎麦を製麺機で押し出し、軽くゆがく。
辺り一面に大蒜の香ばしい匂いがたち始めた頃合いに唐辛子の輪切りをいれる。
弱火で椿油が赤く、唐辛子の辛味が十分に移ったら塩で味を整える!
後は茹であがった、蕎麦麺を大鉢に移して、完成した香味油二匙程をよく絡ませる。月桃の葉で作った平皿に盛ったら彩に蓬の微塵切りを散らす。
「完成だ!どうです?巨匠?お味は?」
皿に盛った蕎麦を皆が恐る恐る味見する。
「こ、これは?」
「辛いが、旨い」
「辛っ!ひーはー」
「ふむ、この辛さが食欲を刺激する。ニンニクの香りも十二分に引き出されている。むむ、蕎麦の香りと喧嘩するわけでもなく、この調和、塩加減も絶妙。うむぅ皿替わりの月桃の葉からもまた涼やかな香りが立つ。実に素晴らしい星三ちゅです!真三郎様!」
一口ずつ試食した面々が思わぬ辛さと大蒜の味付けに手放しで大絶賛の嵐を真三郎に贈る。
「そ、そうか?そこまで誉めなくても、と、とにかく、大蒜の薫りに誘われて客が集まりだした。さぁ皆で協力して、完売するぞぅ!」
(まぁ、全てパクりなんだけどね。しかし、真牛、何故星三つなんて……)
「「「はっ!」」」
◆
「へーこれが蕎麦ねぇ」
「旨そうな匂いだな。一杯くれや」
「八文か、よしっ!俺は肉付きだ!」
「かっ辛いが、」
「うーん。後を引く辛さだなぁ」
「いや、俺はもう少し辛くても」
「お客様、それでしたら、こちらの南蛮芥子の種油をひとかけいかが?」
「うっっ!ひぃーはぁぁー!」
皿洗いの手間が省かれた屋台は販売も順調、午前中には、予定の二百食が完売し、周辺の屋台から蕎麦粉の入手先やレシピを何度も聞かれたのであった。
◆
午後、屋台の片付けを玉城、金城の二人に任せ、御隠居様一行にうっかり図南までもを加えて本日のメインイベント競馬見物。事前松の木陰に場所を確保していた面々が期待する中いよいよ祭が始まる。
シャンシャンシャン!シャンシャンシャン!
花綱に結びつけられた黄銅製の光輝く馬飾りが軽やかな音を立てる。
「ん?かんジィ。あれは、なんだ?」
「ひょ、ひょ、ひょ、真三郎様。もしや競馬を御覧になるのは初めてでございますかな?あれが、競馬にございますよ!ほう。ご覧下さい手前の馬の足運び、実に優雅、美しいですわい」
「真三郎様!安桓様!奥の馬の衣装もこれまた素晴らしいです」
樽金は何故か騎手の着物に注目している。
「ふむ、栗毛に紫の手綱か。涼やかな絣も良い色じゃ。ほう、流石は久米の生まれという所か樽金の目もなかなか肥えておるのぅ。
うむ、これは確かに実に品があるのぅ。ふぇ、ふぇ、ふぇ」
「衣装だけではありません。あの早足、あの足運び。かなり調教されたのでは?」
「ふむ、三良。わかるか。よう見とけよ。ひょ、ひょ、ひょ」
「真三郎様、安桓様!あの青毛、きっと真三郎様の歩弐丸と同じ、読谷山の牧原の産では?」
「そうじゃのう、そうじゃのう。あの毛並みの馬は牧原産に間違いなかろうて。ひょ、ひょ、ひょ」
(いや、ごめん、ついてけないんだけど、そんなに皆馬好きだったっけ?)
「いや、そうではなくて、競馬って二頭が、こう、ゆっくり早足で走るものか?なんていうか、十頭ぐらいの馬が速さを競ってお金を賭けたりするものではないのか?」
「全力で走る?大和走りのことですか?そのようなみっともない事は、行いませぬよ!うひょ、ひょ、ひょ
それよりご覧下さい真三郎様!あの足運び、騎手の頭に着けた花飾りも全く揺れておりませぬ。うむ、これは手前の勝ちですぞぉ おお、ほりゃ、ご覧なされ、赤旗三つですぞふぇ、ふぇ、ふぇ」
琉球競馬は真三郎の知っている競馬とは全く異なるもので人馬一体、馬の速さを競うものではなく、優雅さ、衣装の美しさ、足運びの上手さ等優雅さ、調教の完成度を競う現代のフィギアスケートの様な競技だったのだ!
呆気にとられた真三郎を他所に盛り上がる面子、よくわからぬまま馬を珍しげに見つめる図南まで、その日は最後まで競馬観戦を堪能し、他の屋台の味も楽しんだ一行は、汁無系蕎麦の再仕込みと、唐辛子、大蒜、椿油等を仕入れて、翌日に迫ったメインイベントの大綱引きに備えるのであった。




