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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第15話 梃子の原理

なんと本日から那覇大綱引きだとか!タイムリーにはちょっと遅れましたが

 密航者の童を成行で助ける羽目になった御隠居様一行もとい真三郎一行は、唐営見物を途中でとり止めて程羽友(ていうゆう)の屋敷に戻ってきた。




「で、どうだ?助かりそうか?」


「はい、かなり衰弱してはおりましたが、症状から診て、餓えと脱水症状だけかと。重湯を与えましたので、まもなく目覚めようかと」

 医学の心得はないはずだか、何度か明に赴き、一度は漂流したこともあるらしい羽友の言だ、間違いないだろう。

「そうか」


「身元を表すようなものは有りませんでしたが、着ている服はかなり汚れているものの、上質な木綿でした。」

 着ていた襤褸(ぼろ)は、脱がして樽金のお古を着せられている。湯で身体を拭い着替えた童はこざっぱりとしている。

「まぁ、成行で拾ったからには暫くは面倒をみよう。羽友や細君にはまた面倒をかけるが、話は童が気が付いてからかな?」


「はっ」

 程羽友の屋敷での夜は何事もなく更けていくのだった。


 ◆


 コーコーケー!コケコッコー!

 流石は琉球、国際交易港の久米唐営(くめからえい)、飼われている鶏もバイリンガル、中国風に鳴くやつもいるようである。


 六月十二日 祭前日


「首里屋敷在番の捌理(さばくり)玉城百夏と文子(てぃごく)の金城彩納にございます。」

「先代の大新城(うふあらぐしく)様の頃より、首里屋敷を預かっております」

 払暁、まだ夜も開けきらぬうちに、首里屋敷勤務の役人二人が程屋敷を訪れる。


「久しいな!玉城に金城!今回は、首里屋敷に泊まらず申し訳ない、まぁこれはお役目ではなく、全くの私事故だ。しかも士族にあるまじきなれぬ仕事だが、采地の、金武間切の復興に役に立つかもしれんものだ、曲げて宜しく頼む」


「はっ!勿体ないお言葉。羽共様より、事前に概要は伺っております」


「裏方になるが、さん、いや可良(ありよし)(三良)と、正臣(まさおみ)(真牛)、それに安桓(あんかん)(かんジィ)の指示で動いてくれ!それと、服装は目立たぬ町衆の服に着替えてくれよ」

「はい、持参しております」


 羽友屋敷の裏庭に築かれた簡易竈には大鍋が二つ並べられ既にグツグツと煮立っている。辺り一面に山猪の骨を煮込むむせかえる程濃厚な匂いが立ち込める。

「三良!灰汁(あく)はこまめに掬えよ!汁が濁るし、嫌な雑味が出る」


「はい、はい、はい!これでいーか真牛?」

 追加用の山猪の骨を(てぃ)の技を応用してか次々とへし折る真牛が竈前に立つ三良に指示を飛ばす。


「真三郎様、この後、山猪の頭に割った骨で髄の旨味が溶け込むまでじっくりコトコト煮込みます。これで良い出汁がとれるはずです!」

 真牛が味見用の小皿に汁をひと掬い、そっと真三郎に差し出した。

「……うーん、旨い!だが、オバァの汁と比べるとちょっと臭みがあるのかな?明日までに一晩置けば馴染むかな?」


「山猪の臭みですか?……香りの立つ野菜か臭い消しの薬種(スパイス)等をもう少し加えてみますか?」


「いや、原価を計算している樽金の目がめっちゃ怖い!そこまできになるものでないし試食してからだな?」


「朝公様!のぼりはこれででどうでしょう?」

 捌理の玉城が【元祖 ソーキそば】【一杯五文、ソーキ付き八文】と書かれた板看板を運んできた。

 高価な布よりも表面を削れば何度でも再利用が可能な板の方があきらかに安価である。

「おおっ!見事!なかなか達筆だなぁ!次は、石臼で蕎麦を粉にしてくれ!」


「真三郎様!石臼で粉にするには、余りに回転が速いと臼に熱が立ちすぎてそばの薫りが飛んでしまうようです!まず某が、見本を!」


「ああ、頼む」


「朝公様。ささっ山猪(やましし)肉が煮上がりましたよ!」

 樽金の母にして羽友の愛妻、李林明(りぃりんめい)。久米三十六姓では中華の風習のままに夫婦別姓。これは大和も同様で夫婦同性が始まるのは明治の世になってからである。


(俺ママンとは美人の系統が違うが、笑顔と性格のよさが滲み出て三十路後半、人妻の色…… )

「朝公様?」


「あ、あぁ、なんでもない。うん。うん、旨いな」

 何か邪な気配を感じた樽金がジト目で真三郎をねめつける。

(あぁ、お前、マザコンだったのね)


 夕刻、真牛の怪力により二百人分の麺もどうにか打ち終わり、山猪出汁のそばつゆにソーキ肉の煮付けも準備ができた。

 明日は市場で出来立てのすり身揚げを仕入れて、改めて汁を温め茹でた麺に具材を乗せ、食材としての金武間切産蕎麦を盛大に売り込むだけとなった。


 ◆


「朝公様!童が目覚めたようです。お会いになりますか?」

 宵の口、明日に備えて早めに眠ろうとした真三郎の元に羽友が訪れた。

「会おう。何か飯は出したか?」


「はい、何度か起きた時は軽く重湯を(すす)っては、倒れるように寝ついたのですが、先ほど試食で余った蕎麦湯に、飯、ちょっと重いかと思いましたが、肉の切れ端も。かき込む様に食べておりましたよ。はっはっ」

  童は下男用の板間に寝かされていた。もっとも没落気味の程氏では、年老いた門番兼下男が二人しかいなかったのだが。


「おっ、気がついたようだな?」

「羽友、樽金。早速だか、通訳を頼む」

「「はっ」」


【中国語】

「坊の名前はなんていうのだ?」

「…………」

「ここが明ではないと解るか?南方の琉球だが、坊は何処から来たのか?出身は?」

「き、()州」

 明ではないと言う言葉にビクッと反応する童

「徽州。徽州の何処から?」

「………」

「言いたくないのか?知らないのか?」

「……言いたく……」

 口ごもる童

「どうして船に乗ったの?親は?名前は?」

「み、南に、南に、行けと」

「親が?親は一緒じゃないのか?」

「し、知らない、分からない。死んじゃったかもエグッ、エグッ」


【日本語】

「あーあ、なー泣かしちゃった。よしよしよし」

 雰囲気を読んだのか読まないのか三良がちゃかした声をだして童の頭をなでる。

「しっ!煩い三良!真三郎様、余り聞き出せませんでしたが、何やら訳ありには間違いありません。どうなさいます?」


「まぁ、子供だし、落ち着けばもう少し話せるだろう、どんな事情があるにしろだ」

「南にと行きたいというなら琉球、三十六姓か倭冦商人にでも頼りになるものがいてそれを訪ねたのかもしれんし」


「しかし、この年で密航、しかも名乗りもしないとは……」


「おやおやおや、泣きつかれたのか、寝てしまいましたな、朝公様ここは某て室で看ておりますので、今日の所は御休を」

  羽友が、これ以上の詮索は明日にでもと、うなずく

「悪いな、折角の久米祭に面倒事ばかり持ち込んで」


 明日からの久米大祭に備えて城郭に囲まれた久米唐営には人が集まっている。町中が喧騒とそわそわとした高揚感に包まれるなか、やがて静かに夜の(とばり)が落ちてゆき、その翌朝のことであった。




 ◆


 チャラララチャチャン!


  ー起きなさい!私の可愛い真三郎!今日は貴方がはじめてお城に………ー

「はっ!ゆ、夢か。あやうく、銅の剣だけで大魔王退治に……」

 ぐっちょりと寝汗をかいた真三郎が目を覚ます。

「まっ!真三郎様!大変です!」

 真牛が真三郎の寝所に充てられた一番座に飛び込んできた。

「ん?どうした?真牛、朝から血相かえて」

「と、兎に角こちらに、、、」

 真牛のくせに力のない声に厨にむかう。

 羽友屋敷の厨には、既に樽金、三良、かんジィ、羽友、林明、首里屋敷の金城に玉城、後は程家の下男らしきじいさん二人に下女のばあさんが揃っていた。


「ま、真三郎様。まずは、これを!これをご覧下さい!」

  三良が昨日皆で打った麺が納められたの箱をおもむろに開ける。

「ん?どうした? これがぎゃぎゅぎょげゅ!こ、これは?いったい!」


「恐らく、一晩置いたので乾燥してひび割れたのでは?」

 箱の中には細く均等に切られた麺が細かくひび割れた、そっと触れただけでボロボロて崩れ出す。

「か、乾燥?ラップは?」


「「「らっぷ?」」」


「いや、なんでも、どうする?真牛、これは、今から打ち直せるか?いや、祭会誌までに果たして間に合うか?」

(しまったぁ。試食時は直ぐに茹でたからなぁ、冷蔵庫もラップもないのを忘れててたぁ!テロぺろ)

「やって試なければいかんとも。直ぐに打ち直しに入ります!」


「そ、そうだな。と、とりあえず三良と金城は、予定通り会場での設営準備を頼む」


「「はっ!」」


 おろおろ、あたふた、てんやわんやで祭の準備を進めるさなか、起きてきた童が羽友に何か話しかけてる。


「真三郎様!やはり、一度水を含ませた粉は上手く混ざりませぬ、この通り千切れてしまいます」

 真牛が切った麺はつなぎを入れてないせいか、手で持ってみるとやはり千切れてしまう。

「そーっと茹でたらどうだ?」

 真三郎の提案でまな板からそーっと切れぬ様に茹でてはみるが、やはり千切(ちぎれ)る。

 

「あのぅ、朝公様!この童が……」

 試行錯誤で大騒ぎな面々に羽友がしがみつく童を連れてくる。

「ああ、起きたか、今はそれど……」


「いえ、何やら麺に出来ると申しておりますが……」


「へっ?なに?まじ?まさか実は伝説の大明一番!特級麺点師とか?」

 琉球と縁の深い福州に浙江、南部地方は米作地帯だか、乾燥した黄河流域は小麦による麺、麦を粉にして食す麺文化の地である。


「ん?いえ、このホゾが空いた穴に団子を摘めて、こう、体重を掛けると、下に開けた穴から麺が、出来ると」


 羽友が真牛が伸ばす前の一纏めに練り上げた蕎麦の塊を梃子の原理を使ってギュッと押し出すと、下の釘穴からにゅるにゅる、ぶりぶりっと蕎麦が麺状となって下の鍋に直接出てくる。

「真三郎様!これはすごい!穴を増やせば直ぐにできます!問題は食感、味ですが……」


「うむ、つるっとしたのど越しはないが、ちゃんとした麺だな?」

 早速、茹であがった麺を試食する。どうしても縮れ、切れ目も生じているがよりタレに絡むようになっている。

「これなら蕎麦打ちの技術もいらんし、時間も短縮できるな。童、えらいぞ!そうだな?いつまでも童じゃなんだし、名前は……うーん、言えぬか!」

羽友が通訳するが、首を左右に振って口をつぐむ。

「そうか、じゃあ琉球における仮名(かりな)でどうか?……見た目は子供でも頭は大人顔負け!名前は図南(となん)!で、どうだ?」

「と、となん?」

「そうだ、どうだ?南を図ると言う意味だ」


「謝謝!」

「朝公様、有難うと」

「いや、それぐらいは、わかるよ羽友!」

「そうでしたか、隆成からは朝公様の官話の習得は全くと……」

「兎も角、真牛!穴を増やしたら、屋台で早速デモンストレーションだ!いけるな?」


「「でめん?」」

「実演だ!その場で麺にして茹でる!効果あるぞ!」

「お任せください!」

「樽金と、金城は残った炭を持っていくぞ!羽友と図南は留守番するか?」

「朝公様、すっかりなついで、隆成もおりますし、連れていかれては?」

「いくか図南?」

「好!」



 ◆



 シキバ、天使館に近い真三郎達に割り当てられた屋台の場所。そこで見た風景は、暴れ馬によって半壊した屋台と粉々に割れた(カマイ)の山、そして空になった蕎麦用の汁鍋、砂浜に倒れ込む三良らの姿であった。


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